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序章 全ての始まり

 新作を書いてみました。


 本格的な投稿はまだまだ先ですが、戯れ程度に読んでくださると幸いです。


 気ままな一ヶ月更新の予定ですので、よろしくお願いします。 


 あちらこちらで怒号が響き、ついで何かが爆発する音や何百発もの銃声が断続的に国中に轟いた。


 国は今疲弊し、国民は怒り狂っていた。


 長く続いた王政を壊そうと、日夜問わず声を荒らげて街路を練り歩く。

 

 かつての栄光も、かつての平和な町並みは見る影もなく・・・・・・、街は、民は荒んでいくばかり。


 変わっていく国を何も出来ずに、ただただ高い塀に囲まれた王宮の一室から見下ろすばかりの無能で愚かな王ーーーーーー、時のフランス王国国王ルイ16世。


 彼の傍らには最愛の妻である王妃ーーーーーー、マリー・アントワネットがおり、彼女の腕には生まれたばかりの娘であるソフィーが穏やかな顔で眠っていた。


 彼女は反乱渦巻く最中に生を受けた。国民も、王宮内もソフィーの生誕を祝う余裕も時間もなく、他の姉弟たちの時のように盛大に祝われることはなかった。


「・・・・・・あなた、ソフィーは、私たちの子供たちはこれからどうなるのかしら?」


 腕に抱いたソフィーを強く抱き締めつつ、我が妻は眼下に広がる所々火の手が上がり燃え上がる王国を窓から見下ろして、ポツリと一人言のように呟いた。


 彼女は怯えていた。


 自分達の行く末を。


 いや、聡明な彼女の事だ。この反乱の先に待ち受ける未来などとうに見当がついているのだろう。


 それでも彼女は母親だ。自分が腹を痛めて産んだ可愛い四人の子供たちの未来を案じているのだ。


「私たちはどうなってもいい。民の怒りは最もだわ。けれど・・・・・・、子供たちには何の非も責もない。あの子達だけでも無事でいてくれたらーーーーーー」


「マリー・・・・・・」


 ソッと彼女の肩へと腕を伸ばして、ソフィーを抱いたままの妻を自分の方へと抱き寄せる。マリーの色白で細い体はフルフルと小刻みに震えていた。


 これからどうすればいいのだろう。


 破滅への道は着実に近づいている。一年後か、十年後かは分からないが・・・・・・、遠い将来確実に我が一族に降りかかる。


 それは子供たちも例外ではない。


 王女であるテレーズはともかく、王子たちは間違いなく処刑されてしまうであろう。いや、下手したら一族全員殺されるかもしれい。


 それほどまでに民衆の怒りは凄まじい。


 ルイ16世は不安と恐怖にうち震える妻を見下ろしつつ、彼女の不安を取り除きたい一心である提案を口にした。


 子供たち全員は助けられないかもしれない。


 それでも。


 ただ一人、ただ一人だけ。


 妻の腕に抱かれているソフィーだけならば、殺されずに済むかもしれない。


 これは一種の賭けであった。


「ーーーーーーマリー。私に、ある考えがあるんだ。聞いてくれるかい?」


 妻は大人しく、何の反論もなく、荒唐無稽とも取れる話を聞いて大きく目を見開けるとーーーーーー、抱いたソフィーへと視線を向けて優しく微笑んだ。






 そして、それから一ヶ月後。


 限られた人間だけ、信用の置ける一部の重臣にだけ作戦を伝えて実行に移した。


 誰にも疑われずソフィーを王宮から脱するためには替え玉を用意する必要があった。しかし、大きくなるに従って別人だとバレるかもしれない。


 それを防ぐためにはソフィーを病死だと嘯く必然があった。死んでしまえば疑う人間はいない。


 それに僅か一歳にも満たない赤ん坊など尚更であった。


 この作戦を実行するのには、ちゃんとした理由があった。


 ソフィーは国を挙げて祝われなかったのも理由の一つだし、彼女は第二王女だ。王子でもなく、王位継承権は四番目と限りなく低いのも理由に上がった。


 それにこの当時では赤ん坊の死体など腐るほどある。ソフィーと同じ性別に、似たような外見の赤ん坊を探し出して、ソフィーとして埋葬すればいい。


 そう、マリーに告げた。


 変わり身を埋葬したあと、信の置ける重臣にソフィーを連れ出してもらう。王都からずっとずっと離れた、それこそ国境近い山奥の村に。


 ソフィーはそこで”ただの村娘”として、平穏に平和に一生を終えてもらう。


 それだけで、ただそれだけで私たちは幸せだ。

 

 最後の夜。


 私たち夫婦は籠の中で何も知らずに眠るソフィーの顔を見下ろしつつ、その白く柔らかな頬に交互に口づけを落とす。


 名残惜しいが、あまり時間はない。手間取ってしまうと他の兄弟たちに気づかれる恐れがある。


 それだけは避けなければ。


「ーーーーーーでは、頼むよ」


「ソフィーを、ベアトリスをよろしくね」


「・・・・・・はい、命に変えてもソフィー姫様を御守りします」


 深く礼をしたのは、ソフィーの乳母であった年若のメイドであるアンナであった。赤茶の髪をシニョンにまとめ上げ、利発そうな顔をキリリと引き締めて。


 王と王妃からのたっての頼みを完遂すべく。


 アンナはソフィーが寝かされた籠を大事そうに抱えると、今一度王と王妃へと深い深い礼をして王宮内に隠された秘密の通路を渡って行く。


 本当ならば自分達で行きたい。


 だけどこの事が他の者に気取られるわけには行かず、王と王妃たちは泣く泣く涙を飲んでソフィーたちを見送った。


 アンナの後ろ姿を消えるまで見送りながら、マリー・アントワネットはルイ16世へとソッと体を預けて、嗚咽の声を漏らさずに涙を流した。


 幸せに、生きてさえいてくれればいい。


 それだけで、私たちは救われるのだから。


 アンナが消えたカビ臭い秘密通路を何時までも、時が許すまで見つめ続けるルイ16世とマリー・アントワネットであった。



 この時、そう。


 歴史の歯車は一つ外れたのだ。


 外れた歯車は、時が進むにつれ歪を生み出す。


 外れた外史はどう転ぶのか。


 今は、誰にも分からない。


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