第五話 入学式
綾瀬君と遊びに行ってから、さらに数日が過ぎ、茉莉ちゃん楓ちゃんの入学式のある土曜日となった。
欧美女学院の入学式は、一日に時間をずらして各学校の入学式が学院内の大講堂で行われるとのことで俺も参加することにした。
先ずは、楓ちゃんの高等部の入学式だ。これには茉莉ちゃんも参加する。
早めの時間に正門へ行って記念撮影をする。もちろん二人の写真を撮っておくためだ。
「二人とも、それぞれと一緒の写真を撮ったし、そろそろ行こうか。」
「和にーちゃんとは一緒に撮っていない。これは大問題。」
「そうだよ、和にい。一緒に写真撮ってよ。」
二人とも俺と写真に写りたいとせがんできたので、それぞれと一緒に撮ってもらう。
そして、付近にいた人にお願いをして三人一緒の写真も撮ってもらった。
「後で、プリントしてお仏壇に供えておきましょう。お父さん、お母さん、亜咲ねえにみてもらいたいし。」
「そうだね、それがいいと思うよ。みんな喜んでくれると思う。」
「思えば、和にーちゃんと一緒に写真に写るのって本当に久しぶり。」
あ、確かに。そういえばそうだな。茉莉ちゃんと楓ちゃんと一緒に写った写真なんて何年振りだろう。
あの時は亜咲もいたんだな・・・。
ここに亜咲がいたら、どんな風だったんだろう。
二人にお姉ちゃん顔吹かせていたのか、それともお母さん顔を吹いていたのだろうか。
今となって改めて喪ったものの大きさを感じる。
「私、とっても嬉しい。和にいと亜咲ねえの写真はもうボロボロのしかもっていなかったから。
プリントして大切にするね。
亜咲ねえも本当はいて欲しかったな・・・。ほんと。こんな時に亜咲ねえはどんな風に声を掛けてくれたのかな。」
「うん、大切にしよう。亜咲ねーちゃんはきっと喜んでくれている。いつも通りにするのが一番。」
「そうだな。亜咲にみんなで一緒に撮ったよって、あとでお供えして報告しよう。」
そうして、高等部の入学式の時間になった。
何と楓ちゃんが新入生代表として挨拶をしている。
呼ばれたときはびっくりした。
横にいた茉莉ちゃんが、和にいには秘密にしておいてほしいって楓ちゃんに頼まれていたと教えてくれる。
なんでも、内部進学者も外部進学者と同じ入試テストを卒業試験として受験していて、その成績の最優秀者が入学式の挨拶を行うのが恒例なんだそうだ。
しかも茉莉ちゃんも高等部の入学式で挨拶を行ったとのことだった。
その時は緊張で夜も眠れなくてフラフラしていたけど、いざ本番では緊張でカチコチになってしまい結果として直立不動で読み終えることが出来たとのことだった。
俺はその話を聞いて、本当に良くできた妹たちだなと、鼻高々だった。
ちなみに親父さんも常任理事なので楓ちゃんの直ぐそばで話を聞いている。
親父さん、たぶん二人のことは知っていたんだな。だから、あの時も俺とすぐに結びつけることが出来たんだろう。
本当に侮れない。
高等部の入学式が終わり、新入生の楓ちゃんたちはそのまま入学テストを受けるとのことで、夕方前まで時間が掛かるそうだ。
俺と茉莉ちゃんはこの後お昼から行われる大学の入学式まで、大学の構内を散策してから学食で昼食を摂ることにした。
学食と言ってもカフェテリアから大食堂まで何個もある中で、茉莉ちゃんは普通の学生食堂をチョイスした。
「和にいは亜咲ねえ、里奈さん、啓介さん、それに常見さんと一緒の大学だったんでしょ?
どうだったの?」
俺たちの大学生活について聞いてくる。
「ああ、俺と亜咲は一緒だったよ。それで入学式の時に隣にいたのが啓介でその場で意気投合したんだ。
で、夜に俺たちの行っていた大学は歓迎パーティーをしてくれていてね。
その時に亜咲をナンパしてきたのが常見。で、それを諫めにやってきたのが里奈だった。
その時に俺たちはなんだかんだで意気投合してずーと腐れ縁でつるんでるんだ。」
「そうなんだ。なんだか、らしいね」
「だな。今となってもなんか運命って感じだよ。おかげで大学生活は楽しかったし。後遺症に苦しんでいた亜咲も助けられた。」
「そっか。本当に大切なお友達なんだね。」
「ああ、茉莉ちゃんもこれから、そういった友達もできてくるよ。
まあ、女子大だから野郎はいないけど。」
「だね。まあ、私には和にいがいるから、それを超える人がいないと仲良くなれそうにないな。」
おいおい、何か俺のこと神格化しすぎてるよ茉莉ちゃん。
そんな話をしながら俺は久しぶりの学食ランチを楽しみ、茉莉ちゃんの入学式に出席した。
大学の入学式は滞りなく終わり、茉莉ちゃんは同じ内部進学の友達と話をしているようだったので、楓ちゃんを迎えに行ってくるとメッセージを送ってから、楓ちゃんを迎えに行った。
高等部の玄関前で出てくるのを待っている保護者の集団の中で俺も待たせてもらい、楓ちゃんが出てくるのを待っていた。
試験が終わる時間になり、しばらくして楓ちゃんが出てきた。
「和にーちゃん。来てくれたんだ。」
「ああ、茉莉ちゃんは友達と話していたからな。楓ちゃんを迎えに行きたいって思って。
それにしても驚いたよ、新入生代表で挨拶だなんて。」
「びっくりした?ぶい!!」
楓ちゃんは満面の笑みでブイサインをしてくる。
そんな楓ちゃんの頭をなでる。
楓ちゃんはとっても嬉しそうにしてくれていた。
「亜咲ねーちゃんも高校の時はそうだったって聞いていたから、頑張れた。」
「ああ、そっか。そういうことか。でも、亜咲なんかよりもずっとすごいぞ。」
とても破顔して、はにかむ楓ちゃん。
確かに、俺たちが通っている高校も似ていて入試一位の人間が新入生挨拶をしていた。
亜咲はなんでもひょうひょうとこなすタイプで順当にそれになっていたっけ。
そんな亜咲を見て、二人は頑張った来たんだな。
「あー。楓ちんだ。この男の人は誰?」
そういって、元気を体現してようなショートカットの女の子がやってくる。
「美里。この人が私たちを引き取ってくれた。和にーちゃん。
和にーちゃん。この子は私の友達で、立花 美里っていう。」
楓ちゃんが女の子を紹介してくれる。
「こんにちは!楓ちゃんのお友達の立花 美里です!」
「こんにちは。楓ちゃんの保護者になった大木 和樹と言います。」
挨拶を交わす。
「あの、大木さんってあの大きな黒塗りのお屋敷の大木さんですか?」
「ああ、もしかして俺の家知ってるのかい?」
「あ、やっぱり!私近くに住んでいるんですよ。なんだか、あのお屋敷のあたりで見たことあるなって。」
「美里、そんなに近くだったの?」
「言ってたよ?ひどいなぁ、楓ちん。
私の年賀状とかの住所見ているでしょ?」
「まだ、住んで間もないから、地理関係はあまり把握していない。」
「そっか。でも、これから一緒に学校に通えたり、遊べるね。」
「うん、和にーちゃんがよければ。」
「何を言っているんだい。歓迎するよ。」
「やった。」
「ありがとうございます。楓ちん、これから一緒に学校へ行こ!!これからお父さんたちがご飯に連れて行ってくれるんだ。また後でメッセージ入れるね!」
「うん、私たちも同じ。待ってる。」
そうして、立花 美里ちゃんと別れる。
「いい友達だね。」
「うん、一番の親友。」
「近くに住んでいてよかったね。」
そういいながら車に向かい、茉莉ちゃんに連絡する。
茉莉ちゃんも友達との話を切り上げてこちらに向かってきているようだった。
そして俺たちは、お祝いの夕食を摂るためにリストランテ ルイジに向かった。
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