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臆病の代償

坂本率いる技術局戦車修理部隊は、緑の覆いが被された輸送車に乗りながら、高速換装走行戦車3台に護衛されて本国を出発した。



通常、前線で故障した武器、戦車、戦闘ヘリ等は後方の基地へ送られて修理される。

しかし先日の大規模な帝国軍の地上作戦により、北部戦線の王公国軍戦車の約30%が損傷する被害を受けた。

後方基地に駐在していた整備士は、ほぼ全員がその修復に駆り出された為、本国勤務の坂本たちにも北部基地での仕事として送られることになった。



しかし、坂本含め彼らの多くが北部に行く事に対して不安を覚えることはなかった。

(しょせんは後方の基地。戦争に巻き込まれる可能性もなければ、安全な勤務となるだろう)

だが、彼らの予想は思わぬ形で裏切られる事となる。



ー午前10:00 同時刻ー



「一体どうなってる、41基地と連絡が取れないぞ。」



輸送車の助手席に座る兵士は焦りを顔ににじませる。



「安心しろって。ここいらじゃ地中に埋まってるダイナ鉱石のせいで通信に支障が出るらしい。」



運転席の兵士は40歳くらいだろうか、ハンドルに手を置きながら助手席の兵士をたしなめる。



「ダイナ鉱石ってあれですか?大深度地下で発見されたって言う…」



「そうだ。その鉱石が放つ微弱な電波で、俺たちの通信機器がダメになるらしい。その電波が41地区へ向かうこの道でも確認されてるから、ま、結果は見えてるよな。分かってたけど。」



運転席の兵士はそう言うと、前方の道に目を凝らす。



「霧も出てきやがったか…嫌な感じだな。」



輸送車は濃い霧に突入する。

輸送車は霧をその体に受けながら、真っ白な世界をかき分けて進む。



輸送車は前方にいる戦車のテールランプで間隔を保つが、それもじきに白くぼやけ始める。



「こりゃひでぇな。まだ通信は戻らないのか?」



速度を落としつつ、助手席で通信機材をいじる兵士に訊ねる。



「ダメです、41基地からの応答ありません。」



兵士は諦めたように、ため息をして背もたれに寄りかかる。



運転席と薄い壁に仕切られた後部座席では、坂本の部下が聞き耳を立てていた。



「どうやら41基地と連絡が取れないらしいです。」



どういう事だ、と作業服の部下達の間に動揺が広がる。



「理由はなんだ?」



「ダイナ鉱石の電波でこちらの通信機器がやられているのでは、という事です。」



坂本の問に対し、部下が答える。



「いや、それはおかしい。」



細い眼鏡をした部下が反論する。



「ダイナ鉱石が元となる電波はかなり下の地下から来るもので、軍の通信機器を妨害する事が出来るほどの電波があると考えられがちですが実際の所はそれ程強い電波でないのでダイナ鉱石が原因とは考えにくいと予測します。」



「では、例えば巨大なダイナ鉱石が地中にあったら、電波も強くなって通信を妨害する事は有り得るのか?」



坂本は疑問を投げかける。

部下は人差し指で眼鏡をあげると、



「基本的には15センチ以下のダイナ鉱石しか発見されておらず、たとえ質量が大きいダイナ鉱石が存在したとして、それがどれ程の電波を持つのかは不明なところです。」



「ではダイナ鉱石が関係する可能性は捨てきれないという事か。…だが、通信が使えないのといいこの霧といい、嫌な気分だな。」



坂本は窓から霧の白以外何も見えない景色を見つめる。



輸送車が霧の真ん中で停止する。



「どうしたんですか?こんな所で。」



坂本は小窓を開けて運転席の兵士に訊ねる。



帰ってきたのは坂本を驚かせる答えだった。



「いや、ここはもう41基地の手前ですよ。」



坂本自身、霧で正確な場所と距離が曖昧になっていた事にここで気づく。



運転席の窓から見えるのは白い景色がほとんどで、奥にうっすらと基地の入口が見える程度だった。

通信はまだ繋がらない。

チャンネルはオンになっているが、ノイズしか聞こえてこない。


「仕方ない。よし、信号弾だ。」



運転席の兵士は助手席の兵士に命令する。



確かに、霧でこちらから基地が見えないということは、基地からも我々の位置が把握出来ていないはず。

まして通信機器が使えない以上、信号弾を使って基地に来訪を知らせるしかない。



兵士は助手席の窓から信号弾を打ち上げる。

霧の世界からでも上空でまばゆい光の玉が見える。

これで基地にいる兵士達は気付くはずだ。



少しして基地の入口に6つの黒い影が現れる。

坂本達にはその影が戦車のシルエットだと言うことが理解出来た。




「戦車が6台もこちらに向かってきている…?」



ここには戦車の修理に来た技術局員数十名しか居ないのに、あまりにも敏感な反応だと坂本は引っ掛かりを覚える。

先日の帝国軍の攻撃で基地警戒レベルが引き上げられたのであろうか、それとも帝国のスパイが紛れ込んでいる可能性を考慮して外部からの兵士には厳しく対応でもするのだろうか。



「あれは、王公国軍の戦車では無い…?」



眼鏡を手で持ち上げながら、部下はぼそりとつぶやく。

こちらに近づいてくる戦車の影。



王公国軍の戦車は「サタニアベース」と呼ばれている。

サタニアという戦車を基本ベースとして、改良を重ねられた戦車を王公国軍は使用しているので、平たく車高が低いといういくつかの性質をそのまま受け継いでいる。

だが近づいてくる戦車はサタニアベースの戦車にしては車高が明らかに高い。



「まさか…」


坂本は絶句する。

後ろでも小さい窓に殺到していた部下達も顔を青くして戦慄していた。

坂本を含め彼らは戦車についてはエキスパート。

戦車を毎日見てきた彼らにとって目の前にある状況は余りにも残酷なものだった。



「い、今すぐここから退避を!あれは帝国軍の戦車です!」



坂本は必死に運転席にいる兵士に訴える。



「な、何を言っている?あの戦車は王公国軍の基地から出てきたんだぞ」



兵士には坂本が焦る状況が理解できなかった。



最前列にいた護衛の戦車が爆発し、戦車の部品が飛び散る。



「りゅ、榴弾!?」



助手席の兵士は目を疑う。

彼は状況が理解出来ず、砲弾が飛んでくるのを眺めるしかなかった。



運転席の兵士は短い舌打ちと共にハンドルを回して急発進する。

残った2台の戦車も攻撃されているという事に気づき撤退を試みる。



だが、方向変換をする前に最後尾の戦車が榴弾の直撃で爆散する。

基地から出てきた戦車団は既に左右に展開し、こちらを射程に収めていた。

輸送車は別方向に待避せざるを得なくなった。

それは驚く程に早く、そして戦術的な動きだった。



「最前列と最後列の戦車を先に潰して退路を絶った…。圧倒的に早い展開…。戦車の外殻のあの形…。」



眼鏡の部下は座席の隅で呟くと、「そうか」と声を上げる。




「敵の正体は【帝国軍作戦戦術戦車部隊】です!」



「それは本当か?」



「北部戦線であれほどの高い練度を持つ戦車部隊はSS(作戦戦術)以外有り得ません!戦車の外殻もダルタベースに類似しています!」



「しかし何故SSがここに…。」



坂本の言葉は榴弾の直撃によって遮られてしまう。

輸送車の後部車輪下に潜り込んだ弾が爆発し、その衝撃で後部が持ち上がる。

体制を崩した車はそのまま横転してしまう。



坂本は強く打ちつけた腕を抑えて痛みを押し殺しながら、部下達に呼びかける。



「だっ、大丈夫か!」



斜めになった世界で、部下達は座席の横から這い出してくる。

トラックシートはボロボロになり、後方の骨組みが吹き飛んでぽっかりと穴が空いている。




「この輸送車はもう駄目だ。早く降りるんだ!」




坂本は部下達を開いた穴から出るように指示する。

負傷した部下を介抱し、最後の一人が出たことを確認して、坂本も脱出しようと後方の穴に手をかける。

そこに2発目が打ちつけ、輸送車の前部が吹き飛ぶ。



「どわぁあぁああああ!!」



坂本の体は爆風に飛ばされる形で地面に叩きつけられる。

痛みに悶絶する坂本に、輸送車を運転していた兵士が駆け寄ってくる。



「おい、大丈夫か!?」



「…ええ、何とか。」



坂本は彼の手を掴んで立ちあがる。

そこに、助手席に座っていた若い兵士が走ってこちらに向かってくる。



「隊長、残ったのはこれだけです。」



彼は生き残った一台の戦車でこちらに向かってくる。



「ど、どうしましょう!?」



坂本は焦るしかなかった。

帝国軍の戦車は6台。

この圧倒的な戦力差では結果は目に見えている。



しかも、敵は戦車を扱う特別部隊。

この視界が取れない霧の中でほぼ完璧に砲弾を当ててくる事から、敵の戦車を扱う技能が高いことは容易に想像できる。



「このままだと完全な包囲網を敷かれて全滅する。だから、俺たちが生きている戦車で敵の気を引く。」



運転席の兵士は淡々と、しかしどこか悲しげに提案する。



「ですがそれではっ…!」



坂本は味方を囮にする事を受け入れらない。

だが彼自身、この状況から抜け出す方法を見つけられないでいた。



「俺達兵士は戦場で散る。帝国軍と戦って、土に還るのが俺達の役目だ。しかも味方の命を救える。……これ程良い死に場所は無い。」



兵士は坂本に諭すように告げる。

だがそれはどこか、理由を作って自分自身を納得させようとしているようにも聞こえた。



「自分も……覚悟をして兵士になりました。技術局員の皆さんは王公国の国民です。そして、国民を守るのは兵士の務めです!」



助手席に座っていた若い兵士が小銃を肩にかけて立ちあがる。



まだ30代にも満たない風貌で、その兵士は命をかけて職務を全うしようとしている。

人生これからだというのに。

その全てを投げうって、今から死にに行こうと言うのだ。




「そういう事だ。あんたらは近くにある茂みかくぼみに隠れろ。そうすれば動くものは陽動する戦車だけになる。」




兵士は坂本の肩に手を置いて、立ちあがる。



「俺たちの想い、あんたらに預ける。王公国をよろしく頼む。」



兵士は力強くそう言うと、戦車に向かって駆け出す。



坂本には理解出来なかった。

何故彼らは名前すら知らない我々を、大義のためと助けられるのか。

何故彼らは知りもしない我々に想いを預けられるのか。

例え坂本が兵士になろうとも、彼らのようにはなれないと分かってしまう。



エンジンがかかり、2人の命を乗せた戦車が動き出そうとするのをただただ見送る坂本達。

そんな時砲弾が1発、彼らの近くの地面に直撃する。

地面が吹き飛ぶその威力に、坂本含め皆が恐怖し、蜘蛛(くも)の子を散らすようにバラバラに逃げ出す。

あるものは低木の真下に、あるものは砲弾でめくれ塹壕(ざんごう)のようになったくぼみに、そして坂本は茂みに逃げ込む。



全身を丸め、両手で頭を抱えて怯える坂本。

そんな彼も出来ることならあの兵士達と共に、部下を守る囮を買って出たかった。

出来ることなら若い兵士の未来の為、自分が代わりに志願したかった。



だが坂本は動けない。

ただ、ただ恥も外聞(がいぶん)も捨てて茂みの中で丸まっていた。



「僕は勇敢な兵士にはなれないっ!僕は自分に嘘をつけないんだっ!」



か細くつぶやき唇を噛み締めることしか坂本には出来なかった。



臆病の代償という名の砲弾の音が止むまで。

高速換装走行戦車=通常の戦車とは違い、重い装甲板が取り外され、軽量化された装甲に換装された戦車。基本的に高速移動の際の護衛や輸送任務などに使われ、砲弾が飛び交う戦場で使われることは基本的に無い。


榴弾(りゅうだん)=内部に炸薬が詰め込まれた、爆発する砲弾。




次話「友軍」

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