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宰相から見た魔王

おはようございます。

第87話投稿させて頂きます。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。

今回は別の人視点です。

楽しんで頂けたら幸いです。

「メルビス様‼大変です‼魔王様がご帰還されました‼」


 執務室で魔王様の居ない間に溜まった仕事を処理し、魔王様の確認が必要な物だけを纏めていると部下の一人が転がるように部屋に入って来て捲し立てる様に魔王様の帰還を告げる。


「何を言っているんですか?魔王様が戻られるのはもう少ししてからでしょう?」


 彼の言葉に首を傾げていると焦った様子で口を開く。


「そ、それが裏切り者の存在を確認したから一時的に戻ってこられたようです・・・至急メルビス宰相とクロノス軍団長を呼ぶように命令を受けました。何と言うかいつもの魔王様と違い非常に近寄り難い雰囲気ですので急いで向かわれた方がよろしいかと・・・」


 そう言いながら小刻みに震えている彼の様子に違和感を覚えながら私は彼に礼を言い急いで魔王様が待つ地下に降りる。

 魔法陣の有る部屋のドアノブに手を掛けた瞬間に部屋から漏れ出る殺気で私は、なぜ彼が震えていたのかを悟る。


「どうかしたんですか?メルビス?」


 ドアノブに手を掛けたまま立って居た私に疑問を持ったのか後から来たクロノスが不思議そうな顔で近づいて来る。

 近くまで来ると魔王様の殺気を感じたのかクロノスも驚いた様な顔になる。


「これは、これは・・・色々と不味そうでございますね・・・」


 茶化しながらも硬い表情になったクロノスと共にドアを開け中に入る。


「メルビス、クロノス、忙しい所を急に呼び出してすまなかったね」


 中に入るとドアの外以上の圧力と共に魔王様から声を掛けられる。

 いつものフードにコート姿で静かに立つ彼女を見て更に身を固くしてしまう。口調や声の感じはいつも通りの魔王様な所為で余計に恐ろしい。


「いえ、お待たせして申し訳ありませんでした。魔王様。メルビス、御身の前に。予定よりお早いご帰還でしたが何かございましたか?」

「お待たせいたしました愛しき我が魔王、クロノス、御身の前に」


 二人で同時に魔王様に礼をして挨拶をする。

 魔王様は我々に頭を上げるように言うと淡々とした口調で急な帰還の理由を語りだす。


「騒がせてしまってすまない。転移装置の統括を任せている者が裏切り強欲の国と手を組んで転移装置を悪用した」


 魔王様の言葉に私は思わず愕然としてしまう。黄昏の国は幸いにも歴代の魔王様方がしっかりしていた事も有り、他の国に比べ国民や職員の待遇が非常に良い。特に転移装置の管理に関してはコハク様が厳重に管理していたのだ。まさか、裏切る様な者が出て来るとは思わなかった。


「すぐに調査して身柄を拘束します」

「いや、今から行って直接調べるから必要ない。ガザンは職場にいるかい?」


 私の言葉に魔王様は冷静に答え、ガザンの居場所を聞いてくる。


「はい、我が魔王。今朝も普通に出勤して来たのを確認しています」

「そうか、逃げる算段がまだ付いていないのか私がなめられているのかは分からないけど運が良かったな。教えてくれてありがとう。クロノス」


 小さくそう呟くと私達の方を向き、口を開く。


「メルビス、クロノス。さっきも言ったが今から彼等の職場に行き、直接事の真偽を確かめる。付いて来て私がやり過ぎたら二人で止めてくれ」


 魔王様の言葉に私はようやくクロノスと共に呼ばれた意味を理解した。

 要するに魔王様は相手を殺しかねないと言っているのだ。

 いつもと違う魔王様の精神状態を心配しながら私はクロノスと一緒に魔王様の後を追う。


 カツカツカツっと足音を響かせながら大理石の敷き詰められた廊下を歩いて行くとすれ違う職員達がギョッとした顔で此方を見て来る。

 まぁ、いつもの彼女では無いのでそんな反応も当たり前だろう。はっきり言って今のコハク様は物凄く怖い。敢えて言うのならばマジギレした時の嫁さんとメイド長並みに怖い。

 そうこうしている内に統括室と書かれたプレートの付けられている部屋の前まで来ると魔王様はノックもせずにドアノブを捻る。

 鍵が掛かっていたのかバキッという音と共にドアノブが壊れドアが開く。


「な⁉だ、誰だ⁉部屋に入る時にはノックをしろといつも言っているだ・・・ヒ⁉ま、魔王様・・・」


 椅子にふんぞり返って座り文句を言っていたガザンが魔王様の顔(仮面を着けているので正確には姿)を見て悲鳴に似た声を上げる。


「やぁ、ガザン、仕事中にも関わらず随分と暇そうじゃないか?部下に仕事を押し付けて良い御身分だな?」


 ガザンの姿を見た魔王様の声は最早絶対零度の域に達しているような声音だ。


「まままま魔王様、どうしてこちらに?確か人間領の方に行っておられるとお聞きしましたが、なぜ、こちらに?」

「ほぉ、なんで私がここに来たのか心当たりがないと?本気で言っているのか?」


 しどろもどろになりながら何故ここに来たのかを聞いたガザンに魔王様は相変わらず底冷えするような声音で答える。


「こ、心当たり等ございません。ま、魔王様には全てを見抜く眼が有ると存じております。その目で私を見て頂ければ直ぐに誤解も解けると・・・」

「なるほど、魔眼除けの魔道具か・・・こんな物で誤魔化されるとは嫌悪して使わないのも問題か・・・全く持って舐められていたかと思うと腹立たしい」


 魔王様がいつの間にか持っていた物に私を含めてクロノスとガザンが思わず目を見開く。

 ソレを興味が失せた様に投げ捨てる。部屋に置いてあった置物に偽装して有った魔道具は壁にぶつかりガシャンっと音を立てて砕け散る。


「なるほど、本当のお前はそう言う腹積もりだったのか、なかなか優秀な魔道具だったみたいだな?それで?どのくらい横領したんだ?」

「こ、この糞アマがああああああ‼‼‼‼‼


 魔王様の言葉にいきなり短剣を構えて走って来るガザンの両腕が一瞬にして宙を舞う。


「へ?」


 一瞬の出来事にガザンが間抜けな声を上げ床に転がる。


「お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼」


 驚き魔王様を見ると特にカグツチの柄に手を掛けているだけで抜いた様には見えなかった。クロノスの時止めを使ったのかと思いクロノスを見ると首を振り否定の意を表している。

 つまり、魔王様はこちらが視認できない速さでカグツチを抜き、ガザンの腕を切り落としたという事だ。

 魔王様はそのままガザンの近くまで行くとしゃがみ込みここに来た理由を話す。


「私が此処に来たのは転移装置が強欲の国によって不当に使用された事が分かったからだ。なあ、ガザン?心当たりが有るよな?」


 悲鳴を上げるだけのガザンに向かって魔王様は更に言葉を続ける。


「私がお前に此処を任せた時に言った言葉とお前が答えた言葉を覚えているか?私は何が有っても人間の国や他の国に迷惑や侵略を起こそうとする輩に使わせるなと言い。もし、破ったら地獄の苦しみの中で殺すと言ったんだ。そして当時のお前はそれを誓ったんだ。地位を得て5年という月日でお前が変わってしまった事が私には残念で仕方がない。お前の欲の所為でどれ程の人や魔族が命の危機に陥っていたかをよく考えろ‼クロノス、悪いがコイツを治療室に連れて行き余罪を吐かせたら後で、報告書で纏めてくれるかい?特に強欲の国とどんな取引をしたかどんな技術を流したかを徹底的に調べ上げてくれ」

「畏まりました。処分はどういたしますか?」

「報告書の内容に違いが無いかを私が確認するまでは生かしておいてくれる?その後は好きに処刑してくれていいよ」

「御身の意のままに」


 そう言ってクロノスはガザンを担ぎ上げるとドアを開いて外に出て行く。途中職員の悲鳴が聞こえたが・・・まぁ、血塗れの統括責任者を軍団長が担いでいたら当然だろう・・・

 その様子を見て魔王様は「フゥー」っと小さく息を吐くと仮面を外し、力なくガザンの座っていた椅子に崩れる様に腰掛ける。

 その姿はさっきまでと違い小さく今にも消えてしまいそうな印象を持たせる。


「無駄な殺気で迷惑をかけてごめんね。メルビス・・・皆にも悪い事をした」


 疲れた様に言う魔王様・・・コハク様はやはりいつもと違ってどこか弱々しい印象を受ける。


「今回は本当に運が良かった・・・管理が甘かったばかりに何も罪の無い人達を大勢死なせる所だった・・・この眼で色々な人を見て人を信じすぎてはいけないと知っていたはずなのにね・・・」


 只々、弱々しくそう呟くコハク様に今更ながら魔王である前に未だに成人すらしていない一人の少女であった事を思い出す。

 そして、特異な目の所為で本当は信頼したいと思いながら人を信用していない事も・・・

 ガザンは、もともとは真面目な者だった・・・皮肉な事に今回の事は信じてみようと思ったからこそ起きてしまったという事だ。


「コハク様、世の中は信じられない者ばかりではありませんよ。暁の魔王様、白夜の魔王様、憤怒の魔王様、レティシア様や幹部、この方達が裏切るとお思いですか?まぁ、相手にも主張が有るでしょうから絶対とは言えませんが少なくとも私は絶対に貴女を裏切らないと誓いましょう」

「・・・ありがとう」


 膝をついて彼女の手を握りながらそう言うとコハク様に少し笑いながらお礼を言われる。

 妻や娘、終いには息子にまで私は気の利いた事が言えないと言われているが、今この状態のコハク様を放っておいてはいけないという事だけはわかる。

 彼女の周りには信じられる者がいると知っておいてもらいたい。

 しばらくの間お互いに黙っていると不意にピピピッと音が鳴る。

 訝しんでいるとコハク様が通信機を出し、応答をする。

 しばらく話していると突然コハク様が驚いた様な声を上げる。


「ふぁ⁉もう戻って来たぁ⁉」


 そう言ったコハク様は重々しい雰囲気から一転して何時もの彼女に戻っていた。

 先程の姿にもし本当に信じている者の誰かが殺されたら彼女はどうなってしまうのかそんな一抹の不安を覚えながら私はいつもの雰囲気に戻った彼女を眺めていた。


次回はコハクの視点に戻ります。

あと少しで本題の敵に入れるようにしていきたいと思います。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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