メイリーネ。
2023.08.24 心情表現各所微修正。
足は自然と前へと動いていました。
スタスタスタ、スタスタスタ。
何故か通れると思ったのです。
先々代の化身が仕込んだという結界、アンナとマルグレットを拒否したこの結界が、私を阻むとはどうしても思えなかったのです。
結果は、思った通りでした。アハッ。
「パティ様! パティ様はアリンガムの血を引いておられるのですか!!」
驚き、目を真ん丸にしたセラフィーナ様が尋ねて来られます。まあ、当然でしょう。
しかし、私は小首を傾げるしかありません。
「いえ、それはどうでしょう。お父さんの家は代々平民ですし、ロンズデールの方もそのような話聞いたこともありません。もし、血が繋がっているなら、私がロンズデールに迎え入れられた時、お祖父様が、真っ先に教えてくれたと思います」
鼻高々なお祖父様の姿と、ミーハー丸出し&アホバカな自分の姿が思い浮かびました。
『我がロンズデールはアリンガム筆頭公爵家の流れを汲んでいる。誇るが良いぞ、愛しき孫娘よ!』
『きゃー、素敵! うちの家、なんてハイエスト! 下々の皆様方。パンが無ければケーキを食べればよろしくってよ』
私の否定の返事に、セラフィーナ様は一応の納得を下さいました。
「確かに、そうかもしれません。家は本家として血縁者の把握は厳格に行っていますから……。でも、さすがに末端までいくとすべては追いきれてはいません。その把握していない誰かが、パティ様の先祖の一人にいたのでは。だから、パティ様は通れたと」
「いえ、それは違うでしょう」
セラフィーナ様の推測は、巫女頭によって即座に否定されました。
「この結界はアリンガムの血が薄い者は血縁者とはみなしません。結界発動時、一人の側巫女と二人の騎士が廟外へ弾き出されました」
「そうですか……」
「では、どうして私は入れたのでしょう……」
って、検討会議を悠長にしている場合ではありません。早くメイリーネ様の下へ向かいましょう、セラフィーナ様。
私達は、結界を超えられない二人に呼びかけました。
「マルグレット、難しいでしょうけれど何とか心を落ち着けて待っていて。メイリーネは助けます。貴女のメイリーネは絶対助けます」
マルグレットは、セラフィーナ様の言葉に頷き、お願いしますと頭を下げました。今の彼女にはそうするしかありません。そうするしか……。
「アンナ。マルグレットのこと頼むわね。私達がんばるよ、力の限りを尽くしてくる」
「はい、お任せ下さい。お嬢様方、ファイトー! です」
巫女頭の先導の下、私達はメイリーネ様のおられる祭壇、アレクシス壇へと向かいました。しかし、先ほどのマルグレットの姿、アンナに支えられていなければ、今にも泣き崩れてしまいそうだった彼女の姿を思うと、どうしても思ってしまいます。
マルグレットを残して来て良かったのか?
このありがた迷惑な結界が発動している今、メイリーネ様の治療を急がねばならない今、こうするしかないのはわかっています。でも、それでも! 彼女を残して来るべきではない、何としてでも方法を見つけ、メイリーネ様の下へと彼女を連れて行くべきだと思わざるを得ないのです。
メイリーネ様。
今、貴女が一番会いたいのは誰ですか?
恋人である皇太子殿下ですか? 姉君であるセラフィーナ様ですか? それとも、お父様である公爵閣下?
たぶん、違いますよね。(勝手な推測、ごめんなさい)
では、見たことも会ったことも無い私、パティですか?
フフ、そんな訳ありませんね。
今、貴女が一番会いたいのは、傍に来て欲しいのは……
マルグレット。
貴女が一生を共にして欲しいと願ったメイド。コミュ力抜群のアンナが、貴女との関係を羨んだメイド。先ほどのセラフィーナ様の台詞を使わせてもらうなら、
貴女のマルグレットでしょ。
アリンガム家の血縁者でもなんでもない私が入ることができたのです。この結界は完全ではありません。抜け道があるのです。では、それは何か?
私が通った抜け道とは、何なのか……。
セラフィーナ様達と共に祭壇へと急ぎながら、私はそのことを考え続けていました。
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私は、幼い頃から業が深かった。
一番でいたかった。私、メイリーネ・アリンガムが人生を生き、関わり合う全ての人々に、一番に愛される存在でいたかった。
幸い、最高位の貴族、公爵家に生まれ、大抵の令嬢には負けない容姿を持ち、今ではかなり少なくなってきている魔力保持者である私は、そうなれると思っていた。なれる筈だった。でも、そうはなれなかった。
私には姉がいたから……、
二卵性の双子の姉、セラフィーナお姉様がいたから。
お姉様の見目は完璧だった。その整いきった天国的な美貌には誰もが息を飲んだ。その透き通った肌には、私が気にしているような雀斑など全くなかった。髪も、地味な焦げ茶の私と違ってゴールデンブロンド。光煌めき、お姉様をより輝かせた。
要するに、お姉様は王国一の美女と謳われたソフィアお母様の容姿を、そっくりそのまま受け継いだのだ。それに対し、私は中途半端にしか受け継げなかった。一人の時は「なんて可愛らしい御令嬢」と言ってもらえても、お姉様が隣にいると、そのような声はぴたりと止んだ。
そして、能力的にもお姉様は凄かった。勉学、運動、礼法等、何をしても私より上手にこなした。特に差があったのは魔法に関して。魔法協会の判定で、私が普通のランク、シルバーランクだったのに対して、セラフィーナお姉様は、十年に一人でるかでないかの最上位ランク、プラチナランク。(この判定が出た時、協会は大騒ぎになったそうだ)
当然、私達の周囲、貴族社会の皆の称賛はお姉様に集まった。
「ソフィア様の美貌を受け継いだ上に、稀代の魔力。素晴らしい、素晴らしいとしか言いようない」
「早い話ですが、もう決まりましたね皇太子殿下のお相手。セラフィーナ嬢で決まりですわね」
「あー、羨ましい。羨ましいったらありゃしない」
それに対し、私に集まったのは蔑みの声、憐みの声。
「メイリーネ嬢? ああ、あのセラフィーナ嬢の妹さんね。おまけさんね」
「彼女も可哀想よね、セラフィーナ嬢の妹に生まれたばっかりに……」
「仕方ないだろ。完璧な者がいるのに、その劣化バージョンなどに誰が見向きする。世間とはそういうものだ」
おまけって何よ。可哀想って何よ。劣化バージョンって何なのよ。
私は、私。お姉様の添え物なんかじゃない。
家族は……、
お父様は、表だった差別など全くされなかったけれど、熱愛する妻、ソフィアお母様そっくりのセラフィーナお姉様をより愛しく思っているのは明らかだった。セラフィーナお姉様を見る時、声を聴く時、お父様の目は、口角は、和らいだ。私の時よりずっと……ずっと。
そして、お母様は……。天真爛漫かつ天然だったお母様の愛はいまいちよくわからない。
生前、お母様は私達、自分の三人の子供をよく混乱させた。
『私、時々大きな蛇になれたらと思うのよ』
「お母様の爬虫類好きは知ってる、でも蛇なんかにならないで!」
「私も、蛇はちょっと……」
「母上、貴女って人は……」
『あら、そう? でも、大きな蛇になればあなた達をグルグルっと、これ以上ないくらい抱きしめてあげれるじゃない』
私達はその発想にドン引きした。頭を抱えざるを得なかった。
『最愛のあなた達をグルグル! これ以上の幸せってないでしょう、最高でしょう』
ソフィアお母様のことは好きだった、愛してもいた。でも、こんな明後日の方向に思考が行く人に、一番の愛を願っても詮無いこと、思いは届きはしない。振り回されるばかり。
叔母様、マティルダ陛下のように振り回されるのは嫌だ。私はMではない。
お兄様は……、コンラッドお兄様は、私にとても優しく接してくれた。でも、それはセラフィーナお姉様にも同様だ。お兄様は優しい、誰にでも優しい……。
もう、たった一人でも良い。
誰か、私を見て。
私が一番だと言って。
お願い……、お願いだから!
こうして、心に澱はたまり続けた。満たされないエゴは、私の性格をより悪くした。
お姉様なんかいらない、本当にいらない。
神様! お姉様をどこかに行かせてよ、
私の前から、セラフィーナを消し去ってよ!
私は日々、心の中で叫び続けた、願い続けた。けれど、いくら叫んだとて願ったとて、そんな自己中心的な願いを神様は叶えてはくれない。相変わらずお姉様は私の隣に立ち続け、皆の称賛を集め続けた。
「セラフィーナ嬢が陛下の御前でなされた独唱、すばらしかったな、ほんと素晴らしかった。神は何物を彼女に与えたのだろう」
「公爵閣下もお幸せですわね。この前、愛する奥方を失くされたのはお可哀想でしたが、彼女のような素晴らしい娘さんと、学才に優れた素晴らしい息子さんを一人ずつお持ち。やっぱり幸せでございますわ」
私は神に願うことを止めた。自分でなんとかする。
どうすれば超ハイスペックなお姉様に勝てるのか? 一生懸命考えた。
まず、最初にやったのは正攻法、地道な努力。お姉様と私では大きな差がある。でも、お姉様の何倍も頑張れば、その差は必ず縮む。縮まない道理がない。
私は頑張った。特に一番大きな差となっている魔法は一日も欠かさず練習した。そのためには恥も忍んだ。魔力が底をつく度にお姉様を頼った。
「ありがとう、もう満タンです。でもお姉様、こんなに魔力頂いて大丈夫? ふらついたりしない?」
「気にしないで、全然大丈夫だから」
お姉様は、ほんとうに全然大丈夫そうだった。彼女にしてみればコップ一杯の水をあげたくらいの感覚なのだろう。そのコップ一杯が、私にとっての全魔力なのに。
感謝より妬みが募る。増々お姉様が嫌いになる。
次に行ったのは、お姉様の欠点を探すこと。いくらお姉様が完璧に見えたって、人は人。欠点がない訳がない。その欠点の部分で勝負すれば良い。
お姉様を一生懸命観察した。その結果、お姉様の一つの欠点を発見した。それは人間関係……、お姉様の人間関係は一方通行だ。
人々はお姉様を称賛する、偶像のように持ち上げる。でも、お姉様は、それに対し何も返さない。感謝の言葉くらいは述べる、でもそれだけ。お姉様は心を開かない、彼ら彼女らの間に入っていこうとしない。
お姉様はわからないのだ。
セラフィーナ・アリンガムは「人との接し方」がわからない。
彼女に出来るのは、形だけのもの、表面上だけのもの。私はこれまで双子である私達に大きな差を与えた神を恨んで来た。でも、初めて感謝した。
神様、ありがとうございます。お姉様に欠点を与えてくれて、こんな大きな欠点を与えてくれて!
このことに気付いて以来、私は日々、笑顔で人に接することを旨とした。相手が貴族であろうが、使用人であろうが区別なくフレンドリーに接し、積極的に関わっていった。
ねえ、あなたはどういう人なの、教えて。
私は、こういう人よ、こういう人間なの。
お友達になってよ、なりましょうよ。
人は自分に関心や興味をもってくれる人に好意を持つ、そしてそれに応え続ければ、更にその好意は大きくなる。まさに正の循環。お姉様のように、相手側の賛美で成り立つ関係は華やかではあるが、実がない。淋しいものだ
私は心を込めて、心を開いて人と向かい合った。
こうして私の友達になってくれる人、私にも目を向けてくれる人は、だんだんと増えて行った。でも、まだまだ子供の私では限界がある。私が頑張って作った小さな流れは、大人たちが作る、お姉様の日々輝きを増す美しさや、伸び行く才能への賛嘆の流れに簡単にかき消される。
でも、諦めなかった、努力を続けた。挫けてなるものか。
時には姑息な真似をした。さりげなく泣き顔を見せ相手の同情心誘った。涙にくれるいたいけな少女。これ以上、庇護欲を起こさせるものがあるだろうか?(実際、私は心の中で泣いていた。こんなことをしなければ、お姉様に対抗できない自分が情けなかった)
そんな最中、私に幸福が舞い降りた。お父様が、マルグレットを私の専属メイドにしてくれたのだ。
マルグレットは、お父様が本採用を即決した素晴らしいメイド。(我が家は腐っても公爵家、仮採用期間がないなど普通ありえない)その素晴らしさがどれほどかと言うと、お父様の曰く。
『彼女は必ず、我が家の宝となる、ゆくゆくはメイド長をまかせるつもりだ』
とのこと。
そんな凄い人を、お父様が、セラフィーナお姉様にではなく、私の専属に……。涙が出るほど嬉しかった。お父様はちゃんと私のことも思っていてくれた、愛してくれていた。
私は心に誓った。マルグレットがどのような性格の人であるかはわからない。私を好いてくれるかどうかもわからない。でも、なんとしてでも彼女と良好な関係を作ろう、絶対作ろう。
そんな決心をして、私は初対面に臨んだ。
初めて会うマルグレットは、少し釣り目がちではあるけれど、とても気品のある美しいメイドだった。メイド服を脱ぎ、綺麗なドレスやアクセサリーで着飾れば、そんじょそこらの令嬢には負けないだろう。
うん、絶対負けない。
こんな美しい人が私の専属……、と思うだけで心に喜びが湧きあがって来た。それだけでも幸せなのに、マルグレットは更なる幸せを私にくれた。マルグレットが私を見た時、彼女は言ってくれた、美しいバイオレットの瞳に喜色に煌めかせ言ってくれた。(口と違って眼は嘘をつかない)
「なんて可愛らしいお嬢様……。メイリーネお嬢様の専属になれたこと、とてもとても嬉しく思っています」
本当に嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて……。心がどうかなりそうだった。
だって、マルグレットは前日、セラフィーナお姉様に会っていた(お姉様が、「あなたの専属になる人に会ったよ、とっても有能そうな人だったよ」と言っていた)。その上で、彼女は喜んでくれた。
私は、がっかりされるのが怖かった。
こんな何段も落ちる娘の専属になるのだったら、セラフィーナお嬢様の専属になりたかった、と思われてしまうのではと不安を募らせていた。
「マルグレット」
「はい、何でしょう。メイリーネお嬢様」
私は震える心のままに行動した。話しやすいように片膝を着いてくれている彼女の胸の中に飛び込み、抱き着いた。マルグレットは、私の唐突な行動に一瞬驚いたようだったが、優しく問いかけてくれた。
「お嬢様、どうされましたか。私に何か仰りたいことがあるのですか。もしあるのなら遠慮なく言って下さいませ」
「あのね、変な子だと思わないでね」
「思いませんとも。さあ、仰って下さいませ」
「あのね、あのね。あたしね……」
私に出来る最高の笑顔を彼女に向けた。
「マルグレット、あなたのことが好き。だーい好き!」
マルグレットの眼に薄っすらと涙が浮かぶ。
マルグレット、あなたもあたしと同じなの? あたしと同じような思いで生きて来たの?
彼女は返事をくれた。
「私もお嬢様のことが好きですよ。大大だーい好き! ですよ」
「え~、あたしのこと何にも知らないのにー?」
「お嬢様だって、私のこと全く知らないじゃありませんか!」
「あー、ほんとだ!」
私達は笑い合った、心行くまで笑いあった。
この時から五年。マルグレットは常に私の隣に立ち、喜びも悲しみも共にしてくれた。他の誰よりも、家族の誰よりも私を理解し、私のことを思ってくれた。
幸せだった、
そして、図に乗った。
貴族令嬢としての作法など全く無視して、マルグレットに駆け寄ったり、抱き着いたりして、私達の仲の良さをお姉様に見せつけた。心の中で高らかに勝ち誇った。
ねえ、セラフィーナお姉様。
お姉様は私より綺麗だけれど、何でも上手に出来るけれど、皆に褒めそやされてるけれど、貴女にはマルグレットのような人はいないでしょ。寝ても覚めても貴女のことを一番に思い続けてくれる人を持っていないでしょ。
お姉様と私、どちらが人として幸せなんでしょうね。
フフ。それはもちろん私、メイリーネ。
イルヴァ殿下も言ってたわ。
お姉様と一緒にいたって、人形といるみたいで楽しくないって、私と一緒の方が遥かに楽しいって。
貴女は愛されるだけの存在……、愛を相手に返さない、返せない存在……。それってどうなのかしら。
はっきり、言いましょう。
貴女は欠陥品、
人として欠陥品なのよ、お姉様!
けれど、その欠陥品たるお姉様は私を助けてくれた。助けようとしてくれた。皇太子殿下と恋仲になっていた私のために、お姉様はお父様の反対を押し切り、精霊廟へと向かってくれた。びっくりした。マルグレットも同じように驚いていた。
「お嬢様。セラフィーナお嬢様は、貴女のことを思って下さる優しい姉君だったのですね。私は勘違いしておりました。ああ、セラフィーナお嬢様、ありがとうございます。これで、お嬢様が殿下と幸せになれます。セラフィーナお嬢様には感謝しかありませんね。お嬢様」
「ええ、そうね。本当にそうだわ」
口ではそう言った。けれど、心から感謝することが出来なかった。
私よりずっと能力値が高いお姉様がアレクシスの化身になるのは当然だ。だって、化身は国に大いなる加護を与える大切なお役目だもの。お姉様を残したがったお父様が間違っていたんだ、最初から、こうなるべきだったんだ!
と、思う心を抑えられなかった。
そんな心根の者に天は微笑まない。神様は幸せを与えてはくれない。
半年後、大精霊に化身として認められなかったお姉様が帰って来た。そして、当然の帰結として私の精霊廟行きが決定した。私は全てを失った。
心の拠り所であるマルグレットとの生活も、皇太子殿下との輝かしい未来も、きれいさっぱり失くしてしまった。後に残ったのは
化身であること……、それだけ。
私はお姉様がなれなかった化身になれた……、それだけ。
そのことに一心にしがみついた。
私はなれた! なれたんだ!!
側巫女達が、少しはお身体のことをお考え下さいと、止めるのを無視し毎日毎日祭壇に上り加護の力を発動し続けた。王国のために、王国の人々の安寧のために……。
「大精霊様! どうしてもっと加護の力を、貴女様の大いなる力を私にお与えて下さらないのですか。今のままでは、大陸全土を襲っている気候異常から、そして、隙あらばと牙を磨いている帝国から、王国を守ることは出来ません。どうか私に更なる加護の力を下さいませ! お願いです!」
『メイリーネよ、親愛なるアリンガムの娘よ。我が、そなたにこれ以上の力を与えることは無い、与えることはできない』
「何故です、何故なのです!」
私の問いかけに大精霊は残酷な答えを返した。
『そなたの化身としての適正値は低い。歴代でもそなたほど低かった者は一人しかおらぬ』
とても残酷な答えを……。
『もうしばらく、もうしばらくすれば我の望んだ未来が現れる、生まれ変わったセラフィーナが、真なる化身となる。我は長き年月をかけて種を播き、適者が現れるのを待ち続けた、それが、実ろうとしている。そなたは、それまでの単なる繋ぎ』
「繋ぎ……」
『そなただけではない、これまでの全ての化身が、真なる化身への繋ぎに過ぎない』
涙は出なかった、最後の拠り所をアレクシス様に否定された私はもう空っぽだった。私には何もない、何も……。
どこで道を間違えたのだろう、どこで……。
あ、あそこか。
私はお姉様に勝とうと奮闘し続けて来た。その奮闘の途中で、セラフィーナお姉様が女性を好きであり、真に殿方を愛せないこと、そのせいで人との付き合いに臆病になっていることに気付いていた。でも、私はお姉様の悩みに寄り添おうとはしなかった。放っておいた。
だって、その方が私に都合が良かったから。
お姉様が欠陥品? 笑ってしまう。
欠陥品は私だ。
挙句には、自分の未来が閉ざされた腹いせに、半年間も私のために化身になろうと努力してくれたお姉様に酷い言葉を投げつけた。
「お姉様、殿下と幸せになって下さいませ」
ハハハハハ。
もう空笑いしか出ない。
自分の醜い感情のためには、自らが愛する殿方の存在さえ利用する。
なんて嫌な女……、なんて最低な女……。
私は自分が嫌い、
大っ嫌い!!
壊れた心に、酷使し続けた身体を持たせる力などありはしない。
痛い……
痛い痛い……
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
全身が痛い――!!
意識が遠のいて行く、もう立っていられない。
私は祭壇に崩れ落ちた。
彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
あまりの懐かしさ愛しさに、出なかった涙が一筋流れる。
私が、「大好き!」と、彼女の頬にキスした時、彼女は大泣きしてまで喜んでくれた。あの時、私達はなんて幸せだったのだろう。
マルグレット……
マルグレット……
あたしのマルグレット……
会いたいよー。
ノロノロな更新のお詫びに、お遊び小話『セラフィーナの仲良し小作戦』を、活動報告に掲載しました。心温まる(?)姉妹の話、親娘の話。是非~。
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