勇者救出・1
おはようございます。第65話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
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☆の後はリルの視点です。もう一度星が入った後はコハクの視点に戻ります。
さて、クラシアから連絡が来て早2日が経ち勇者君の公開処刑が行われる日が来てしまった。
彼等の救出準備は進めていてもいざ決行の日になると不安になるものだ・・・
ため息を一つ吐き勇者君以外のリルや聖女さんの避難方法、落ち合い場所などを脳内で再度シュミレーションしながらいつもの服装に着替える。
公開処刑は正午から始まる処刑の為に大勢の人間がかり出され中央広場に集まり城の方は手薄の状態になる。その隙に城の中の二人に前もって回収した装備を渡し少し離れた森に転移魔方陣で転移させる。私はそのまま勇者君の場所に行き彼を連れてクラシアを脱出する。大雑把に言ってそんな作戦だ。まぁ、邪魔は入るだろうし言うほどスマートにはいかないだろう。
「魔王様?大丈夫ですか?」
私の着替えを手伝ってくれていたリューンが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫、まぁ、人の命が掛かっているから多少の緊張は有るけどね」
多少、強張った笑顔をリューンに向け着替え終わった私は転送魔方陣の有る部屋に降りる。
「あるじ~、もうしゅっぱつ?」
廊下を歩いているとネージュが私に抱き着いてきながら上目遣いで聞いてくる。
その頭を優しく撫でながらネージュの問いに答える。
「うん、もうすぐ出発だからネージュも一緒に行こう」
「はーい」
ネージュは気持ち良さそうに目を細めた後、ポンっと音を立て私の肩に乗るくらいの大きさの龍の姿になると翼を羽ばたかせ私の肩に乗る。
そのままリューンとネージュと共に目的の部屋まで行く。
「お待ちしておりました。魔王様、準備は滞り無く済んでおります」
部屋に入ると宰相、クロノス、バラン、メイド長が出迎えてくれる。四人共今日の為に色々と準備をしてくれていたのだ。部屋の前に立つと宰相とクロノスが話しかけて来る。
「魔王様、魔方陣の準備は整っております」
「我が魔王、カグツチとオカミノカミ。あと、他の装備のメンテも完了しております」
「ありがとう。メルビス、クロノス」
宰相とクロノスにお礼を言っているとメイド長が心配そうな顔で袋を二つ渡してくる。
「魔王様、こちらの袋には傷薬、包帯、ガーゼ、漢方薬、ポーション、その他医療系の薬品が入っております。もう片方には食品が入っております」
「ありが・・・、メイド長、それ多すぎじゃない?」
食品の方の袋はともかく薬品系列の袋はあきらかに食品より多い。
「魔王様が普段からポーションを使ってくだされば私だってここまで用意いたしません。ただでさえ怪我が多いのですからこれでも少ないくらいです‼大体魔王様、まだ前回の手の怪我だって治ってないじゃないですか‼」
「・・・はい・・・すみません」
メイド長にビシッと言われてしまった。否定が出来ないのが辛い
「魔王様、これはあの方へのお土産でございます」
メイド長にお説教されている私にバランは布に包まれたお菓子を渡してくる。これを用意してくれるとはさすがバラン。
「ありがとう。バラン、メイド長」
お礼を言うと二人は嬉しそうに目を細めてくれた。
「帰りは多少、勇者君を鍛える予定だから最低でも一か月後になると思う。皆、国のことよろしくね。何か有ったらすぐに連絡して」
「「「「「畏まりました」」」」」
留守を頼むと五人は声を揃えて綺麗なお辞儀をする。
「それじゃあ、行ってきます」
皆に挨拶をして魔方陣を起動させる。辺りが光に包まれ対をなす魔方陣のある部屋に転送される。
「いらっしゃい。貴女に久しぶりに会えて嬉しいわ」
魔方陣の近くで待っていたのか転送されて早々にこの部屋の主に声を掛けられる。
私はフードと仮面を脱ぎ彼女の方を向く。
「お久しぶりです。レティ、私も貴女の顔が見られて嬉しいです。今回は協力してくれてありがとうございました」
「協力するのは当り前よ。あの馬鹿息子や馬鹿孫のやった事の後始末を貴女に押し付けているのだもの」
苦笑を浮かべながらレティ・・・この国の皇太后陛下レティシア・グレイス・ファクシアが近くに来る。
もうすぐ60歳になろうというのにその容姿は相変わらず綺麗だなぁっと思う。
レティには8年前にクロノスと一緒に初めてこの国に来た時にたまたま知り合いになった。
実はこの国で最初のコート等を揃える事が出来たのは彼女のお陰が大きかった。本当に何かしらの縁って大切だよね。
彼女は昔先代の黄昏の魔王と色々有ったらしく。この国の人間にしては珍しく人間至上主義という考えを持っていない。
レティと話していると彼女の部屋のドアがノックされる。レティは誰が来たのかわかっているのかどうぞと言うとカチャリっとドアが開く。
「姉様‼お久しぶりです‼」
「久しぶり。アメリア元気にしていた?」
ドアを閉め13歳ぐらいの少女が私に抱き着いてくる。
姉様と呼ばれているが別に私の妹と言うわけでは無い(まぁ、言われなくてもわかると思うが)。
この国の第二王女アメリア・フュリー・ファクシアだ。
レティと会っている内に第一王女から命を狙われるようになりレティが保護したこの子とも仲良くなった。二人共今回の勇者君の救出の際に裏で色々と動いてくれた。
「姉様?いつもよりお胸が薄くないですか?」
「アメリア、それ普通にセクハラだからね。戦闘服だからしっかりサラシを巻いているの」
ポンっとアメリアの頭に軽くチョップを喰らわせる。
「おぉ‼なるほど‼」
なにに納得しとるのかこの子は・・・姉様は地味に貴女の将来が心配です。
気を取り直しレティにお土産を渡す。中身は当然うちの商会の新商品のお菓子だ。
「お土産です。アメリアと一緒に食べてください」
「あら、ありがとう」
「ありがとうございます。姉様‼」
さて、いよいよ本題に入りましょうか。
「それでレティ、勇者君の処刑は変更なく正午に中央広場で行われるんですね?」
「えぇ、影からの情報によると予定通り中央広場で行われるらしいわ。彼と一緒に居た女の子達は変わらずに城の一室に幽閉されているわ。装備の類はこの部屋に特殊な封印処置をされてしまわれているらしいわ」
レティは城の見取り図を出しどの部屋にリルと聖女さんが居るのか、どこに彼らの装備が隠されているのかを指をさして教えてくれる。
ちなみに今私が居るのはレティが管理している離宮で王城からは少しだけ離れている。
「少し距離が有るけど間に合うかしら?」
「全力で走れば時間も早いですし、正午には十分間に合うから大丈夫です」
レティの疑問に笑顔で答えながら部屋を出る用意をする。
「それでは二人共。私が出た後は知らぬ存ぜぬを貫いてください。転移陣はいつもの様に保存してください」
「分かりました。姉様」
「分かったわ。コハク、貴女も気を付けてね」
「はい、今度はゆっくりお忍びで遊びに来ます」
「えぇ、楽しみにしているわ」
二人に笑いかけ私は部屋を出る前に仮面とフードを被り、魔法を使う。
「《オクタ・バニッシュ》」
光属性の魔法で姿を消し、私は離宮と王宮の間の道を一気に駆け抜けた。
☆
クラシア王国に裏切られ城の一室に幽閉されてから早くも二日が経ってしまった。
噂によると今日、和登さんを処刑するつもりらしい。
この二日間、どうにかして部屋から脱出しようとしたのだが装備の場所も分からなければ和登さん達の場所も分からないと完全に詰んだ状態になってしまった。
私達と対峙した勇者様が教えてくれた情報によれば心配いらないらしいが信用は出来ない。
こんな時、コハクちゃんならどのように行動するのだろうか・・・
此処には居ない友達の事を考えながら苦笑する。こんな行動に意味なんてないのに・・・
自嘲していると部屋のドアがコンコンと控えめにノックされる。
誰が訪ねて来たのか警戒していると聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「すみません。誰かいませんか?」
その声は少し前に分かれた魔王さんの声だ。
どしてこんなところに?そんな疑問が頭に浮かんだがこのままではまずいと思い。扉に近づき返事をする。
「はい、居ます。助けてください‼」
藁にもすがる思いで魔王さん助けを求める。この部屋は外から鍵が掛けられており内側から開ける事が出来ない。
「分かった。少し扉から離れて」
魔王さんの言うとおりに扉から離れると音も無く朱色の刃が鍵のある場所を貫く。
扉が開き、その向こうから見覚えのあるコートを着た人物が立っていた。
「やぁ、一週間ぶりだね」
魔王さんは飄々とした感じで剣を握っていない右手を上げて挨拶してくる。
「魔王さん‼なんでここに⁉」
「うん、助けに来たよ」
魔王さんは何でもない事の様にサラッとそんな事を言う。
混乱している私を他所に魔王さんは今後の予定を淡々と説明してくる。
「まず、君と聖女さんに先に転移魔方陣で逃げて貰う装備は取り返してあるから後で渡すよ。その後で僕が勇者君を助け出して君達と合流するから転送先で待っていてくれる?」
そう言いながら私の手を取り部屋から出ようとする。
「ちょ、ちょっと待って‼装備を取り戻しているなら私達も一緒の方が良いんじゃないですか?そもそも、私はまだ貴方の事をよく知らないしこういう場面ではまだ信頼できません」
この人の実力が私達よりはるかに上だという事はよく分かっている。でも、多勢に無勢な上にまだ出会って少ししか経っていないのだ完全には信頼できない。
その意図を汲み取ったのか魔王さんは少し考えた後溜息を一つ吐き口を開いた。
「リル、事は一刻を争う。今は私の事を信じて貰えないかな?」
彼・・・彼女はそう言うと仮面とフードを脱ぎ私の方を振り向いた。
きらめく銀糸の髪にアメシスト色の大きな瞳、小ぶりな鼻に透き通るような白い肌、恐ろしいほどに整った顔立ちの少女がそこにいた。
その顔は八年の間に更に美しくなっていたもののどこか昔の面影を残している。
「コ、コ・・・ハク・・・ちゃん?」
私は途切れ途切れにずっと探していた大切な友人の名前を呼ぶ。
彼女は少し気まずそうに笑いながら私の方を見る。
「ちゃんと話すのは久しぶりだね。リル」
「コハクちゃん‼」
「うわ!」
私は彼女の名前を改めて叫び彼女に抱き着く。勢いが良すぎたのか彼女は少しバランスを崩したが倒れるような事は無かった。
「リル、詳しくは後で色々説明するから今は聖女さんを助けてここから離れて貰えない?」
コハクちゃんにそう言われれば私が反対する理由は無い。
私はコクリと頷く。
コハクちゃんはその反応に満足したのか再び仮面とフードを被りそのままマカさんの閉じ込められている部屋に行く。
その後、私と同じように納得出来ていなかったマカさんを説得し、後で合流する事を約束しながら私達は一足先にクラシア王国を後にした。
☆
光に包まれ一足先にクラシア王国から脱出した二人を見送った後で私は使用した魔方陣を処分する。
緊急時とは言えリルに正体を明かした事に後悔は無い。
それにしても・・・聖女さんの説得に思った以上に時間を取られてしまった・・・全くいくら信頼関係ゼロとは言え空気を読んでほしいよね。
ため息を一つ吐き、私は左手に嵌めているリング・オブ・トワイライトを見る。
全く持って保険というのは掛けておくに越した事は無いね・・・
そう思いながら指輪の効果を発揮させる。
初代黄昏の魔王が作ったこの魔道具は私達が使っている転移魔方陣と同じ物で対になっている指輪の元にゲートを繋ぎ一瞬でその場所に転移できる。
ぶっちゃけると私はこの指輪を元に転移魔方陣や転移装置を完成させたんだよね。
まぁ、ちょっと使用は違うけど・・・
「コリドーオープン」
キーワードと共に私の前に回廊が開かれ、私は迷うことなくその中に足を踏み入れる。
さぁ、ここからが本番だ。
次回は戦闘します。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




