思っていた以上に小柄で華奢な少女だった
おはようございます。第69話投稿させて頂きます。
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本日は和登視点です。楽しんで頂けたら幸いです。
「フェックシュン‼」
地上からいきなり超上空に上がり更に物凄いスピードで飛んでいる為に冷えてしまい情けなくくしゃみが出る。
と言うか寒い‼囚人が着せられるような簡素な服装の所為で兎に角寒い‼いや、マジで凍死する。折角助けてもらったけどこのままだとマジで死ぬ‼
「すまない。そこまで気が回っていなかった」
そんな俺の様子を見て魔王が少し困ったような声音で俺に右手で取る手綱を取るように声を掛けて来るので素直に従う。手綱を掴んだのを確認すると俺を抱えていた手を放し、アイテムボックスから暖かそうな大きなコートを出して俺に渡してくる
空いている方の腕で受け取り飛ばされない様に慎重に着込む。
はぁ~、マジで死ぬかと思った・・・
てか、これ一体何に乗っているの⁉いい加減姿が見えないと不安なんだけど・・・
「今はまだ知らない方が良いよ。この仔の上で聞くと君が気を失って危なそうだから」
え゛⁉何それ⁉超怖いんですけど⁉てか、ナチュラルに俺の考えていること読まないでください。
「あ・・・ごめん」
そんな事を考えると魔王は気まずそうに顔を逸らし前を向く。また、読めれてる‼
しばらく何に乗っているのか分からないまま空の旅をしていると不意に高度が下がっていき森の中に着地する。
「ネージュ、ご苦労様」
魔王がそう言いながら右手を出すとポンっと軽い音がし青銀の鱗を持った小さな龍がその手に乗っていた。
魔王は優しく頭を撫でると龍は気持ち良さそうに目を細め頭を手に擦り付ける。
えぇ‼あの仔に乗っていたの⁉小さくない⁉どういう法則が成り立っているの⁉
龍は一通り撫でられると翼を広げ空に飛ぶ。
そんな龍を見送った後に魔王はおもむろに自分の肩に刺さっているナイフに手を掛けると一瞬、躊躇した後に一気に引き抜いた。
「っ‼」
相当な痛みだったのか短く悲鳴を上げた後、ナイフを繁々と見る。ナイフには返しがついており抜く時に痛みが走るようにいやらしい構造をしていた。
魔王は確認したナイフを腑に落ちないような雰囲気を醸し出してからアイテムボックスに放り込むと右肩から血を流しながら俺の方を向いて口を開いた。
「遅くなって申し訳なかった。ボクが遅かったばかりに君に負わなくても良い傷を負わしてしまった。本当に申し訳ない‼」
その言葉と共に魔王は俺にすごい勢いで腰を折り、謝罪しだした。
「え⁉いや、あの、助けて貰ったのは俺だし、そもそも勝手にあいつらと戦ったのだって俺なんだから気にしないでよ」
魔王のいきなりの謝罪に正直かなりビビる。
「だからさ、顔を上げてこれからの話をしようよ」
頭を下げ続ける魔王にそう声を掛けると魔王は下げていた頭を上げ少しだけ堅かった空気が緩んだ。
「そう言ってもらえると少しだけ気が楽になるよ。ありがとう。とりあえず。君の治療が先決だね。これを飲んでくれるかい?」
魔王はそう言うと見たことのある小瓶に入った液体を取り出した。
「梟印のポーション⁉なんで魔王がこれを持ってるの⁉」
思わずそう声を上げた俺に魔王は小首を傾げて答えてくれる。
「見たことが有るのかい?これは白夜の魔王が制作してるポーションだよ。あぁ、そうか・・・レティに何本か念の為渡していたのを神薙さん経由で君に渡したのか」
魔王は納得がいった様子で手の平を合わせる。
「ポーションより回復魔法とかの方が良いんじゃないか?ポーションには限りが有るだろ?」
俺の疑問に魔王は簡潔に答える。
「今は、君の体力も損耗しているし、回復魔法よりは治癒や快癒の魔法が使える人間の方が良い。回復魔法や治癒、快癒は似ているようで違うんだよ。回復魔法は水、風、光どれかの属性に適性が有れば使えるけど体力を著しく失うから今回みたいに監禁された後で体力を失っている時にはお勧めしない。治癒は体力の損耗無しに怪我や病気も治せるけど手足の欠損は治せない。快癒は手足の欠損すらも治せるらしいよ。生憎と僕は治癒も快癒も使えないんでね。とにかくそれを飲んでくれるかな?話はそれからにしよう」
魔王の言葉に素直に瓶に口を付け、中身を煽るとやっぱり傷が怖いぐらいに早く治った。
俺の状態を確認すると魔王は俺の目(仮面付けてるから視線は分からんけど)を真っ直ぐに見て口を開く。
「さて、傷も治り一段落した所でこの前の正式な返事を聞かせて貰いたい。僕達と同盟を結んでくれないかな?」
魔王は城で聞いてきた事を改めて俺に問いかけて来た。
「・・・あの、魔王一つだけ聞いて良いかな・・・」
「なんだい?」
「俺も魔王達みたいに戦えるようになれるかな?」
何故か緊張した声音で先を促す魔王に疑問を抱きながら、さっきまでの戦いを見ていて純粋に思ったことを聞いてみた。
「そうなりたいなら今度こそ僕は全力で君をサポートする。まぁ、どちらにしても自分の身は守れるようになって貰うつもりだけどね」
魔王は些か緊張を解いた様な声で答えてくれる。そっか、足手まといになる様な事は無いんだ・・・良かった
「僕からも一つ良いかい?」
「何?」
一人で安堵していると今度は魔王が少し躊躇するような感じで聞いてくる。
「さっき人を沢山殺した事に君は嫌悪感を抱かないのかい?」
魔王からされた質問に少し驚いた。まさか、魔王からそういう事を聞かれるとは思ってなかった・・・しっかりと俺の考えを言っておかないと・・・
「嫌悪感を抱かないと言ったら嘘になるよ。人が死ぬなんてつい最近までは身近な事じゃなかったしね。でも、あの人達はこっちの命を狙って来たんだ。命を狙ってきた以上自分も死ぬ覚悟がなければ命の遣り取りなんてしちゃいけない。ましてやこの世界は俺達の居た世界とは違うんだ自分の身を守るためにはそういう事も有るって割り切らないといけないよ。だから俺は君が彼等を殺した事に何も言わない。だって君が来てくれなかったら俺は死んでいたんだしね」
魔王は何やら驚いた雰囲気を見せ少し笑ったように肩を竦めた後に右手を差し出してくる。
「同盟は結んでもらえる?」
「喜んで、戦い方を教えて貰ったりと迷惑をかけると思うけどよろしくお願いします」
魔王が出した手を握り握手をする。握った手の小ささと華奢さに思わず驚いてしまう。
「どうしたの?」
「あ、いや、その、あ!そうだ‼そう言えば自己紹介がまだだった。俺の名前は狗神 和登です。分かっていると思うけど異世界から連れてこられた勇者です」
魔王の華奢さに驚いていると不思議そうにしている魔王の手を放し、自己紹介をしていなかったと言って動揺していたことを誤魔化し名前を告げる。
まぁ、魔王は名前を教えてはくれないだろうなぁ。多分まだ信頼されてないだろうし・・・
「あぁ、そう言えばお互いに名乗って無かったね。僕も黄昏の魔王としか名乗らなかったしね」
俺の言葉を聞いて魔王は楽しそうな声を出しながらおもむろに被っていたフードを脱ぎだした。
フードを取ると銀色の髪が現れる。キラキラとまるでそれ自体が光り輝いているのかと思うその髪は肩口に着くぐらいの少し長めのボブカットになっておりサラサラと風になびく。
「改めて自己紹介をさせて貰います」
髪が風に流れるその美しさに思わず見とれていると俺に話しかけながら先程の戦闘でひび割れた仮面に手を掛け外しだし、仮面の下の素顔をさらす。
男だと思っていた彼女の顔を見た瞬間、俺は静かに息を飲んでしまった。
フードと仮面を外した魔王は、透き通るような白い肌に恐ろしく整った顔立ちの美少女だった。
大粒のアメシストを思わせるような紫色の瞳にピンクの小さな唇、小ぶりな鼻それらが絶妙に配置されている。
息を吞むような美貌に笑みを浮かべて仮面を着けていた時よりも更に澄んだ声で言葉を続ける。
「私は今代の黄昏の魔王、コハク・リステナ・トワイライト。最弱の魔王です」
耳に心地良い声で自己紹介する彼女を俺は5分程じっくりと見てしまった。
一応コハクが使った回復系の魔法と治癒魔法の違いを簡単に書かせていただきました。
説明不足な事も多いと思いますが生暖かい目で見て頂けると幸いです。
次回はコハク視点に戻ります。ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




