メイド長の悲鳴
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第58話投稿させて頂きます。楽しんで頂けたら幸いです。
「あ‼あるじ~、おしごとおわったの~」
ズルズルとメイド長のお小言を聞きながら引きずられているとそんな声が聞こえて来て少し青み掛かった白色の髪に深い青色の瞳を持った少女がワンピースの裾を翻して走って来て抱き着いてくる。
メイド長がそれに合わせ歩くのとお小言を止めてくれる。
「書類仕事は一通りね。ネージュは良い子にしてた?」
「もちろん。ほめて~」
そう言いながらピタリとほっぺたをくっつけて来るこの子は《真龍》にして《氷河の龍》の仔、毛玉ちゃんだ。名前は流石に黄昏の国に着いてすぐに毛玉ちゃんではあんまりだと思い母親の名前が《ネーヴェ》(イタリヤ語で雪)という名前だったのでそれにあやかり《ネージュ》(フランス語で同じく雪)という名を付けさせてもらった。単純かもしれないが名前の意味だけでもこの子を母親と繋げてあげたかった。
今の姿は人に擬態した姿で8歳の仔竜にしては非常に優秀らしい。性格は天真爛漫で人懐っこく、本来の姿は10m程の巨竜(ただし、本人の意思で小さくなれる)、人の時の姿のモデルは幼少期の私らしい(ただし、私はこんなに可愛らしくないと思っている)。
この仔が龍の姿になった時には本当に驚いた。だって全体を包んでいたホワホワの毛が一気に抜けるんだもの。その抜けた毛の下からよく見る爬虫類っぽい姿が出て来た時は心底安心したものだ。
「あるじ、あるじ、おしごとおわったならいっしょにあそべる?」
ネージュが目をキラキラさせながら聞いて来る。くっ、非常に可愛い・・・
しかし、ネージュのお願いをすぐに叶えてあげる事は出来ない。なぜなら今から勇者の対応をしなければならないのだ。
「ごめんね。ネージュ、まだお客様の対応が残っているの・・・終わったら一緒に遊べるからもう少し待っていて」
ネージュの頭を撫でながら申し訳なさそうな顔でネージュに謝る。
「むぅ~、じゃあ、もっといい子にまっていたらなにかごほうびくれる?」
「良いよ。何が欲しい?」
ネージュは可愛く笑い答えて来る。
「じゃあねぇ、いっしょにねるときにお歌を歌ってほしい」
「良いよ。じゃあ、今日は寝れると思うから一緒に寝ようね」
「うん‼」
ニコニコと笑うネージュを撫でているとネージュはふと不思議そうな顔をする。
「そういえば、あるじとめいどちょうとりゅーんはなにしてるの?」
ネージュは小首を傾げて聞いてくる。あ~、本当にこの子には癒されるわぁ~
「魔王様をお風呂に連行している途中ですよ。ネージュも一緒に行きますか?」
「いく~」
メイド長は滅多に見せない優しい顔でネージュに聞き、私達はネージュを加えお風呂に行くのだった。というかメイド長よ。さっきから捕獲とか連行とか私の扱い酷くない?
さて、少し時間が経ち私達は黄昏の城自慢の天然温泉までやって来たが、ここでも私とメイド長達の間で一悶着が有る。まぁ、毎回お風呂に入る時のお決まりなのだが今回は時間も押している事だし非常に抵抗が有るが大人しくメイド長達のお世話になる。
だからリューン私の胸を親の仇の様に触るのはやめようね。大体君の親はまだ生きているでしょう?
私とリューンが微妙にふざけ合っている間にもメイド長はテキパキと私の髪留めを外し、髪を纏めたり湯浴みの支度をしてくれるがいつもの様に私の体の傷痕を見て少し顔を顰める。
この8年で私の体には背中だけで無くお腹などにも獣の爪の痕などが複数刻まれている。
私の防具は主に先代黄昏の魔王の素材やネーヴェさんの素材で作られた一級品の物だ(全てトムさん産の防具にもなる服、主に黒コートとか)。しかし、ときたまにその防御力すら貫通して来る敵がいるのだ。特にここ最近は禍の先駆け共と戦うことも多かった。
「何か言いたげだね。メイド長?」
「いいえ、特に言う事はございません。ですが敢えて言うならばもう少し御自分を御自愛ください。傷を負ったらポーションを使って癒すなどしてくださいまし!」
「努力します」
メイド長の言葉に私は苦笑をしてしまう。私は基本、傷を負ってもポーション(梟印)はなるべく使わないで傷痕は残るが魔法で傷を塞いでから通常の効果の低いポーションを使う。メイド長の言っている事も十分わかるがポーションには限りが有る。これから戦いも激化して行くのに私の傷を治すためだけに無駄には出来ない。
そうこうしている内にお風呂に入る準備も整い私は体を洗った後、ゆっくりと湯船に浸かる
「ふぅ~」
肩まで浸かった所で全身から力が抜け思わず声が出てしまう。流石に三日間貫徹はきつかったか・・・今日は夜から勇者も乱入してくるし、思った以上に疲れていたみたいだ。
メイド長にお礼を言わないと・・・
程よく体が温まったら今度は急激に眠気が襲って来る。あぁ、このままベッドでゆっくり眠ってしまいたい。勇者の応対止めちゃおうかな・・・
視界の端ではネージュも気持ち良さそうに温泉に浸かっている
さて、いつまでもこうしている訳にはいかないよね。準備をしなくちゃ
20分程した所でウトウトとしていた頭を仕事モードに切り替える。ゆっくりと立ち上がり脱衣所に向かう。まだ、ゆっくり温泉に入っているネージュはリューンに任せる。
この後は、勇者と話をし、今後の協力を仰げるならば協力関係を結び今後の厄災共に挑まなければならない。第一、第二の厄災は倒せたけどストリアさんが残した手記によると今後数字が進むごとに強くなっていく。いずれ魔族だけじゃ対処しきれなくなる。どうしても人間側の協力が必要になる。
些か非情な手段だが話は分かるけど私達を信用できないと言われた時のプランは立てて有る。使いたいとは思わないけど・・・
そんな事を思いながらタオルで体を拭きサラシをきつめに巻き、冒険者の時に使っている装備を身に着ける。
一旦、椅子に据わりブラシで髪の手入れをしている時にふと思い出す。
そういえば、万が一の時の為の討伐の証を忘れていた。首を渡すわけにはいかないので何か考えなければ、そう思っていると丁度良く鏡に自分が写っており腰まで伸びる銀色の髪が目に入る。
あぁ、これで良いか、メイド長も手入れを手伝ってくれているので少し申し訳ないがしょうがない。背に腹は代えられない・・・
そんな事を考えながら私は髪を纏めて持ちアイテムボックスから短剣を取り出してから肩口から一気に切り落とした。うん、鑑定で見てもしっかり表記は魔王の毛髪になっているね。
「魔王様~、髪は邪魔にならないようにシニヨンにしましょうかぁぁぁぁぁぁぁぁ‼ままままま魔王様ぁぁぁ‼何をなさっているのですかぁぁぁぁぁ‼」
バッサリと髪を切った所で聞こえて来たメイド長の声が途中から悲鳴に変わった。
しまった。今日はなぜかタイミングが悪い。それにしても普段のメイド長からは想像できない程狼狽えてるなぁ・・・さて、どう説明したものか・・・
まだ悲鳴を上げているメイド長を見ながら私は一人どの様に説明するか思案するのだった。
「はぁ~、髪をお切りになった理由はわかりました」
珍しく取り乱したメイド長を宥め、落ち着いたところで理由を説明するとメイド長は一度大きくため息を吐いてそう言った。いや、本当にごめんなさい。まさかあそこまで取り乱すとは思いませんでした。だから恨みがましく見ないでね?
「今度からは行動する前に事前に相談してくださいまし」
「はーい、それじゃあ、メイド長、この髪をそれように加工しておいてくれる?」
「畏まりました・・・ところで魔王様、明らかに量が多いですけど残りは処分してしまってよろしいですか?」
「うん、処分は任せるよ」
「畏まりました。髪は後でしっかり整えましょうね」
メイド長はニッコリと笑ってから髪を証に加工する為に私に言った。なんであんなににこやかだったんだろう?
そんな事を思いながら身支度を整え、いつものコートと黒ズボン、手袋に仮面を着け黒のブーツを履き、二本の愛剣を腰に下げて私は勇者君を運んでもらった大広間に行くことにした。




