第九話 やっぱり、超絶お嬢様
送迎に来てくれたマイクロバスに乗り込んだ俺達一行はジャンさんとみのりさんが開業を予定している旅館へと到着した。
「おお、これは・・・。さすがだな。ウチの温泉旅館が霞むな・・・。」
修造さんが旅館の佇まいに圧倒されている。
「写真で見ていたのとは違って、とても綺麗だヨ。」
いのり君も実物を見て感慨の声を上げている。
確かに高級感のある和風の建屋と、程よく近代的な建屋がある。まさに高級老舗温泉旅館といったところだ。
手入れも隅々まで行き届いているようで、建物の古さを感じさせない。
何より中で行きかうスタッフの人々から発せられる雰囲気が溌溂として気持ちがいい。
その中の一人が俺達のことに気が付いたようで、声を掛け迎えに来てくれる。
数人の出迎えと思っていたが、ぞろぞろと何十人ものスタッフの人たちが出て来て俺達はびっくりしていた。
「ふつうのお出迎えって・・・。」
「うん、これは普通じゃないと思う。」
「そうね。こんな大人数でウェルカムはないわね。」
「ですね~。私のところの時はこんなのなかったし。」
俺達は驚きつつもスタッフの人に案内される。
「ようこそ、いらっしゃいませ!! そして、おかえりなさい!! いのりお嬢様!」
だよね。いのり君の歓迎も兼ねていたようだ。
当のいのり君は顔を真っ赤にして恐縮しながら応じている。
出迎えてくれているスタッフの多くの人は涙を流している。
ここのスタッフの人のほとんどが昔、高千穂家の経営する旅館のスタッフの人だ。
俺達も含め皆何があったかを知っている。
反社会的な組織に旅館がつぶされ、高千穂家が離散し、いのり君は一人施設に捨て置かれたという事、そして漸く再会できた事。
皆が忍耐と苦難の十数年を過ごしてきた。まさにいのり君が希望の、祈りの象徴だったのだろう。
歓迎の列を抜けると、調理服のジャンさん、和服姿のみのりさんが待っていた。
「立花様、大木様、高賢寺様、滝川様、本日はようこそお越しくださいました。」
みのりさんが俺達に声を掛けてくれる。今日のみのりさんは普段のフランクな感じではなく落ち着きのある旅館の女将さんだ。隣のジャンさんも同じく真面目な顔をしている。
「この旅館の開業にあたり、忌憚のないご意見をいただきたく、何卒ご指導の程よろしくお願い申し上げます。」
ジャンさんがそう言って俺達を仲居さんに割り当てられた部屋に案内するように指示をして、それぞれの部屋に案内される。
いのり君も今回は俺達と一緒の部屋がいいということで、俺達と一緒に行動することになっている。
一応、ここにもいのり君の部屋があるらしいが、一緒がいいと言っていた。
部屋割りは俺達一行と立花家、常見、里奈、明美ちゃんに山田さんがまとまって一部屋になっている。
取り敢えず一服してから、それぞれ会おうということにして一旦別れた。
「いのりちゃん、よかったね。」
「あはは。もうびっくりだヨ。なんだか申し訳ないね。」
「ううん、いのりん、こういう時は好意に甘えていいんだと思う。」
「そうね。みんな高千穂で働いていた人なんでしょ? なら貴女は名前の通りみんなの祈りなのよ。
今回ぐらいは神輿に担がれなさいな。」
「そうだな。一応、俺とかは仕事で来ているけど、いのり君はいっぱい皆さんの好意に甘えたらいい。
それがみんなの望みなんだからね。もちろん他のみんなも楽しんでくれよ?」
「「「「うん!」」」」
俺達は泊る部屋に通されたのだが、その部屋の名前が「いのりの間」と記されていて驚いた。
気になった俺が声を上げると仲居さんが教えてくれた。
「これって。」
「はい、もちろんいのりお嬢様のお名前からいただいております。
この旅館の一番のお部屋の名前は皆の賛成でこの名前にさせていただきました。」
「うう、なんだか恥ずかしいヨ・・・。羞恥プレイだ。」
「ふふっ、早速の反応ありがとう。」
「カメラに取っておこう。」
「もうっ! カレン、楓ちゃん!」
「あはは、いつも道理だね、和にい。」
「ああ、いのり君はシリアスとかは秒と持たないタイプだよね、普段は。」
俺達は部屋に通される。中はかなり和モダンな洋間と本格的な和室がハイセンスな調度品に彩られた落ち着きのあるラグジュアリーな部屋だった。
「すごい。」
「ほんと、これはかなりのVIP用の部屋じゃない。」
「私、いいのかな?こんなお部屋で。」
「いやいや、茉莉ちゃん。気にしないで。この前の温泉旅行と同じだと思って、ね?」
と言っても、俺も圧倒されていた。さすがにお金がかかっている。並みの小金持ち程度では一泊でも一財産の部屋だ。
俺だって気持ち奮発したって思わないと予約を取らないだろう。
まさに貴賓向けの部屋だ。
俺達は洋間のソファに案内されて、茶菓子とお茶が供される。
仲居さんがしばらくしたら女将、みのりさんがやって来るのでしばらく待っていて欲しいと言って退出した。
「ふう、まずは一息だな。」
「うん、私のお家の旅館だけど、ものすごく緊張した。」
「まあ、あの歓迎はすごかったね。」
「うん、改めていのりんが超お嬢様だって実感。」
「そうね。まあ、中身は追々ってところかしら。」
「そこは、いのりちゃんの魅力で・・・なんとか。
・・・ならないや。トホホ・・・。」
「ほら。」
「あはは!」
「いのりん、ファイト!」
「さ、冗談はほどほどにして、いただこう。」
俺達はお茶と茶菓子をいただく。どれも上品な最高級品だと見て、嗅いで、味わって直ぐにわかるものばかりだった。
それからこの話でみんなで盛り上がっているとみのりさんがやってきた。
「失礼します。」
「あ、お母さん!」
「皆さん、今日はよろしくお願いいたします。
大木さん、朝からいのりが寝坊したようですみません・・・。」
「ああ、お気になさらず。ちゃんと遅刻せずに来れましたから。」
「そうですね。前日にかなり言って聞かせたんですけど、興奮が抑えられなったようで。
親としてはかわいいところなんです。
さて、今日は女の子の皆さんに色浴衣を、と思ったんですが、丁度一月にいのりの成人式があるのでその衣装合わせついでに皆さんにお着物でもと思いまして。いかがでしょうか?
もちろん立花様のお嬢様もご一緒に。」
そっか、いのり君は再来月の一月に成人式があるな今までそういう事をいのり君と話すことがなかったので気にしていなかったが、ご両親からしてみれば子供が成人する儀式、そして最初で最後の子供とのイベントだもんな。
「え? そんなの聞いてないよ?」
「ふふっ、秘密にしておいたのよ。実は貴女のお着物はもう用意してあるの。高千穂家代々の着物がね。」
「じゃあ、私達もおこぼれに預からせていただきましょう。」
「うん。楽しみ。」
「私、お着物なんて七五三でしか来たことがないや。」
こうしてみんなで着物を着ることになった。
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