リコリス商会
おはようございます。第78話投稿させて頂きます。
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今回は和登の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
カタカタと小さく揺れる馬車に身を任せながら乗っている客台から月夜を膝に乗せながらぼんやりと景色を眺める。
それにしても見た感じは風で草原の草がゆさゆさと揺れるという長閑な光景が広がっている。つい数日前には自分が殺されかけていたなんて思えない程長閑だ・・・まぁ、実際問題、俺の事を殺そうとしていた国からは数時間前におさらばしたわけだが・・・
「はぁ・・・」
そんな事を考えながら自分の格好を確認し思わずため息を吐いてしまう。
若草色のワンピースに皮のブーツ、女性用の皮の鎧と言う出で立ちはコユキから貸してもらった鏡で確認した際には自分でも少女だと思うくらいによく変装できていた。
必要性やしょうがない事とは言え自分の姿にげんなりしてしまう・・・何と言うか・・・男としてこれで良いのかと・・・いや、まぁ、自分でもコハクたちの説得に納得して着たんだけどね・・・今、魔族領に居る味方と言える勇者達には絶対に見られたくない・・・
そんな事を考えながらチラリと向かいに座るコユキを見ると椅子の背もたれに身を預けながら目を瞑っている。寝てはいないのだろうけと体を休ませているみたいだ。クラシアでアレだけの戦闘をした後で3日も寝ていなかったのだから相当疲れていてもおかしくはないか・・・膝の上に居るネージュがコユキの隣に座っている女の子と遊んでいる姿は何だか微笑ましい。何だかんだ人懐っこい龍だな・・・
そんなのんびりした一匹と女の子から目を離し再び外の景色に目を向ける。
日はだいぶ高い所に昇っている大体正午ぐらいかな?このまま何のトラブルもなければ明日の昼には首都アルテクトに着くらしい。道が整備されているって素晴らしいよね。
あ、これフラグか?なんて思いながら俺はしばらく馬車の旅を楽しむことにした。
さて、俺がのんびりと景色を眺めてから少し経ち俺達は無事にレイデア王国の首都アルテクトに着くことが出来た。良かった~フラグじゃなかった~
ゆっくりと街の門を潜り、停留所に停まり馬車から降りる。
「お姉ちゃん達、バイバ~イ‼」
馬車でネージュと遊んでいた少女が俺達に手を振っているので振替して少女と別れる。
以外にもコユキも少女を認識していたのか手を振っている。
「じゃあ、私達も行こうか?」
コユキはそう言うとコユキの商会とやらに向かって歩き出す。
「ねぇねぇ、主?街の中をお散歩して来て良い?」
「は?」
「ひ?」
「ふ?」
「良いよ。でも、暗くなる前に戻っておいでね。ちゃんと変化するんだよ」
コユキに着いて行こうとすると不意に幼い女の子の声がコユキに問いかける声に思わず三人で奇声を上げるとコユキは慣れているのか優しい声音で肩の上のネージュと話している。
「はーい」
コユキの言葉にネージュは嬉しそうに返事をする。
肩から降りるのと同時にポンっと音がして煙が周囲を包み込むと煙の中から青み掛かったワンピースを着た8歳ぐらいの非常に可愛らしい少女が現れた。
目鼻立ちはコユキによく似ているが目は蒼色で髪も薄っすらと青み掛かっている少女は地面に着地すると無邪気にコユキに抱き着く。
コユキはそんな少女の頭を撫でながら口を開く。
「ネージュ、少ないけどお小遣い。好きな物を買いなさい」
「ありがとう!主‼」
ネージュの突然の人化にポカーンっとしている俺達を他所にコユキとネージュは何やら親子の様な会話をしている。
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい」
俺達に手を振りながらネージュは町中に消えて行った。どうでも良いけどこんな街中にパッと見幼女を一人にしていて良いのか?
そんな見当違いな心配をしていると一足早く復活したリルがコユキに問いかける。
「コ、コユキちゃん⁉あの子喋れるの⁉というかさっき小さい時のコユキちゃんそっくりに変身したよね⁉」
「?・・・‼」
リルの矢継ぎ早な質問にコユキは一瞬不思議そうな顔を向けるがすぐに「あっ‼」と言う顔になり口を開く。
「あぁ、そう言えばリルには少し話したけどまだちゃんとあの仔の事を紹介してなかったね。あの仔の名前はネージュって言って《真龍》の一角の《氷河の龍》だよ。流石に頭が良くってね。人語も理解できれば変化もお手の物みたいだよ?」
コユキの言を聞いた途端にリルとマカの顔が真っ青になり二人で交互に口を開く。
「《真龍》って・・・《レジェンド》クラスの危険な生物じゃないですかぁ‼」
「それを街に解き放っちゃったって・・・・物凄く不味いんじゃない?」
二人は小声でコユキに詰め寄るがコユキは苦笑しながら口を開く。
「あの仔が人に危害を加える可能性は万が一にも無いよ。あの仔は人が好きだし、小さいころから人を襲ったりしてはいけないって教えて来たしね」
コユキの言葉を聞いて何かを言おうとしているマカとリルを制してコユキがワントーン落とした声で言葉を続ける。
「それでも、もし、ネージュが人に害を及ぼす可能性が有るのなら・・・私があの仔を処分するから安心して貰って良いよ」
コユキの言葉にその場にいた全員が思わず身震いしてしまう。その様子を見たコユキは手をポンっと叩き何時ものテンションで喋りだす。
「さて、じゃあ、家の商会に行こうか?」
俺達は彼女の言葉に従い商会に向かって歩き出した。
「さ、着いたよ。ここが私の商会だよ」
数十分してコユキがリコリス商会と書かれた大きなお店の前でそう言う。
カフェまで付いている立派なお店だ。
「まぁ、いろんな話は中で話そう」
そう言うとコユキは正面玄関の扉を開こうとして手を止めると俺達を端に寄せるその瞬間
「ふざけんじゃねぇ‼この糞貴族‼次にてめぇの姿見たらミンチにしてやる‼」
そんな罵倒と共に扉が開き、一人の男が吹っ飛んで来る。
驚いて目を向けると燃える様に真っ赤な髪にお仕着せを着た十九歳ぐらいの女性が犬歯を剥き出しにした怒りの形相で開け放たれた扉の前に立っていた。
「二度と来るな‼」
顔の感じは異世界だなぁっと思う美人だがその頭の上には特徴的な犬耳がピコピコと動いている。
衝撃的な光景に啞然としながら思わず彼女の頭の上に目を向けてしまう。すげぇ‼獣人だ‼洗脳されてた時には見たかどうか覚えてないけど初めて見た‼
呑気にそんな事を思っているとコユキがあちゃ~っという顔をしているのが見えた。
そう言えば今更だけどこのメンバーの女の子、顔面偏差値高くね?
次回はコハクの視点に戻ります。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




