Chapter1 Rolling Girl - 2
予約投稿打ち止めです。
扉を開くとそこは丘陵に一面の草原で、低い木がまばらに生えていた。空は青く澄んでおり、光り輝く太陽が一つ。頬を撫でる風は気持ちいい温度だ。季節は春だろうか。ピンクや黄色の花が緑のそこかしこにちりばめられている。風に促されて遠くに目をやると、大きな塔のようなものが見えた。
……いや、上に大きく広がっているのは葉っぱ?あれは、巨大な木……?あんなに大きな木は現代日本ではまず見られない。大きいと有名な屋久杉とかであれば似た雰囲気を味わえるのかもしれないが、私は見たことがない。ゲームでいう世界樹とか、あんな感じなんだろうか。実物を遠くから見たことなんてないから、ただの想像だけど。
以前の自分との連続性を求めて出てきたほうに目をやると扉などはなく、同じように緑の丘陵が広がっていた。遠くには雲を突き刺すほどの高さの山と、そのふもとに森の広がっているのがわかる。大きな川が深い森に流れこみ、そのあとにどうなっているかはわからない。
この場所は周りを見渡すには良いようで、このあたりでは一番高い丘のようだ。せめてもの望みを託して周囲を一望するが、人は一人も見当たらない。川に背を向けると先ほどの樹が見えた。空をつくほど大きくそびえる樹。この距離であの大きさなのだ。近づくとすごいことになっているに違いない。先ほど舞台の上でちらっと聞いた気がする言葉。異世界。あの樹が、現実とは思えない現実を私に突きつける。
「‥‥どうしよ。異世界だ……」
最近アニメなどでもよくやっているのを見て、確かに異世界に行ってみたいと思ったことはあった。しかしこれは私が知っている転生モノとは違う。私の最後の記憶は家で布団に入ったところで、けっしてトラックにぶつかられてはいない、はずだ。しかし服装を確認すると学校の制服。登校途中で事故にあったってことなのだろうか。だが、布団に入った以降の記憶は途切れている。あの舞台の上で、間違えて殺しちゃった、みたいなテンプレすぎてコピペになっているようなセリフは一度も聞かなかった。
なけなしの情報を集めようと、必死で先ほどのことを思い出す。さっきの舞台がきっとアニメの導入でよくある神様と人の出会う不思議空間なのだろうが、そこでよくあるチート的なものも渡されてはいない。まぁ、言語は日本語に設定してある、とかなんとか言っていた気がするけど、そもそも、あそこで話しているときに私には、自分についての記憶がなかった。
箱庭、異世界人、何もやる必要はない、許容限界。覚えているワードをかき集めても、結局なぜここに飛ばされたのかはよくわからない。何もやる必要がないといわれたのは覚えている。とはいっても食糧、水もない。サバイバルなんてしようにも水はまだしも食べられるものもわからない。何もやる必要がないからってただ死ぬのもごめんだ。かといって、うーん……
「困ったなぁ‥‥‥」
溜息しか出ない。
「‥‥‥ちょっと眠くなってきた」
そういえば昨日結構寝るのが遅くなっていた気がする。お風呂を上がった時点で日付を回っていたような。家事をためてしまっていたせいでもある。あとは漫画とか読んでた。
幸いにして気候は穏やか。草も地面もほどほどに乾いているようだしと地面に座りこむ。足を投げ出し思考は放り出し。目が覚めたら布団に戻ってないかなと思いながら背を地面につける。うん、虫などは少ないようだ。子どもの頃よく寝ころんだ草むらと似た感じ。太陽のまぶしさと、現実とは思えない異世界に目を背けながら背を丸め、腕を枕にして目を閉じる。風が草をなでる音が心地よく、陽光のやさしさも相まって、静かに私は眠りに落ちた。