コハクとリル
おはようございます。第72話投稿させて頂きます。
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「あ゛~~~、駄目だぁ・・・・あいつら全然捕まらねぇ・・・なんだよあの察知能力・・・」
コユキが張ってくれたテントの中に入り寝袋に突っ込みながら独り言ちる。
コユキから今後の予定を聞いた後、俺達は明日の練習に行かせてもらった。
結果は惨敗・・・あの兎達は、姿自体は結構見るのだがこっちが視線を向けたり気が付いた途端に草むらなどに隠れて逃げてしまう。挙句の果てに一匹明らかにこっちを見て笑いやがった・・・可愛くねぇ・・・
疲れ果てて戻ってくるとコユキがテントや食事の準備をしてくれていた。
暖かくて美味しい食事を取り、明日の作戦を三人で立て今夜の見張りのローテーションを4人で決めようとしたが、コユキが自分から三日間やってくれると申し出てくれた。
流石にそれは悪いと思い三人で交代制の提案をしたがコユキに笑顔で「明日以降どれぐらい疲れるか分かってる?見張りの疲れで不合格になっても再試は無いよ?」と言われてしまい悪いと思いながらもお願いする事になった。
そして現在、諸々の話し合い等を終え俺は自分にあてがわれたテントの寝袋の上に横になった。ぶっちゃけると今日起きた事が色々あり過ぎて眠れるかは妖しい・・・
下手したら俺は死んでいたかと思うと尚更だ・・・
少し眠ろうと目を閉じるが今日の事が脳裏にフラッシュバックしてくる。
醜く笑うテキラの顔、罵声を浴びせて来る国民、飛び散る血、転がる死体、無数に伸びる骨の腕、コユキの前に立ちはだかる勇者達。
色々な光景がグルグルと頭の中を回る。そう言えば・・・コユキの前では人を殺した事についてああ言ったけどコユキ・・・コハク自体は人の命を奪うという事についてどう考えているんだろう・・・
そんな疑問がふと思い浮かび俺はテントに移る影法師に目を向ける。
少しなら話が出来るかな・・・?
そんな事を思って身を起こすと不意にコハクの物ではない声が聞こえ彼女に話しかける。
「コ・・・ユキちゃん。少し話しても良い?」
彼女の前に立ち控えめにそう聞いている。声の感じからするとリルの様だ。
「良いよ。私もリルと話したかった。それと今は無理してコユキって呼ばなくていいよ」
コハクの横にもう一つの影法師が座り二人は並んで火の方を見ながら話をしだす。大きな声ではないが周りが静かなので俺の所にまで声が届く。
「改めて久しぶりだね・・・本当の本当にコハクちゃんなんだよね・・・?」
「本当の本当に私だよ」
「幻じゃないよね?」
リルの影が手を伸ばしそこに居るのか確かめるようにコハクの頬に触れる。
「幻じゃないよ・・・」
コハクはそう言いながら頬に添えられた手を握る。
「良かった・・・やっと・・やっと・・・会えたよぉ・・・」
リルがコハクの頬から手を離ししっかりと抱き着く。コハクはリルの背中に手を回し抱きとめる。
「私がリルに探してほしいと言ったせいでリルには本当に迷惑をかけたね・・・でも、探してくれてありがとう・・・」
「迷惑なんて・・・思ってないよ・・・皆も沢山協力してくれたんだよ・・・」
「その髪飾りもまだ着けていてくれて嬉しいよ。リルは知らなかったけど揃いで着けていた私の髪飾りはこの8年のうちに壊れてしまっていたから・・・」
体をリルから離しリルが着けている髪飾りに触れながらコハクは懐かしそうに話す。
「コハクちゃん。あの夜から何が有ったか聞いても良い?」
「そうだね。何から話そうか・・・」
そう言いながらコハクはポツリポツリとリルと別れた後の事を話しだす。
リルと別れた後、一つ目の国境を越えたクラシア王国で髪の色などから迫害された事、その中で今回、俺達の救出に協力してくれた人と出会った事、フルニカ王国に渡った際に資金が無くなりその国のカルルカという街で働かせてもらった事、フルニカ王国で冒険者の登録をしたことやその際にあの龍を母龍から託された事、魔族領に入った後の事、魔王になって少ししてエルフ族と友達になった事など8年間に起こったことを懐かしそうにリルに話していた。
あと、途中でリルに目についても聞かれていたのでコハクの眼が魔眼と言うものに変異していてそれの能力を封じるために片眼鏡をしていたという事にも答えていた。
それにしてもコハクの人生波瀾万丈すぎない?聞いている限り結構な回数死にかけてるぞ・・・?
「・・・・大変な思いをして来たんだね・・・」
話し終えたコハクにリルが泣きそうな声音で話しかける。
「まぁ、此処に来るまで色々な事があったよ。嫌になる事も有るし今でもなんで私がって未だに思ってるし・・・師匠との約束も何回も破るようなこともしてしまったしね・・・でも、色々な人に出会えたし、色々な経験も出来たと思っているよ」
コハクの影が火の方を見ながらゆっくりとそう言う。
「さぁ、そろそろ寝ないと明日に響くよ?」
リルが声を掛ける前にコハクは空気を換えるような元気な声音で喋る。
「うん・・・でも、コハクちゃん。やっぱり一晩中って大変じゃない?コハクちゃんも疲れているだろうし、やっぱり私も見張りをやるよ?」
リルがコハクの体調を心配してか見張りに名乗り出る。コハクは、今度は少し困ったような口調で答えた。
「私は、明日何もしないからその時に休むよ。それに今日は沢山殺し過ぎたからしばらく眠れないと思う」
「それって・・・」
コハクの言葉にリルが気まずそうに答えようとしてやめる。ひっそりと聞いていた俺も正直、なんて声を掛けていいか分からない。
「魔王なんて立場だからね・・・今までも何人か殺してしまう事は有ったんだ・・・そのたびに人を殺した事が怖くて眠れなくなるんだ・・・出来れば誰も殺したくなんてないからね・・・でも、少し安心したんだ。人型の魔物を殺した時には何も思わなかったから・・・」
出来れば誰も殺したくないというその答えを聞いて俺は正直、少し安心した。コハクが人を殺してもなんも思わない人間だったら俺は多分彼女の事を完全に信頼出来なかっただろうから・・・
「さ、今度こそ寝ないと本気で明日に響くよ」
コハクが今度こそ話は終わりと言う様な感じで明るくリルに寝るように促すとリルは少し涙声のまま恥ずかしそうに声を掛ける。
「ここで寝ても良い?」
「良いよ」
リルの言葉にコハクは優しく答える。
「くっついて寝ても良い?」
「良いよ」
更に続いた言葉に変わらず優しく答えながらコハクは膝の上に乗って寝ていたんであろう小さくなっている龍の位置を少しずらしたらしく龍が「ぎゅ~」っと不満そうに文句を言っている声が聞こえて来る。
少しスペースが開いたコハクの膝の上にリルがゆっくりと頭を乗せ横になる。そのリルに先程まで羽織っていた羽織を掛けてやり優しく頭を撫でる。
「おやすみリル。また明日ね」
「おやすみコハクちゃん。また明日ね」
その言葉と共にコハクとリルの会話は無くなる。リルの頭を撫でるコハクの影を見ながら俺もゆっくりと襲って来た眠気に身を任せた。
次回も和登視点になります。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




