ナンバーワンよりオンリーワン
「きみ、みかけない顔だね。」
高級バターくんがいいました。
「やあ、こんにちは。ぼく、トクホのマーガリンといいます。よろしく。」
冷蔵庫の真ん中の段の左はしは、高級バターと普通のマーガリンと無塩バターのコーナーになっていて、そこに今日、トクホのマーガリンくんが新たに加わりました。
「ねぇ、トクホってなに?」
普通のマーガリンさんがききました。
「……」
ものしりの高級バターくんでも、わかりません。
「トクホってのはね――」
トクホのマーガリンくんが自慢げに説明します。どうやら「トクホ」というのは、特定保健用食品の略で、トクホのマーガリンくんの場合、人間の血中コレステロール、とくに悪玉コレステロールを下げる役割があるらしいのです。
その次の日から、毎朝、トクホのマーガリンくんだけが食卓に呼ばれるようになりました。今まで、朝食にかかせなかった普通のマーガリンさんは、もっぱらお料理に使われるようになりました。
トクホのマーガリンくんは得意げにいいます。
「きみたち、ひまそうだね。ぼくは、毎日いそがしいよ。おかげさまで、ぼくはもう半分になったよ。残念だけど、もうすぐお別れだね。」
トクホのマーガリンくんが残り少なくなったある日のことです。トクホのマーガリンくんがしょんぼりして食卓から帰ってきました。なんだか、いつもと様子がちがいます。
「どうしたの?」
普通のマーガリンさんがききました。
「なやみがあるなら、きくわよ」
無塩バターさんがやさしくいいます。
「……ぼく、おいしくないんだって。コクがないっていわれた。やっぱりバターには勝てないや。高級バターくん、きみがうらやましいよ。きみはすごくほめられていたよ。同じ高いお金をかけるなら、高級バターのほうがよかったっていわれたよ。ぼくはもう、おわりだ」
「なにをいっているんだ。きみにはきみのいいところがある。だってきみはトクホじゃないか。トクホには、めったになれないんだろう? ぼくたちにはない特長を、唯一もっているじゃないか。ぼくは高級だけど、実は賞味期限が過ぎているんだ。もう味は落ちているよ。しかも、賞味期限切れに気付かれて、捨てられるんじゃないかと、毎日びくびくしているんだ。」高級バターくんがいいました。
「わたしなんか、ほめられたことなんて一度もないわよ」と無塩バターさん。
「みんなそれぞれいいところをもっている。人の意見に左右されずに、しっかり自分をもつことだ。普通のマーガリンさんは、今ではムニエルや炒め物で活躍している。無塩バターさんは、お菓子作りにはかかせない。みんなちがうからいいんじゃないか。だれがなんといおうと、きみを求めている人は世の中にたくさんいるはず。きみが存在しているのが、なによりも証拠さ。」
「ありがとう高級バターくん。きみに会えてよかったよ。いままで、ぼくはかんちがいしていたよ。毎日パンにぬってもらって、いい気になっていた。はずかしながら、ぼくはトクホという肩書きを鼻にかけてきみたちをバカにしていたんだ。ほんとうにごめんなさい。優劣なんてあるはずもないのに。バカなぼくをゆるしてください。」
そういって、トクホのマーガリンくんは涙をながしました。
「ゆるすもなにも、わたしたちは気にしてないわよ。」
普通のマーガリンさんがいいました。
「そうよ。個性があってあたりまえ。この冷蔵庫に同じものは必要ないの。」
無塩バターさんもいいました。
「ありがとう。最後にきみたちとお話ができてよかった。短い間だったけど、お世話になりました。」
次の日の朝、トクホのマーガリンくんは胸をはって、堂々と冷蔵庫をあとにしました。
その日、トクホのマーガリンくんは帰ってきませんでした。
また、いつもの朝はやってきます。今度は、高級バターくんが食卓に呼ばれるようになりました。




