エリア3
2話というか1話です。
超巨大人工浮島 エリア3
通称 妖精島こそが今俺が立っている場所だ。
妖精と人間の共存を目指しその最先端研究を日々行なう、
この国最高峰の技術の結晶とも言える浮島。
本土とは全長1500mにも及ぶ巨大な橋 海渡大橋のみがかかっており、そこから出島エリアに上陸。入島審査を受け、正式な手続きを踏んだものだけがこの場所に降り立つことを許される。
その規模約6,500k㎡。島内は出島エリアを除いて四つの区画で構成されている。
個人から企業まで数多くの妖精研究所が並ぶラボエリア。
妖精と共存した社会を実際に試実験する最先端都市エリア。
観光を中心にリゾート開発が行われたテーマパークエリア。
そして、軍事施設と妖精たちのお偉いさんが何やら色々活動する政治レベルの高い共同国家エリア。
ただでさえ入島審査が厳しいこの島だがその中でもさらに入れるエリア区分が個人で分けられている。
そんな場所であっても本土から入島したいと志願するものは決して絶えることはない。
あるものにとってはそこは楽園であり、あるものにとってはそこは己の野望を叶えるための場所である。
そんな夢の島の開発顧問兼最高管理人こそ
この俺 久科日和の母で
この国の妖精研究第一人者の 久科香凜である。
「やぁっん。元気だった?私の可愛い息子〜。」
「ん。まあ、それなりには元気だった。」
「おっきくなってぇ。んもぉ〜。そりゃ二年も会わなきゃ育つよねぇ〜。」
甘ったるい喋り方に、ボサボサに寝癖のついた髪やシワシワの白衣はああ、懐かしいなと一緒に住んでいた頃の記憶を思い起こさせるには充分だった。
「白亜は、一緒じゃねえの?」
「バカねぇ。ここはラボエリアの最深部よ?いくら可愛い娘とはいえ連れて来れないわよぉ。」
息子はいいのか。と思ったがまあ俺は訳ありだしな。
妹には後で会いに行くとしよう。お土産と頼まれていた物もあるし。
そんな訳で俺はこの島のラボエリア最中枢区域のカフェにいるのだった。
「外では絡まれなかったぁ?」
「んにゃ。来るまでに絡まれた。」
「んふふ。日和は相変わらずねぇ。怪我しなかったぁ?」
「こいつに助けて貰った。」
日和は自分の腰をぎゅっと掴む少女の頭を撫でる。
《にへぇ。助けました。》
ヴェーゼは気持ち悪い笑い方をして自慢げに言う。
ヴェーゼが気持ち悪い笑い方をするのはいつものことなので日和は気にしないようにしている。
「へぇ〜。そこにいるの?何だっけぇ〜」
「ヴェーゼな。居るよ。私が助けたって自慢げだ。」
何も見えていない空間を香凜は凝視する。
「デバイスをオンにしたら声が聞けるかしらぁ?」
「どーだろ。生憎試すタイミングも相手も居なかったから。」
ポケットからボールペンの様な物を取り出してそれを時計回りに回す香凜を日和は不思議そうに見ていた。
「それペン型?」
「そうよぉ。1番新しいやつ。」
青白くその機械が光ればそのペンの上にAIホログラムでトーカーの文字が出る。
妖精との意思疎通デバイス。「トーカー」。
妖精は基本姿を見ることも声を聞くこともできない。
トーカーの詳しい原理は知らないが妖精がこのトーカーに干渉することで初めてその姿や声を捉えることができるようになる。
つまるところ日和は訳ありの例外ってわけなのだった。
「ほら、ヴェーゼなんかしゃべってみろ。」
《あー。じゃあ。アイスが食べたいです。》
ペン型のトーカーを通してヴェーゼの声が流れる。
「あらぁ聞こえたねぇ。ん〜残念ながら姿はこれじゃぁ見えないわねぇ。」
何でアイス食べたいだったのだろう。暑かったから?
「どんな見た目なのかしらぁ?」
「白髪ゴスロリ少女。」
「日和はそう言うのが好きなのねぇ。男の子ねぇ。」
「いや違うからホントに。にやにやしないでくださいお母様。」
《後でアイス買ってくれる?日和。》
「買ってやるから脇腹をわらいながら摘むな。」
「うふふ。仲が良いのねぇ。」
にやにやする母親の横目にいそいそと頼んだコーラを飲む。
しばらくしてから、業務連絡です。主任。早く戻って来てください。と施設内のアナウンスが流れた。
不満そうな声を出しながらもごめんねぇと仕事に戻ろうとする母親はやはり仕事人なのだろう。
俺と白亜を置いて家を出た2年前もそうだった。
別に俺は怒っちゃいないがな。
わざわざ呼びつけたのだから理由があると思っていたのだが本当に息子の顔を見たかっただけなのだろうか。
息子さんはこちらからどうぞ、とガイドのお姉さんが案内してくれたので家の鍵や転入手続きなんかの書類を母親から貰いこの区画を出ることにした。
下の階に出るまでに出会ったラボの妖精さんみんなに殺意を向けられながら……。
ラボエリア最中枢区域内特別研究室 裏久科ラボ 内
「よかったんですか?あのまま行かせて。」
「良いのよ。林檎ちゃん。色々分かったこともあるしねぇ〜。」
「てっきり捕まえるのかと。」
「実は2、3回ほどちょっかいを出したのだけどもぜぇ〜んぶ壊されたわぁ。ふふ。」
「予想通りですか?」
「ええ予想通りよ。我が息子ながら愛されていると言うか少し気味が悪いわねぇ。」
そう言いながらも笑みを抑えない自分の上司を篠町林檎は呆れた目で見る。
「私たちは問題なく物事を進めましょうねぇ〜。」
天才研究者のそのデスクの上には1メートルほどのポッドが一つ。
その中には目を閉じ、膝を抱える少女が1人。
その少女には無数の色に輝く六枚の翅。
黒い髪に深紅の目。そして白いゴスロリ服。
その少女の顔が妖精に忌み嫌われる者を守る黒き少女と瓜二つな事に気がついている者はいない。まだ誰も―。
島のサイズは大体栃木県ぐらいだよ。
ではまた次回で。