魔王・2
おはようございます。
第60話投稿させて頂きます。楽しんで頂けたら幸いです。
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また、誤字脱字報告してくださった皆様ありがとうございました。
刀身を掴まれ少しの間、驚いていた勇者君は唐突に我に返ると急いで剣引き、私の手から無理やり刀身を引き剥がそうとするのでパッと手を離すと彼は急いで距離を取る。
刀身を握っていた手を見ると手袋は大きく裂け少し手を切ったのか薄っすらと血が出ている。
ふ~ん。流石、聖武器ってところかな?使い手が未熟でも私のコートくらいは貫通してくるか。
「さて、話も聞かずに剣を振って来たという事は敵対行動と見て良いね?ならばお相手しようか?」
先程の愚痴は心の奥底にしまい。私は無機質にそう言うと殺気を放つ、勇者君達はその殺気で怯んだのか更に一歩後ろに下がる。
「《オクタ・セブンスエレメント・スフィア》」
私を中心に赤、青、黄、緑、橙、黒、白の七色の球が各属性につき10個ずつ、計70個が私の周りに光りながら浮かぶ。その光球を見て魔法使いちゃんは驚きを隠せないような顔をしている。
この8年の魔法制御の賜物の一つでこれらの光球には追加で色々な術式が組み込める。まぁ、魔術指南役にはこんな事をするのは私だけって言われて呆れられたけど。
「オーラ」
その一言と共に手元に引き寄せた雷の属性の黄色い光球を1個、拳で叩き破壊する。その瞬間に私には毎度お馴染みの《ライトニング・オーラ》が掛かる。
「さぁ・・・」
今度は私が一瞬で勇者君との距離を詰め
「殺し合おうか?」
「ガハッ」
「勇者様⁉」
その言葉と同時に勇者君の胴体に蹴りを入れると勇者君は後ろに吹き飛び、壁に叩きつけられる。聖女さんは驚愕の表情で勇者君の事を呼ぶ。
おいおい、そんな事をしている暇は無いよ?すぐに私に攻撃しないと?全く即座に対応出来ないなんて練度が足りないよ?
「《オクタ・ファイブ・アクア・ランス》‼」
そんな聖女さんに呆れていると斜め横から詠唱を破棄した魔法が飛んでくる。どうやら先程の驚きから戻って来た魔法使いちゃんが放ったらしい。
「マカさん‼今のうちに和登さんの状態の確認を‼」
その言葉にハッとしてすぐに私から離れ勇者君に駆け寄る。
「スパーク」
五つの黄色の光球を近くに呼び。開放して放電させ、それに当たった《アクア・ランス》を全て電気分解する。
「うそ…、くっ、オクタ・・・・」
霧散した《アクア・ランス》を見て魔法使いちゃんは一瞬、呆然としたがすぐに次の魔法を放とうとするがその声は途中で途切れる。
良いねぇ、すぐに体制を整えようとする判断力はすごく良いよ。でも、魔法使いが一人で前線を支えようとするのは頂けないね。
まぁ、諸事情でパーティを削ったのは私なのだが・・・
そんな事を思いながら私は彼女の頭を右手で掴み、近くに風属性の緑の光球を待機させ、そのまま強い風を起こす。
「バースト」
「きゃあ‼」
殺傷能力の無い風に吹き飛ばされ彼女は勇者君達から少し離れた壁に叩きつけられそのまま気を失う。
「ミューウェルクさん‼」
吹き飛んだ彼女を見て勇者君にポーションを飲ませていた聖女さんが悲鳴を上げる。
というか、まだそこでウダウダやっていたの?
内心溜息を吐きながら洗脳解除の為に彼らに近づく。まぁ、素の状態の彼と話をしないと評価はつけられないね・・・かなり粗悪な媒体を使った洗脳みたいだし、大方あの国が自分達に意にそぐわない子たちを捨て石に使ったのだろう。今回来た勇者がまともな人格である可能性は高い。
コツコツと音を立てて勇者君達の方に近づいて行く。
「オ、《オクタ・スリー・ホーリー・アロー》‼」
聖女さんが近づく私に気づき聖属性の魔法で攻撃してくる。
まぁ、この程度なら受けても何の支障も無いのだろうけど慢心や油断はすると碌な事にはならない。此処は徹底的に潰させて貰おう。
そう思い近くに闇属性の黒い光球を三つ引き寄せる。
「エレメントコンバージョン、アビス」
先程までは夜の闇の様な色だった黒い光球は更に暗く、暗くその色を増し、多少禍々しくなる。
「アロー」
三つの光球は矢の形に姿を変え先程聖女さんの放った矢にぶつけ対消滅させる。
その光景に呆然としている聖女さんにスキルを使い一言話しかける。
「動くな」
八年前に私が憤怒の魔王にやられていたのと同じ威圧による委縮。
まぁ、効果は勇者君含めた全員に効果が有るでしょう。
狙い通りに聖女さんは完全に委縮してしまったのかその場から動けなくなった。
さて、じゃあ、とっととこの面倒な洗脳を解きますか、そう思い勇者君に手を伸ばすと
「はぁぁぁぁ」
威圧で碌に動けないはずの彼は、そんな掛け声と同時に急に起き上がり剣を振って来て私は内心少し驚きながらその刀身を再び左手で掴む。
へぇ・・・正直動けるとは思っていなかった。少々評価を改めないとね。さっきよりいっそう素の状態の彼と話してみたくなった。
私は、今度は逃がさないように握った刀身に力を籠める。
刀身を掴んだ手から剣の刃を伝ってツーっと血が垂れる。
掴まれてびくともしない刃に勇者君の表情にはさらに憎悪が増している。
近くに光の属性の白い光球を二つ引き寄せる。
「エレメントコンバージョン、ホーリー」
白い光球は神々しい光を放つ。
「《ディスペル・マジック》、《ピュリフィケイション》」
光球に追加の術式を組み込むのと同時に空いている右手で彼の手首を掴み逃げられないようにする。
その瞬間、私と勇者君は眼も開けていられないような強烈な光の中にのみ込まれた。
カシャンっと小さな音がして彼の腕についていたブレスレットが砕け散る。ブレスレットが砕けた瞬間変化が起きる。
先程まで憎悪と侮蔑に満ちていた彼の目が困惑の色に変わる。
「え?なんで貴方が憎いと思っていたんだ?」
混乱しながらも手に持つ剣に視線を向かわせ、その刀身に私の手から流れている血を見て更に表情は混乱から驚愕に変わり慌てて剣から手を放し、私から離れようとするが、彼の左手は私の右手に掴まれたままなので離れることが出来ない。
うん、うまく洗脳状態を解除できたみたいだねぇ
そんな事を思いながら彼が少し落ち着いたのを確認し、掴んでいた彼の手から手を放す。
「やっと、本当の君に会えたみたいだね?改めて挨拶させてもらいます。僕は今代の黄昏の魔王です。理由が有ってまだ名前は言えないけど我が城にようこそ、光の勇者君」
まだ頭の整理が追い付いていない勇者君に改めて挨拶をし、刀身を掴んだ左手の力を緩め、剣の柄を彼に差し出しながら私は威圧を解いたのだった。
次回は勇者とお話になりま。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




