第五話 茉莉と学園祭~学校の思い出~
いのり君と学園祭を楽しんだ後、彼女は早速追加のお菓子の搬入の依頼があったようでルイジへと戻って行った。
俺は次に一緒に回る予定の茉莉ちゃんとの待ち合わせの場所、校舎の屋上へと向かった。
「お待たせ、茉莉ちゃん。」
「ううん。そんなに待っていないよ。」
俺は屋上で周囲の景色を眺めていた茉莉ちゃんに声を掛ける。
「和にい。私ね、ここから見える風景が好きだったんだ。
学校の敷地が一望できるってのもあるんだけど、街中と違って大きなビルもそんなになくて景色を遮るものが何もなくて、見ていて自由な、解き放たれた気分になれるから。」
「そうなんだ。確かに街中と違って大きな建物もなく眺めがいいね。」
「でしょ。だから、いろんなことがあった時にはここに来て気分を入れ替えていたの。」
「うん、ここだとなんだか気分が洗われる気がするよ。」
そんなことを話してから俺達はまず最初の目的地、茉莉ちゃんがこの春まで所属していた華道部の展示を見に行くことにした。
展示は校舎の外にある多目的会館の中にある和室の一室だ。
「うん、なんだか新鮮だな。」
「?」
「あのね、和にいと一緒に学校の中を歩くなんてそうそうなかったから、とっても新鮮だよ。」
「あ、そうだね。なかなかこういった機会はなかったよね。」
俺達は向かう途中に話している。確かに茉莉ちゃんと学校の中を歩くということがなかったっけ。
俺達が通っていた小学校と中学校は隣り合っていたから一緒に登校することはあっても、一緒に中を歩くということはほとんどなかったもんな。
「だから、うん、新鮮。ほんとは和にいと一緒に学校生活を送ってみたかったけど、歳が合わないからね。でも、この機会だから一緒に歩けてちょっと感激だよ。」
「そんな大げさな。」
「ううん、そんなことないよ。
亜咲ねえとも一緒に歩きたかったよ・・・。だって、二人は私の憧れだもん。」
「そっか。」
その話の流れで、昔の話をしながら俺達は多目的会館の和室に到着して、華道部の展示会場に入る。
「あ、茉莉様!」
「茉莉先輩!!」
茉莉ちゃんのことを認めた部員の子たちが集まってくる。
「みんな久しぶり。元気にしていた?」
「はい! 今年の部員の子たちなんて中学の時に茉莉様の噂を聞いて憧れた子たちも入ってくれているんですよ。是非声を掛けて行ってあげてください。」
「ええ、そうさせてもらうね。」
みんなに歓迎される茉莉ちゃん、いつも高校の話を聞いている限りみんなに愛されていたんだなって思う。
これも茉莉ちゃんの性格が為せることだと思う。彼女の実直で可憐な性格は人を惹きつけてやまないのだろう。
「そう言えば茉莉様。後ろにいる方って、彼氏さんですか?」
部員の子の一人が俺のことについて聞いてくる。
「! ううん、そうじゃないよ。
卒業してすぐに私の両親が亡くなったでしょ?
その後に私達姉妹を引き取ってくれた、幼馴染のお兄さん。
昔隣に住んでいて遠縁にもあたる人なの。一応この学園の職員でもあるよ。」
顔を少しだけ赤くして俺のことを首からかけているパスを示しながら紹介してくれる。
確かにここの職員パスで入場しているからね。ここの学園の関係者だって言っておいた方が信頼性は上がるものな。ここは女子校だから。
「今、茉莉ちゃんたちの保護者をしている学園職員の大木と言います。みんな高校時代の茉莉ちゃんに良くしてくれていたみたいでありがとうね。これからも茉莉ちゃんとよろしくしてください。」
「いえいえ、私達は本当に茉莉様にはお世話になって、今でもいろいろ相談事に乗ってもらったりしています。」
何人の子たちも頷きながら返事をしてくれている。
それから俺達は茉莉ちゃんに案内されながら展示を見て回った。
従来の華道的な展示も多かったが、中には前衛的な作品も多かった。
「茉莉ちゃん、これって・・・。」
「あはは・・・。うん、多分私の影響かな・・・。」
苦笑いしながら頬をかく。
確かに今までの部員の子たちの反応からして、茉莉ちゃんに憧れて部に入った子も多いようだ。したがって、茉莉ちゃんの芸術センスに近づくように頑張っている子だって一定数居るのだろう。
「もう、こんなところもまで私に憧れなくていいのに。
私なんてセンスがあまりにもないって言われて指導に来てくれていた先生に匙を投げられちゃったくらいなんだから・・・。」
「それは・・・。まあ、芸術は自由だし、表現は人それぞれ好きにするのが一番だよ。」
「うう、和にいにそう言ってもらえるのは嬉しいけど、やっぱりこういったのを見ると私のセンスがおかしいのかなぁ・・・。」
しょんぼりする茉莉ちゃん。
意外とこういった風にしょんぼりするのも珍しいので可愛らしかった。
俺達は部員の子たちに見送られながら華道部の展示を後にして高校の会場から大学の会場へと移動した。
ここからは一般の来訪者も入場できるので人通りが多くなり、出展される出店の数や質がぐんと上がってくる。
俺達は百合子君が所属する陸上部がやっている出店で挨拶がてらお昼を食べようということにしていたのでそちらに向かった。
「百合子ちゃん!」
「あ、茉莉、大木さん!」
俺達は陸上部の出店のブースの前で列に並んだ人たちからオーダーを取っていた百合子君を見つけ声を掛ける。
「ちょっと、オーダーを取っているから並んで待っていてね。その時に話そう。」
そう言って百合子君はオーダーを取りながら器用に人を案内している。
意外と慣れた手合いだ。
「百合子ちゃん、実家のお手伝いしながらファミレスとかのアルバイトもしていたからね。」
「そうなんだ。すごいね。確かにそんなことまでしていたら勉強に力が回らないかも。」
「いいんだよ。文武両道が百合子ちゃんの場合は陸上と芸術関係で突出していたからね。」
「確かに、文は文でも勉強ではなくて文化で物凄く突出居しているものな。」
そう、この百合子君は陸上が得意だが、それと同じくらいに昔から嗜んでいた茶道、日本舞踊、華道といった伝統的な習い事でも優秀だったらしい。さっきまでいた華道部の最近の受賞トロフィーなんてほとんど彼女の名前が入った物ばかりだった。
しばらくして百合子君がメニューを持ってオーダーを取りに来た。
「お待たせ、茉莉。さ、大木さんとどのメニューにする?
お奨めはこのシェアパックだよ?」
彼女から渡されたメニューは某チキン屋のようなチキンのメニューだ。
なんでも体づくりの一環でチキン料理がよく寮で出ているらしく、学園祭では毎年これを某チキン屋風にアレンジして出しているとのことだった。
「和にいが良ければ、私はこれでいいかな?」
「ああ、問題ないよ。百合子君お願いできるかな?」
「かしこまりました。お会計時に商品はお渡しするので少々お待ちください。」
そう言って足早にオーダーを通して次の人のところへ向かって行った。
商品を受け取った俺達は百合子君に別れを告げてから、空いている休憩スペースの机でチキンをシェアして食べた。
確かにヘルシーだけどスパイスが効いていておいしかった。
茉莉ちゃんも美味しいと言ってたくさん頬張っていた。まるでハムスターのようだって言ったら頬を更に膨らませていて面白おかしくて、二人で笑いあって楽しい時間を過ごした。
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