さて、お話をしましょうか(sideコハク)
おはようございます。第62話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。今回はコハク視点です。
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「まぁ、まだ混乱しているだろうし、お風呂にでも入って少し気分を落ち着けてきなよ」
出していた各属性の光球を消し勇者君達にそう提案する。
まだ混乱している勇者君に色々と説明してもさらに混乱するだけだ。それなら威圧や死ぬかもしれないという目に会わせた事による汗を洗い流して貰い、落ち着いてもらった方が良いだろう。見れば魔法使いちゃんも起き上がりゆっくりとこちらに近づいて来ている。
バランを呼び(相変わらず気配も音もなく突然私の近くに現れる)彼らをお風呂場に案内させる。
「あっちゃ~、ざっくり逝った」
バタンっと扉が閉まったのを確認してから私は手の平を見て顔を顰めながらぼそりと言う。
血でドロドロになった手袋を外し改めて傷口を確認すると思いっ切り握っていたためかざっくりと切れた手の平からは相も変わらず血がダラダラと流れ出し広間の床を赤く染めている。
流石に手袋が切れた状態で勇者の専用武器を掴むのは無理があったか・・・
「う~ん、兎に角、血を止めないと・・・」
溜息を一つ吐き、救急箱を取ってこようと後ろを向くとそこにはムスッとした表情でハサミを持ったメイド長と同じくムスッとして救急箱を持ったリューンが立っていた。
あ、やっちゃったこれ完全にお説教モードだよ・・・今日は何かついてないなぁ
「魔王様、また傷を御作りになったんですね?」
「え~、あ~、うん、怪我しました・・・」
メイド長の問いにしどろもどろになりながら答える。
いや、私だって怪我したくてしたわけじゃないんだよ?でも、今回はしょうがないじゃない?
「はぁ~、御自愛くださいと言ったそばから傷を増やすなんて・・・ポーションを使う気は無いのですよね?」
「はい・・・ありません・・・」
「兎に角、手当てをします。椅子に掛けてください。ついでに御髪も整えましょう。フードを外してくださいまし」
私は素直に近くの椅子に据わり勇者君達が温泉に入っている間にメイド長に髪を整えて貰いながらリューンに傷の手当てをしてもらう。
「魔王様、少し沁みますよ?メイド長、一旦、鋏を離してください」
「わかったわ」
メイド長がそう言いながら一旦、鋏を私から離す。
リューンは私の左手の平に薬を掛ける。その瞬間、私の手の平に強烈な刺激が走る。
「いったぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼」
その刺激に私は思わず思いっ切り悲鳴を上げる。何これ⁉ちょっと所じゃあないんですけど⁉思いっ切り手の感覚が痛みで麻痺しだしたんですけど⁉
「だから沁みると言いましたよ?」
「だからって沁み過ぎじゃない⁉いつも私が使っている薬じゃないよね?」
私はリューンを恨みがましく見ながら抗議する。
「白夜の魔王様の新作らしいです。今までの物より殺菌作用などが強く傷の治りも早くなるらしいです。」
「新作だって先に言ってよ・・・」
「言ったら嫌がるでしょ?」
「嫌がるねぇ・・・」
「だから言いませんでした。沁みるのが嫌ならポーションを使えば良いんですよ。または、怪我をしなければ良いのです」
「・・・」
ぐうの音も出ない・・・ちくせう
そんな会話をしつつ傷の手当等をしている最中で私はふと他の魔王の所に行った勇者達の事が気になった。
万が一にもフェル達が彼等を殺す事は無いと思うが・・・無いよね?
一度気になりだすと居ても立っても居られなくなり空いている右手でポケットの中を探りコンパクト型の魔道具を出し、蓋を開ける。私とフェルとオウルの三人が共通して持つ通信機だ。
因みにこの八年で私はフェル達に敬語などを使わなくなり、名称も敬称無しで呼ぶようになった。フェル達からもそう呼ぶように言われたし、二人の魔王としての仕事が適当だったのもあり自然とため口に為った。
想定外だったのはその過程で憤怒の魔王が呼び方に対し拗ねてしまい(大人のガチスネは初めて見た)。結果として私は憤怒の魔王を小父様と呼ぶ事に為ったのだ。
魔道具を開いて少し待つと魔道具に嵌っている魔石から二つの映像が浮かび上がる。
そこには狼の顔をモチーフにしたマスクをかぶった男とペストマスクの様な仮面を被った男が映し出される。
「お~う、コハクどうした?」
「お前の所に来た勇者は片付いたのか?」
「こんばんは、フェル、オウル、私の方は今一段落着いたから二人の方はどうなったか気になって連絡してみたんだ。そっちには勇者が二人ずつ行ったんでしょ?大丈夫だった?」
「「あぁ、それなら丁度・・・」」
私の言葉に二人は息ピッタリに返事をして来る。
「止めを刺そうとしているところだ」
「新薬の実験動物に使うところだ」
そう言いながら二人は勇者たちが見えるように魔道具を動かした。フェルの方にはボロボロの暁の勇者(男の子)と水の勇者(女の子))、オウルの方には動けないのか床に這いつくばっている白夜の勇者(男の子)と風の勇者(女の子)が映し出された。
「バ、バカァァァァァァァ!!!!!!!!!!何、殺そうとしてるの⁉生きたまま捕獲するのが目的でしょうが‼」
思わず身を乗り出し二人の魔王に叫ぶ。メイド長とリューンは動きを予測していたのかさっと離れる。
「「だってこいつ等好き勝手言ってくんだもん」」
やっぱり声を揃えていたずらが見つかった子供みたいに拗ねる二人。良い大人がもんとかいうな‼
「洗脳されてるの!その人たちの意志じゃないの‼それくらいわかろうよ‼洗脳は聖属性の魔法で解呪出来るから聖属性を使える人に見て貰って‼」
「「家に解呪の使える腕を持つ聖属性の使い手がいると思うか?」」
これまた綺麗にハモリながら胸を張る二人・・・胸を張れることか‼
「あーあーあー、いませんでしたね‼こっちの用事が終わったらそっちに行くから絶対に殺すなよ‼縄で縛って大人しくさせときなさい!良いね‼わかったら返事は?」
「「ハーイ」」
二人仲良く返事をしてきて私は増えた面倒ごとに頭痛を覚えながら通信を切る。
通信を切ったのと同時にメイド長達からも治療等が終わったと言われたのでこの後の話をする。
「メイド長、和室に資料を持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
「リューンは、お茶とあとこの前、試作したわらび餅持ってきてくれる。ついでだから彼らの反応を見て商品化するかも決めよう」
「かしこまり」
メイド長は一礼をリューンは敬礼をして部屋から出て行く。ちなみにリューンは私とメイド長しかいない時は大体あんな感じで返事をする。
私はまだ少し痛む傷に顔を顰めながらフードを被り仮面は着けずに和室へと向かった。
和室に着き少しするとバランが勇者君達を連れて来る
「やあ、少しは落ち着けたかな?こっちに来て座りなよ」
和室に驚いたのかドアを開けて呆然としている勇者君に一声掛ける。お風呂に入ったことで少しは混乱が収まったみたいだけど和室を見てまた少し混乱しちゃったかな?
まぁ、驚くよね・・・初めて見たときには私だって驚いたもん。
「少し落ち着いたみたいで良かったよ。まぁ、聞きたい事は色々有ると思うけどとりあえずこの資料に目を通してもらえれば聞きたい事は大体わかると思うよ。」
事前に用意しておいた資料を勇者君達に配ってもらう彼らはそれに目を通すと驚いていたり、納得できなさそうな顔になったり、感心していたりと三者三様な反応を示した。
少しして資料を彼らが読み終えたタイミングで私は試作品のわらび餅を持ってきてもらう。甘い物を食べてリフレッシュして貰おう。
「あ、そうだ。これも食べてみてよ。資料に書いている家の商会で今度売り出そうと思っている物なんだ。少し疲れてもいるだろう?疲れた時には甘いものが良い」
リューンがお茶とお菓子を卓袱台の上に置いてくれたタイミングで聖女さんが勇者君に向かって首を振りながら進言する。
「勇者様‼毒が入っている可能性が有ります。手を付けない方がよろしいかと・・・」
そうだね。確かに君達に取ったら敵地だからその反応は正しいよ?
でも、殺す気ならさっきの戦闘で確実に全員死んでるよ?
まぁ、良いけどね。警戒するのは自由だし、だからリューン後ろの方で聖女さんをぶん殴ろうと持ち上げているお盆は下ろそうね?魔族のしかも竜人の力で殴ったらシャレにならないからね?
「まぁ、普通は疑うよね。どれか適当な器を選んで僕の方に渡しなよ。言っておくけど僕に毒無効のスキルは無いから」
私は自分に毒無効などのスキルが無いことを明言し、自分が毒見をする事を伝えると勇者君が申し訳なさそうな顔で自分に一番近い器を取り渡してくる。
器を受け取り口に運ぼうと思ったところで
「あ、これ美味しいです。程よい甘さでツルツルのプルプルで今まで食べた事が無い食感です」
そんな声が右斜め前方から聞こえて来る。
驚き声の方を見ると魔法使いちゃんがモグモグとわらび餅を頬張っている。
「ミューウェルクさん⁉」
これには聖女さんもビックリだ。まぁ、そうだよねぇ・・・
というか、君は男爵家の娘で貴族でしょ・・・簡単に敵地で物を食べちゃだめだよ・・・
彼女の行動に思わず頭を抱えそうになる。今はまだ私の正体に繋がる行動はとれない。
「?だってわざわざ毒で殺す意味ないですよね?殺す気ならわざわざこの場所に呼ばないでしょうし、だったら警戒しなくても良いかなって思ったのとさっきの戦闘までこのお城に罠も無かったですしこの人そんな事する人じゃないなぁって思ったんです。あと、しっかり鑑定も使ったので安全は確認してますよ?」
全員で驚いているところに彼女はキョトンとした感じで平然とそう言ってのけた。
まぁ、実際にその通りだし、鑑定を使って安全確保してたのね…
「えっと・・・毒が入ってないのは彼女が証明してくれたのでよければ食べてよ」
「あ~、いただきます」
恰好を着けた故にそれが失敗し、多少の気まずさが出来てしまったが彼女が毒は無いと証明してくれたので良しとしよう・・・でも、他の所でやったら絶対に駄目だからね‼
とりあえず少しの間全員で甘味を堪能する。
「さて、資料も読んだことだし、何か質問はあるかな?」
少しして全員がお菓子を食べえた所で私はそう切り出す。
質問したいことはたくさんあるだろう
「その前にまず謝らせてくれ。洗脳されてたとはいえ話も聞かずに剣を向けすみませんでした」
「え、あ、そんな謝らなくていいよ。君の意志では無かったんだし・・・」
私が質問を待ち構えていると勇者君は唐突に頭を下げ先程の態度を謝って来る。
成程、本来の性格はかなりしっかりした人物みたいだ。
思わぬ行動に反応が遅れてしまった。
「それで厚かましいと思うんだが他の国に行った勇者がどうなったのか知っていたら教えてくれないか?多分俺と同じで洗脳されていると思うんだ」
「あ~、他の勇者君ねぇ~・・・生きてるよ・・・多分・・・いや、絶対・・・あいつ等もそこまで馬鹿じゃないと思うし・・・・」
その上彼は他の勇者の安否を心配していた。歯切れが悪くて申し訳ないが確実に大丈夫とはあの惨状を見た後では言えない。
他の勇者に関しては本当に大丈夫だと願うしかない・・・一応フェル達には殺すなボコるなと言ってはおいたけど・・・不安だ。
大丈夫だよね・・・・?
「えっと、じゃあ、次の質問なんで彼女たちは残してテキラ達は排除されたの?」
私の反応からあまりよろしくない状態だと思ったのか勇者君は次の質問に移ってくれたのだが、その質問を聞いた途端に私は思わず不愉快さを前面に出してしまった。
「あぁ、彼らねぇ・・・あれは駄目だよ。はっきり言ってあんな奴らが城に踏み入ったと言うだけで万死に値する」
私の空気が変わったのを察して勇者君が身を引き締める。はっきり言ってあれらの事は少しも思い出したくはないけどそれじゃあ納得はしないだろうね。
「あれらが何を考えていたか教えてあげようか?富・名声・地位そんな私利私欲しか頭の中に無かったよ。暗殺者に関しては国からの命令だろうね。君の暗殺すら考えていたよ。他の連中もそれらを手に入れるためなら何でもするような汚い連中だった。そんな人間と話が出来るかい?それが理由だよ」
「な‼貴方に彼らの何がわかるんですか‼彼等は世界の為に自ら志願した英雄ですよ‼適当な事言わないでください‼」
私が見たままを伝えると聖女さんがすごい剣幕で声を上げ立ち上がる。勇者君も心なしかムッとした顔をしている。
はっ‼あれが英雄?私から言わせればあれらは欲の塊なうえに犯罪者一歩手前のクズ集団だ。英雄と言うなら私は今も人間の領土で命の危機にさらされながら情報を収集してくれてるゴルク達をあげるさ。
君の方こそ魔族の事を知りもしないで何がわかるというのかな?何も知らない無知の癖に彼らとあれらを同一に扱わないで欲しいね‼
とりあえず彼女を黙らせよう。先程の戦闘と言い、いい加減不愉快になって来た私が何を見たのかはこの言葉で分かるだろう。
そう思いながら私は口を開く。
「こんな場所に一時も長くいたくない。やはり魔族との話し合いなんて無駄でした。早く勇者様とミューウェルクさんを連れて出なくては」
その一言に三人共驚いた顔を向けて来る。
「僕の前で隠し事は出来ない。さっきのは、君が思っていた事をそのまま口にしたよ?これでさっき言ったことに信憑性も出て来たんじゃないかな?」
まぁ、正確には私の眼に隠し事は出来ないだけどね。まぁ、彼らはそれを知らないけど。
「座りなよ?」
立ちかけの聖女さんに一声かけると心の内を言葉にされて相当ショックだったのか素直に従った。
言っとくけどこれ私の眼の力のほんの一部だからね
「それで?他に聞きたい事は?」
私は些か不機嫌に次の質問を促す。
「分かった。じゃあ、次の質問をさせてもらう。厄災に対してなんで人間と協力しないんだ?」
勇者君は話題の転換に乗り次の質問をして来た。
ほぉ、クラシア王国からは魔族が協力的じゃないと教わったのか・・・まぁ、あいつ等がやりそうなことだね。
頭の中にクラシアの王族の一部と上層部の人間が思い浮かぶ。
「人間が協力する気が無いからさ。特に今回勇者召喚を行ったクラシア王国が筆頭になってね。クラシアは人間以外の種族は人間の為に死ねっていう人間至上主義の国だ。まぁ、これに関しては魔王の中に似た考えの過激派が居るからこっちもとやかくは言えないけど協力してくれる気のある国とは秘密裏に同盟を結んでいるよ。人間も獣人も魔族も死なないに越した事は無い」
私はただ淡々と事実のみを伝える。まぁ、信じる、信じないは彼次第って事で・・・
でも、彼の感じを見るに洗脳されてたことも含めてどちらかと言うとこっちよりの考えになっているみたいだ。
「じゃあ、なんで魔物は人間を襲うんだ?人間と協力する気が有るのなら逆効果じゃないのか?」
はぁ⁉それまで捻じ曲げて教えられてるの⁉魔族と魔物が違うって今の時代子供でも教えられてる事なのに⁉クラシア王国好き勝手やり過ぎだろ?
魔法使いちゃんと聖女さんもさすがに驚いた顔してるよ・・・知らないって知らなかったのね・・・
「はぁ、何か勘違いをしているみたいだけど見た目が似ているだけで魔族と魔物は別物だよ。魔族は魔物に一切関与していないし、あれらは自然発生する害獣だよ。魔族である彼等にはオーガでもゴブリンでも話が通じる」
他の勇者全員こんな教育を受けているのかと思うと頭痛を感じながら勇者君の質問に答える。
お茶を一口飲み口を潤し私は再び口を開く。
「さて、質問はこれぐらいにして今度は僕が君に聞こうか?」
一通り答え終えたので私はいよいよ本題に入ることにした。
「その資料と君達のした質問を踏まえたうえで聞くけど君は僕達と同盟を結ぶ気は無いかい?」
彼の真意も知るために私は眼を使い。フードの下で思わず驚く。
「大変申し訳ないけどまだ俺にはやる事が有る。それが終わったら改めて俺達も仲間に入れてくれるかな?」
「クラシアに戻るつもりなのかい?」
予想していた理由では無い理由でクラシアに戻るという彼に私は表向きは冷静に聞き返す。
「ああ、まだあの国には一緒に来た人達が居るんだ。彼等にも話をして連れてこられるのなら連れて来たい」
彼は私達が信用でいないからではなく他の勇者たちの為に戻ると言い出したのだ。
洗脳が解けた今、恐らく危険すぎるあの国に・・・
止めても了承してはもらえないだろう。ならば私はそれをサポートするだけだ。
「分かった・・・」
私はメイド長に加工してもらった髪を持ってきてもらうように頼み。コートのポケットから一つの指輪を取り出す。
金の土台に赤い石の嵌ったこの指輪は実は初代黄昏の魔王の作った魔道具だ。
リング・オブ・トワイライトという固有名のこの指輪の能力は今は省くとして今回はこれが絶対に役に立つ。
「この指輪だけはどんな装備を奪われても絶対に身から離さないようにしてくれ。これを使う場面にならない事が一番良いけど万が一の保険だ」
指輪を渡しながら奪われない様に注意を促す。
まぁ、十中八九没収されると思うけどそこは別に手を打っておこう。
「あと、クラシアの連中に取り入るなら僕を討った事にするのが一番簡単だろう。それは討伐の証として使えるものだからそれも持って行くと良い」
「あ、ありがとう・・・」
メイド長が勇者君に髪の入った箱を渡し、勇者君がお礼を言って来たので一つ頷く。
クラシアで事を起こすにしてもまずはきっかけが必要になる。まさか勇者君が協力的なのにこれを渡すことになるとは思わなかった。
「じゃあ、近くの国まで送ろう」
私はそう告げて勇者君達を連れて転移魔法陣の有る地下へと降りる。
「今から君達をクラシア近くの国の国境に飛ばす。君が何をやるつもりなのかは大体わかったけど無理はしない様に」
転移陣の上に勇者君達を立たせ私は最後にそう忠告する。
「健闘を祈るよ・・・準備が有るから少し待ってくれ」
「ありがとう」
勇者君のお礼を聞き私は魔法陣の調整の為に一度離れる。
「あの・・・少し聞きたいことが有るんですけど良いですか?」
転移陣を調整していると後ろから控えめに声が掛けられる。
振り向くとそこには白い花の髪飾りを付けた魔法使いちゃんが立っている。
「どうしたんだい?」
私は魔法使いちゃん・・・リルの質問を大方予想しながら聞いてみる。
現状、魔王と言う立場で接している以上、意識下でも他人として通すのが一番なのだが彼女の質問が私に関する物なので私はつい意識的に魔法使いちゃんと称していた呼び方をリルに戻す。
「八年前に此処に銀の髪の女の子が来ませんでしたか?その子は八年前に行方不明になった私の大切な友達なんです。何か知っていたら教えてください」
彼女のその言葉で泣きそうになる。八年前の宣言通り彼女は探してくれていたのだ。
その彼女に今は答えられない自分に嫌悪を感じながら口を開く。
「すまない。今、僕はその質問に答えることが出来ない」
私は彼女から視線を逸らし、不誠実な解答を返す。
勇者が一度クラシアに戻る以上私の正体に繋がる情報は誰にも漏らせない。これは私だけでなく信じられる人間以外にはなるべく正体を隠すという穏健派の魔王共通のルールでもある。顔が割れていると襲撃されるリスクも高くなるからだ。特に私なんかは未だに冒険者としても活動しているので尚更だ。
「・・・わかりました。では、教えてくださる時が来たらお願いします」
彼女はそう言って一礼すると勇者君達の方に戻って行った。
ごめんね・・・リル・・・
胸の痛みを感じながら魔法陣を調整し、彼らを送り出す。
地下が光に包まれ彼らが居なくなったのを確認した後、私は転送装置の方に移動しすぐに暁の国と白夜の国に渡った。
両国に行った勇者の洗脳を解き後の事はフェル達に任せ、私はもう一つ寄らなければいけない国に行き帰って来た時にはかなり遅い時間に為っていた。
もう一度軽くお風呂に入り、寝間着に着替えてから包帯を巻き直し、ベッドに横になる。
久々のベッドの柔らかさにほっと一息つく。
今日は色々あり過ぎて本当に疲れた・・・このまま寝てしまいたいけど今日はまだ一つ約束が残っている。
首を横に向けるとネージュがベッドの淵からひょこっと顔を出している。
「あるじ。だいじょうぶ?」
心配そうにこちらを見ながらそんなことを聞いてくる。あ~、本当にこの子は可愛いな・・・私は此処まで自分が親馬鹿になるなんて思わなかったや
「大丈夫だよ。ネージュ、こっちにおいで」
「うん」
私は布団を少し捲りネージュを中に招き入れる。
ネージュは笑顔で頷きベッドに潜り込んでくる。
ネージュに腕枕をしてあげ背中をポンポンと叩きながら私は歌を口ずさむ。
しばらくするとネージュの寝息が聞こえて来て私はそのまま彼女を抱きしめながら眠りについた。
次回は勇者の視点です。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




