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序章① 幼馴染との再会

「頼む!和樹!!手が離せない用があって対応できないんだわ。ちょっくら対応してくんねえか?」


 夕暮れ時にかかってきた電話の開口一番、高賢寺 常見は言う。

「一体何を対応すればいい?女絡みや怖い人絡みは対応しないぞ?」

「大丈夫だ。今回はうちに就職斡旋を頼みに来た話だ。ただ相手がいつものおばちゃんだ。親父経由のちょっとややこしい話なんだわ。」

「なら、常見。お前が対応すべきだろ?」

「そうなんだけどよ。俺、今ここにいないのよ。」

「どこだ?」

「アメリカ。」

「はぁ!?」

「いや、新しい店を作ろうって前話していたじゃん。そのコンセプトに本場のショースタイルを、ってんで、ちょうど親父の知り合いに伝手があったんで早速飛んだんだよ!」


 このあたりの大地主の家系かつ、多くの檀家を抱える高健寺の次男坊はフラッとアメリカに行っていて、その寺の住職かつ地域の顔役の親父さんからの依頼を俺に丸投げしたいと言っている。


「・・・足が速いのはいいが、一言ぐらい俺たちにも連絡入れろと、いつも言ってるよな・・・。」

「だよね。スマン!!それでも誘惑には逆らえなかった!!」


 こいつと俺、大木 和樹はもう一人の悪友とビジネスをいくつか立ち上げて仕事をしている。

 常見は、親父さんの力も借りつつ健全な夜の社交場、キャバクラなどを何店か出している。今や歌舞伎町にも店を出す程度の大きさにもなっている。

 もう一人は、健全なイタリアンレストランを開店したばかり。

 俺はそんな二人のストッパー兼相談役として手伝っている。


「ったく、わかった。で、どこに行けばいい。」

「俺の事務所の方。ちょっくらややこしい話らしい。親父からも良くしてやってくれと言われているんだが、なんせ未成年が絡む話なんで。俺にはちょっと難しいわ。」

「いつもの逆パターンだな。確かにちょっとややこしいから俺向きだな。今から向かうでいいな。」

「ああ、助かる。向こうさんはもう事務所に居ついて話が通るまで帰らないって言い張っているんで、明美ちゃんもお手上げだってよ。取り合えずお前に頼むから。丸く収めてくれ。」

「ああ、この貸しはちゃんと払えよ?」

「また、返すさ。それじゃ。」

 そういって常見が電話を切る。


 こんな商売をやっている常見だが、俺たちと常見の親父さんに開店するにあたり約束していることがあった。


 未成年は働かせない、自分で自分の尻を拭ける人間を雇う。と。


 アイツは律儀にもそれを今まで守ってここまでのし上がってきた。

 つまり、今回は未成年を働かせられないかってことだ。いつもは年齢を偽って面接に来た子たちを民生委員のおばちゃん。飯田さんに引き渡したりしているが今回に限っては事情があるらしい。

 常見は経営の才能はあるがそういったややこしい類の話は、俺に任せている。

 しかも、事務所に勤めているキャスト上がりの事務員、明美ちゃんがお手上げというから、相当揉めているみたいだ。

 俺は急ぎジャケットを羽織って、俺しかいない大きな家を後にする。

 取り敢えず、買い物などに使っているミニバンに乗り込み、雨の中出発する。


(・・・あの日も、こんなざあざあ降りの冬の雨の日だったな・・・。)


 俺の幼馴染で、妻だった亜咲が亡くなった日もこんな日だった。

 去年、宝くじが当たって仕事を辞め、悠々自適なスローライフをと思い、家を建ててこれからって時に、亜咲は昔負ったケガが原因の病気で死んでしまった。


 その日以来、俺はまともに何もせずただ、悪友たちの好意に縋って生きているようなものだ。

 そんなことを思い耽りながら、常見の事務所が借り上げている月極駐車場に車を停め、事務所に向かう。


「明美ちゃん。ヘルプに来たよ。」

 事務所に入ると、ロングヘアーを後ろで一つにまとめ、ゆったりとした服を着ている明美ちゃんが弱り顔で寄ってくる。

「和樹くん、ごめん。私じゃ、ちょっと判断つかないし、ジョーちゃんはアメリカに行っちゃってて。飯田さんの方も今回ばかりはどうしてもっていうから。」


 緒方 明美ちゃんは、常見が店を立ち上げた時からNo1キャストとして店を盛り上げ、引退した今も、事務方として採用やスケジュール管理などの事務を一手に引き受けてくれている。

 まあ、年齢のことやプライベートに関しては絶対に聞くなって、言われているが。

 とにかく、百戦錬磨のやり手の年上の女性だ。

 その明美ちゃんが、お手上げってことは相当な問題だな、今回は。


「わかった。常見からは話は詳しくは聞いていないけど、いつもの逆パターンなんだって?」

「ええ、いつもは私から飯田さんに未成年の子達を引き渡しているんだけど・・・。」

「そいつは、ややこしいよね。でも、飯田さんが常見の親父さんを巻き込んで、こうも粘るってことは、余程のことだよね。」

「うん、私もそう思う。

 私は君たちの掲げる方針に納得して従ってるから判断できないわ。で

 も、和樹君、今来ている子を不幸にはしてあげたくない。だから・・・!!」

「わかってるよ。明美ちゃん。あの飯田さんが親父さんを巻き込んでこうまでするっていうんだ、何とか抜け道を考えてみるよ。」

「おねがい。」


 そういって明美ちゃんは事務所の応接室に案内してくれる。


「失礼します。飯田さん。私では判断いたしかねますので、これ以降は経営顧問の大木の方が対応させていただきます。」

「どうも、いつもお世話になっております。」

「あ、大木さん。すいません。ご迷惑をお掛けして・・・」

「いえ、いつもご迷惑をお掛けしているのはこちらの方ですので。」


 応接室に入ると、恰幅の良いショートカットのいかにも人の好い顔をした壮年の民生委員の女性、飯田さんと、俯いて座っている黒髪ロングの女の子がいる。

 俺はソファに腰掛け、飯田さんに事情を聴いてみる。


「早速なんで、悪いんですが詳しくお話をお聞かせいただけませんでしょうか?

 ただ、最初に申し上げておきますが、未成年の労働に関しましては当グループでは行っておりませんのでご理解の程、よろしくお願いいたします。」

「ええ、それは十分にわかっていますし、皆さんのことを信頼して、ご住職にも口添えいただいてこのお話をお願いしに来ています。」

 そういって飯田さんは隣の女の子と頭を下げてくる。

 いつもは逆の立場なので、話しづらい。


 コンコン


「失礼します。コーヒーをお持ちいたしました。」

 明美ちゃんが俺にコーヒーを淹れ、飯田さんたちの冷めたコーヒーを交換してくれる。

 合間を見計らってくれていたようだ。

 明美ちゃんが給仕し終わり退出したあと、二人にコーヒーを勧め、自分も一口、口に含み話し出す。


「次男坊からは、詳しく話を聞いておりませんし、事務員の緒方とも、ここに着いてから、そう話をしておりませんので今一度お話し願えませんでしょうか。」

「わかりました。それではまず・・・」


 飯田さんが話すにはこういうことらしい。

 この子は近隣の私立大学進学を控えた女の子で、最近両親が事故死してしまった。

 で、その両親が亡くなったことにより、今住んでいる家を出ていかなくてはならなくなった。

 ここまでなら、なんとか自力でってなるが、この子にはちょうど近隣の有名私立高校へ進学を控えた妹がいるので、そうもいかなくなったということらしい。

 しかも、唯一の親族で親権者の祖母は老人ホームに入っており世話をしなければならないし、父親は格安の保険にしか入っておらず、祖母の老人ホーム費用と自身と妹の進学費用を考えると心許ない。住むところもない。

 で、高健寺の檀家でもあるので親父さんに話が回ってきたから、俺たちに振ったってわけだ。

 未成年者だがしっかりとした寮と制度があるウチのバックで働かせてもらえないかと。


「事情は承りました。ですが、私たちは未成年を雇用する例外を作ることはできません。ですのでお力になりたくても・・・。」

「そこを何とかお願いします!!私、大学を辞めて働きますから。何でもします!!妹を高校に行かせてあげてください!!」

 顔を伏せていた少女が立ち上がり、腰が折れんばかりの勢いで頭を下げてくる。

「あー。落ち着いて。落ち着いて。

 俺だってここでの仕事をさせてあげるのは無理でも、君たちを助けたいって思ってるよ。

 そのあたりを含めて、住職や飯田さんがここに来ているんだから。」

「ほんとですかっ!!」

 少女が涙を目にいっぱい貯めた顔を上げる。


「え?・・・茉莉ちゃん??」

「・・・和にい?」


 俺と少女は目が合うと、互いの名を呼ぶ。

 この子は昔、俺が住んでいた山の集落で隣に住んでいた女の子。

 深山 茉莉ちゃんだ。

 歳が離れてはいたが、家が隣で家族ぐるみで付き合いがあった子だ。

 俺たちの住んでいた山の集落が豪雨災害で壊滅して以来の再会だ。


「お知り合いだったんですか?」

 飯田さんが聞いてくる。

「ええ、昔隣に住んでいた子です。」

「和にい・・・?和にいなんだよね?」

「ああ、俺だ。和樹だ。この度はおじさん、おばさんのこと・・・。」

「かずにいぃい!!」

 茉莉ちゃんがテーブル越しに俺に抱き着いてくる。

「わたし、どうしたら!お父さんとお母さんが死んじゃって・・・・」

 久しぶりに会った信頼できる人間に緊張の糸が切れたのか大泣きしてくる。

「好きなだけ泣いていい。今までよく頑張ったよな。辛かったよな。」

 そういって優しく背中をさすってあげる。


 両親や身近な人を亡くした気持ちは俺もよくわかる。

 俺もあの災害で祖父母に両親を目の前で亡くしたし、最近最愛の妻もなくしたから・・・。


 取り合えず、ひとしきり泣いて落ち着いてから、改めて話をし直す。

「飯田さん。今回の件は私の方で何とかします。この子たちは家族同然なので、何が何でも力になります。」

「では、働かせていただけるんですか?」

 飯田さんと茉莉ちゃんが目を輝かせて見てくる。

「いえ、それは最初に申し上げたようにできません。

 茉莉ちゃんにはこの世界をまだ知ってもらいたくない。

 ここで仕事を出来るのはやっぱり、覚悟と目標があって責任が取れる人です。

 だから俺も次男坊に力を貸しているんです。」

「では、どのようになさるので?」

「この子たちは俺が引き取っていいですか?

 一応、名目上は住み込みの家政婦ということにして。

 当然ですけど、掃除とか家の家事は分担してもらいますが、衣食住完備で相応の給料もお支払いします。

 税金の問題があるので、幼馴染の妹へのお小遣いという形ですが。」

「それは構いませんが、大木さんのお家に二人住めるんですか?」

「大丈夫です。家だけは大きいですから。」

「飯田さん。私、和にい、大木さんのところに行きます。行きたいです!!知らない人のところで働くより、知っている、信頼できる人のところで働きたいです!」

「なら、大丈夫ですね。大木さん、くれぐれも二人のことよろしくお願いいたします。念のため、しばらくは二人に定期的に連絡を入れますし、大木さんにもご連絡させていただいてもよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。家族同然の妹のような子たちです。変なことはしないですよ。」

「!!」

 顔を赤くする茉莉。

「まあ、大木さんなら私も信頼できます。一応これもお仕事なので。」

「当然です。お気になさらず。」

「実は、ご住職の方からも大木さんなら何とかしてくれるだろうとお話しいただいてまして、粘らせていただいた甲斐がありました。」


 そういうことか。

 親父さんはあの災害の生存者である俺たちに面識があるだろうと思い、殊更に悪いようには扱わないと見越して、この話を持ってきたってわけか。

 相も変わらず腹が黒い人だ。

 といいつつ、常見と知り合ってから互いに腹の黒い話をしている関係だから、持ちつ持たれつか。


 話がまとまって、飯田さんがこれからのことを聞いてくる。

「一応、妹さん、楓ちゃんは近くの図書館で勉強してもらっているんですけど、今日から大木さんのお宅にお世話になるのは・・・。もし、何でしたら、準備ができるまで私の方で面倒は見ますが?」

「いえ、大丈夫ですよ。女性用の物も家にはありますから。広いだけが取り柄の家ですので、部屋に空きはありますし。今から楓ちゃんも引き取りますよ。」

「そうですか。なら安心です。では、私はもう大丈夫かしら、茉莉さん?」

「はい、大丈夫です。和にい、大木さんのお宅にお世話になります。和にいなら楓も安心できると思いますし。」

「なら、よろしくお願いいたします。」

 そういって飯田さんは事務所を後にする。


「ふぅ。一件落着ね。まだ時間があるなら、詳しく聞かせてもらえないかしら。」

 明美ちゃんが見送りがてら言ってきた。

「いいですよ。茉莉ちゃん、楓ちゃんは大丈夫?」

「今の時間なら、大丈夫。もう少し遅い時間に迎えに行くって言ってるし、たぶん勉強に集中していると思うから。」

「なら、決まり!お店のお仕事はもう少し暇だから、聞かせて。」

 明美ちゃんが事務所の応接テーブルに飲み物と、茶菓子を用意する。


「ーーーというわけさ。」

 俺は茉莉ちゃんとの関係を話した。

「そう、よかったわ。

 ごめんなさいね。最初は冷たくしてしまって。

 一応ここの決まりは絶対だから。どうしてもああいう対応になっちゃって。」

「いえ、緒方さん。気にしないでください。」

「明美って呼んでほしいな?私も茉莉ちゃんって呼んでもいい?」

「はい、明美、さん。」

「うん、茉莉ちゃん。和樹君とこにいくなら、これからここに連絡したり、来ることもあるだろうから。連絡先交換しよ。」

 そういって二人はIDを交換する。

「さて、そろそろ時間だな。明美ちゃんあとはお願いします。」

「任せて。ジョーちゃんには私から話をしておくから、今日は旧交を温めて、落ち着かせてあげて。」

「恩に着ます。」

「あ、今月の経営資料が上がってきているから、ついでに持って帰ってね。」

 帰り際に今月の営業資料をサッと渡してくる。

 いつもいつも明美ちゃんには頭が上がらない。さすがは元No1キャストだけある。


 俺と茉莉ちゃんは妹の楓ちゃんを迎えに近くの図書館へと向かうのであった。


 俺はこの時、何人もの女性と一つ屋根の下で暮らすことになるとは露にも思わなかった。

 

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