無防備に眠る
おはようございます。
第82話投稿させて頂きます。
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星の後は視点が切り替わります。
コハク→和登→コハクです。
楽しんで頂けたら幸いです。
「はぁ~、何と言うか予想通りの事と予想外の事が入り混じった出来事ねぇ~、とりあえずコユキが髪を切った理由も分かったわ」
ニアさんとの一通りの面通しを済ませ私達はニアさんが持って来てくれたお茶を飲みながら此処まで有った事を話し終えニアさんは大きなため息と共にそう呟く。(ちなみに狗神君はフルニカ王国に着いた途端に女装を解いている)
狗神君達はニアさんにこんなに話して良かったのか?という顔をしている。
「それで?貴女達、今日は何処に泊まるつもりなの?」
ニアさんの言葉に私はニッコリと笑いながら口を開く。ここの家族は4人家族だけどギルド兼酒場兼自宅なのでそれなりに大きく部屋数も有る。そしてニアさんがこう聞いてくるという事はもう答えは決まっている。
「ニアさん。私が貸して貰っている部屋ってまだそのままですよね?あと、この家にはいくつか空き部屋が有りましたよね?」
私の言葉にニアさんもニッと笑う。やっぱり、ニアさんも泊めてくれるつもりみたいだ。
「もちろん。コユキの部屋も他の空き部屋もいつでも使えるようにしてあるわよ。」
「ありがとうございます」
「あの~、コユキ、全然状況が分からないんだけど・・・」
私とニアさんの間で話を纏めていると狗神君が控えめに状況の説明を求めて来る。
ニアさんと私の関係をよく知らない三人は何故私が彼女を信頼しているのか今一分からない様だ。うん、説明してない私が悪いね。
「この人はニアさん、この国に来て私が一番、最初にお世話になった人だよ。このギルド兼酒場の人で第二の厄災の時に私の事情も話してあるから今は知っているんだよ」
私の言葉に三人は納得した顔になる。まぁ、どこが厄災に襲撃されたのかは渡した資料にも書いていたから納得してくれたのかな?
「お母さん誰か来たの?」
「ニア、そろそろ連中がそろそろ帰って来るぞ、準備してくれ~、客が来ているっていったい誰が・・・」
私達が話していると奥の方からシエロ君とゲインさんが顔を見せる。
「シエロ君、ゲインさん、お久しぶりです。お邪魔しています」
二人の方を向き笑顔で挨拶するとゲインさんとシエロ君は驚いた様に目を見開く。
「コユキ!来てたのか!」
「コユキお姉ちゃん‼お久しぶりです‼」
私の顔を見て二人はにこりと笑いながら声を掛けてくれた。こうやって見るとシエロ君はニアさんにもゲインさんにも似ているから面白い。
話したい事も有るけどそろそろ冒険者の人達が帰って来るみたいだから時間を取らせちゃ悪いよね。
「ゲインさん。そろそろ皆さん帰って来るんですよね?手伝いますよ?他に働き手もいますし」
「お、じゃあ、頼めるか?」
「「「ふぁ⁉」」」
私の冗談にゲインさんが乗っかり三人が素っ頓狂な声を上げる。
「冗談♪冗談♪」
唖然としている三人にゲインさんと一緒に冗談だと伝える。まぁ、私は手伝うけどね。
久しぶりに星読み亭の人達と話をし、気分転換も出来、午後のお店の手伝いをして過ごした。
「はぁ~、働いたぁ~」
お店の営業時間が終わり(シエロ君が生まれてから星詠み亭は営業時間を短縮して前みたいに深夜までやらなくなった)、お風呂を頂いてから居住スペースのリビングのソファーに座る。うん、やっぱり体を動かしての労働は良いね。書類仕事も大事だけどたまには現場に出ないとね。
マカさんとリルは明日に備えて部屋で休んでいる。狗神君は私と入れ替わりでお風呂だ。
「お疲れ様、悪いわね。酒場の方を手伝わせちゃって」
ソファーでのんびりさせて貰っているとニアさんがカップを差し出しながらそう言う。
「ありがとうございます。私が好きでやっている事ですよ」
お礼を言いながらカップを受け取るとニアさんが隣に座る。
「シエロ君はもう寝たんですか?」
「コユキのお陰でいつもより早く寝かせることが出来たわ」
私の質問にニアさんが笑いながら答える。ふむ、役に立てたなら良かった。
「いつまでこの国に居るの?」
ソファーに座りながらカップの中身を飲んでいると何時までフルニカに居るのかを聞いてくる。
「そうですねぇ、明日、狗神君達をダンジョンに置いて行って大体、2週間ぐらいでクリアー出来ると予想してそこから2日お休みしてから国に戻るつもりです。あと、彼らがダンジョンにいる間。私は、フェルシアの冒険者ギルドで少し情報収集や依頼を受けようと思っています。カルルカに戻って来るのは最後のお休みの2日間ぐらいですかね?星詠み祭りは見て行こうと思っています」
「・・・そう、またあんな化け物が来る時が近いの?」
私達の予定を聞きニアさんが心配そうな顔をして聞いてくる。
なんか毎回会う人に心配を掛けさせてしまい申し訳ないな・・・
「近いですね。次の標的国がわかっていて対処できているのが唯一の救いですかね・・・」
「あまり無理しちゃ駄目よ」
私の頭を優しく撫でながらニアさんは、無理はするなと諭すように話す。
撫でられるのが心地良くて段々と眠くなってくる。
「私は・・・無理・・・してないです・・・むしろ・・・狗神君達に・・・無理を・・・さ・・・せ・・・て・・・」
撫でられながら話していた所為か私の瞼は次第に下がっていき話をしている途中でゆっくりと途切れて行った。
☆
お店の人からお借りした風呂から出て頭を拭きながら廊下を歩きながらリビングの方に向かう。泊めて貰って厚かましいかもしれないけど水を一杯貰いに行こう。
・・・それにしても、俺が一緒に居る子らは後から俺が風呂に入る事に何の抵抗も無いのかね・・・?
そんな事を思いつつ教えて貰ったリビングに行くとソファーに二人の人が並んで座っている。
髪の感じからするとコユキとニアさんだろう。
「お風呂お借りしましたありがとうご・・・ざ・・・い・・・・・・」
お礼を言おうと近くに行き目の前の光景に言葉が途切れてしまい目を見開く。
そこにはこの旅で一回も見たことの無いあどけない寝顔のコユキが居た。マグカップを両手で握ったまま寝ている所を見るとついうっかりと言ったところだろうか・・・
ニアさんは驚く俺の顔を見て人差し指を立てシーっと言う様なジェスチャーをする。
「相当疲れていたみたいで話していたら寝ちゃったの」
コユキの頭を撫でながらニアさんはコユキが起きないように気を使った声量で話しかけて来る。
「一つだけ聞きたい事が有るんだけどこの子。最近、人を殺した?」
「はい、俺達を助けてくれる時にクラシアの兵をかなりの数・・・」
俺は思わず苦虫を潰したような顔で答える。
「そう、やっぱり殺したのね・・・あ、勘違いしないでね。貴方達を責めているわけじゃないのよ。この子、昔から人を殺めると心身に何からの不調が出るの・・・今ではあまり見ないけど最初の時には食事も摂れないぐらいにね・・・この子それを隠してすぐに無理するからそこだけが心配だったの」
優しくコユキの頭を撫でるニアさんを見て何となく姉妹みたいだなと思ってしまう。
「ところで何かしに来たんじゃないの?」
「あ、そうでした。すみません水を一杯いただけますか?」
「キッチンの方にグラスが有るからそれを使って、飲んだらこっちに戻って来てくれる?頼みたい事が有るの」
「あ、はい、分かりました」
ニアさんに返事をし、キッチンの方に行きコップを借りて蛇口から水を入れ飲む。
そう言えば今更だけどこの世界って蛇口とか普通に通っているんだね。
「ニアさん。すみません。お待たせしました。それで、頼みたい事って何ですか?」
キッチンからリビングに戻り、ニアさんに要件を聞くと彼女は少し笑いながら口を開く。
「悪いんだけどコユキを屋根裏にある部屋まで連れて行くのを手伝ってくれる?起こすのも可哀そうだから寝たまま連れていってあげたいんだけど私じゃちょっと抱き上げてあげられないからお願いできる?」
「分かりました」
ニアさんに返事をし、コユキに近づき考える。
さて、どうやって連れて行くか・・・
前から抱き上げるのは絶対に駄目だな、胸とか色々当たって俺が持たない。同じような理由でおんぶも駄目、じゃあ、少女漫画みたいで恥ずかしいがこれしか方法はないか・・・
ニアさんに手伝ってもらいコユキを所謂お姫様抱っこという抱き方で抱き上げる。
思ったより軽くて一瞬、健康面が心配になる。
「こっちよ。ついて来て」
ニアさんに先導されながらコユキが借りているという屋根裏に向かう。
ニアさんにドアを開けて貰い、中に入ると机や本棚、ベッドが有りその上でネージュが犬みたいに丸まって寝ている。
とりあえずベッドに寝かせてあげればいいか・・・
ネージュを起こさない様にそっと近づきベッドにコユキを下ろす。
ベッドに下ろしたと同時にコユキが体勢を変える。
その拍子にペロンとコユキの寝間着の上着が捲れ、肌が見える。
普通はそこで普段見えないと所が見えてドキドキするのかもしれないが俺は別の所に視線が行ってしまう。
捲れたところから出たお腹には複数の傷痕が有り、白磁の肌に赤い線を残している。
ひょっとして見えない所にもまだ傷痕があるのか?
そこまで考え流石に時間を掛け過ぎるとニアさんに何か勘違いされそうなので寝間着を戻し上から布団を掛けてやり部屋を出る。
恐らくコユキはあのキャンプでリルに話した以上に過酷な生き方をしているのだろう・・・服で隠れた場所に有るであろう傷痕の事を考えてしまう。
多分、ヴァネッサさんにしてもニアさんにしてもコユキ事を心配するのは話している以上に無理をするからだろう。
俺もいつか力に為れる時が来るのかな・・・そんな事を考えながら俺も明日の試験に備える為に体を休める事にした。
☆
「ナゼ?ナゼ?笑ッテイラレル?」
「ヨクモ、ヨクモ・・・」
「ナゼオマエダケノウノウトイキテルンダ」
「モットイキテイタカッタ・・・オレタチダッテメイレイダッタノニ」
「ハヤク、ハヤク、オマエモシネ‼」
真っ暗な暗闇の中で今回私が殺した兵達が切られた手や足を振り合わしながら口々に怨念の籠った声を上げる。後ろの方では過去に殺した人間たちまで立ち上がっている。
五月蠅い・・・五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い‼命令だったからなんだ‼自分で納得して出て来た戦場じゃないか‼私だって笑いたくって笑っているわけじゃない‼私達に一方的に敵意を向けて話を聞かなかったのはお前達じゃないか‼私達は生きるために戦ってるんだ‼自分達の勝手な恨みで私の夢にまで出て来るな‼自分たちの利益しか考えないやつらがまた、私達の邪魔をするな‼
「黙れ‼黙れ‼黙れ‼幻影如きが私の前に立ち塞がるな‼」
その一言と同時に私は布団から飛び起き、前髪を掴んで怒鳴り散らす。
「あるじ‼落ち着いて!」
そんな言葉と共に後ろから小さな体に抱きしめられる。
人より少し低い彼女の体温に些か頭が冷静になる。私を抱きしめているネージュを見ると泣きそうな顔をしている。
しまった・・・メイド長やリューンが居ない状態でこんな姿を見せて不安にさせてしまった・・・
「ネージュ、もう大丈夫。ありがとう。ビックリさせてごめんね」
「本当に?」
呼吸を整え、不安そうな顔のままのネージュの頭を撫でて私が安心させるように笑うと彼女は不安そうにしながらも笑い返してくれる。
それにしてもやっぱりまだ長時間睡眠を摂るのは失敗だったか・・・部屋に呪符を貼って防音処置を施しておいて正解だった。
星詠み亭に来るとつい気を抜いて眠ってしまう。過去に同じ様なミスを犯してニアさん達に心配をかけてしまったから保険をかけておいて正解だった。
そこでふと私は自分の部屋にいる事に今更ながら気が付く。
あれ?私が眠ってしまったのはリビングのソファーのはずだったよね?・・・ゲインさんかアドベルさんが運んでくれたのかな?小さい頃ならいざ知らず今の私をニアさんでは屋根裏に連れては来られないだろう。だから多分ゲインさんかアドベルさんが運んでくれたのだろう・・そう思いたい。
少し冷静になった頭で万が一彼が運んでくれた可能性があるかと思うと申し訳ないのと恥ずかしいので別の意味で冷静ではいられなくなりそうだった。
窓の外を確認すると夜明けまでまだ少し時間があるみたいだ。まだ私の手を握っているネージュにもう少し寝ているように言い。
ベッドから降り旅装に着替えアイテムボックスから懐中時計を取り出し時刻を確認する。時間は5時を少し回った所だった。今日はダンジョンに行くので狗神君との稽古は行わないのでまだ時間が有る。彼等に万が一が無いようにもう一度試験内容を見直して過すことにする。
「・・・また・・・?」
ふと、夢の中で叫んでいた言葉に疑問を持ち口元に手を当て呟く。またってどういう事だろう?まぁ、夢の中での事なので気にするような事ではないだろうと思い直し、私は改めて試験内容の見直しに取り掛かった。
「おはようございます」
少し時間が経ち朝の準備と朝食の支度をしているゲインさん達に声を掛ける。
「おう、おはよう。コユキ」
「まだ暗いぞ?疲れてそうなんだからゆっくり寝てろ」
「しっかり眠れたから大丈夫です。ありがとうございます」
アドベルさんに笑顔で答えながら朝の手伝いをする。昔の事を思い出して心配してくれたみたいだ。
ニアさんにも挨拶し、後に起きて来たリル達と食事を摂って私達はダンジョンに向かった。
何となく狗神君の反応が気になったけど突っ込んだら私が悶え苦しみそうなので触れないでおこう。
次回は星読み亭を出ます。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




