第四話 気にしないでね
俺のなぜ頑張るのかとの質問に綾瀬君は自分の店を持つ夢がある。しかし自分も親がいないのでなおさらに頑張っているとのことだった。
「なんだか、すまないことを聞いてしまったかな?」
「ぜんぜん。わたし物心気づいた時からずーっと施設にいてね。いわゆる捨て子ってやつ?
誰が親かわかんないのよ。取り敢えずわかっているのはいのりって名前と、地毛が金髪なんで海外の血が入っているくらい。
そんな顔しないでって。おかげで施設に兄弟、姉妹はたくさんいるんだよ?
その施設にね、慈善事業でご飯を作りに来てくれていた町の食堂のじいちゃんばあちゃんがいて、よくかわいがってもらっていたんだ。
わたし、料理を作るのも食べるのも大好きだったから。
で、施設は高校まで面倒を見てはくれるけど、そこからは自立しなくちゃなんなくてね。
それならじいちゃんばあちゃんのように食堂を開きたいなって思って。
必死に中学からバイトしてお金を貯めて調理学校に進学して、今に至るってワケ。」
俺もどういう顔をしていいのかわからないが、隣の茉莉ちゃんと楓ちゃんも、意外に重たい話だったようでどういう表情をしていいかわからないといった顔をしていた。
「あ、全然気にしないでいいよー。みんなみたいに親がいて、死んじゃったほうがもっと悲しいよ。
わたしはたまたま、親は最初から知らないけど、施設の先生やじいちゃんばあちゃんがいたから、そんなに気にしなかったよ。みんな大切に育ててくれたから。感謝しかないよ。
自分の親が、今生きているか死んでいるかは判んないけど、先生たちもわたしが置いていかれていた状況から何らかの事情があって育てられなくて仕方なく手放されたんじゃないかってさ。
フランス人形さんみたいなおくるみとかに包まれて、丁寧にわたしと施設への謝罪と懇願が書かれた、涙にぬれてぐちゃぐちゃになった手紙と大量の現金の入った封筒が置かれていたんだってさ。
内容も本当に必死にわたしに謝り倒してるんだよ。字が段々と崩れてきても何度も何度も。
だから、わたしは親を恨んでもいないし、たぶん、その時の最善だと思ってそうしたんだと思っているよ。
いつ読み返しても、その時出来る限りの愛情を注いでくれてたんだと思うよ。
それに、ばあちゃんなんてわたしの髪の毛をきれいだって、ずーっとほめていてくれたんだから。
親なし、金髪で学校でも白い目で見られて、悪く言われてたこともあったけど、そういう人たちに囲まれてたからわたしは自分が不幸だなんてぜーんぜん思っていないし。」
「・・・いのりちゃんーーー。」
「うぅ、いのりん。すごい頑張っているんだね・・・・」
茉莉ちゃんと楓ちゃんは滂沱の涙を流す。
確かに、俺もウルってきてる。
「あはは。ごめんね。なんか湿っぽい身の上語りになんかなっちゃって。
わたしもそんなんだから、里奈さんたちから話を聞いてみんなにシンパシーを感じていたんだ。
さぁ、涙を拭いて、ごはんを冷めないうちに食べちゃおう。」
綾瀬君の身の上話を聞いて、泣いていた二人を宥めて運ばれてきた料理を食べる。
二人は里奈から自分たちの身の上を聞いて、寄り添ってきてくれた綾瀬君のやさしさに感動しているようで、さらに綾瀬君と親しくなろうって思ってる気がした。
そんなこんなでレストランでの食事を終えた俺たちはレストランを出た。
茉莉ちゃんと、楓ちゃんは綾瀬君が泣いた顔を整えたほうがいいよと言ってパウダールームに行っている。
そのしばらくの間、綾瀬君と二人っきりとなる。
今思えば、綾瀬君と二人っきりになるのは初めてだな。
「実を言うとね。大木さんのことも啓介さんや里奈さんから聞いていたんだ。その・・・亜咲さんのことも。
だから、最初から大木さんにも親しみを感じていたんだよ?
それに普段はこんな話他人にはしないんだけどさ、ついつい気持ちが入っちゃったよ。ごめん。」
「ん、そうか。ありがとう。
って言っていいのかわかんないけど。
まぁ、そのお互い様だよね。」
「うん、わたしもじいちゃんばあちゃんが目の前の火事に巻き込まれて亡くなってしまって、ものすごく絶望したんだよ。
大木さんほどじゃないけど大好きだった親しい人が亡くなる気持ちはわかっているつもりだよ。
わたしだって気が狂いそうだったし、それに加えて施設のみんなが亡くなるなんて想像したくもない。
今でも、じいちゃんばあちゃんの最期を思うと狂い泣きしそうになるし。
だからさ、大木さんは本当にすごいと思うよ。」
そういって俺のことを見つめてくる綾瀬君。
今まで顔をしっかりと見つめたことがなかったけど髪の毛は染めているものだとばかり思っていたが、根元からの金髪だ。それに意外と目鼻立ちも外人よりだな。
確かに、着飾ればフランス人形みたいかもしれない。
今までの俺だったらそこまで気にしなかったんだろう。
茉莉ちゃんたちが来てから、今までよりいろいろなことに目が向いてきている気がする。
しかし、大切に思っていた人が目の前で亡くなっているとは、綾瀬君の力になれることがあれば手伝ってあげたい。
「あ、今の話はあんまり人に話したことがない話だから。
茉莉ちゃんたちには秘密にしておいてほしいな。
大木さんだから話したんだよ。」
「ああ、わかってるよ。
綾瀬君、もし何か力になってほしいことがあったら遠慮なく頼ってくれ。
俺はこう見えても金だけ持ちだからね。」
「あははっ!そうだね。
わたしは大木さんのそういうところ好きだよ?
いざとなったら頼りにさせてもらうね!!」
そんな話をしていると二人がパウダールームから出てきた。
それからは綾瀬君の案内で、デパ地下のおいしいお店や、近隣のおいしいお菓子屋なんかをハシゴした。
もちろん遠慮なく俺の奢りで。
女の子は甘くてカワイイには目がないようです。
あとで体重計に乗って悲鳴を上げるのを解っていてやめられないのが不思議でならない。
三人とも楽しそうに最後までおしゃべりやショッピングを楽しんでくれた。
そうして、夕暮れ時になりおしまいの時間になった。
「あ、わたし、これからルイジのシフトが入っているから。今日は本当に楽しかったよ。
皆ありがとう。また遊ぼうね!」
「うん、いのりちゃん。私の方こそありがとう。いろいろ服とか解っていなかったから助かったよ。
またあとで連絡するね。こんどはお家に遊びに来てね。」
「そう、歓迎する。今日は楽しかった。いつかいのりんの料理も食べてみたい。」
「ふふ、いつかみんなに食べてもらうね。その時まで楽しみにしていて!」
「俺も楽しみだな、今日は助かったよ。送っていこうか?」
「ううん。今日は原付で来ているから。このまま行くね。
それよりも大木さん二人を最後までちゃんとエスコートするんだゾ。」
いのり君は駐車場の横にある駐輪場から原付に乗って出て行った。
ほんと、騒がしいようで、気が利く子だな。
茉莉ちゃん、楓ちゃんとはまた違った意味でいい子だと思う。
本当に俺たちは人に恵まれていると思うよ、亜咲。
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やる気が出ます。