あの薬再び・・・
おはようございます。第80話投稿させて頂きます。
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さて、少し時間が過ぎ、お風呂から上がって、ネージュを寝かせてから書類の確認をしているとコンコンと部屋の扉がノックされる。
「どうぞ~」
「お邪魔するよ。会頭」
ちらりと視線を扉に移し返事をするとヴァネッサが手に包帯と薬を持って中に入って来る。
「手と肩の治療をするから上着を脱ぎな」
「あらら、バレてましたか・・・」
「そんだけ血の匂いを漂わせてれば分かるだろ?あたしの鼻を舐めるなよ」
「そうだったね」
ヴァネッサの言葉に苦笑を浮かべながら素直に上着を脱ぎ傷を見せるとヴァネッサはメイド長やリューンの様に顔を顰める。
「相変わらず傷だらけの体なんだな・・・いい加減ポーションを使わないといつか死ぬぞ、会頭・・・」
傷の具合を見ながらヴァネッサが心配そうな声音で話しかけて来る。
「一応、傷の具合やなんかを見て判断はしているよ」
「そういう問題じゃねぇよ‼」
私の言葉に私の巻いた包帯を外す手を止め、右肩を軽くバシンと叩く。
「大体にして傷が左に集中しすぎなんだよ。いつか利き腕が動かなくなるぞ」
「う~ん、皆、私の利き腕に恨みでもあるんかね?」
「コハク‼」
ヴァネッサの言葉に軽く冗談っぽく答えると会頭では無く名前で呼ばれてしまう。
やれやれ、少し揶揄いすぎたかな・・・
私は茶化すような口調を止め口を開く。
「ごめん。ヴァネッサ、少しふざけ過ぎた。でも、ポーションの件に関しては私にも考えが有っての行動だから見逃してよ」
「だからその考えを言えって言ってんだよ」
ポンっと私の頭に軽くチョップを喰らわせながらヴァネッサが呆れたように言う。
どうでも良いけどそろそろ治療を再開してくれない?いい加減上半身が寒いんだけど・・・
私は溜息を一つ吐きポーションに関してこれから起こりうる予想を口にする。
「まず初めに私達が今使っているポーションは何処で製造されている?」
「そんなのどこも何も白夜の・・・まさかアンタ・・・」
私の質問にヴァネッサは答えようとすると途中で私の考えていることが分かったのか目を見開く。
「そ、私達の使っているポーションは白夜の国で作られているものだね。そして、次の厄災共の出現場所は白夜の国だ」
「要するにアンタはその時の戦いで白夜の国が致命的な打撃を受けると思ってるのか?最悪ポーションの製造施設が壊滅すると・・・でも、万が一の時の為に大量に保存して有るはずだろ?あのポーションに使用期限なんて無いんだから・・・」
ヴァネッサは傷の治療を再開しながら唸るように声を出す。
「いくら白夜の国に大量に保存をしてあったと言ってもそれが保存して有る場所が無事である可能性は低いよ。もし、在庫が無事でも新しい物が生産出来ないなら最終的にはじり貧になる。私は万が一が怖い、その結果としてポーションを使わずにアイテムボックスに大量に保管する事を選んだってわけ。一個人が持っている量じゃ足りないけどそれでもないよりはマシだからね・・・新しい物が生産できるようになるまでの繫ぎになればいいと思ってるよ」
私がポーションを使わない理由について話すとヴァネッサは溜息を吐きながら薬の入った瓶の蓋を開けながら口を開く。
「アンタは何時からそんな突拍子も無い事を考えていたんだい?」
「八年前に魔王になって厄災共について勉強してからずっとだね。この予想が当たるかもと思ったのは暁の国で『恐怖』と戦っているのを見た時からだね」
「なんでだい?」
「アイツが都市や村に行くでもなく真っ先に暁の国の畑を攻めたからかな。魔族領の食料、特に食料を輸入で賄っている白夜、暴食の国には大打撃になるし、人間側との交易にも影響を及ぼし、当然の事ながら暁の国は致命傷だ。まぁ、あの時は畑(国)に入られてブチ切れたフェルと暁の国の国民に早期討伐されて事なきを得たんだけどね・・・」
「でも、第二の獣って奴は人間領に来ても都市や人を襲っただけなんだろ?第三も第一と同じとは限らないだろ?」
「まぁ、そうだね。だからこれはあくまで私の予想だよ。でも、見ているとあいつ等こっちが嫌がるところを適切に突いて来るんだよね。ところでヴァネッサ、話は変わるんだけどその手に持っている薬ってひょっとすると梟印の傷薬の新作とか言わないよね?」
ヴァネッサとの話を打ち切り、私はつい先日見た記憶の有る薬を指差し冷や汗を流しながら聞く。
ヴァネッサはニヤリと邪悪な笑顔を浮かべながら非情にも私の予想通りの答えを返してくる。
「もちろん。予想通りの品物だよ。物凄く沁みるけど我慢しろよ」
私は、覚悟を決め傷に薬が塗られるのを待った。
夜だった為、抑えたが私は再び切られた時以上の叫びを上げた。
さて、特に何もなく比較的穏やかに過ごせたお休みから少し経ち旅経つ日の朝、私達は旅装に着替え、出発の準備を済ませドアの前に集まる。もちろん狗神君には念の為女装をして貰っている。
「じゃあ、ヴァネッサ、何か有ればすぐに連絡してね。皆も二日間ありがとう。体に気を付けて無理をしないようにね」
地下に向かう扉を開けながら振り向き見送りに来てくれた店の皆にも声を掛ける。
「会頭が一番無理するんですからちゃんと休んでください‼」
「他人の心配より自分の心配して下さい‼」
「今回だって眠れないからって書類の整理やなんかをやっていて結局寝てないでしょ‼」
「会頭、国に着いたらしっかり休むんですよ‼」
私の言葉に皆、口々に私の心配をしだす・・・はい・・・努力します。
皆の言葉にシュンっとしているとヴァネッサが苦笑いを浮かべながら口を開く。
「まぁ、そういう事だよ。会頭、自分の体を大切にな」
そう言いながらヴァネッサは私を優しく抱きしめ耳元で小さく囁く。
「店は任せな、良いかコハク絶対に死ぬなよ。皆が言ってるようにアンタはすぐに無理をするんだ。自分で全部抱え込まないで少しは他人を頼りな」
そう囁くとヴァネッサは私から離れ近くに立ちヴァネッサと同じ様に苦笑を浮かべていた狗神君達の方を向く。
「皆も気を付けてな、会頭が無理をしたら止めてやってくれな、無理をするのが趣味みたいな人間だからよろしくな」
ヴァネッサの言葉に狗神君達が頷く。
むぅ・・・納得いかない。自分の管理ぐらい自分でやってるよ・・・そして皆も納得したように頷かないで貰いたい。
「ネージュも元気でな」
「あい‼」
一通りの挨拶を終え私達は地下への扉を開き地下にある転移魔方陣のある部屋に向かう階段を降りる。
「それにしても皆、コユキの心配ばかりしてたな」
階段を下りている途中で狗神君は先ほどの光景を思い出しているのかクスクスと笑いながら口を開く。
「それだけコユキちゃんが無理をしているという事ですよ」
リルがジトっとした目で先頭を歩く私を見ながら階段を降りる。
「別にそんなに無理はしてないよ。実際にフルで寝てない訳じゃなくて昼間に一時間ぐらいはちゃんと睡眠を取っていたよ」
「「そういう問題じゃない(よ)」」
リルのジト目から逃れながら反論すると狗神君とリルから同時に突っ込まれてしまった。
「それにしても皆さん本当にコユキさんの事が大好きな方達でしたね。どういう方達を雇用なさったんですか?」
何故かお説教モードに入ったリルを制しマカさんが首を捻り疑問を口にしてくれる。
「うん?どんな人たちかって?彼らはもともと国も見捨てたようなスラムの住人だったり不当な扱いを受けていた奴隷だよ。あぁ、勘違いしないでね。奴隷の人達は自分を買い戻して自由の身だし、ちゃんと奴隷時代もしっかりお給料は出してたよ。アルテクトの店舗はスラム出身の人が多めだったかな?皆ちゃんと研修して戦闘訓練を受けて体調を整えてからお店に立って貰っているよ」
「なるほど・・・道理で・・・滞在中もコユキさん大好きな人達とは思っていましたが納得しました。それでもう一つお聞きしたい事が有るのですけど・・・」
私の言葉に納得してくれたマカさんが更に話を逸らしてくれる。おぉ・・・良いぞ良いぞどんどん話を逸らしてください。
「この国を出るのに何故お店の地下に降りるんですか?国を出るのなら国境に向かうんですよね?」
「あ、そう言えばそうだよな?」
「歩くか馬車に乗って行くものとばかり思っていました」
マカさんの言葉に狗神君とリルも話題に乗って来る。やった‼リルの意識がマカさんがした質問に向いてくれた‼
「うん、国は出るよ。でも、此処からは歩いての移動はあまりしないよ」
「「「どゆこと?」」」
なんか三人のお馴染みになりつつある同時に首を傾げる仕草を見ながら私は口を開く。
それにしても君達この数ヶ月でかなり仲良くなったのね。
「思い出してみて君達はどうやってクラシア近くに戻って来たのかな?」
「あ!転移魔法陣‼」
その一言で察した狗神君が声を上げ、残りの二人も納得した表情になる。
「当たり。あれと同じ物を色々な国に隠して有るんだ。もちろん。同盟を結んで信用出来る国には許可を取って設置してるよ。今回はそれを使ってフルニカ王国のカルルカ近くに転移するそこからカルルカに向かってそこからダンジョンに向かうよ」
そんな話をしている内に階段を下り終え目の前の扉を開くと中には城に設置してあるものと同じ様な魔方陣が描かれている。
「フルニカに行くための魔法陣に調整するから中心で待っていて」
そう言い彼等に魔法陣の中心に移動してもらい私は魔法陣の調整に取り掛かる。
向こうに行くために魔法陣を書き換え、私も中心に移動し魔法陣を起動させる。私にとっては見慣れた光が辺りを包み込み、真っ白だった視界が戻るとこれまた私にとっては見慣れた景色が辺りに広がった。
こうして私達は無事にレイデア王国からフルニカ王国への移動を果たした。
次回は別の人の視点で始まります。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




