戻って来た指輪
おはようございます。第64話投稿させて頂きます
楽しんで頂けたら幸いです。。
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☆はコハク視点です
意識が戻るとカビと埃の臭いがして来て顔を顰める。
辺りを見回すとレンガの壁に鉄格子が見えるどうやら檻に入れられたらしい。
「痛っ‼」
幸い手足は縛られていないので起き上がろうとすると今度はお腹に走る痛みで顔を顰める。
くそ・・・魔王といい先生といい、人の事をボールみたいに蹴ってくれる・・・
そんな愚痴を心の中でこぼしながら装備の確認をする。
装備はゼロ、当たり前だが装飾品の類も没収されたみたいだ。あとは・・・
「来い」
目の前に手をかざし剣を召喚しようと試すが何がしらの力に妨害されているのか小さな光の粒子が漂うだけだった。
しまった⁉魔王から受け取った指輪も無い。
まずい・・・これは完全に詰んだ・・・
恐らくリルやマカも似たような境遇だろう。まぁ、向こうは他国の貴族と聖女なので牢で繋がれているとかではないと思いたいが・・・
そんな事を思いながら固い床に大の字になって寝転がる。
とりあえず、今は何もできないその時が来た時の為に体力を温存しておこう。
腹部はまだ痛むが我慢して目を瞑るとコツコツと足音が聞こえて来る。
見張りが巡回でもしに来たのだと思い目を瞑ったまま無視をすると不意に声を掛けられる。
「狗神君、寝ている所申し訳ありませんが起きて貰っても良いですか?」
聞き覚えのある声に薄っすらと目を開けると腹部の痛みの原因と捕まった原因である神薙先生が立っている。
「あぁ、良かった。起きてくれましたか、少し話が有るんですが良いですか?」
えっ⁉ちょ⁉俺少ししか目を開けてないよ⁉なんでわかったの⁉
内心驚きつつ起きていると分かってしまったのなら仕方がないなどと思いつつ身を起こす。
「何か用事ですか?」
かなり不機嫌そうに先生の呼びかけに答える。蹴られる前に言われた言葉も有るので味方なのかもしれないが一応警戒する。
「そんなに警戒しないでください。僕は敵対する意思は有りません」
神薙先生は俺の態度を見て苦笑しながら敵意は無い事を話す。
「どこか痛むところは有りますか?」
「しいて言うなら蹴られた所が痛みます」
俺の言葉を聞く神薙先生はすまなさそうな顔になる。
「緊急時とはいえ手荒な方法ですみませんでした。これを飲んでください」
そう言いながら梟の絵の描かれた小瓶を俺の前に出す。
「信用できる方から貰ったポーションです」
小瓶を手に取り臭いを嗅ぐ確かに臭いはお店で売られている物と同じようだ。
鑑定を掛けてみてもポーションと出ているので俺は一息に中身を煽る。
中身を飲んだ途端に驚くほど速く腹部の痛みが消える。
クラシアで売っているポーションと違い。その即効性に驚くと同時に多少怖くなる本当に大丈夫かこれ?
「痛みは和らぎましたか?」
「・・・はい。あの、これ本当に大丈夫な薬なんですか?」
薬を貰っておいて言う事ではないがどう考えても怖すぎだろ・・・
俺のそんな考えを察したのか先生はまた苦笑しながら話し出す。
「まぁ、効き過ぎて心配になる気持ちもわかります。僕が今信頼を寄せている人によると魔族領の方から流れて来ているポーションらしいです。まぁ、一般の方々はそこまで知らずに梟印と呼んでいるらしいですけど」
先生の言葉に思わず目を見張る。
先生が信用している人は少なくともこの薬が魔族領から流れて来ていることを知っている。しかも、その人は人間以外は格下だと思っているこの国で薬が入手出来るほど魔族領の誰かと親しい可能性が有るのだ。
そんな人がいる事に驚く。
「先生、その人は誰なんですか?」
俺の質問に先生はいささか難しい顔で答える。
「すみませんがその人に関して僕は何も言えないんです。どこで誰が聞いているかもわかりませんしね」
「じゃあ、質問を変えます。先生は何時からその人の元に居るんですか?」
質問を変えると今度はあっさりと先生は答えてくれる。
「あぁ、それならこの世界に召喚されてすぐですかね。」
「え!そんなに早くですか?」
「召喚された時点で王やお姫様の話に違和感が有りましたし、魔族の所為で貧困に喘いでいるという割には王も王妃も姫も豪華な宝飾品を大量に身に着けていました。ああいう輩には覚えが有るので不信感を持つには十分です。他の皆がいなければ即刻おさらばしていましたよ」
先生は軽い感じでそう言う。
えぇ・・・たったそれだけで不信感を持つってどんな人生だったんですか・・・
「それと君と一緒にいた女の子達ですが彼女たちも無事です。城のどこかの部屋に軟禁状態みたいですが、流石に他国の貴族のご令嬢と聖女を牢に入れるほど愚かでは無かったみたいですね」
俺が心配していると見抜いていたか先生はリルとマカが無事だと教えてくれる。
「あと、狗神君をどうするかこの国は決めた様です」
先生は此処からが本題と言うように表情を引き締める。
「君は見せしめの為に2日後に公開処刑にされるみたいです。もちろん事実を捻じ曲げられてね」
先生の言葉に予想していた事とはいえ眩暈がする。勝手に召喚しておいて自分達に都合が悪くなると処刑とは・・・
「本当は今この場で君を逃がして一緒にこの国を出られれば良いのですが・・・坂月さん以外の彼らは良いように利用されている状態です。彼等を放っておけない。すみませんが狗神君の救出は他の人に任せる事になってしまいました」
ポケットに手を突っ込み先生はポケットから指輪を取り出し、俺の手に渡す。
見ると魔王から渡された指輪だった。
「先生これって・・・」
「僕の信用している人から君に渡すように頼まれた物です。もともと、君が持っていた物だったみたいですがその人が回収していてくれました。あの人曰くそれを持っていれば大丈夫との事です」
先生はそれだけ言うと牢の前から立つ。
「すみません。そろそろ行きます。万が一の場合は今の状態を崩しても助けます」
先生はそう言うと静かに牢のある部屋を出て行った。
☆
「―――――」
「わかった。報告をありがとう。貴方も気を付けて」
私はそう言うと懐中時計型の通信機を閉じる。フェル達と通信するときに使っている物とは別の普段使いの物だ。
クラシアに潜入して貰っている人間の部下から勇者君の今後の処遇やリル達の囚われている場所を聞き通信機を閉じた途端に再び着信をした事を告げる振動が手の平に伝わる。
パカンっと蓋を開け通信をする。
内容は私の所に来た勇者君に無事に指輪を返すことが出来たという事と指輪を渡すのを彼女の元に身を寄せている勇者の一人に頼んだと言う事だった。
勇者君の手に指輪が戻った事と勇者の一人それも彼女が信頼出来る人と繋がりを持てる事はとてもありがたい。
私は彼女にお礼を言い近い内に再び会いに行く約束を取り付けると通信を切り今度こそ通信機の蓋を閉め服のポケットにしまう。
それにしても、自分が思った通りに事が進んでしまうとは・・・
予想していた通りとは言え彼にその可能性を伝え無かった上に更にそれを利用しようと考えていたのだから全く我ながら人でなしだ。
自己嫌悪しながら私は2日後に彼を助けるために準備を始めるのだった。
次回はコハクの視点から始めたいと思います。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




