第三話 伝説の喫茶店
学園祭当日になった。
先に準備がある楓ちゃんといのり君が出発し、開幕の時間に合わせて俺と茉莉ちゃん、カレンが出発した。
先に出発した二人は搬入用のパスを発行してもらっているいのり君の車で、俺達は俺の持っている関係者パスで車で出発した。
こういう時に親父さんからもらっている身分が役に立つ。欧女の学園祭は人気のため当日は駐車場が利用できないのだが俺達は関係者用駐車スペースに止めることが出来るので混雑に巻き込まれずに着くことが出来た。
「すごいわね。スクールフェスティバルなのにこの人出は。」
「そうだよね。私も最初は驚いたよ。中学、高校は関係者しか入れないんだけど、大学は一般にも開放しているからね。ホント凄い人出だよ。」
「だね。でも変な奴らも多いから、親父さんの所の屈強な坊主が警備員として臨時で派遣されているね。」
「そうだね。毎年強面のお坊さんがいたるところに警備員さんと一緒にいるね。
でも、おかげで変な人は直ぐに退場させられるから安心だよ。」
「そうね。早速そう言う輩もいるみたいだし。」
そう言ってカレンが目線で示す先には、高健寺の坊主に摘ままれて連行されるカメラ野郎がチラホラ見える。
高偏差値のお嬢様学園で、カワイイ子がいっぱいいると有名なのでこういった手合いが絶えることがなく親父さんが憤慨していたっけ。
まあ、言っている本人がアレなので説得力が皆無なんだけどね。
でも、こういった奴らは排除されることはいいことだ。地獄に落ちやがれ。
そんな風景を横目に俺達は高校の入り口で待ち合わせていたいのり君と合流し、関係者パスや学生証を提示して中に入る。
俺は職員パス、いのり君は関係者パス、茉莉ちゃんとカレンは学生証だ。
「去年まで、ここにいたのになんだか変な気分だよ。」
「ふふ、そうね。そういうノスタルジーもあるわね。」
「だね。わたしもそういう気持ちになったことがあるよ。兄弟を迎えに卒業した学校に行ったりすると。」
「そういうもんかな? 俺はそう言った経験がなかったからよくわかんないな。」
「そういうものだよ、和にい。」
みんなでそんな話などをしながら楓ちゃんの教室に向かう。
その間に茉莉ちゃんはたくさんの生徒や先生から挨拶をされていた。本当に人気者だったんだな。
「あ、大木さん、茉莉様、カレン先生、いのりちゃん!」
教室の近くで準備をしていた立花さんが俺達に気が付いて、こっちにやって来る。
今日は常見の店から借りたミニスカタイプのメイド服に猫耳、尻尾といった格好だ。
「おはよう、美里ちゃん。」
「可愛い恰好をしているわね、美里。」
「えへへ、もっと褒めてくれてもいいんですよ、茉莉様、カレン先生。」
ハニカミながらスカートを持ってくるりと回る立花さん。
「さ、皆さんお店にどうぞ。楓ちんが皆さんが一番最初にやって来るだろうって言っていたので、お席は用意していますよ。」
そう言いながら俺達を教室に案内してくれる。
教室はかなり凝った内装をしており、本格的な喫茶店のようだった。
「おお、すごいな。」
「そうでしょ? 大木さん。実は常見さんに服を借りて、パパからは机とかを貸してもらったんですよ。」
「そうそう、修造さんが使っていないお店のテーブルとかを搬入してくれたんだけど、どれもセンスのいいものばかりだったヨ。私の所の新しいお店に置きたいくらい。」
「ジャンさんに、甘えたらいいじゃないか。」
「それが、お父さんはこういったところは厳しいから結構シビアなんだよね~。」
「なら、自分のお店が開けるようにがんばりなさいな。」
「そうだね。いのりちゃんならすぐに独立できるって。」
俺達は席に案内されて、立花さんがしばらく待っていてくれと言って、バックヤードとして使っている隣の教室に行ってしまった。
しばらくするとカートを押してやって来たのは古式ゆかしいメイド服に身を包んだ楓ちゃんだった。
「いらっしゃいませ。本日のスイーツとお奨めのお茶をお持ちしました。」
「おお、楓ちゃん、似合っているね。」
「やった!」
「ほらほら、いい雰囲気が台無しよ。
さ、可愛いメイドさん、給仕してくださいな。」
「はい。かしこまりました。」
カレンに促され、給仕してくれる楓ちゃん。
「おっ、ちゃんとお茶も丁寧に淹れることが出来ているね。」
「いのりんに特訓してもらったお陰、里奈さんにも後でお礼を言わないとね。」
「そうだね、里奈さんにルイボスティーとかノンカフェインのお茶を淹れてあげて練習していたもんね。」
「そっか、頑張って練習したんだね。ありがたくいただくよ。」
「和にーちゃん、嬉しいけどちゃんと飲んでみてから褒めて。」
「ああ、ごめんね。」
俺達はいのり君の作ったスイーツと一緒に楓ちゃんの淹れてくれたお茶をいただく。
「あ、おいしい。」
「うん、ちゃんと風味を損なわずに淹れられているよ。」
「そうね。いのりのスイーツに丁度いいアクセントになるお茶ね。」
「よかったね、楓ちゃん。」
「うん! あとはお姉ちゃんの時の記録を破ることが出来たら最高。
みんな楽しんで。私は仕事に戻る。」
楓ちゃんは給仕し終えて、他の仕事に行ってしまった。
きびきびと忙しく指示を出しながら動いている。ルイジでの経験が役に立っているようだった。
「そう言えば、さっきや前にも楓ちゃんたちが言っていた茉莉ちゃんの時の記録って一体何なんだい?」
「そう、それ! わたしも聞きたい! 美里ちゃんに聞いても本人の口から聞いた方がいいって言って教えてくれなかったなんだ。」
「私も聞きたいわ。茉莉がひた隠しにしていることですもの。面白そう。」
「う・・・。う~~!」
茉莉ちゃんが顔を真っ赤にして唸る。これがまた小動物の様で可愛かった。
「あ、あのね。私が二年生の時に楓ちゃんと同じように喫茶店を出店したの。
今回のような洋風の純喫茶じゃなくて、百合子ちゃんプロデュースの本格的な和風喫茶。
で、お茶は抹茶や煎茶とかの茶道が得意な百合子ちゃんが立てて、お菓子も知り合いの名店から準備してくれるからおいしいって評判だったの。」
「それなら人気が出て当たり前ね。でも、それだけじゃないんでしょ?」
「そうだね、それだけだったら伝説、なんて言わないや。」
「だな。」
「・・・それはね。そのお店に百合子ちゃんは私の生けた生け花を飾ったんだよ・・・。
私は全然知らされていなくてね。てっきり百合子ちゃんが活けてくれるんだって思っていたら、当日になって私にやってもらうってみんなの前で言いだして、引っ込みがつかなくなって自棄くそで生けたの。
それがなんだか大うけして、学園祭の喫茶店の売り上げ記録を更新したんだよ。」
「ああ、そういうこと・・・。」
「「?」」
俺は納得がいったが、いのり君とカレンは納得がいっていないようだった。
茉莉ちゃんが恥ずかしそうに二人にワケを教える。
「あのね・・・。実は、私の芸術的なセンスがかなり独創的らしくてね。みんなが興味を持ってくれたんだよ・・・。」
そう言いながらスマホにある当時の画像を見せてくれた。
確かに宇宙が、ミラクルスペースが見えた・・・。
いつになっても茉莉ちゃんのセンスはかなり独特だ・・・。
「あ・・・。ああ、そうね。確かに芸術的ね。前衛的な意味で。」
「あはは、うん。なんだかごめんネ。」
「もう・・・。あの時はすんごく恥ずかしかったんだよ!」
そんな話をしながら、俺たちは楓ちゃんのクラスでのティータイムを楽しんだ。
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