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お茶会、大団円。

 高級茶葉、ティオール産茶葉で入れた、お茶はとても好評でしたが、それ以上に喜ばれたのは……。


「パティ様。このティセット、とても素晴らしい品ですね。わたくし、これほどの物は今まで、見たこともありませんわ」


「マクシーネ様に同意いたします。カップなど見て下さいませ、このような繊細な装飾有りで、この薄さ、有り得ないレベルです。何処で、これ程の名品を?」


 カーラ様の疑問は当然です。このティセットは、超々高級品。普通、男爵家レベルの貴族が保有できるものではありません。


「ふっふっふ。何処からだと思います? 皆様、少しお考え下さいまし」


 私は、勿体ぶりました。お祖父様が大枚をはたいた品です。場を盛り上げるネタになってもらいましょう、それくらいしないと元がとれません。単にお茶を飲むだけなら、木のカップだって飲めるのです。


「そう言われましても……。我が家にあるものとは格が違い過ぎて、見当もつきませんわ」


「ですね、私もさっぱりです」


 と、レジーナ様、キャスリン様。


 メアリー様も、ウーンと唸っておられるだけ。マクシーネ様、カーラ様も御同様。やはり皆様、見当がつかないようです。


 でも、セラフィーナ様だけは、他の方達のように考え込むことも無く、お茶を楽しんでおられます。つまむように持たれたカップから立ち上がるお茶の馥郁(ふくいく)たる香りを、軽く目を閉じ、堪能されています。


 そのお姿は、真に気品が溢れまくっているとしか言いようがありません。爆飲爆食の私は論外として、普通の貴族令嬢であるマクシーネ様達と比べても、歴然とした差があります。


 次に、お出しするサンドイッチを運んで来てくれたアンナと目が合いました。彼女の目が言っています。『お嬢様、少しはセラフィーナ様を見習いなさいませ!』


 わかってるわよ、努力する。でも、あの気品は無理、絶対無理。



「セラフィーナ様、貴女は、おわかりのようですね」


 私が、そう言うと、彼女は片目だけを開け、悪戯っ子ぽい笑みを浮かべられました。こういう顔もなんとも可愛らしいです。


「ええ、わかっておりますよ、出所(でどころ)は王家。このティセットは、元は王家の所蔵だった物ですね」


「「「「「 王家! 」」」」」


 マクシーネ様達が、見事にハモりました。何も五人でハモらなくても……。ほんと仲良いですね。


「セラフィーナ様、それは本当なのですか?!」


「ええ。王宮で、皇太子殿下とお茶をいたしました時、同種のものを使ったことがあります。これは王室御用達職人の手になる品です。間違いありません」


 その返事を聞いたマクシーネ様達は、カップをまじまじと見たり、手で撫でられたりしておられました。滅多に触ることの出来ない品です。堪能したかったのでしょう。


 マクシーネ様が仰られました。


「パティ様、どうして、男爵家である貴女のお家が、このような逸品をお持ちなのですか。わたくし達、子爵家だって、到底手が届かない高価なものなのに」


「それはですねー……」


「それは?」


 私は、高らかに解答を述べました。


「それは、うちが、()()だからです! ドーン!」


「成金って……、それに、ドーン!って」


 マクシーネ様が、私の言葉に呆れておりますが、本当なのですから仕方がありません。


「株で当てたお祖父様が、持ち慣れぬ大金に惑わされ、使いまくっておられるのです。執事のオブライエンなどは、日々、胃を痛め続けております。穴が開くのも時間の問題でしょう。ああ、このままでは、お祖父様の散財で、我が、ロンズデール家は破滅してしまいます、どうしたら、どうしたら良いのでしょう!」よよよ。

 

 マクシーネ様達は沈黙。突如飛び出して来た私の嘆きに、どう反応して良いのか判らないようです。


 セラフィーナ様が、近くに控えているオブライエンに声をかけて下さいました。彼女とオブライエンは以前から、顔見知りです。


「まあ、なんて可哀そうなオブライエン! 体、お大事にね。なんでしたら、お父様にお頼みして、男爵様をお諫めしてもらいましょうか?」


 酒場の用心棒がごとき風貌のオブライエンの目に涙が薄っすらと滲みました。


「お願い致します。それにしても、なんてお優しい……。不肖オブライエン、感動致しました。この感動を一生胸に抱いて生きて行きます! ううっ」


 私は、ガシッとセラフィーナ様の両の手を取りました。


「セラフィーナ様、貴女は我が家の救世主です。貴女がいなければ、我が、ロンズデール家は立ち行きません。奈落の底一直線です!」


「まあ、お上手。幾らお世辞を下さっても、何も出ませんことよ」


「お世辞なんて、とんでもない。私は、貴女に感謝しているのです。いいえ、そんな、生易しいことではありません。私は、貴女が()()なのです、貴女を()()()いるのです」

 

「愛してる……、そんな」


「私からの愛など、お嫌ですか?」


「そんなことはありません! 私も、私も、パティ様のことを愛しています!」


「セラフィーナ様!」


「パティ様!」


 ヒシッ ! 私達二人は、強く抱き合いました……、早く、つっこんで。誰かつっこんでよ。



 漸く、メアリー様が言ってくれました。


「あのー、この小芝居。私達はどう反応したら良いのでしょう?」


 私達は抱擁を解きました。セラフィーナ様の顔は真っ赤です。小芝居初心者のセラフィーナ様は、少々というか、かなり恥ずかしかったのでしょう。でも、それは誰もが通る道。小芝居の道は一日にしてならずです。


「どうと言われましても、『貴女達、何をおバカなことやってるのよ~!』と笑ってもらえるのが一番だったのですが……」


「ネタが微妙ですよ、ネタが」


 メアリー様にダメ出しをされました。後で聞いた話ですが、彼女は大変な読書家で、世界各国の喜劇にも通じているそうです。


「メアリー様。後学のため、どこが微妙だったのをお聞かせ願えませんか?」


 セラフィーナ様、ほんと真面目ですね。私なんか、よし! 次、いってみよう~! って感じ。あまり深くは考えません。メアリー様の目が、キラ~ンと光りました。


「それはですね、笑いには多くの種類があるのです。一番普通なのは……」


 やばい! この手のタイプは、自分の好きな分野のことを話し出したら止まらない。終わるまで待っていたら、お皿に載って供されようとしているサンドイッチがカピカピになってしまう。


「さあ、皆様、大変お腹がお空きでしょう。今朝とれた新鮮な野菜を使ったサンドイッチです。どうぞ、お召し上がり下さいませ」


 お祖母様が尽力下さった、サンドイッチはとても美味しく好評でした。その御蔭もあって、お茶会は賑やかに、姦しく進行して行ったのですが……、セラフィーナ様とメアリー様の笑いに関する問答は、まだ続いておりました。


「そういう相手を見下す笑いは、如何でしょう。そのような笑いは必要ないのではありませんか?」


「セラフィーナ様、心を大きくお持ちになられませ。それも笑いの一つではあるのです、否定することは出来ないのです」


「ちょっとメアリー様。どうして貴女ばかりがセラフィーナ様を独占していなさるの。私達だって、セラフィーナ様とお話したいのですよ。貴女はパティ様とでも、お話してて下さいませ」


 パティ様()()()、って、何よ、それ。泣いちゃうよ。


 セラフィーナ様が擁護してくれました。


「マクシーネ様、さすがにその物言いはパティ様に失礼ではありませんか?」


「大丈夫ですよ、パティ様は。鉄の心臓と、比類なき大きな心をお持ちです。そのような言葉尻を気になされるようなチンケな方ではございません」


「はあ、まあ、それは、そうかもしれません」


 セラフィーナ様が簡単に丸め込まれました。やばいです。彼女は権謀術数渦巻く、高位貴族の世界にいるのだから、もう少し世慣れていると考えていましたが、思っていた以上に箱入りです。詐欺にやられるタイプです。私が守ってあげないと!


「そんなことよりですね。わたくしセラフィーナ様に聞いて欲しいことがあるのです!」

「私もです!」

「私も!」

「ちょっと、順番を守ってくださいまし! 皆様は、わたくしの後でしてよ」

「誰が決めたのですか、そんなの」


「まあまあ、ケンカなさらずに。全員のお話を、ちゃんとお伺いしますから」


 セラフィーナ様、大人気です。最初、マクシーネ様達は、家格の違いや、彼女のあまりの美少女ぶりに壁を感じていたようですが、今はもう、そのような感じは全くありません。壁は殆ど取り払われたと言って良いでしょう。


 さきほどの小芝居は、お茶会が始まる前にセラフィーナ様と打ち合わせておいたものです。セラフィーナ様には、皆を楽しませるためと申しておきましたが、本当は違います。


 本当の目的は、皆が持っているセラフィーナ様のイメージ、理想の貴族、令嬢の中の令嬢たるセラフィーナ。常に優雅で、常に冷静という、お堅いイメージ、相手が及び腰になるイメージを壊して上げたかったのです。


 セラフィーナ様は、ほんと素直で、お優しい、可愛いお方です。そのようなお方に、友達が殆どいないなんて悲し過ぎます。


 キャスリン様とセラフィーナ様が話しておられます。


「セラフィーナ様、貴女は時代に遅れてしまっています。今時そのようなことを言っておられる方はおられません」


「時代遅れって。お母様から、そう習いました。そんな筈はございません」


「お母様から! だから時代の遅れなのですよ。母上の世代が、私達の世代の流行を知ってられる訳ないではございませんか!」


「ああ!」


「ああ! ではございませんよ。セラフィーナ様!」


 みんなの笑い声の中心にセラフィーナ様がいます。嬉しい……。


 マクシーネ様達と和解も出来たし、このお茶会を開いて良かったです。ほんと良かった。でも、まだ終わってはいません。そろそろ、サンドイッチの次に出したスコーンも食べ終わる頃。今日の私のとっておき、あれを出しましょう。私はアンナに合図を送りました。


 今は春です。でも今年の春は例年よりかなり暑いのです、だから喜んでもらえるでしょう。


「皆様。これからお出しするものは、定番のケーキではございません、別のものです。私が昨晩、一生懸命に作りました。喜んでいただけると嬉しいですわ」


 セラフィーナ様が、いの一番に反応して下さいました。


「まあ、パティ様のお手製ですの! なんて素晴らしい!」


 そしてマクシーネ様達は……。


「それ、ちゃんとした味ですよね?」「お腹壊したりしませんよね?」等々。


 でも、目が笑っています。彼女達に悪意はありません。彼女達なりの親愛の発露なのでしょう。


「はい、はい。そのようなことを言う方は食べて下さらなくて結構です。アンナ、お飛ばしして」


「冗談ですよ、冗談!」「食べます、いただきます!」


 アンナともう一人のメイドが(笑いをこらえるため)顔をフルフルさせながら、配ってくれました。


 皆、お皿の上に載った、私の労作を見て、びっくりしています。マクシーネ様が仰いました。



「こ、これは、アイスクリーム! アイスクリームじゃありませんの!」



 そうです。アイスクリームです。昨晩、うちの料理人に教えて貰ったレシピを元に、頑張って作りました。


「どうして、アイスクリームなど出来るのです! おかしいです!」


 マクシーネ様が疑問を投げかけられました。そして、カーラ様も。


「そうです。今年は、昨年来の暖冬のせいで、氷室は壊滅した筈、どうやって、氷を調達したのです? 何か特別なルートでもあるのですか?!」


「特別なルートなんてありませんよ。氷は氷結魔法で作ったんです」


「「「「「 氷結魔法! 」」」」」


 またもや、マクシーネ様達がハモられました。


「パティ様、貴女が使えるのは風魔法ではなかったのですか?」


「ええ、風魔法()使えます。でも、他の魔法も色々使えますよ。私の属性、全属性ですので」


「「「「「 全属性! 」」」」」


 貴女方、五人でコーラスグループを組まれては如何でしょう。


 セラフィーナ様が顔を寄せられて来ました。


「パティ様、今は昔と違って、一つの魔法を使えるだけでも凄いことなのです。だから全属性使えるなんて言ったら、驚かれるのは当然です」


「そうですか。迂闊でした。今度からは気を付けます。ちなみに、セラフィーナ様の属性は?」


 セラフィーナ様はニコッとされました。いえ、ニマっとされました。


「私も全属性です」


 わー! お仲間ですね。お仲間です。私とセラフィーナ様は固い握手を交わしました。


「お二方、何をしてはりますのん?」


 カーラ様、マクシーネ様、キャスリン様、レジーナ様、メアリー様、全員がアイスクリームを食べながら私達を、半眼の、じと~っとした目で見ています。


「な、何ですか。皆様、どうして私達をそのような目で見るのですか!」



「これは、持たざる者が、持つ者を見る、羨望、嫉妬の目です。あー、羨まし」


「「「「「 じと~ 」」」」」



「止めて! そんな目で見ないで!」 と、私。


「「「「「 止めません 」」」」」


「許して、お願い!」 と、セラフィーナ様。


「「「「「 許しません 」」」」」



 とか言いつつも、結局、マクシーネ様達は許してくれました。


「まあ、このような美味しいアイスを作って下さったです、許して差し上げますよ。あー、セラフィーナ様も、ついでに許して差し上げます。一人だけ許されないのも、お可哀そうですし」


「ついで!」


 セラフィーナ様は素っ頓狂な声を上げられました。


 お茶会が始まった頃にいた完全無欠の美少女はどこかへ行ってしまいましたが、本人は嬉しそうです。これで良いのでしょう。


 こうして、私が、主催した初めてのお茶会は大成功のうちに幕を降ろし、マクシーネ様達は、私と()()()()()()()()、お礼を言って帰られて行きました。今日のセラフィーナ様は、私の共同主催者のようなものでした。彼女達、よくわかっておられます。


 そして、そのセラフィーナ様は、まだ残ってくれています。私に用があるとのことです。


 用とは、何なのでしょう?


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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ。 貴族のお茶会のような形式でも、若い女の子が自分の年齢を演じて、このように楽しんでいるのを見るのは素晴らしいことです。
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