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コンラッド様の部屋へ。

コンラッド所持の古代魔法の名前を「ミューティス」に変更。

(前話.までのも順次変更予定)

 セラフィーナ様の婚約解消の発表を明日に控えた日の午後、私は彼女と一緒に勉学に励んでいました。……というか、セラフィーナ様に教えてもらっていました。


「では、パティ様。ミリア歴645年エルバの戦いを制したのは?」


「ナポリタン三世!」


「誰ですかそれ。雰囲気覚えはダメですよ、正確でないと点数はもらえません。答えはナポルレオン一世。魔導騎士を導入し騎馬戦術に革命を起こした英傑。フランドル王国中興の祖と呼ばれています」


「へー、ナポルン凄いー。でも、教科書にそのようなこと書いてありました?」


「ナポルン……、教科書にって……」


「……」


「パティ様、ガンバです。明日は明日の風は吹きます」


「セラフィーナ様。それ、私の言った台詞」


 今日の私のポンコツさは、優しい目で見ていただきたいと思います。一応机には向かっていますが、明日の人々の反応が気になって、勉強どころの気分ではないのです。しかし、このまえの精霊廟長期出張の件もあり、私の学業の遅れはかなりのもの。怠けて良い状況ではありません。ここは石にかじりついてでも、クラスの皆に追いつかなければ!


 私は決意しているのです。セラフィーナ様の隣に立つに相応しい、()()()()素晴らしき令嬢になると、心の底から決めているのです。


 よし、頑張ろう!


 カリ、カリ、カリ、カリ。


 カリ、カリ、カリ、カリ。


 カリ、カリ…………カリ。


 ダメです、集中が続きません。一生懸命ペンを動かしているのに、内容が全く頭に入ってきません。こんな状態では、無理に頑張っても意味ないんじゃ……。


 私の向学心は、砂上の楼閣のように脆くも崩れ始めました。


「セラフィーナ様。この後、数学もするのですか」


「しないのですか?」


「…………」


「しましょうよ」


「はい。します……」


 セラフィーナ様にはわざわざ時間を割いてもらってます。それなのに、頼んだ私の方から、『数式やだー、今日は終わり! 』とは言うのはさすがに……。


 仕方ない。もう少し頑張ろうと決意を新たにした時、部屋の扉がノックされました。グッドタイミング! 今日は、これで切り上げれるかも!


 ガチャリ。


「悪い、二人で勉強中だったか」


「ええまあ。でも、少し早いですが終わっても良い時間ではあります」


「そうです、そうです。もう終わりです!」


 セラフィーナ様のジト目を感じました。


 部屋に入って来たのは男性。明るいブラウンの髪の美青年。名前は、コンラッド・アリンガム。アリンガム公爵家次期当主にして、セラフィーナ様のお兄様。


 彼のことはセラフィーナ様から前々からよくお聞きしていて、早くお会いしたいと思ってはいたのですが、会えたのは、つい最近。精霊廟から戻って来てからでした。


 その頃、コンラッド様はまだ、私達を救うために使って下さった古代魔法ミューティスでの無茶が祟って、お部屋でふせっておられました。私としては早くご挨拶し、お礼を言いたかったのですが、公爵様が、そろそろ大丈夫だろうと面会の許可をくださるには、かなり時間がかかりました。たぶん戻って来て十日以上経っていたと思います。


 こうして、ようやくお会い出来たコンラッド様ですが、会う早々私の度肝を抜いてくれました。


「お兄様。パティ様をお連れしましたよ」


「初めまして、コンラッド様。パティ・ロンズデールです。こうしてお会いできましたこと喜びにたえません」


「そうか、君がセラが選んだパティ嬢か。まあ、そこの椅子にかけてくれ」


 そう言って、寝台の上で身を起こし微笑んで下さったコンラッド様の麗しさたるや……。これほどまでに美形というか、魅力的な見目をした殿方がこの世におられるとは思ってもみませんでした。艶やかな頬、理想的な形をした鼻と口、そして特筆すべきは、セラフィーナ様並みのまつ毛に縁どられたバイオレットの瞳。宝石でもかなわないような煌めきをたたえ、吸い込まれてしまうような錯覚を覚えずにはいられません。


 皇太子殿下にお会いした時もその美男子ぶりに驚きましたが、目の前のコンラッド様ほどではありませんでした。思わず、


 ――着せたい、そうすればセラフィーナ様に匹敵する美少女、もとい美女が見れる!


と、思ってしまったのですが……。


「ドレスは着ないぞ」


「何故それを! 心を読む古代魔法までお持ちなのですか!」


「そんな恐ろしいものは持ってない。君の目が、昔、母上が私に向けた目と同じだったからだよ。あの人には何回も女物着せられた。『どうしてコンラッドちゃん、女の子に生まれなかったの。もったいない! もったいな過ぎる!』、ほんと、我が母上ながらやりきれなかったよ」


 ソフィア様……。気持ちはわかりますが、思うだけに留めましょうよ。ね、大人なんだから。


「酷い! コンラッドちゃんがそんな風に思っていたなんて! お母さん悲しい!めそめそめそ。草葉の陰から出て来てやる~」


「やめろセラ。お前、生き写しなんだ。本当に母上が出て来たようで怖いわ! うなされるわ!」


「それは失礼をいたしました。以後少し気を付けましょう」


「少しかよ」


「はい、少し。フフッ」


 セラフィーナ様。


 いつも貴女はコンラッド様のことを、兄は片付けが出来ないやら、時間を守らないやら、偏食が過ぎるやら、色々と文句を並べておられましたが、良きお兄様ではないですか。心を許しているじゃありませんか。大好きじゃありませんか。


 だから、私が望む以上に、私に会わせたがった。私と会う時間をなかなか作らないコンラッド様に腹を立てていた。可愛らしい方。


『パティ様。見て見てー、私の自慢のお兄様よ』


『お兄様。見て見てー、こちらが私の最愛のパティ様よ』


 なんて可愛らしい方なんでしょう。


 コンラッド様。


 私は貴方にとても感謝しています。もちろんシュテファニア様の件についても大変感謝はしていますが、それ以上に貴方がセラフィーナ様の兄君であったこと。セラフィーナ様の側におられたことに感謝しているのです。


「しかし、セラ。お前、本当に可愛い系好きだな。他のタイプ、例えばクール系とかには心動かんのか」


「何を言っているのです、お兄様。可愛いは正義ですよ。そして、私のパティ様はこの世で一番可愛いのです。つまり、この世で一番素晴らしい存在。断言します!」


「はいはい、わかった。お前がパティ嬢にベタ惚れなのはよくわかった。お前はパティ嬢が大好き、大大大大大好き!」


「もう、お兄様ったらー。こっちは真面目に言ってるのに」


 お母様を早くに亡くしたセラフィーナ様。皆と違い女性を愛してしまうことに悩んでいたセラフィーナ様。実の妹メイリーネ様とも上手くいっていなかったセラフィーナ様。そんな彼女にとって、あのような軽口が言い合える貴方の存在が、どれほど心の助け、支えとなったことでしょう。


 もちろん、彼女にはお父様、公爵様もいます。けれど、公爵様は彼女の中に亡き妻ソフィア様を見てる。見てしまっている。何の色眼鏡も無くセラフィーナ様に向き合ったのは、心をむけたのは貴方だけ、


 もし、貴方がおられなかったら、セラフィーナ様はどうなっていたでしょう。


 本当にどうなっていたことでしょう。


 コンラッド様は、私に向き直られました。


「パティ嬢。こんなふつつかな妹だが、よろしく頼むよ。どうか幸せにしてやってくれ」


「はい、もちろんです。お言葉、胸に深く刻み込んでおきます。けれど、ふつつかなのも、幸せにしてもらっているのも私の方ですよ。セラフィーナ様に望んでもらえた私は世界一の果報者です」


「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ。セラ、良いパートナーを選んだな。パティ嬢は最高のパートナーだ」


「はい、お兄様」


 ニコニコ顔のセラフィーナ様。そんなセラフィーナ様に投げかけるコンラッド様の眼差しはとっても優しいもの。なんて温かな兄妹関係でしょう。私は思いました。


 私もその中にいたい、パティ()なんて呼ばれていたくない。


「コンラッド様。私のことはパティ。これからはパティとお呼び下さい」




 帰り際、彼は心のこもった言葉をくれました。


「ありがとう、パティ。セラを選んでくれて、妹を選んでくれて本当にありがとう」


 お礼を言わねばならないのは私の方。


 私は嬉しい。


 彼女の隣に立てたことが、


 貴方達と一緒にいられることが


 とってもとっても


 嬉しい。

















 セラフィーナ様は、部屋に入って来たコンラッド様の前に進み出て、まじまじと顔を眺めました。コンラッド様は、ちょっと嫌そう。


「ほらね、言ってた通りでしょ」


 ハハ、と苦笑いするしかない私。


「予想はしていましたが、また見目を落とされ始めたのですね。 コンラッドお兄様」


「仕方ないだろう、元の姿に戻ったあのままでは、外の者達は誰も俺を俺と認識しない。ある程度変えざるをえない」


「それはそうですけど……。では、せめて今くらいに留めておいてくださいね。これくらいでしたら、なんとか外の人でもお兄様だと認識できます。『アリンガムのコンラッド様、とっても素敵になられました。きゃー!』で済みます」


「きゃーねぇ。そんなの言うか?」


「言います」


 うん、言う言う絶対言う。


 コンラッド様は少々不服気味でしたが、見目をこれ以上落とされないことを了承されました。そして……。


「まあ、俺の見た目なんて瑣事はどうでも良い。セラフィーナ、パティ。よく聞け。明日の婚約解消の発表は無くなったぞ」


「無くなった、そんな……」


 コンラッド様の発言は衝撃的でした。セラフィーナ様は食って掛かかりました。


「どうしてですお兄様! ここまで来て取りやめになるなんて納得できません!」


「まあ、落ち着け。解消の発表自体が無くなった訳ではないんだ。日にちを少し遅らせる。今月の八日が、貴族学院の創立記念日なのは知っているな」


「はい、知っております」


「その日あるのは何だ?」


「学院主催の大パーティ……、まさか」


「そうだ、そのまさかだ。全学院生、父兄が見守る中、セラと殿下の婚約解消は公表される。二人で()()公表するんだ」


 更なる衝撃でした。


「そんな、自らだなんて……」 


「ちょ、ちょっとお待ちください、コンラッド様!」


 人は時間が経つと冷静になる生き物です。ですから、本来の日付通りの発表であれば、明日は休日なので。婚約解消の事実を知った学院生たちと顔を合わせるには一日の猶予があります。この一日の猶予が大事なのです。


 たった一日でも人をそれなりに冷静にします。この婚約解消には色々な事情があったのだろう、あまり騒ぎたてるのはよそうと思わせます。


 しかし、パーティでの本人たち自らの発表では、パーティ出席者、彼ら彼女らの視線がダイレクトに注がれます。好奇心、非難、心配、疑問、憐憫、嘲笑等、色々な視線が注がれるでしょう。


 セラフィーナ様ご自身は他者の言葉など気にしないと言っておられましたが、強がりも多分にあると思います。そして、何より私が気にするのです。最愛のセラフィーナ様が、直に後ろ指をさされる姿など見たくはありません。


「良いお考えだとは到底思えません。パーティの最中、本人たちの直接の発表なんて、二人に火もたせて石炭の中に放り込むようなもの。どうか、お考え直しください!」


 私は公爵様やコンラッド様が、何らかの策を講じてくださると信じていました。(悲しいかな、私自身に出来ることは殆どありません。せいぜい友人関係に手を回すくらい)それなのに……。


「火を持たせて石炭の中へ放り込むか。その通りだよ、パティ」


 自嘲的な言葉を吐かれるコンラッド様をみて、自分の瞬発的な反応を後悔しました。あの公爵様が、私に「妹を頼む」と仰ってくれたコンラッド様がセラフィーナ様のことを思っていない訳などないのです。なんとしてでも彼女を守りたいと思っているでしょう。


「けれどな、俺達はこれでいくと決めた。俺と父上と、セドリック殿下と三人で話あって、これが最善。セラフィーナと()()()()()()守る最善の策だと判断した」


「メイを……」


「メイリーネ様を……」


 私とセラフィーナ様は茫然とするしかありませんでした。私達はどっぷり恋愛脳。思っている以上に、他の人に対してはぞんざいになってしまっています。セラフィーナ様にしても、メイリーネ様のことを思って、婚約解消の発表を公爵様にせまりましたが、発表がされたとしてどうでしょう。メイリーネ様は殿下と即表立って付き合えますか? 付き合えません、そんなことをすれば世間から姉から婚約者を奪った強欲妹、泥棒猫のそしりを受けるでしょう。


『メイリーネ嬢って、姉君の持つものは何でも欲しがるらしいですわ。だから婚約者の殿下まで……。どこまで性悪なんでございましょう』


『なんて可哀想なセラフィーナ嬢。おいたわしい』


 ギャー! となった、私とセラフィーナ様は互いの頭をぶつけ合いました。ゴチン!


「痛い……」

「痛……」


「何をしているんだ、お前達は……」


 やはり私達はまだまだ子供。周りに助けられる存在。全然心が行き届いていません。


「とにかく、これは決定事項だ。セラと殿下の婚約解消の発表は学院創立記念パーティーで行い、それと同時に殿()()()()()()()()()()()も発表する! わかったな、二人とも」


「はい、お兄様」


「はい、コンラッド様」


「よし、良い返事だ。では発表の流れを説明する。喋るのは殆ど殿下だ。お前の()()は少ない。けれど気を抜くなよ。ちゃんとやれよ。セラ」

 

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とりあえず一回最初から読み返して人物とか再度見に行ってきます(ちょっと人名忘れてる
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