第六話 ご近所さん
この話の後からいのりの中心の話にシフトしていきます。
入学式を終えた俺たちはリストランテ ルイジに向かう。
入学式のお祝いだということで、席を取りたいと里奈に頼んで予約させてもらった。
里奈は奢りだといったが、ここは俺が個人のお祝いも兼ねているので、俺からは採算度外視のスペシャルメニュー。啓介、里奈夫婦からはスペシャルデザートで手を打ってもらうことで決着した。
結果、啓介は腕を振るうのには違いないが、里奈から相当なプレッシャーを掛けられていることだろう。
あの夫婦は里奈が主導権を基本握ってるからな。まあ、啓介の夢に共感して盛り立てているのが里奈なので、実際のところ啓介が一番だったりする。それがあの二人らしいところだ。
店に着き、入っていく。今日も外では順番待ちのお客さんでいっぱいで繁盛している。
「いらっしゃいませ!
って、大木さんじゃん。茉莉ちゃん、楓ちゃん入学おめでとう!!」
そう言って綾瀬君が奥からやってくる。
「ありがとうございます。いのりちゃん。」
「いのりん、ありがとう。」
「いや、綾瀬君も進級おめでとう。今年は最終学年だろ?免許取れるように頑張れよ。」
俺の言葉に綾瀬君はきょんとする。
「まあ、わたしは入試とかはないからね。言葉だけでもうれしいよ、大木さん。
ありがと。
免許が取れるように頑張るよ。
一応、わたしこのお店に就職させてもらえることになってたから。」
「おう、啓介たちがそう言っていたな。忙しいからバイトの中で調理師免許取得予定の綾瀬君を採用したいって。もちろん歓迎だよ。俺の懐のために頑張ってくれたまえ。」
「合点承知の助でい!」
そんなやり取りをしていると、茉莉ちゃんたちもお祝いの言葉を述べてくる。
「いのりちゃん、おめでとう!」
「お姉ちゃん、まずはいのりんが資格を取らないと。」
「いやいや、落ちたって採用してくれるよ里奈さんは。」
「いーや、ちゃんと取らないと採用は無しだからね!」
そういって里奈が奥からやってくる。
なにやら花束を抱えている。
「はい、茉莉ちゃん、楓ちゃん。入学おめでとう。これは私からのお祝いだよ。」
そう言って花束を二人に渡す。
茉莉ちゃんにはピンクローズの花束、楓ちゃんにはオレンジローズの花束だ。
「わぁ!里奈さん、ありがとうございます。」
「いい香り、ありがとう。」
「なに、気にしないで。私と亜咲の分だと思って受け取ってちょうだい。」
「すまないな、里奈。」
「ふふっ。和樹は採算度外視のディナーをオーダーしてもらっているから、啓介も張り切っているからね。ま、それでなくとも当たり前よ。特に女の子同士なら。」
二人は里奈からのプレゼントを大事そうに抱えている。
「わたしからもプレゼントがあるからね。後から持っていくよ。
さあ、席にご案内します。
今日は一番いい席だからね。」
そう言って綾瀬君が席へと案内してくれる。
確かに今日は親父さんと前回来た時と違い、一番眺めの良い、メディア取材されるときに使っているテーブル席に案内される。
「あと、大木さん。啓介さんが今日は店が終わるまでゆっくりしていってくれだってさ。
大木さんにはワインをプレゼントするから、帰りは車で啓介さん里奈さんで送っていってくれるって。」
「そっか、茉莉ちゃんたちが問題なければそうさせてもらうよ。」
「私は大丈夫。」
「私も。むしろ試験や挨拶から解放されてパーッとしたい気分。」
「なら、決まり!わたしもシフトが上がったら席に混ぜてもらっていいかな?」
「もちろん!いのりちゃん待ってるね。」
「うん、早く来て。」
そうして綾瀬君はコースの給仕の準備をしに戻っていく。
代わりに近づいてくる人がいた。
さっき高等部で別れた立花さんだ。
「あれぇ!楓ちんに茉莉様じゃないですかぁー」
「あ、美里。美里の家もここで食事?」
「こんばんは。美里ちゃん。ご入学おめでとう。」
「ありがとうございます。茉莉様。」
挨拶を交わしている。
「それにしても一番いい席だね。大木さんはやっぱりお金持ちなんですか?」
立花さんが聞いてくる。
「いや、俺はこの店の出資者の一人で、オーナー夫妻が俺達夫婦と友達なんだ。」
「そうなんですか。でも、奥様はいらっしゃらないですね?」
「ああ、俺の妻は去年亡くなっているからね。」
「それは、すいません・・・。」
そうしていると、様子を見ていた立花さんのご両親がやってくる。
「私どもの娘が不躾なことをお聞きして申し訳ございません。
私は美里の父、立花 修造です。」
痩身の髭を生やした男性がやってきて頭を下げる。
「いえ、お気になさらないでください。私の不注意でもありましたし。」
「そうですか。ありがとうございます。
先ほど、あなたのことを娘から聞いていました。
娘の友人である楓さんと、茉莉さんのご両親が亡くなって私たちも心配していたんです。」
そう言って、奥さんが話を引き継いでくる。
「娘からは、私どもの近くにお住みだとお伺いしておりますが、あの大木さんでいらっしゃいますか。」
「ええ、多分、その大木です。」
「やはり。町内会には会費と多分なご寄付をいただいているようで有名でしたの。
奥様を亡くされて塞ぎ込んでいらっしゃると高健寺のご住職様からお聞きしていたので。」
「そうでしたか。ですが、この二人がやってきてやっと前を向けているような気がします。」
「楓さんたちのご両親があのような事故があって私たちもとても心配していたのです。
ですが、大木さんほどの方なら安心できます。」
「重ねて不躾な質問なのですが、お仕事はどういったことを?」
「ええ、先ほどお話ししていましたが、この店の出資を。それ以外にはご住職の次男坊とこの店のオーナーといくつかビジネスをしていますので、その顧問をさせていただいております。」
「そうなのですか、ご住職は身元も職業もしっかりとしているから心配ないとおっしゃっていたものですから。」
「ご住職はそのように言われていたのですね。これからは町内会の行事にも参加していこうと思っていますので、楓ちゃんたち共々よろしくお願いいたします。」
そう言って、会話を終え、立花一家は席に戻っていたのであった。
「いい人そうだよね。ご近所付き合いがなかったから全然知らなかったよ。」
「美里ちゃんのご両親は私たちにとてもよくしてくれているんです。ことあるごとに心配してくださっています。」
「本当に助かってる。持つものはいい友達。」
そんな会話をしていると綾瀬君が前菜を、里奈が俺にワインを持ってきた。
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