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その恰好だけは勘弁してください

おはようございます。

第77話投稿させて頂きます。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。励みになります。

前回は更新出来ずすみませんでした。

楽しんで頂けたら幸いです。

 パチパチと言う音と共に甘い香りが漂って来る。


「焼けたかな~♪」


 多少、上機嫌になりながら火の近くで木の棒に刺し焼いていたマシュマロを一つ取る。

 どうでも良いけどマシュマロのこういう焼き方ってワクワクしてテンション上がって良いよね。

 ウキウキしながらビスケットにマシュマロを挟んだタイミングで予想していた通り昨日と同じ様に私の近くに人影が立つ。


「やぁ、二日連続は流石に体に悪いよ?」


 ビスケットサンドを勇者君に差し出しながら私はのんびりと口を開く。

 勇者君は、多少困惑した顔をしながら受け取り私の横に腰を下ろす。


「それで?今日はどうしたの?」


 彼が座ったのを確認し、私はもう一つマシュマロを取ってビスケットに挟みながら彼が来た理由を聞くと彼はビスケットサンドを凝視していた視線を私に合わせ口を開く。


「・・・一つ聞きたい事が有るんだ。」


 私は何も言わずに視線で先を促すと彼は少し聞きづらそうにしてから再び口を開く。


「コハクは俺達の世界の事を知っているのか?」

「どうしてそう思ったの?」


 彼のその質問に私は惚けながらビスケットサンドを齧る。

 というか今頃その質問か・・・まぁ、急を要する物でもなかったしね。


「実は最初から聞きたかったんだ・・・聞くのは失礼かと思ったんだけど俺達がコハクの城に行った時に見た俺の資料には日本語で文字が書かれていたし、その時に出して貰ったお菓子は俺達の世界に有るわらび餅だったし、月夜の名前も明らかに由来を知っている笑い方だった。極めつけは今、渡してもらったこのビスケットサンドだよ。これだけの要素を目にしたら聞かずにはいられなくなってしまって・・・」


 彼はそう言うとようやくビスケットサンドを齧りだす。

 あぁ、なるほど・・・私の過去に何が有ったか分からないから聞くに聞けなかった訳か・・・まぁ、ただの病死だから別にヘビィな事は何も無かったんだけどね・・・

 私は彼が気にしている事は何も無かったという事を示すためにサラッと答える。


「うん。君の予想の通りだよ。私は多分、君達の世界、もしくは近い世界で育った事のある人間だよ。所謂、転生者って奴だね」

「近い世界?」


 私の言葉に疑問を持った部分を勇者君は繰り返し不思議そうな顔をする。

 彼の疑問を晴らすために私は続けて口を開く。


「まぁ、また小説によくあるパターンだけど私と君が居た世界は平行世界の可能性も有るって事だよ。簡単な例を上げるなら総理大臣が違うとかお札の肖像画が違うとかかな?」

「成程・・・やっぱりコハクは、元々は異世界人だったんだね?他にもいるの?」


 私の説明に彼は納得したように頷きながら他にも転生者が居るのかを確認して来る。まぁ、これはあくまで私の予想で有って本当に並行世界が有るかは分からないけどね。


「居るよ。私を含む穏健派の原初の魔王三人は転生者だし、暁の国の幹部のほとんどは転生者だよ。暁は積極的に転生者を探しているから沢山居るんだ。多分、人間領にも探せばいるんじゃないかな?これで用事は終わりかな?明日は早くに此処を出て国境を越えるんだから早く寝た方が良いよ?今日だって結構無理したでしょ?ちゃんと休まないと持たないよ」


 聞きたいことを聞き終えたと思った私は寝る事をお勧めする。実際問題、明日は国境の関所まで行き予定通りクラシア王国を抜け、レイデア王国に向かう。今回の件で検問が厳しくなっているだろうからそのための準備も有るしね・・・


「あ~、その・・・ちょっとお願いが有って来たんだけど・・・」


 彼は少し躊躇した後に意を決したように私の目を見て頼みごとを言って来る。


「俺に剣と魔法の稽古を付けてくれないか?」


 しっかりと紡がれたその言葉に私は少し面喰ってしまう。彼に剣や魔法の稽古を付けるのは確かに予定していた事だがそれはもう少しだけ先の事だったからだ。まさか彼から言い出すとは思わなかった。クラシアでの事や今回のイビルベアの事が尾を引いてるのかな?


「うん、私で良いなら喜んで。魔法はリル達にも一緒に訓練して貰うから城に戻ってからで良いかな?剣は何時からにする?」


 私の答えに彼は嬉しそうにしながら口を開く。


「ありがとう。魔法はそれで大丈夫。剣は出来れば明日からお願いできないかな?」

「うん、良いよ。じゃあ、明日の朝ご飯前に一時間ほど稽古しようか?そうと決まったら早く寝た方が良いね」


 明日の予定を話し合い私は彼に昨夜と同じ様に休むように言うと彼はもう一度口を開く。


「それとさ、そろそろ勇者君じゃなくて名前で呼んでくれない?」


 彼の言葉に私は少し苦笑しながら答える。


「じゃあ、狗神君と呼ぼうか?ファーストネームは明日からの稽古で私から一本取ったら呼ぶ事にするよ」

「・・・わかった。約束だからな!お休み」

「うん、お休み」


 名字で呼んだ事に対し少し不満げな表情の彼に明日からの稽古で一撃入れられたらという条件を一つ付けると彼は頷きながら了承し、立ち上がりテントの中に戻って行った。






 早朝の森にカンカンと木剣のぶつかる音が響く。狗神君と話してから数時間が経ち私は彼との約束通りに剣の稽古を行っている。


「わざと作った隙につられない‼剣は受けるんじゃ無くて受け流す‼」


 私の木剣を受けた彼が後方に飛ばされ空中で一回転し着地する。


「動く先に視線を向けない‼」


 着地点から動こうとする彼の進行方向に先回りし首筋に木剣を当ててやる。


「はい、今日の稽古は此処まであんまり詰めてやっても身にならないし、今日はこれくらいにしようか?」

「あ・・・ありが・・・とう・・・ございました」


 肩で息をしながら彼は私にお礼を言って立ち上がる。

 結構、汗もかいてしまったみたいだ。まぁ、一時間もぶっ通しで激しい稽古をすれば汗もかくか・・・


「近くに湖が有るからそこで汗を流してきなよ。その間に朝食の準備をしておくから」

「わかった。ありがとう。少し水浴びして来るよ」


 狗神君が私の言葉に頷き月夜を連れて湖の方に向かうのを確認し、私はキャンプ地に戻って朝食の準備を始めた。




「この後って森から出て国境に向かうんだよね?」


 稽古から少しして皆で朝食を取っている最中にリルが首を傾げながら今後の予定を聞いてくる。


「うん、撤収作業済ませた後は予定通り国境を通ってレイデア王国に向かうよ」


 リルは私の答えに少し不安そうな顔でさらに聞いてくる。


「検問所を通るの?私達、顔が割れてないかな?特に和登さんは勇者だし全国的に有名になっているよね?それとも検問所を通らないで密入国するの?」


 密入国という言葉を聞き私は思わず苦笑を浮かべながら首を振り、否定する。


「いやいやいや、ちゃんと真正面から入国するよ。まぁ、変装や偽装はするけどね」


 そう言いながらアイテムボックスから三つのドックタグと衣服を取り出し、三人に手渡していく。


「これで皆にはそれぞれ変装をして貰うよ。このドックタグには偽の名前が刻まれているからしっかり覚えておいてね」


 それぞれが渡されたものを確認する。狗神君は素っ頓狂な声を上げる。


「ちょっ‼ちょいちょいちょいちょい‼コハク⁉これはどういうことだ⁉」


 手に持ったスカートとドックタグの名前を見て狗神君は何とも言えない顔で私の方を見て来る。


「えっとね・・・本当に申し訳ないと思うんだけど・・・狗神君には女装をして貰うのが一番分かり難くなると思うんだ。相手は男性2人に女性2人のパーティで検問を通ると思っているだろうから女性4人で行った方がバレ難いと思うんだよね。幸い君は線が細いから女装してもばれないと思う。よって君には女装して貰います」


 私の言葉に狗神君は絶望的な顔で口を開く。


「コハク、何か別の手はないか?」

「残念だけどこれが一番手っ取り早いから他の案は無い」


 私の言葉を聞きダッシュでその場から逃げる彼を3人で捕獲して説得し、キャンプ地の跡片付けをしてから私達は国境の検問所に向かう為に3日間過ごした森を後にした。


次回は国境を越えます。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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