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月夜

おはようございます。

第75話投稿させて頂きます。

楽しんで頂けたら幸いです。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。励みになります。

また、誤字脱字修正もありがとうございます。

 右側から振り下ろされる爪を当たるギリギリの所で避ける。寸前で避けた所為で顔のすぐ近くに物凄い風圧を感じる。

 俺が避けて姿勢を崩したイビルベアの腕に右手に持った剣で切り付け傷を負わせすぐにその場から離れる。

 イビルベアは怒りの咆哮を上げ木の陰に隠れる。


「次はどっちだ⁉」


 俺の言葉に手で抱えているスニークシュガーラビットが左手でベシベシと叩いて来るので右側に飛び退ると先程立っていた場所に左側の茂みから巨体が襲い掛かって来る。

 砂利と砂ぼこりが周囲に舞い俺達の視界を奪いイビルベアの姿を隠す。

 前方を警戒しているとスニークシュガーラビットが唐突に今度は右足をベシベシと叩き始めたので慌てて前方に転がる今度は右側からイビルベアが突進して来た。


「危ね‼くそ・・・さっきからスニーク()シュガー()ラビット()が居なかったら何回死んでるか分からないぞ‼」


 マカ達と別れてから早数十分が経ち何とか無傷でイビルベアに攻撃を加えることが出来ている。

 それもこれもこのスニークシュガーラビットが何故か分からないが事前に察知して教えてくれるお陰でギリギリ回避できている状態だ。

 てか、俺の回避が大げさすぎるのも有って反撃が中々出来ない・・・よし・・・少し攻めてみるか・・・

 イビルベアの方を向き、剣を握りなおし構えるさっきからスニークシュガーラビットは右足をバシバシと凄い勢いで叩いている。此処までの経験からすると恐らく右側から攻撃が来るのだろう。

 イビルベアは予想通り右手を大きく振り上げ突進してくる。

 先程までは大きく避けていたのを今度は前に前進する。スニークシュガーラビットはマジかコイツと言う様な視線を俺に向けて来るが無視する。

 振り上げている腕に向かって思いっ切り剣を振り上げ右腕を切り飛ばす。今まで片手で剣を振った事なんて無かったのでイビルベアの腕があっさりと跳ね飛ばされた事に少々驚く。

 素早く剣を引き戻し、更に一歩踏み出して怒り狂うブイビルベアに近づき首元に剣を突き刺す。

 鮮血が噴出し、俺達の体を濡らす。その瞬間、イビルベアが大きく首を振り、剣を握っていた俺は宙に振り出される。

 しまった・・・剣を離してしまった・・・

 何とか着地し、イビルベアとの間に距離が開く。手と首から血を流したイビルベアが低く唸りながら残った三本の足で走って来る。くそ‼まだ、元気なのかよこの熊‼

 イビルベアを睨みながら剣を取り戻そうと思いイビルベアに向かい走り出そうとした瞬間、俺の脇を白色の疾風が駆け抜ける。

 一瞬、朱色の閃光が輝き、イビルベアの頭がゆっくりと地面に落ちる。


「《テトラ・アクアリウム》」


 コハクが魔法を発動させると俺達をまるで魚が泳いでいるような波紋を描く水のドームが包み込み噴出している血を吸収して血飛沫が掛からないようにしていく。

 ・・・水がどんどん赤色に染まっていくなんて光景じゃなかったらかなり幻想的な光景だなぁ。

 などと呑気に見ていると剣をしまいながらコハクが俺の方に寄って来る。


「大丈夫⁉怪我してない?この血は君のじゃないよね⁉」


 些か慌てながらそう言い両手で俺の顔を掴み怪我の有無を至近距離で確認して来る。


「細かい傷は少しできたけどこいつのお陰で大きな怪我はしてないよ‼それより近い近い‼」


 睫毛の数まで数えられそうな至近距離に若干ドギマギしながら声を発する。恥ずかしながら相当裏返った声を出してしまった・・・

 俺の言葉を聞くとコハクは安心したよう顔をした後に不思議そうな顔をして俺の手に抱かれているスニークシュガーラビットを見る。


「この子のお陰?」


 スニークシュガーラビットを指差すコハクにもう一度肯定の意味を込め頷くとコハクはスニークシュガーラビットを凝視し始める。スニークシュガーラビットはかなり居心地が悪そうな顔をしながら俺の手の中でもぞもぞと動く。

 しばらくするとコハクが驚いた様な顔でポツリと言葉を漏らす。


「危険予知・・・ユニークスキルにスニークシュガーラビットの変異種か・・・」


 その言葉と共に俺達を囲っていた水のドームは消えていき首の無い熊の死体の転がる元の森の景色に戻った。


「取り合えず、キャンプ地に戻ろうかリル達も待っているしね」


 俺から離れて熊の死体をアイテムボックスにしまいながらコハクはそう言うと俺の剣を持ち上げふと不思議そうな顔をして口を開く。


「そう言えばなんで剣をイビルベアに刺したままにしていたの?」

「へ?」


 コハクの質問に間抜けな声を出し目を丸くする。いやだって・・・刺したら首をぶん回されて剣から離れちゃったし・・・


「君の固有武器なのだから言葉一つで戻って来るでしょ?」


 ・・・そう言えばそんな機能ありましてね・・・すっかり忘れてましたわ・・・

 俺のその空気を感じ取ったのか若干気まずい空気になりながら俺達はキャンプ地に戻って行った。




「さて、若干のトラブルが有ったけどまずは言わせて貰うね。第一の試験合格おめでとう」


 キャンプ地に戻り、マカ達とお互いの無事を確認するとコハクが唐突にそんな事を言う。

 意味が分からず首を傾げると不思議そうな顔で口を開く。


「だって無事に三匹スニークシュガーラビットを連れて来たでしょ?」


 そう言いながらコハクは最初に捕まえた一匹、リルが抱えている一匹、俺が抱えている一匹の順で視線を送る。

 え、ちょっと待って‼俺が抱えているこいつは自分で飛び込んできたのであって捕まえたわけじゃないけど⁉

 俺がそうコハクに言うと楽しそうな顔で口を開く。


「ふふ、でも、此処まで大人しく連れて来られているじゃない?これはもう捕獲って事にしてしまって良いと思うよ。それにその子も君の事を気に入ったみたいだしね」


 そう言いながらコハクは俺が抱いている兎の額を人差し指で優しく撫でる。


「はぁ⁉こいつが俺の事を気に入った⁉俺、コイツに気に入られるようなことしてないぞ⁉」


 予想していなかったコハクの言葉に間の抜けた声を上げるとクスクス笑いながら詳しく教えてくれる。


「最初は確かに頼りなくてただ単純に揶揄っているのが楽しかったみたいだし、あのイビルベアも本当は君達に押しつけて逃げるつもりだったみたいだけど君がすごく善戦する姿を見て気に入ったみたいだね。何よりスニークシュガーラビットを一匹も殺さずに捕まえていたのもポイント高かったみたいだよ?」


 この時、コハクの説明を聞き俺が思った事はただ一つ「あの熊押し付けようなんてコイツやっぱり性格悪‼」だった。


「この際だからこの子、君の使い魔にしちゃったら?変異種だし、ユニークスキルで《危険予知》を持っているから色々役に立つ子だと思うよ?まぁ、後ほどギルドで使い魔登録する事になるけどね」


 そう言うとコハクはスニークシュガーラビットから手を離し俺の方を向く。

 スニークシュガーラビットの顔が自分の方に向くように抱き方を変え、言葉がわかるはずがないと思いながらスニークシュガーラビットの貌を見て聞く。


「俺と一緒に来るか?」


 俺が聞くと意外な事に人語を理解しているのかスニークシュガーラビットはいつも逃げる時に見せていた「へっ」という笑い方をして俺の額をテシテシと叩きだした。

 ・・・・これは嫌がってるのか?


「性格がかなり天邪鬼な子なんだねぇ~。それはOKの意みたいだよ?」


 俺達の様子を見て面白そうにしながらコハクがコイツの行動の意味を教えてくれる。

 今更だけどコハクはコイツの言いたい事も分かるのね・・・

 そんな事を思いながら別に嫌がっているわけでは無いと分かったのでコイツの名前を決める事にする。

 兎か・・・そう言えば俺達もコハクも普通に匹って言っていたけど本当は兎って数え方は羽なんだよなぁ・・・確かあれってお坊さんが兎の事を鳥に見立てて食べてた事に由来するんだよなぁ・・・名前的にもピッタリだしソレで行くか・・・


「よし‼じゃあ、お前の名前は月夜(げつよ)だ‼」


 スニークシュガーラビットに名前を告げると満足したのか俺の額を再びテシテシしてくる。

 こうして俺の仲間に小さな兎が加わった。

 マカやリルも由来や意味を知らないからか良い名前だと言ってくれた。コハクだけが「まぁ、由来や意味を知らなければ良い名前だよねぇ・・・」と苦笑していた。

 ・・・やっぱり、あの時の資料と言い今回の事と言いコハクは俺達の世界を知っている?

 そんな疑問を抱いたが、一先ずその疑問は置いておき俺達は捕まえた残りのスニークシュガーラビットを森に帰し、明日森を出る為に残った時間をゆっくり休むために使った。


月夜とは兎肉の事です。

次回はコハク視点に戻ります。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。


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