レティの慧眼に恐怖を覚える
こんにちは、第68話投稿さて頂きます。
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「ま、魔王⁉」
私の言葉を聞き闇の勇者や火の勇者が慌てて武器を構える。
「さて、無駄話も終わったし、君達は僕達を逃がす気はないんだよね?なら、やる事は一つだ」
下げていた剣をゆったりとした動作で腰の鞘にしまう。
「《オクタ・セブンスエレメント・スフィア》」
勇者との話を終えた瞬間、私は魔法を発動させ七種の光球を展開させ、黄色の光球を近くに待機させて右手で砕き破壊する。
「オーラ」
身体強化魔法を掛けた私に土の勇者以外の勇者達は身を強張らせる。
「さぁ、思う存分、殺し合おう」
私は再び自分の中のスイッチを切り替える。
勇者達の虚を突き彼等のすぐ近くまで行くとその一言と共に闇の勇者の横っ面を裏拳で殴り飛ばした。
いきなりの事で何も反応出来なかった彼は私に殴られた勢いのまま思いっ切り吹っ飛ぶ。
この国の兵に向けていた心を少しでも彼に向けていれば私の対応も違ったのにね。
悪いけど一名を除いて君達は今から私の敵だから一切の容赦はしない。
「・・・は?」
いきなりの事に火と雷の二人の勇者が間の抜けた声を出す。
「立川君‼」
土の勇者が吹っ飛んだ闇の勇者を心配して声を上げ駆け寄っていく。
う~ん。この人なんの職業か知らないけど一般人じゃないなぁ・・・一人だけ反応早いし。多分、こっちに片足突っ込んでる。片足じゃないかもだけど・・・
あ、それとその人、大丈夫ですよ。一切の容赦はしないって思いましたけど勇者には死んでもらうわけにはいかないので一応生かしてあります。まぁ、顔面に治癒魔法ぐらい必要だろうけど。
「く、くそ‼」
火の勇者は慌てた様子で横に大剣を振って来たのを上体を逸らして避ける。光の勇者君(彼)との戦闘で勇者の武器は私の防具をあっさりと切り裂く事がわかっている。まぁ、勇者の武器に限らず避けるんだけどね・・・
回避した体制から火の勇者の顔面に飛び膝蹴りを喰らわせて地に沈める。その一撃で十分だったようで気を失ったみたいだ。多少、痙攣しているがまぁ、気にしない。
着地をした所にすごい速さで薙刀の突きが繰り出される。片手で攻撃をいなし、懐に潜り込む。
「《フォース・バインド》」
「きゃ⁉」
青色、黄色、緑色、茶色の4つの光球が解け彼女の体に纏わりつき動きを封じる。流石に女の子に飛び膝蹴りは出来ないって・・・
可愛い悲鳴を上げ雷の勇者は地面に転がる。
よし、これで残るはイレギュラー臭のする土の勇者だけだ。
取り合えず、雷の勇者と火の勇者を別の場所に移動させようと近づくとブォンっという風切り音と共に私の眼の前にハルバートの刃が振り下ろされる。
強く叩きつけられたわけではなさそうな地面はメリメリとすごい音を立て割れていく。
地面に刺さったハルバードの切っ先が跳ね私の顔に向かって来るのを後ろに飛び回避する。ピキっという音と共に風圧で仮面に放射線状のヒビが入る。
空中で一回転しながら鞘に納めたカグツチとオカミノカミを抜き着地する。
「この子達から離れてください」
さっきまで私が立っていた方を向くと武器を振り抜いた姿勢のまま土の勇者は静かにそう言って来る。
まぁ、離れてくださいって言うよりか離れろって感じかな?
「《オクタ・アースウォール》」
私と彼を囲むように魔法で壁が出来上がり外から隔離される。
一瞬、光の勇者君が心配になるが一時的に意識の外に置く。
クラシアの兵共を叩き切って置いたお陰で光の勇者君は大丈夫だろう・・・今は土の勇者に集中しなければ。
私と土の勇者は同時に地を蹴りお互いの距離を詰める。
上から振り下ろされるハルバードを私はカグツチとオカミノカミをクロスさせランゲット部分を受け止めるとガキンっという硬質な音が遮られた広場に響く。
思った以上の衝撃に左手の傷がジクリと痛みだし、包帯から血が滲みだす感覚がしてくる。
受け止めたハルバードを押し上げ相手が体勢を崩した所に駆け込み懐に入ろうとした所で唐突に何かが私の顔面目掛けて突き出される。慌てて首を逸らして回避すると土の勇者は弾かれたハルバードの石突を使って突きを放ってきていた。
突きを除けてほっとしたのも束の間で腹部に衝撃が走り後ろに飛ばされる。
くそ、大して痛くも無いのに体格差で飛ばされて間合いが開いた・・・てか、あそこから蹴りを繰り出すって足長いな畜生‼‼
「《フォース・バインド》」
土の勇者の動きを封じるために先程と同じ拘束魔法を放つ。四色の帯が彼を捕らえようと空中を飛び迫るがそれらはハルバードの一振りで消滅する。
魔法を物理的な攻撃で消すとか非常識な・・・
「フレイムエンハンスアーマメント、アクアエンハンスアーマメント」
カグツチで赤色の光球、オカミノカミで青色の光球を切り裂き、二本の剣が火と水を纏う。
「《オクタ・アースバレット》《オクタ・アースニードル》」
今度は土の勇者が距離の離れた私に向かって魔法を放つ
高速で飛んでくる無数の石の弾丸と地面から無数の巨大な岩の棘が生えながら迫って来る。
カグツチを一振りし、纏っている炎で《アースバレット》と《アースニードル》を焼き尽くし地を駆け、オカミノカミを振り上げる。
ガキンと大きな音がしオカミノカミと土の勇者のハルバードがぶつかり合う。
ガンガンと硬質な音を響かせながらお互いに武器を打ち合う。
「聞きたいことが有ります。貴方はレティシア様の知り合いですか?」
再びガキンと音を響かせ私の剣をハルバードで抑え込みながら土の勇者が小声で聞いてくる。
「そういう貴方はレティに付いた勇者で間違いないですね?」
「えぇ、間違いありません」
彼の質問に私は質問で返したが彼にはそれで十分だったようで気分を害した様子も無く答えてくれる。
「成程、複数いる勇者から貴方を味方につけるあたりがレティらしい。どこまで聞いてますか?」
「この国の状態と魔族との諍いの原因ぐらいは聞いています。今の状態から狗神君を逃がすことは可能ですか?」
「そのために此処に来ている。だけど、他の勇者は現段階では連れ出すことはできない。彼等は貴方に任せても良いですか?」
「彼等の事は任せてください。本当は狗神君達も僕が責任を持って守らなければいけなかったのに他の子を守るために手が出せませんでした。教師失格です」
抑えられていた武器をカンっと音を立て放しながら彼の懐に入り込み今度はガード部分を二本の剣で受けながら再び口を開く。
ステータスは偽造されていても彼の心の声は言っている事と変わらない。恐らく本心だろう。
「こんな事を言える立場ではありませんが彼等の事をよろしくお願いします」
「引き受けました。貴方も無理をなさらずに」
至近距離で彼は些か困ったような笑顔になる。
「僕の名前は神薙 賢治と言います。では、そろそろこの戦いに決着を付けましょう」
言うが早いか彼は思いっ切り武器を振り上げ、私との距離を開こうとする。
それと同時に私はアクアエンハンスアーマメントによって撒き散らされた水に術式を追加発動させる。
「フリーズ」
その言葉と同時に彼の振り上げた腕や足に分厚い氷の膜が生成され彼の動きを完全に封じる。
「なるべくなら貴方とは二度と戦いたくないですね」
「僕もです」
私は仮面の下で苦笑してそう言うと彼も動かない体に苦笑しながらそう答えた。
彼の服のポケットにメモと魔道具を入れる。
私は魔法で作られた壁をカグツチで一気に崩し外に出る。
処刑を見学に来ていた市民や王侯貴族が私の姿を見て悲鳴にも似た声を上げる。
再び集まった騎士達を近づけない様にカグツチを一振りし炎の壁を作り出し光の勇者君を担ぎ上げ、白色の光球を近くに寄せる。
「シュートアップ」
光球は空高く飛びバァンという音共に空に光の花が咲く
その音の後に反応し、鳴き声が広場一面に響き渡り数秒もしない内に物凄い突風が辺り一面を襲う。
バニッシュで姿は見えないが上空に居たネージュが予め決めていた合図で私の近くに着地し身を低くする。
何が起こったのかわからず混乱している場に乗じて急いでネージュの背に飛び乗った所で不意に勇者君を抱える左肩に激痛が走る。
驚き、肩の方を見るとそこには私のコートを貫通した鈍色の刃が見える。
ナイフが飛んできたと思われる方向に目を向けるとそこには豊かな金髪をツインテールにし、恐ろしいほどに整った顔に可憐の中に毒を含んだ笑顔で面白い物を見るような目を此方に向けている美少女が見えた。その顔は優しそうな微笑みを作っているにも関わらず煌めく様な黄金の双眸は恐ろしいほどに冷たい。
その顔を見た瞬間、直感でストリアさんの言っていた金髪金眼の人物だと思い私の背に寒気が走る。
「ミストサンクチュアリ」
急いでその場に展開させていた全ての青色の光球で《ミストサンクチュアリ》を展開させネージュを飛び立たせる。
最後に見た女の顔に見覚えが有る嫌な感じと自分の計画の甘さにとことん呆れながら私は勇者君を連れ多少の怪我を負いながらもクラシア王国を後にした。
次回は和登の視点から始めます。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




