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第七話 初めてのお酒

 俺達は啓介のスペシャルメニューに舌鼓を打つ。啓介は俺が宝くじに当たっていること、到底使い切ることが出来ない金額を持っていることを知っているので、採算度外視で今をときめく料理人の考えうる最高の食材、調理、飾りつけで出してくれる。

 今日は、啓介たちが帰りに送ってくれるというので普段は出されないワインが出てくる。

 しかも、里奈が年代物のワインで今日の料理に合ったものをチョイスしてくれているのだろう。

 料理を食べていると、ついつい飲んでしまう。


「和にーちゃん、大酒飲み。」

「ほんと、和にいがお酒を飲んでいるなんて想像がつかないや。」

「いや、俺だってもういい歳の大人だからな。家にもミニバーがあるでしょ。」

「でも、お家ではせいぜい一、二杯しか飲んでいないでしょ?」

「ああ、それはその時の気分でいろいろ飲むものを変えているし、強いお酒もあるからね。」

「ふーん、そうなんだ。」

「でも、グラスとかをみていると、亜咲ねーちゃんも飲んでいたの?」

「? ああ、亜咲の方がお酒は好きだったな、後遺症のせいで少ししか飲めなかったけど。

 だから、いろんなカクテルが作れるようになったんだよ。

 お酒の強さじゃ、里奈が一番な。一番弱いのが啓介で。

 あいつは、一升瓶を・・・」

「余計なことを言わないの!」

「いでっ」


 里奈に小突かれる。


「これは私達からのお祝いのスペシャルデザートだよ。楓ちゃんのお友達一家も来ているって、いのりから聞いたから、そっちにもサービスしておくよ。」

「すまないな。」

「ありがとうございます。里奈さん。」


 そう言って、おしゃれにフルーツとスイーツが盛り付けられたパフェを持ってくる。

 楓ちゃんもお礼を言い、立花さん一家と目が合うと目礼してくれた。


「さて、いのりもシフト上がりだし、閉店までご一緒させてもらっていいかな?」

「もちろんさ。里奈たちも手が空いたら来てくれよ。」

「ええ。まあおかげさまでこの繁盛でなかなか来れそうにないけれど、夕食を摂るときにご一緒させてもうよ。」



 しばらくして、私服に着替えた綾瀬君がやってくる。

 今日はブラウスにロングスカートの服装だ。


「おまたせ!これは私から二人へのプレゼントだよ。

 味は啓介さんのお墨付きだから安心して食べてね。」


 綾瀬君は二人に色とりどりのマカロンが入った可愛らしい透明な小包を渡す。


「わぁ、綺麗。」

「お店の商品みたい。」

「一応、啓介さんもお店で作った分だけ販売していいって言ってくれてるからね。エッヘン!」

「あの啓介が認めるなんて、やっぱりすごいな綾瀬君は。」


 啓介は存在感は薄いが、メディアに注目されるだけあって味に妥協はない。

 その啓介が認めるからに、綾瀬君の才能は相当なものなのだろう。

 そうして綾瀬君加わり、食後のコーヒーを飲んでいた立花さんを加えて楽しい女子会が行われた。

 しばらくして立花さんは家族と共に帰っていき、里奈と啓介が代わる代わるこちらにやってきて、夕食を摂りつつ歓談していった。

 とても楽しい時間だった。

 綾瀬君は、その後俺に話しかけてきた。


「ねえ、大木さん。お酒っておいしいの?

 里奈さんはソムリエで、これがこうだ―ってよく教えてくれるけど、わたしはまだよくわかんないし。」

「まあ、慣れてくるとわかってくるものがあるよ。なかなか難しいけど。里奈はその点、大酒飲みだからね。」

「ふーん。わたしも飲んでみていい?」


 そうしてグラスを差し出してくる。


「いや、綾瀬さんはまだ未成年でしょ?」

「私は誕生日が分からないから4月1日で戸籍上は登録されているの。つまり最近、戸籍上は20歳になりました。

 だから、問題なし!」


 そうか綾瀬さん施設出身だったな。まあ、法律上の問題はないから一口ぐらい問題ないだろう。

 そう思い、グラスに里奈が用意してくれたワインを少しだけ注いであげる。


「うん、香りはいいね。味はわからないから、とりあえず飲んでみる。」


 少し口をつけてみる綾瀬さん。


「うへっ。なんか果実の味がするけど、独特な感じがするね。」

「初めてならそんなもんだよ。」

「もうちょっと、味わってみないとわからないかな。」


 そう言って、綾瀬君はなみなみとグラスにワインを次いで飲んでみる。


「いのりちゃん、そんなに飲んだら・・・。」

「ダメ、絶対。」

「ーーっはぁ!なんだか、フワフワしてぽかぽかする。気持ちイイねー。

 大木さんもう一回ちょうだいっ!!」

「いや、もうやめよう。また今度。徐々に慣れていこうね!?」

「そうだよ、いのりちゃん。お話しよっ。」

「そうそう、この間のお菓子屋さんのスイーツについて教えて。」


 茉莉ちゃんと楓ちゃんが話題を逸らして話し始める。

 綾瀬君はハイテンションで話している。

 そうしているうちに閉店時間となり、ほかのバイトの子たちに片づけと戸締りを頼み啓介と里奈と帰宅することになった。

 二人は店と俺の家を挟んだ反対側の住宅街のアパートに住んでいる。

 帰り道なので、俺の車に茉莉ちゃん楓ちゃん、そして何故か綾瀬君が乗り込み、里奈が運転していくこととなった。


「まさか、あのいのりがお酒をねえ。前々から飲んではみたいって言っていたけど。決心がつかなかったのに、何かあったのかね。

 取り敢えずは、飲ませた責任をとって泊めてあげて、和樹。」


 そう言って里奈が車を発進させる。里奈は俺のオープンカーのスポーツセダンをオープンカーにして軽快に走り出させる。

 俺は啓介たちのワンボックスカーに啓介と乗りこむ。


「今日はありがとな。」

「いや、気にするな。お前と亜咲の大切な人だろ。水臭いこと言うなよ。」

「ああ、すまないな。」

「あんな風になったいのりちゃんを見るのは初めてだよ。よっぽど嬉しいことがあったのかね。」

「さあな。少なくともこの間遊びに行った時にかなり二人と打ち解けていたよ。」

「そっか。あの子の出自は聞いたのか?」

「ああ、さらっとな。」

「お前たちとは、また違った意味で苦労している子だよ。お前と、亜咲、茉莉ちゃん楓ちゃんを投影しているわけではないけど。幸せにはなってほしいよ。

 ま、才能はあるし卒業したらどこででもたくましくやっていきそうだけど。」

「そのうち、お前が顎で使われているかもな。」

「そうかも。」


 そんな話をしているうちに家に着いて里奈が車を車庫に入れてくれる。


「それじゃ、私たちは帰るけど、くれぐれもいのりのことは頼んだよ。

 二日酔いが酷かったら明日は休んでいいって伝えておいて。」


 俺と入れ替わりで里奈が告げてくる。


「ああ、わかった。今日はありがとうな。」


「うん。おやすみ。」

「じゃあな!!」


 家の前で二人を見送った俺は、家の中に入る。

 なし崩し的に綾瀬君が泊まることになったので、和室に布団を用意しよう。



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