籠の中の空
家庭。少年にとって常にそれは、鳥籠同然だった。
血の繋がりという運命の糸は、無様に絡み、そして時に人を雁字搦めにする。それは決して断ち切ることは出来ない。少年はまさしく、囚人の想いだった。
少年の親父は紛れもなく、人間の屑だった。その罪は万死に値する。親父によって、少年が深刻な人間不信になったことは確かだ。
第1の原因が暴力。
親父は仕事等のストレスが溜まると、それを発散する為に、いつも怒鳴り散らしては、自身の妻に暴力を振るった。それもビンタ1発なんて生温いものではない。髪の毛を引っ張り、引きずり回して、まるでサンドバッグの如く、滅茶苦茶に殴る蹴るを繰り返す。例えるならば、暴力のデパート。親父の最大の特技は、妻の身体中に真紫色の痣で出来た水玉模様を作り出すことだった。
少年のお袋は、その怪我で肋骨が折れた事もあった。よくボクサーが発症する、殴られたことによる網膜剥離という病気で失明しかけて、手術も何回かした。
その光景を、物心つく前から見せられてきた少年は、人間の本質は〝修羅〟であると悟った。それと同時に、既に完全な人間不信に陥っていた。
自分の親父と同じような暴力性。それを「誰しもが心の中に秘めているのでは?」と思うと、人間が恐ろしくてたまらなくなった。
そして、「自分には親父の血が流れているのだから、自分もきっと大人になったら、親父と同じ様に暴力を振るう可能性が高いのでは?」と思い、とても正気ではいられなかった。
第2の原因は育児放棄。
親父は子どもに興味がなかった。
それよりもギャンブルに熱中した。ギャンブル依存症だった。よくギャンブルのために、借金をしてお袋を困らせた。家族で一緒に映画を観る約束を忘れて、パチンコをしている、なんてことは当たり前。
少年の両親は共働きだった。お袋は家から片道2時間半かかる場所での勤務だった。そのため、家から近い場所で働く親父が、少年の面倒をみるはずだった。
しかし当然、親父は仕事が終わると、ギャンブルをしに行く。面倒はみてもらえない。家に帰って来てする事と言えば、ゲームか暴力。
故に、家庭での少年は、常に孤独と恐怖と隣合わせだった。
これらの経験は、少年の孤独感を、人一倍強めた原因でもある。
家族の温もりを知り、信頼関係を学び、精神の自我が確立されていくはずの1番大事な幼少期を、孤独に過ごす少年の絶望は計り知れない。