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縁。

21/04/03 水晶球の発光の表現、変更しました。

 セラフィーナ様とお会いした数日後、私は、お祖父様とお祖母様と一緒に教会を訪れました。


 教会を訪れたのは、来月に迫った王立貴族学院入学のため。学院入学の申請書類はとうに出され、入学許可はおりているのですが、一つだけ必ず書かねばならない項目が未記入のままでした。それを入学前までに、学院に報告しなければなりません。その未記入の項目とは……。


 魔力の有無。もし、あれば、その属性。


「お祖父様、近年、うちから魔力保持者が出たことがあるのですか?」


 平民では滅多にありませんが、貴族の家系では、約二十人に一人くらいの割合で、魔力保持者が現われます。高位貴族になるほど保持者出現率や、その保持者の持つ魔力量が多くなり、下位になる程その反対です。


「近年は出てない、ここ数代は出てないよ。まあ、ない方が普通だし、別にな」


 お祖父様も、私同様、殆ど期待していないようです。ロンズデール家は下位貴族、男爵家ですし、私のお父さんは平民です。魔力有りの判定が出る確率は、八百長が蔓延る賭場で勝てる確率と同じくらいのものでしょう。つまり、殆ど0です。


 しかし、お祖母様は、にこにこ顔。


「あら、私のお父様が、一番ありふれた土属性でしたが、持ってられましたよ。ひ孫とはいえ、係累にはちがいありません。パティちゃんも可能性はありますよ、楽しみですね」


 メイベルお祖母様は、基本的にプラス思考で、悪い方向には考えません。とても良いことです。見習いたいです。女神様も愚痴ばかり言っててはダメですよ。マイナス思考では不幸しかやって来ません。


「そうですね。可能性はありますよね、ありがとうございます、お祖母様」


 私もにこにこ顔で、お祖母様にお礼を言いました。



 しかし、訪れた教会の神官の態度は、良いものではありませんでした。


「この娘の魔力検査ですか? 止めておいたほうが良いんじゃないですか、どうせ、有りませんよ。時間の無駄です」


 神官がこのような態度をとったのは、うちの家が下位貴族、男爵家だったことと、私の年齢のせいです。


 貴族の子弟の殆どは、小さい頃に魔力の有無の検査を受けます。かなり大きくなってから受ける者は大概、愛人として囲った平民が産んだ子供、つまり庶子です。


 庶子でも王宮の認証があれば、貴族として認められ、貴族年鑑にもちゃんと載れますが、貴族社会では、大抵馬鹿にされます。貴族モドキとして蔑まれます。


 お祖父様は、親はちゃんと結婚してるから、私は庶子ではないと言ってくれますが、私のお父さんは平民で、私には貴族の血は半分しか流れていません。実質、庶子と何ら変わらないでしょう。


 ですから、神官(貴族出身が殆ど)が、私のことを貴族モドキと馬鹿にしても不思議ではありません。腹は立ちますが……。


 しかし、私を猫可愛がりしてくれるハンフリーお祖父様が、神官のそんな態度を許す訳がありません。烈火のごとく怒りました。


「我が愛しの孫を愚弄するとは……。今日は神への感謝のため、()()()()()()()を持って来たのだが、こんな教会に寄進できるものか! 地区なんてどうでも良い、別の教会へ行くぞ! メイベル、パティ!」


 お祖父様が見せつけた金貨、銀貨に驚いた教会側は、上級神官まで飛んで来て、私達に平身低頭。金の力とは、ほんと凄いものです。ですが、お祖父様。執事のオブライエンも私も心配しております。もう少し節約下さいませ、お願いします。


 魔力検査自体は、簡単なものでした。教会の祭壇の奥に設置された特殊な水晶球に触れるだけです。


 私は水晶球に触れました。何も起こりません。


 あーあ、やっぱりね。想定内ですが落胆には違いありません。


 最初に出て来て私をバカにした神官が顔を下に向け肩を震わせています。きっと、嘲りの笑いを噛み殺しているのでしょう。嫌な奴です、ほんと嫌な奴!


 落胆と腹立たしさを抱えつつ、水晶球から手を放しました。しかし、その瞬間、水晶球から黄金色の強烈な閃光が走ったのです。びっくりしました。


 神官達の目の色が変わりました。あの肩を震わせていた神官までもです。


「パティ様、もう一度お願いします!」


 私には何が起こったのかは理解できませんでしたが、上級神官さんのお言葉に従い、再度、水晶球に手を置きました。


 今度は、最初から黄金色の閃光が発せられました。それも三度も。そして、その閃光が止んだ後、水晶球は淡い光を発し始めました。その光は虹のように七色、とても美しい幻想的な光でした。


 教会から判定が出ました。


 ・パティ・フォン・ロンズデールは魔力保持者。


 ・魔力量はブロンズランク。(魔力量のランクは、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの五段階)


 ・魔力の属性は、全属性。


 ・支援魔法の一種、強化魔法(バフ)(かけた相手の能力を一時的に強化出来る魔法)の才能有り!


 帰りの馬車の中は歓喜が渦巻いておりました。


「パティ、お前はなんて孝行娘なんだ。じゃじゃ馬じゃないだけでもありがたいのに、こんなに可愛くて、頭が悪くなくて、性格も控えめで素晴らしいのに、その上、魔力有り! それも王族だって滅多にでない支援を持っているなんて! 私は神なんて信じていなかったが、今日から信じるぞ! 神よ、感謝致します、よくぞ、パティを我が元へ!」


「あー! ほんとなんて素晴らし娘なの、パティちゃん!」


 私はお祖母様に抱きしめられました。ちょうど頭が、お祖母様の胸に収まりました。


 うぉ! なんてふくよか。お祖母様は着やせするタイプのようです。お母さんが、まっ平だったので、私自身かなり諦めていたのですが、これなら将来に期待が持てそうです。やったね!


「これはもう、一族郎党集めて祝いをせねばなるまい! オブライエンに命じて連絡を……」


「お祖父様、それはダメです! さきほど教会で言われたことを忘れられたのですか!」


 慌てて、お祖父様をお諫めしました。


「お、そうであったな。そうであった」


 そうであった、ではありません。お祖父様。


 教会で判定が出た時に、上級神官さんに言われました。


『支援魔法は滅多に出ない貴重な魔法。もし、この魔法が使えることが知られれば、多くの魔法を使える貴族から依頼が殺到することでしょう。


 でも、パティ様はブロンズランク、魔力容量は多くはありません。支援出来るのは数日に一人が精一杯でしょう。何人もの依頼に応え続けるようなことは出来ません。体を壊してしまいます。


 ですから、支援魔法を持っていることは周囲にはお伏せ下さい。そうでないと、最悪、誘拐されるなんてこともありえます。脅しのようで申し訳ないのですが、それほど支援魔法は貴重な魔法なのです。男爵様。お孫様が大事なら、このことは決して忘れないで下さい』


 最初に会った嫌な神官とは違って、上級神官さんは、とても良い人でした。珍しい魔法を持ってしまった私のことを、親身になって心配してくれました。学院への報告も、魔力量と属性だけ知らせ、支援魔法を持っていることは知らせないようアドバイスをくれました。

 

「あなた、神官様の言う通りにいたしましょう。私、パティちゃんに、もしものことがあったら、生きて行けないわ」


 お祖父様は、言う通りにしてくれました。学院への報告書に支援魔法を持っていることは記載されませんでした。



 私の怒涛の日々は続いています。


 平民から貴族になり、公爵令嬢セラフィーナ様に会えたかと思えば、ついには魔力さえ持っていることが判明しました。どうしてこれほど、次から次へと自分自身や環境が変わって行くのでしょう?


 もしかして、私が、()()()()だからでしょうか?


 先日、今更ですが、再度「ひろいん」とは何んですか? と女神様に尋ねました。女神様の答えは、「主人公です」でした。無意味な答えです。人は皆、その人その人の人生があり、その人生の中で主人公なのです。誰にでも当てはまる言葉です。


「女神様、それは、ひろいんの定義としておかしくないですか? おかしいですよね?」


「ああ、そうですね。私としたことが。言い直します。ヒロインとは……」


 ごくり。


「女の主人公です」


 ダメです、この女神様。


 

 まあ、この使えない女神様はおくとして、私に魔法の才能があったことは大変嬉しいことでした。魔法自体も当然嬉しいことなのですが、彼女との共通点を持てたことの方が嬉しかったのです。彼女とはもちろん、筆頭公爵家御令嬢、セラフィーナ様。


 彼女も、魔力保持者。それも国で一二を争う高レベルの保持者です。


 私は、彼女と同じ魔力保持者になれたことが、彼女との縁のように思えて仕方ありませんでした。この縁は絶対に切れない。私と彼女を繋ぎ続けてくれるそう思ったのです。


 何故か、そう確信出来たのです。


この世界は魔法から科学へシフト中ですが、まだまだ魔法は力を持っております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はサポートマジックが好きです。 負傷者の命を助け、救う人々よりも、攻撃性に焦点を当てすぎています。
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