第十話 お世話になります。
漸く一人転がり込んできます。
啓介からの電話を受け、俺は啓介にそっちへ行くと行って電話を切る。
「二人とも大変だ!!綾瀬君のアパートが火事だ!」
「いのりちゃんは!?」
「無事なの!?」
「わからない。啓介も里奈と着いて直ぐに気が付いて連絡をくれたらしい。俺は直ぐに向かう。」
「私も!」
「いや、危ないから二人はここで、待っていてくれ。」
「うん、急いで、和にーちゃん。いのりんの無事が知りたい。」
「ああ、行ってくる。」
俺はジャケットを羽織ってスポーツセダンのキーを取り出し、急ぎ車に乗り込む。
今日は春だがよく冷えている。
先日里奈が乗った時にオープンカーにしたままだったが構わない。
俺は直ぐにイグニッションボタンを押して、すぐに限界までギアを上げて発進する。
とにかく今は急がなくては!!
綾瀬君の家の近くに着くと消防車や野次馬で進めそうにないので近くのコインパーキングに車を停め、人込みを掻き分け、綾瀬君と啓介、里奈を探す。
「すいません!!通して!関係者です!」
人込みを掻き分けて啓介を見つける。
「啓介!!」
「和樹!今、里奈がいのり君のところに行ってる。」
「綾瀬君は無事なんだな?」
「ああ、何とか。
でも、親の手紙と預けられた時の服や写真の入った荷物を取りに戻りに火の海に入ったみたいで、救急車のところにいる。」
なんてことだ。
俺は啓介が指し示す救急車のところに向かう。
「あ、大木さんだ。ごめんね。心配かけて。」
里奈と救急隊員に寄り添われ治療を受ける綾瀬君がいた。
「ほんとに、命が一番大事なんだからね。」
「うん、でも親が私だってわかる、唯一の手掛かりを無くすわけにはいかないからね。」
「バカ!!命がなきゃ、意味がないだろ!!」
俺は思わず、綾瀬君を抱きしめる。
「ちょっと、大木さん、煤で汚れちゃうよ。」
綾瀬君が押し離す。
「まあ、和樹の言うとおりだよ。命がなきゃ、親御さんと再会出来ない。
もしもの時に実は手掛かりを取りに戻って共々なんて、シャレにならないよ。」
「・・・面目ないです。」
そうして、綾瀬君は軽傷だったので治療は終わり、警察消防の人と今後について話をしていた。
なにやら、明日、病院に行った後、話を聞かせてほしいとのことと保険があれば適用してもらえるとのことらしい。
それでも、すぐには難しいかもということであった。
「さて、親なしは本当の無一文になってしまいました。まさにこれぞ天涯孤独っ!!」
綾瀬君が無理に笑顔を作って虚勢を張る。
「何言ってるの!こんな時は大人を頼りな!」
里奈が泣きそうな顔で諫める。
啓介もやってきて声を掛けてくる。
「まあ、そうなんだけどね。連絡先はうちにしてもらって、細かいことは対応することにしたよ。
だけど、住むところがな・・・。うちは二人で住むのがやっとだし。」
啓介と里奈は、俺達からの出資とはいえ一日でも早く返済したいと、狭い1LDKに住んでいる。
綾瀬君を置いておくほどの余裕もない。
「なら、俺のところで面倒を見るよ。二人とも喜ぶだろうし。」
「すまないね、和樹。恩に着るよ。」
「本当にいいの?大木さん。」
「何言ってる。さっきまでウチにいたし、泊ってたろ?それの延長さ。
次のアテが決まるまでゆっくりいればいいよ。」
俺は綾瀬君を引き取ることにする。
昨日のあんな綾瀬君を見ていたら放っておけなかった。
綾瀬君は明日は病院や警察、消防に行かなければならないので俺が付き添うことにし、仕込みがある啓介たち早々に帰らせて家に連れ帰ることにする。
「大木さん・・・。本当にごめんなさい。ありがとう。」
「気にしなくていいよ。こういった時こそお互い様なんだよ。存分に甘えてくれていいんだよ。」
「うん・・・」
親の手紙などが入ったバッグを大事そうに抱えた綾瀬君はさらにバッグをギュッとする。
綾瀬君を車が停めてあるパーキングに案内し、屋根を後部ハッチから出して暖房を掛けた車に乗せる。
「とりあえず無事だって茉莉ちゃんと楓ちゃんに連絡していいかな?」
「うん、私も二人にはちゃんと伝えたい。」
俺は車のディスプレイを操作して家の電話に繋ぐ。
「和にい!!いのりちゃんは無事!?」
「大丈夫!?」
二人が矢継ぎ早に話してくる。
「二人とも心配してくれてありがとう。わたしは無事だよ。ちょっとケガしたくらい。」
「いのりん・・・。」
「いのりちゃん・・・。ふぇぇん。」
茉莉ちゃんが声を上げて泣き出す。
俺は運転しながら経緯を話す。
「わかったよ。和にい。お風呂を沸かして、着替えとお布団を用意しておくね。」
「温かいココアも入れておく。温まる。」
「ごめんね二人とも。何から何まで・・・。ほんと、ありがと。」
「気にしない。私達は友達。友達を心配するのは当たり前。
いのりんも私達がそうなったら、同じこと言うでしょ?」
「うん。だから、ありがと、だね。」
そうして電話を切ってい二人の待つ家に向かう。
楓ちゃんがいても立ってもいられなかったらしく、パジャマにコートを羽織って車庫の前で待っていてくれる。
「いのりん!!」
綾瀬君を車から降ろすなり、楓ちゃんが飛びつく。
「大丈夫だよ、楓ちゃん。お世話になるね。
あ、服が汚れるからそんな抱きついちゃだめだって!」
「構わない。今、いのりんを感じることが一番大事。」
楓ちゃんは綾瀬君に抱き着いたまま家に入る。
そうしたら、玄関で待っていた茉莉ちゃんも抱きつく。
結局、三人でお風呂に入ってもらうこととなった。
詳しいことは明日にしようということで、茉莉ちゃんと楓ちゃんは明日から学校があるのですぐに寝てもらい、綾瀬君は昨日の和室で眠ってもらうことにした。
「あのね、大木さん。」
「うん、なんだい?」
「わたしね、火事だって気が付いてさ。様子を見にスマホだけ取って外に出たの。
そしたら、あっという間に火が回ってきちゃってね。
親の手掛かりが部屋にあるのを取りに急いで戻ったんだよ。
あれが親とわたしを繋いでくれる、唯一の手掛かりだったから。
無くなっちゃたら、わたしが本当のわたしだって親に証明できないじゃん。」
「そうだったのか。」
「うん。昨日今日、大木さんのお家に泊めてもらって、みんなといるのが楽しかった。
わたしも施設のみんなが家族だよ。それは絶対変わらない。
でも、気付いちゃったんだ。
あぁ、やっぱりわたし、本当の両親に会いたいんだって。
生きて会って、生んでくれて、精いっぱい愛してくれてありがとうって伝えたいって。
そうしたら体が、勝手に動いてたんだ。」
「うん。」
「でもね、じいちゃんばあちゃんがやっていた食堂も近くの工場の火事に巻き込まれてさ。足の悪いじいちゃんをばあちゃんが支えて逃げようとして、もうすぐ脱出できるって時に目の前で崩落に巻き込まれてね。
それを思い出したら、頭も心もグチャグチャで・・・。」
そういって目から涙が溢れてくる綾瀬君。
俺はそっと抱きしめてあげる。
「本当に怖かった!!またあんなことがあったら・・・。二度と大切な人を、親とのつながりを失いたくなかったの!
わたし、わたしっ・・・!」
綾瀬君は大声で慟哭する。
俺は彼女を抱きしめながら眠りについて泣き止んだ彼女と共に眠りに落ちた。
こうして綾瀬 いのり君がこの家に住むこととなった。
気になったり、続きを読みたい!!
って思っていただけたらありがたいです。
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もうすぐ第一章が終わります。