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浅はかなのは……。

「有意義な時間になりますよう、がんばらせてもらいます。皆様、よろしくお願い致します」


 私は、最初の挨拶を終えました。


 右隣の席に座るセラフィーナ様が、軽く頷いてくれています。悪い挨拶ではなかったようです。ホッとしました。


「では、初めて同士のお方もいらっしゃられますので、自己紹介を致しましょう。先ずは、私から」


 お客様全員、私を知っておられますので、本来、私の自己紹介は必要無いのかもしれませんが、したほうが良いと判断しました。


 というのは、マクシーネ様達がガチガチに緊張なさっているからです。


 彼女達は、セラフィーナ様の、人の限界を超えたような美貌と、筆頭公爵家御令嬢で、皇太子殿下の婚約者という、貴族としての圧倒的な格の高さにビビってしまっていたのです。そのような状態の彼女達に、真っ先に自己紹介せよというのは酷というものでしょう。


 自己紹介は、主催者以外は、()()の末席から順に行われるのが慣例です。私の、次はメアリー様。


「子爵、チャールズ・フォン・アクトンが次女、メアリーと申します。以後、お見知りおきを……」


 席順に関しては、私が自力で決めた! と、高らかに言いたいところですが、結局は、専属メイドのアンナに助けてもらいました。うんうん唸りながら頓珍漢な座席表を作り、挙句の果てには、お客様に籤を引いてもらって席を決めようなどと言い出した私を、アンナは見るに見かねたようです。


 アンナはマクシーネ様達の家々を調べ上げてくれました。当主が王宮で役職を持っているかどうか、家の来歴、一族の大きさ、財政状況、マクシーネ様達の生年月日 etc。そして、それらを総合的に判断し、席順を決定してくれたのです。彼女が決めてくれた席順は以下の通り。


 私、パティ   男爵家 ( 主催者故、一番上座 )


 セラフィーナ様 公爵家


 カーラ様    子爵家


 マクシーネ様  子爵家


 キャスリン様  子爵家


 レジーナ様   子爵家


 メアリー様   子爵家


 後に、同じ子爵家であるマリエッタ様に、この席順を見てもらったところ、大変感心しておられました。アンナの手際は、老練な執事並みだそうです。


 アンナの優秀さを再確認し、感謝するとともに私は思いました。


『アンナは案外ちょろい。これからもバンバン頼ろう!』


 こういうところが、お母さんが私を「小賢しい」と言うところでしょう。私もさすがに、「人としてどうよ?」とは思っているのですが、生まれ持った性格はなかなか治りません。


 私が最初に自己紹介したのと、セラフィーナ様の優し気な表情のせいもあってか、マクシーネ様達の緊張も和らぎ、彼女達の自己紹介は滞りなく進みました。そして、最後はセラフィーナ様。


 ゆっくりと優雅に立ち上がられました。一挙手一投足が美しいです。私達との、この違いはなんなのでしょう。


「公爵、ウェスリー・アリンガムが長女、セラフィーナです。私は、皆様にお会い出来ることを、大変楽しみにしておりました。カーラ様、マクシーネ様、キャスリン様、レジーナ様、メアリー様」


 セラフィーナ様は、一人ずつ相手の名前を呼び、にこやかな笑顔を贈っていきます。なんたるサービス精神でしょう。高位貴族は高慢な人が多いと(お祖父様達やマリエッタ様などから)聞いていましたが、そういう意味ではセラフィーナ様は、全く高位貴族らしくありません。


「今回、私の大事なお友達、パティ様を介し私達は知り合うことが出来ました。このご縁を大切にしとう存じます。皆様も、私のお友達になって下さいませ」


 そう言って、皆に微笑むセラフィーナ様は、地上に舞い降りて来た天使のようにしか見えません。殆どの者が、ぽーっとなっておりました。


「こちらこそです、セラフィーナ様!」

「ありがとうございます、是非!」

「お友達になって頂けるなんて、光栄です!」

「これは夢でしょうか? 夢なら醒めないで!」


 メアリー様達の感動とは違う意味で、私はセラフィーナ様の心遣いに心の中で涙しておりました。彼女達がセラフィーナ様の友達になるということは、私と和解するということです。彼女達が、セラフィーナ様の()()()()()であるところの()と和解せずに、セラフィーナ様と友達関係を続けるのは難しいでしょう。つまり、セラフィーナ様が言っているのは、


 皆さん、パティ様と仲直りして下さい、今までのことは水に流して下さい。


 ということです。ですが……、


 マクシーネ様が仰られました。口調は真剣そのものです。


「セラフィーナ様。そのお言葉、大変嬉しく、有難く思います。でも、パティ様ときちんとお話しとう存じます。お返事は、その後でよろしゅうございますか?」


「ええ、結構ですよ」


 セラフィーナ様は全く嫌な顔もせず、了承されておられましたが、せっかく出来かけていた、和やかな雰囲気が壊れるのを嫌がったカーラ様が仰られました。


「ねえ、マクシーネ様。堅苦しく考え過ぎよ。せっかくセラフィーナ様が、ああ仰って下さっているのに……」


「カーラ様、わたくしは、そのように割り切れる人間ではないのです。一度ちゃんと、パティ様の人となりを理解しての上でないと、ダメなのです」


「マクシーネ様、貴女って人は……」


 マクシーネ様の頑なさを悟ったカーラ様は、説得を諦めました。でも、私的にはこれで良かったのです。さすがに、天使のセラフィーナ様が助けてくれました。これで、全て解決~! では虫が良すぎます。自分自身の口で、自分自身の言葉できちんと、彼女達と話しをするべきです。


「マクシーネ様、皆様。私の学院でのこれまでの態度、謝罪させていただきます。私は貴族になって日が浅い故、どうしても平民時代のノリが出てしまうのです。曲がりなりにも貴族になったのですから、抑制の効いた貴族らしい振る舞いをするべきでした。皆様に御不快な思いをさせましたこと、深く反省しております。許して下さいませ。お願いでございます」


 私は、両の手を膝の上に置き、頭を下げました。


「パティ様、頭をお上げ下さいませ。わたくしは、そのような終わったことに関しては、もう怒ってはおりません。わたくし達も感情に任せて貴女を吊し上げようとし、酷い言葉を投げかけました。わたくしに至っては、手まで上げてしまって……、真に貴族家の者として恥ずかしい限りです。わたくしも謝罪致します。申し訳ありませんでした」


 マクシーネ様が頭を下げてくれました。


「では、これで水に流して、仲良くしていただけるのですね!」


 嬉しかったです。これで解決~と思ったのですが、マクシーネ様は……。


「いえ、流すのは流しますが、仲良くするというのは別なのです」


「ええっ、別なのですか!」


「別なのです。人の心とはそう簡単なものではございませんでしてよ、パティ様」


 マクシーネ様が、すっと背筋を伸ばされました。彼女の縦ロールが、かすかに揺れてます。あー、あの縦ロールを、ビヨンビヨンしたい!


 キャスリン様とレジーナ様の小声の会話が聞こえてきました。


「今のマクシーネ様とパティ様の会話って、殆ど友人の会話ですよね、そう思いません?」


「思いますわ。マクシーネ様って変なところで堅いのですよね、融通が利かないというかー」


「そこ! 何か言いたいことがあるのですか」


 マクシーネ様がギロリとを睨まれました。睨まれたキャスリン様とレジーナ様は、うひゃ~って感じ。


 セラフィーナ様が顔を寄せて来て、仰られました。


「ああいう友人関係、良いですね。羨ましいです」


「ですね」


 と、頷きつつも、少し悲しくなりました。今、三人がしていた程度の会話など、私は今まで、いくらでもしてきたのです。


 コホン! マクシーネ様が咳払いをされました。話を戻したいようです。


「パティ様、一つ、わたくしの質問に答えて下さいませ」


「ええ、何なりと」


「前回、わたくし達が、もめた時、小さな突風が途中で起こりましたよね。あれは、もしかしたら、貴女が魔法で起こしたものではないですか?」


 マクシーネ様の言葉に、皆の表情が変わりました。変わらなかったのは、セラフィーナ様だけ。彼女は王国でも最上位クラスの魔力保持者、魔法使いだと聞いています。彼女にとって、少々の魔力を持っていることなど驚くほどのことではないのでしょう。


 正直に答えました。


「はい、あれは風魔法で私が起こしたものです。売り言葉に買い言葉的に、つい出してしまったのです。でも、皆様を傷つけるつもりはなかったのですよ。びっくりして解散してくれたら良いなーくらいの感じだったのです。すみません、あのようなことは、もう絶対いたしません」


 私は、陳謝しましたが、何故か雰囲気がおかしいです。


 カーラ様が、仰られました。


「魔力を持っているなんて……。パティ様、貴女は、セラフィーナ様と同様、貴族中の貴族(選ばれし者)ではありませんか」


「セラフィーナ様と同様なんて畏れ多い、私のランクはブロンズです。最上位ランクのセラフィーナ様とは比べるべくもありません」


「それでも、凄いことには変りありません。例え、一番下のアイアンランクだって、持っていれば、ステータスになるのです。そのことは、お知りでしょう?」


「ええ、それは知っております」


 私が魔力持ちだとわかった時、お祖父様達は、なんて誇らしい孫娘なんだと、大喜びして下さいました。とても嬉しかったです。


「では、どうして、入学した当初にしたクラスでの自己紹介で、魔力を持っていることを言われなかったのですか? 普通、喋られるでしょ」


「普通、喋る? どうしてですか?」


「だって、魔力を持っているのと持っていないのとでは、周りの扱いが全然違います。それに、魔力持ちを公言していれば、色々な良縁が舞い込んで来ますよ。侯爵家、伯爵家だって夢ではありませんわ」


「それはわかりますが……、魔力自体、努力して得たものではございませんから、それを殊更、誇らしげに話すのは違うと思うのです」


「……」


 カーラ様は黙り込まれました。他の方々も何も言われません。


 ただ、セラフィーナ様は、親指を立てた拳を小さく掲げてくれました。グッドのサイン。下町で流行っているのを私が、教えて差し上げました。


 しかし、何がグッドなのでしょう? 


 はあ……。マクシーネ様が、ため息をつかれました。そして、


「パティ様。わたくし、貴女は自分が注目を集められるなら、他人なんてどうでも良い、そういう身勝手な人だと思っておりましたの。人となりを完全に見誤っておりました。自分の浅はかさが情けないです」


 続いて、カーラ様も。


「そうですね、私も同様です。パティ様は魔力をお持ちのことを自慢どころか、話もされないお方なのに……、申し訳ありませんでしたわ」

 

 キャスリン様、レジーナ様、メアリー様も。


「私も謝ります」「私もです」「私も、すみませんでした。パティ様」


 五人全員、私に頭を下げてくれました。


 こんなことになろうとは思ってもいませんでした。マクシーネ様達は、貴族故、誇り高く、こちらが一方的に謝るしかないと思っていたのです。まさか全員が、自分達の非も認め、こちらにも謝ってくれるとは……、なんて素直な方達なのでしょう。これでは、下町の娘たちの方が、よっぽど意地っ張りです、頑なです。彼女達の人となりを見誤っていたのは私も同じでした。


 浅はかなのは、私も同様です。


 再度、彼女達に謝りました。そして……。


「皆様、セラフィーナ様とお友達になるついでで良いのです、私とも友達になって下さい、仲良くして下さい。お願いします!」


 私は真面目に言ったのですが、言い回しがおかしかったのか、皆に一斉に大笑いされてしまいました。普通なら、真面目にいってるのにー! と怒りたいところなのですが、


「もう、パティ様ったら。()()()って!」


 その笑い声の中に、温かみがあって、なんとも心地良く感じられ、いつしか私も一緒に笑っていました。


 嬉しかったです。


 マクシーネ様達と和解し、仲良くなれたことも当然嬉しかったのですが、もっと嬉しかったのは、皆と一緒に、笑顔になっているセラフィーナ様を見られたことです。彼女はいつも私に微笑んでくれますが、これほど幸せそうに笑われているのを見るのは初めてでした。


 私はセラフィーナ様に、お友達カード(通行証)をもらっているので、時々、学院の高位貴族エリアに伺います。セラフィーナ様は一人の時もありますが、殆どは取り巻き達に囲まれています。その取り巻き達の中には、私がセラフィーナ様から、お友達カードをもらっていることを知っていても、私が来ると、露骨に嫌な顔をされる方も少なくありません。その時の、セラフィーナ様の悲しそうな顔といったら……。


 セラフィーナ様にあのような悲しい思いをさせるなら、あちらへお伺いするのを止めようかと思ったこともあるほどです。皇太子殿下の言った、「彼女には取り巻きはいても、友達はいない」という言葉は本当なのでしょう。彼女が悲しむようなことを、平気でするような人たちが友達である訳がありません。(この時は、本当にこう思っていました)


 アンナ達が、お茶を運んで来てくれました。グッドタイミング。私達の話し合いが終了する頃合いを、きちんと見ていたのでしょう。


「さあ、皆様。お茶にいたしましょう。今回は、美味しいお茶を楽しんでいただこうと、ティオール産の茶葉を取り寄せましたのよ」


「「「 ティオール産! 」」」 


 控えめな歓声があがりました。だって私達は淑女でございます。大声などあげはしません。(ウソです、結構大きな声でした)


 アンナが、私のカップにお茶(ティー)を注いでくれています。なんとも言えない良い香り。


 ようやく、お茶会が始まりました。


ここに至ってまだ、お茶を飲んでいないお茶会……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あはは。 私はまた、私の物語の中で魔法の力の存在を利用していました。 貴族が遺伝的シンボルと超人的な力を持っているときに世界がどのように変化するかを考えるのはとても興味深いです。
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