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第九話 お礼だよ!

 翌朝、俺が目を醒ましてダイニングに向かう。

 すると、そこには元気にアイランドキッチンで料理をしている綾瀬君がいた。


「おはよう、綾瀬君。」

「おはよ!大木さん!!なんだか昨日は申し訳ないねー。お布団にまで入れてもらっちゃって。

 お風呂くらいまでは覚えているんだけど、その後目が醒めたらお布団の中だったよ。

 お礼にといっちゃなんだけど、朝ご飯ぐらいは作らせてもらっているヨ。」


 そう言いながらコンロでオムレツを作っている。

 その手際は調理学校の学生だけあって、とても良い。

 俺達なんかの作り方とは全く違う。

 そう思っていると、茉莉ちゃんが新聞を持ってリビングからやってくる。


「おはよう、和にい。」

「おはよう。なんだか、茉莉ちゃんがキッチンにいないのも新鮮だね。」

「ふふ、起きてきたら、いのりちゃんがいてね。お礼にお料理をさせてって言って追い出されちゃったの。」


 そう言いながら新聞のチラシを抜いて俺に新聞を渡してくれる。

 俺は経済紙、地方紙、全国紙を何紙かとって読み比べるタイプなので、量が多い。

 席について新聞を開こうとするが、綾瀬君の見事な料理の手際に見とれてなかなか読めずにいた。

 茉莉ちゃんも傍で手伝っているが、綾瀬君の手際についていけずに、聞かれることに応えて準備するのが精いっぱいだった。

 そうして、我が家では考えられないホテルのような朝食が出来上がってきた。

 茉莉ちゃんは綾瀬君が配膳している間に楓ちゃんを呼びに行く。


「どう?大木さん。」

「ああ、本当にすごいな綾瀬君は。啓介がスカウトするだけはある。」

「もっと褒めてくれていいよー。」

「調子に乗るな。と言いたいけどこのクオリティを見せられたら褒めちゃうぞ。」

「エッヘン!!どんなもんでぇ!」


 楓ちゃんも眠たい眼を擦りながら茉莉ちゃんに連れられて降りてきた。


「おはよう。楓ちゃん。昨日はありがとう。」

「おはよう。いのりん。気にしないで。今度仕返しする。」

「あははー。怖い人に目を付けられちゃったかなー。」

「さあ、二人とも和にいが待っているから、朝ご飯ににしましょ。」


 皆が着席する。

 テーブルには我が家の冷蔵庫にあった食材とは思えない料理が何点も並び、綺麗にデザインされて配膳されている。


「いただきます!!」


 皆で合掌して、食べてみる。

 ・・・とっても、おいしい!

 見れば、食が細い方の茉莉ちゃんも勢いよく食べている。

 楓ちゃんは何も言わずに無心で頬張っている。


「いのりちゃん!!すごいよ!こんなにおいしく作れるなんて!信じられない!!」


 我が家の料理を一手に引き受けてくれている茉莉ちゃんは大絶賛だ。


「いのりん、ここに住もう。毎日食べたい。」

「うぅ・・・。いつもだったら怒るんだけど、私も毎日いのりちゃんの料理が食べたいかな。」


 綾瀬君は俺たちの食べっぷりを見て満足そうな笑みを浮かべている。


「でしょ!?前に約束していたからね。腕によりをかけて料理したよ!」

「ああ、本当においしいよ。それにコーヒーも何かしたかい?」


 俺はコーヒーの味がいつもより数段上がっているのに気が付いて聞いてみる。


「ああ、それ?

 ちゃんとフィルターの清掃と設定をしっかりと作りこんだらこれくらいの物にはなるよ?

 前バイトしていたカフェでおんなじマシンを使っていたからね。

 大木さん、ちゃんと手入れして設定してあげないと宝の持ち腐れだよ。

 せっかくいいマシンを持っているんだから。

 あ、もしかしてあの味が好きで設定してた?」

「いや、全然。そんなこと露にも思わなかったよ。」

「よかった。朝飲ませてもらったらあんまりにも味のバランスがグチャグチャでね。頑張った甲斐があったよ。」


 ほんと助かる。今度からきちんと掃除をして設定は変えないでおこう。

 俺たちは綾瀬君の作ってくれた料理に舌鼓を打ち、俺が片づけをしている間に女の子たちは二階の多目的スペースで姦しくお話をしている。

 俺は開店準備をしている里奈に一応連絡することにした。


「はい。どうだった和樹?」

「ああ、あの後ハイテンションだったが問題なく寝付いてくれたぞ。」

「そっか、よかった。」

「なんでもさ、昨日飲んでみたのは、学校で就職のイヤミを言われたかららしいんだ。」

「そう、ちょっとしくじっちゃったね。勇み足だった。

 ついつい、いのりの実力だから他に取られたくなくてね。早めに学校に話を持って行ったんだよ。私も啓介も今のままじゃどのみち限界を迎えるのは目に見えていたから。ごめん。」

「それは綾瀬君に言ってくれ。その意味では俺も同罪だがな。」


 彼女と啓介のやっているリストランテ ルイジはメディアに頻繁に紹介される人気店だ。

 開店してから客入りは右肩上がり、彼らの休みを削って何とか回しているくらいだ。

 今、アメリカをほっつき歩いている常見と俺は二人の限界が来る前に店舗の拡充を視野に経営プランを立てていた。だが、それに以上に客足は増える一方だった。

 確かに、経営者の一人として綾瀬君ほどの即戦力は是非にでも確保しておきたい。

 将来的に別店舗を持つにしても、押さえておきたい人材なのは間違いなかった。


「まあ、今は二人と二階で話をして楽しんでいるようだし、シフトがあるなら時間になったら連れていくよ。」

「いや、いい。今日は店に来るんじゃなくて、和樹んちで茉莉ちゃんたちに料理をするのが今日の仕事だって伝えて。

 あと、いのりの原付は閉店したら持っていくって伝えて。」

「ああ、すまないな。」

「いや、私も悪かったよ。妹分のことに気が付いてあげられなくて。」

「啓介にも、もう少し我慢してくれたら手は打つと伝えておいてくれ。

 バカが帰ったらすぐに首根っこ捕まえて手を打たせてもらう。」

「うん、期待しているよ。」


 そういって電話を切る。


 俺は綾瀬君が設定してくれたコーヒーを飲みながら新聞に目を落とす。

 意外に癖になる味で、何度も飲んでしまう。

 今日は眠れそうにないな・・・。

 そうこうしているうちにお昼となり、綾瀬君の料理に再び舌鼓を打ったのであった。

 今回は茉莉ちゃん楓ちゃんも料理が出来るようにって、有り合わせのもので出来る簡単なスープを三人で作ってくれた。

 三人は楽しそうに料理をしていた。

 その姿を眺めている俺は、かわいい女の子たちがわいきゃってしながら料理する姿に見とれていた。


 そして、夕方ーー。


「昨日と、今日はありがとう。

 また遊びに行っていい?」

「うん、また来て。お料理教えて。」

「いのりちゃん、私もお願いしていいかな。」

「いいって。みんながよければ、全然ダイジョーブイっ!」

「また、来てくれよ。楽しみにしているよ。」


 綾瀬君の住んでいるという古アパートまで車で送っていった。

 そんな会話をして別れる。

 俺達はこの後に、あんなことになるなんて想像もつかなかった。


 その夜、二人が眠るといって二階に上がろうという時、その電話は鳴った。

 啓介からだ。


「おいっ、和樹!!いのり君のアパートが火事だ!」







ポチっと評価、ブクマしていただいたり、感想を教えてもらえるとありがたいです。

次のヒロインのことは何案か用意しているので、こんな子がいいとかあったら教えてもらえると参考になります。

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