さて、お話をしましょうか(side勇者)
おはようございます。
昨日は大変失礼致しました。第61話投稿させて頂きます。
ブックマーク・評価ポイントありがとうございます。
また、誤字・脱字報告もありがとうございます。
今回は勇者の目線です楽しんで頂けたら幸いです。
カポーンという擬音が聞こえそうな大きな風呂場に更に外には露天風呂まである。そんな温泉に浸かりながら先程まで相対していた魔王の事を思い出す。
『まぁ、まだ混乱しているだろうし、お風呂にでも入って少し気分を落ち着けてきなよ』
俺の剣を差し出しながら挨拶(ただし、名前は名乗らなかった)をした魔王はこちらが口を開く前にそう提案して来てどこから出て来たのか分からない執事服の男性に話をするとあれよ、あれよという間に俺達は風呂に連れていかれた。
ゆっくり風呂に浸かりながら相対していた魔王の事を思い出す。魔王から俺がどうなっていたかの説明を受けて自分が洗脳されていたことがわかりショックを受けた。
正直、此処までの道のりはしっかり覚えている。でも、今、改めて旅路を思い出すと自分の認識がかなり捻じ曲げられていた事がわかり明らかに魔族に敵意を持つようにされていた。その結果、俺は話を聞こうと思っていた魔王にいきなり切りかかるという愚行を起こした。
ぶっちゃけるとあんな失礼な来訪者をよく殺さないでくれたと思う・・・
自分のやった事に何とも言えない気持ちにバシャバシャと顔にお湯を掛ける。
それにしても、魔王と言っていた彼は一体いくつなのだろう?
思考の靄が晴れて改めて見た彼は俺より20㎝も身長が低く、声も女の子の様に高く、仮面で少しくぐもっていたが鈴を転がしたような声だった。
中学生ぐらいかもしくは女性なのかもしれない魔王についてそんな事を思いながら俺は取り合えず風呂から上がり、用意して貰った服に着替える。着替える途中に視界の隅にちらりと見えた牛乳瓶の様な物が入った冷蔵庫は多分見間違いだろう・・・
そんな事を思いながら着替えを済ませて脱衣所から出て同じく出て来た二人と合流し魔王の待つ部屋に案内された。
さて、魔王は一体どんな人なんだろうか・・・そして、本当に悪いのはどちらなのか見極めが必要だな・・・
そう思いながら扉を開き中に入る。
・・・和室だ・・・見間違う訳もなく和室だ・・・
意気込みドアを開いた先は畳がひかれた和室に卓袱台という風景だった。
そしてそこに正座で座っている黒コートの男?が一人・・・すごい奇妙な光景だ。
「やあ、少しは落ち着けたかな?こっちに来て座りなよ」
少し、呆然としていると俺達を見た魔王がちょいちょいっと手招きをして来る。魔王はさっきまで被っていた仮面を外しているのかくぐもった声ではなく澄んだ声でそう言って来る。
不思議な事に被っているフードの下は真っ暗で相変わらず顔が見えない。
卓袱台を挟んで魔王の真正面に全員で座る。
「少し落ち着いたみたいで良かったよ。まぁ、聞きたい事は色々有ると思うけどとりあえずこの資料に目を通してもらえれば聞きたい事は大体わかると思うよ。」
そう言い俺達の手元にメイドさんから資料が配られる。そこにはこの世界に今起こっている事、厄災と呼ばれる魔物に襲撃されている事、その内の第一、第二の厄災は倒した事、今まで魔王達がやって来たことなんかが俺の物には日本語で書かれていた。
「あ、そうだ。これも食べてみてよ。資料に書いている家の商会で今度売り出そうと思っている物なんだ。少し疲れてもいるだろう?疲れた時には甘いものが良い」
丁度、資料を読み終えた所で魔王が声を掛けて来て同時にメイドさんが器を四つ持ってきた。
器の中には透明なプルプルした餅にきな粉と黒蜜の掛かった要するにわらび餅が入っていた。
プルプルとしているそれはとても美味しそうだ・・・
「勇者様‼毒が入っている可能性が有ります。手を付けない方がよろしいかと・・・」
聖女のマカが心配そうな顔で首を振る。
「まぁ、普通は疑うよね。どれか適当な器を選んで僕の方に渡しなよ。言っておくけど僕に毒無効のスキルは無いから」
マカの言葉を聞いた魔王がそう言って来たので一番俺に近い器を魔王に渡したところで。
「あ、これ美味しいです。程よい甘さでツルツルのプルプルで今まで食べた事が無い食感です」
そんな声が聞こえ声のした方を向くといつの間にかリルが器を取って食べている。
おいおい、俺はともかく君はこの世界の住人なんだから少しは警戒しようよリル・・・
「ミューウェルクさん⁉」
マカが隣で悲鳴に似た声でリルの名を呼ぶ。リルはそんな俺達を見てきょとんとした顔をしてくる。
「?だってわざわざ毒で殺す意味ないですよね?殺す気ならわざわざこの場所に呼ばないでしょうし、だったら警戒しなくても良いかなって思ったのとさっきの戦闘までこのお城に罠も無かったですしこの人そんな事する人じゃないなぁって思ったんです。あと、しっかり鑑定も使ったので安全は確認してますよ?」
リルは小首を傾げ尚且つ納得できる正論を言って来る。
しかし、リルの行動に魔王も少し呆然としている。
「えっと・・・毒が入ってないのは彼女が証明してくれたのでよければ食べてよ」
あ~、うん。自分で証明しようとしてたのに気まずいよね・・・その、なんかごめん
「あ~、いただきます」
微妙な雰囲気を変えるために目の前の器を取り口に含む。うん、美味しい。
「さて、資料も読んだことだし、何か質問はあるかな?」
魔王は静かに聞いて来るので俺はまずやらないといけない事を思い出す。
「その前にまず謝らせてくれ。洗脳されてたとはいえ話も聞かずに剣を向けすみませんでした」
「え、あ、そんな謝らなくていいよ。君の意志では無かったんだし・・・」
そう言いながら頭を下げ魔王に謝罪する。魔王は、顔は見えないがきょとんとした感じで少し驚いた様子が見える。そして俺は厚かましいと思いながらも他の国に行った4人の安否を確認する。
「それで厚かましいと思うんだが他の国に行った勇者がどうなったのか知っていたら教えてくれないか?多分俺と同じで洗脳されていると思うんだ」
「あ~、他の勇者君ねぇ~・・・生きてるよ・・・多分・・・いや、絶対・・・あいつ等もそこまで馬鹿じゃないと思うし・・・・」
魔王はなんかすごく歯切れが悪く答えてくれる。最後の方は声が小さすぎて聞こえなかった。
え?なんでそんなに歯切れが悪いの?彼らは本当大丈夫なの?
「えっと、じゃあ、次の質問。なんで彼女たちは残してテキラ達は排除されたの?」
取り合えず生きているみたいなので次の質問に移る。
「あぁ、彼らねぇ・・・あれは駄目だよ。はっきり言ってあんな奴らが城に踏み入ったと言うだけで万死に値する」
先程と違い魔王は底冷えするような声で今は此処にいない彼らの事を語る。
「あれらが何を考えていたか教えてあげようか?富・名声・地位そんな私利私欲しか頭の中に無かったよ。暗殺者に関しては国からの命令だろうね。君の暗殺すら考えていたよ。他の連中もそれらを手に入れるためなら何でもするような汚い連中だった。そんな人間と話が出来るかい?それが理由だよ」
「な‼貴方に彼らの何がわかるんですか‼彼等は世界の為に自ら志願した英雄ですよ‼適当な事言わないでください‼」
マカが横で立ち上がり魔王に怒鳴る。俺も洗脳状態だったとはいえ仲間を悪く言われてあまり好い気はしなかった。
そんなマカに向かって魔王が口を開く。
「こんな場所に一時も長くいたくない。やはり魔族との話し合いなんて無駄でした。早く勇者様とミューウェルクさんを連れて出なくては」
魔王の口からそんな言葉を聞きマカは驚き口を閉ざす。
「僕の前で隠し事は出来ない。さっきのは、君が思っていた事をそのまま口にしたよ?これでさっき言ったことに信憑性も出て来たんじゃないかな?」
魔王はただ静かにそう言う。リルもマカもさすがに驚いているみたいだ。
「座りなよ?」
その言葉にマカは素直に従う。
「それで?他に聞きたい事は?」
魔王が次の質問を促してくる。この話はこれ以上続ける気が無いようだ。はっきり言って確実に対応が冷ややかになっている。
「分かった。じゃあ、次の質問をさせてもらう。厄災に対してなんで人間と協力しないんだ?」
渡された資料には今後の戦いには人間との協力が不可欠と書かれていた。それなのに人間側と魔族は協力する素振りが見えない。
「人間が協力する気が無いからさ。特に今回勇者召喚を行ったクラシア王国が筆頭になってね。クラシアは人間以外の種族は人間の為に死ねっていう人間至上主義の国だ。まぁ、これに関しては魔王の中に似た考えの過激派が居るからこっちもとやかくは言えないけど協力してくれる気のある国とは秘密裏に同盟を結んでいるよ。人間も獣人も魔族も死なないに越した事は無い」
先程よりは柔らかい対応で魔王が返してくれる。
「じゃあ、なんで魔物は人間を襲うんだ?人間と協力する気が有るのなら逆効果じゃないのか?」
途中の国でも魔物による被害がたくさん出ていた。そんな事をしていたら人間と協力なんてできるわけがない。
「はぁ、何か勘違いをしているみたいだけど見た目が似ているだけで魔族と魔物は別物だよ。魔族は魔物に一切関与していないし、あれらは自然発生する害獣だよ。魔族である彼等にはオーガでもゴブリンでも話が通じる」
魔王はそう言うとメイドさんが持ってきた手元のカップからお茶を一口含む。
「さて、質問はこれぐらいにして今度は僕が君に聞こうか?」
魔王は俺達の質問を切り上げ静かにそう言う。
「その資料と君達のした質問を踏まえたうえで聞くけど君は僕達と同盟を結ぶ気は無いかい?」
魔王の言葉は大体予想の着く物だった。けれど俺はどうしても確かめないといけない事がまだある。それを行う以上魔王の話には簡単には乗ってはいけない。
「大変申し訳ないけどまだ俺にはやる事が有る。それが終わったら改めて俺達も仲間に入れてくれるかな?」
「クラシアに戻るつもりなのかい?」
魔王は俺の顔を見て静かに質問をする。
「ああ、まだあの国には一緒に来た人達が居るんだ。彼等にも話をして連れてこられるのなら連れて来たい」
魔王は少し考えた後に
「分かった・・・」
っと一言だけ言い。メイドさんに何かを頼むと俺に金の土台に赤い宝石の着いた一つの指輪を渡してきた。
「この指輪だけはどんな装備を奪われても絶対に身から離さないようにしてくれ。これを使う場面にならない事が一番良いけど万が一の保険だ」
そう話している内にメイドさんからも箱に入った何か渡される。
「あと、クラシアの連中に取り入るなら僕を討った事にするのが一番簡単だろう。それは討伐の証として使えるものだからそれも持って行くと良い」
「あ、ありがとう・・・」
お礼を言うと魔王は一つ頷き立ち上がる。
「じゃあ、近くの国まで送ろう」
そう言うと俺達は和室を後にし、地下にある大きな魔方陣が書かれた部屋に連れてこられた。
「今から君達をクラシア近くの国の国境に飛ばす。君が何をやるつもりなのかは大体わかったけど無理はしない様に」
魔王が右手を出してくるので握り返す。
「健闘を祈るよ・・・準備が有るから少し待ってくれ」
「ありがとう」
魔王が少し離れた場所で準備を進めてる間に辺りを見回すとリルが魔王に近づき何かを話していた。
しばらくすると準備が整ったのか魔方陣が光だし、辺りが白い光に包まれた。光が収まるとそこは石造りの壁ではなく涼しい風の吹くクラシア王国近くの国の見覚えのある原っぱだった。
次回は、同じタイトルでコハクの目線のお話です。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




