ヒントを貰おう
おはようございます。第73話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とても励みになります。
また、誤字脱字報告もありがとうございます。
今回も和登視点です。
翌朝、何かを焼く良い匂いがして来て目が覚めると同時にお腹が鳴る。
昨夜、コハクとリルの話を聞いた後に寝たのでまだ少し眠い気もするがクラシアの牢に入れられていた時に比べると安眠できた。
眠い目をこすりながら身を起こしのそのそとテントを出る。
「あ、おはよう」
「ん・・・おはよう・・・」
テントを出るとコハクが皿を持った状態で朝の挨拶を交わす。リルはまだ寝ているみたいだ。コハクが枕の代わりに下に敷いたらしい布に頭を乗せて仔龍と一緒にスヤスヤと寝息を立てている。
「朝食は食べられる?」
「・・・頂きます・・・」
「じゃあ、向こうに水を汲んであるから顔を洗ってきな」
「うん・・・」
コハクの言葉に素直に頷き顔を洗いに行く。・・・・なんか俺すごく子供みたいだな・・・
コハクが水を汲んでくれた所に行く途中でまだ眠そうなマカものそのそと起きて来たので声を掛け一緒に顔を洗いに行く。魔王の城に行くまでに何回も見た光景なので今更マカも恥ずかしがらなかった。
マカと一緒に顔を洗って戻ってくるとリルも起きていてタオルで顔を拭っている。
「あ、マカさん、和登さん、おはようございます」
どうやら彼女は魔法で出した水で洗顔を済ませたらしい。
そう言えば彼女は水の魔法が得意だったなぁ・・・こういう時に魔法って便利だなぁ・・・
思わぬところで魔法の便利さを目の当たりにしてしまい羨ましく思ってしまう。
その後、4人と一匹でコハクの作ってくれた朝食を食べる。
メニューは何かのベーコン(何の肉かは敢えて考えない・・・)と目玉焼き(やはりなにの卵かは考えない)と玉葱風な野菜のスープと丸パンというしっかりとした朝食だった。
美味しかった朝食を終え俺達はいよいよ試験の一日目を開始する。まずは森の中に入りスニークシュガーラビット達(奴等)を探す。
ふふふふふ、昨日の雪辱晴らしてやるぞ!ウサ公共め!昨日は練習!今日から本番だ‼
俺はそんな意気込みを見せながらマカとリルと一緒にキャンプ地を後にする。
「駄目だーーーーーーー‼‼‼あいつらマジで全然捕まらねぇ‼しかも昨日の奴やっぱり馬鹿にした様に笑ってやがったぁー!」
寝袋に突っ伏しながら昨日と同じような事を叫ぶ。
あの後、意気込みながら森の中に入ったはいいが結果は昨日と同じで惨敗・・・挙句の果てに昨日練習の時に見た他より小さくて少し毛色の違うスニークシュガーラビットにやはり「へッ」っと言う様な顔で笑われてしまった。
あいつ可愛くねぇー‼
兎に角!コハクの試験に受かる為と明日あいつに笑われないようにする為に打てる手は全部打とう。コハクは何かのスキルを使えば簡単と言っていたどんなスキルが必要なのか、どうやって習得する事が出来るのかを聞いてみよう。聞くのが早すぎるとか言われても気にするもんか‼
そんな事を思いながら今日も見張りをしてくれているコハクに話を聞こうと思いテントを出る。
「やあ、そろそろ来ると思っていたよ」
テントを出ると左手の治療をしていたコハクが俺の方を向いてそう言って来る。
左手の傷は約一週間前に俺が切り付けた際に負わせてしまったものだ・・・非常に申し訳ない・・・
「まぁ、座りなよ」
傷の治療を終え、テシテシと擬音が付きそうな感じでコハクが自分の横を叩き座る様に促してくるので素直に横に座る。
「で?何が聞きたいの?」
まだ何も言っていないのに俺が隣に座ったのを確認しコハクが顔を見ながら小首を傾げて聞いてくる。
・・・やっぱ聞くには早すぎるかな・・・いや、でも、3日間しかないし一日目は何も出来ないで終わっちゃたし・・・
この期に及んで質問するのを躊躇している自分に半ば呆れながら俺は意を決してコハクに質問をする。
「今回の試験で必要になるスキルとその習得方法を教えて欲しい」
コハクに素直にそう言うと彼女は嬉しそうに顔を綻ばせると口を開く。
「うん、良いよ。思ったより早く聞いてくれて良かった。まず、あの子たちを捕まえるのに必要になるスキルは気配察知又は魔力感知だね。どちらかが有ればあの子たちの姿を視認する前に何処に居るのか分かるから逃げられる可能性がぐっと減る。次のスキルは隠蔽、このスキルは必須では無いけど持っていれば確保できる確率が大幅に上がるよ。他にも色々便利なスキルが有るけど主にこの二つが有れば簡単に捕まえられるよ」
コハクはあっさりと今回の試験に必要なスキルを教えてくれた。俺は持っていないスキルだけどよく漫画なんかで見る平々凡々なスキルの名前に思わず唖然としてしまう。
「大丈夫?」
「あ、あぁ大丈夫」
「そう、じゃあ、スキル習得をやってみようか?とりあえず気配察知を習得しよう。目を瞑って」
コハクの言葉に従い目を閉じる。
「そのまま辺りに意識を集中してみて」
言われた通りに意識を周りに向けるても始めは何もわからなかったが辛抱強く周りに意識を向けると微かにだが周囲の草むらに何かの気配を感じる。感じる事の出来る気配の数は少しずつ増えていき次第に位置も明確になって行ったところで・・・
「そこまで、目を開けて良いよ」
コハクからそんな声が掛かり目を開けるとコハクは何やら思案顔で呟く。
「予想より早いな・・・流石、勇者と言ったところか・・・」
詳しい事は聞こえなかったが俺が目を開けたのを確認するとニコリと笑いながら口を開く。
「おめでとう。無事に気配感知を習得できたみたいだよ。まぁ、使いこなすにはもっと練習が必要だろうけどスニークシュガーラビットを見つけるのには今ぐらいでも大丈夫だと思うよ。それと隠蔽のスキルだけどこれは実戦で学んだ方が良さそうだからヒントだけあげるよ。まず自分の気配を消す事、例えば音を立てないとか相手に殺気を飛ばしたりしないとか他にも色々あるけどまずは自分がその光景と一体化する様に心掛けてみると良いと思うよ」
コハクはそう言うと火にかけていた鍋を取り中の白乳色の液体を二つのマグカップに注ぎそのうちの一つを俺に手渡してくれる。
「さ、今日の練習はお終い。明日も相当動く事になると思うからこれを飲んだら寝た方が良いよ」
「あ、ありがとう・・・」
左手で差し出してきたカップを受け取ると先程手に巻いていた包帯が目に入る。それと同時にほぼ無意識に俺の口が開く。
「左手の傷は本当に申し訳なかった・・・」
俺の言葉にコハクが目を丸くするがすぐに表情を戻し、口を開く。
「これは君が気にする事じゃないよ。私が聖武器の威力を確かめておきたかっただけからね・・・」
「なんでそんな事をする必要が有るんだ?」
俺の言葉にコハクは少し考えてから理由を教えてくれる。
「本当はさ・・・君達勇者に生き抜いて欲しい理由はもう一つ有るんだ。君達勇者は私達、暁、白夜、黄昏の魔王に対するストッパーでも有るんだよ・・・私達にはそれぞれ《インサニア》と言うスキルが強制で発動する事が有る・・・それらが発動した際に私達を処分する役目も勇者に有るんだ・・・まぁ、本来のファンタジー系の定番の展開だね」
「・・・・」
最後は少し茶化すように言うコハクの言葉に思わず無言になってしまう・・・まさか今更そんな展開も用意されているなんて想像していなかった・・・
俺のそんな思いを読み取ったのかコハクは明るい口調で話しかけて来る。
「まぁ、それはあくまで最悪のシナリオの一つだし、私達の《インサニア》だって簡単に発動する物じゃないからあまり気にしないで大丈夫だよ。」
コハクはあくまで最悪のシナリオの一つと言うのを強調して話、更に思い出した様に言葉を続ける。
「あ、それと万が一、今回の試験で厄災共と戦える技量が今は無しっと判断しても自分の身は守れるくらいには匿った先で訓練して貰うから安心して貰って良いよ」
そう言うと自分カップの中身を飲み干し、傍らに置き口を開く。
「さぁ、早くそれを飲んで寝た方が良いよ?」
話は終わりと言う感じで俺の持っているマグカップを指差し飲んで寝るように促す。
言われたままにカップの中身を飲み干し、お互いにお休みと声を掛け俺は何か胸に突っかかっている様な感覚を覚えながら瞼を閉じる。
明日は何としても獲物を捕まえて少しでも早く本格的な稽古をつけて貰えるようになって勇者と魔王が戦うなんて事にならない様にしたいと思いながら俺は眠りについた。
次回も和登視点です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




