閑話・今はもういないあの子/傲慢の心配
おはようございます。
第56話投稿させて頂きます。楽しんで頂けたら幸いです。
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「次だ‼もっと来やがれ‼」
まるで何かの鬱憤を晴らすかのように兄弟子達と稽古をしている同室の黄色い髪の少年を横目で見ながら彼女が前に誕生日パーティーで読んでいたのと同じ魔術書のページをパラパラと捲る。
思えば本当に面白い女の子だった。
実を言うと最初に彼女の事を知ったのは、テトの事件の時ではなくゲネディスト教諭が嬉しそうに父に話しているのを聞いたのが最初だった。普段ならそんなに興味を持たない事だっただろうにあの子の話はなぜか興味を引かれた。
恐らく最初は、彼女が創ったという魔法やイビルベアとの戦闘に興味を持ったんだと思う。どちらにしても僕は教諭からその話を聞いた時にはっきり言って行きたくなかった学園に初めて行きたいと心の底から思った。
そして彼女の話を聞いてから数か月ついに彼女を直接見る機会が訪れた。
テトが首を突っ込んだ騒ぎついて聞いてきた彼女を僕は最初探していた少女だとは気が付かなかった。彼女は色白で茶色の髪に青い瞳でか弱いイメージのある少女だった。ゲネディスト教諭から聞いていた特徴と一致していたが、とてもイビルベアと戦えそうには見えなかった。
だから驚いたテトが切り付けられそうになった際に彼女が僕達の頭上を飛び越えテトとナウゼリンの間に割って入ったからだ。
結果としては、彼女はナウゼリンと決闘する事になった。そして決闘の結末は予想通りだった。いや、予想以上だった。
数ヶ月師の元で学んでいたナウゼリンの剣は彼女には当たらず。途中、反則としていた魔法である肉体強化(テトがよく使用しているので教師達が解析し、各属性の強化魔法が創られている)を使用したのを見てリストが止めようとしていたけど彼女はそのまま何の危なげもなくナウゼリンを打ち負かした。
まぁ、結局は魔法を掛けられていたナウゼリンが未熟だったのと所詮彼女の魔法の劣化コピーだったため、彼女には通用しなかったのだろう。
・・・それにしても、なんであれだけ動いていたのにスカートの中は見えなかったのかな?
まぁ、何はともあれ、あの後、彼女を僕達のパーティに誘うことが出来て良かった。
お茶会時の彼女の顔は今でも忘れられない。ケーキも美味しかったしね。
そういえば、あの誕生日の日、彼女は図書館で最初、何の本を読んでいたんだろう?今度探してみよう。
「アラン‼こっちに来て相手してくれ‼」
そんな事を考えていると一通り相手をし終えたのかテトが僕を読んでいる。まぁ、今の彼を相手できるのは同年代では僕とリストぐらいだろう。
あの事件の後、彼女とパーティを組んでいた僕達はレベルが他の人達よりはるかに高くなっていた。ゲネディスト教諭の推測では彼女の倒した黒龍の経験値が同じパーティの僕達にも割り振られたのではないかという事だった。まぁ、それでも彼女には敵わなかったわけだが・・・
恐らく彼女に半分、僕達に残りの経験値が1/4ずつという形だったのだろう
・・・僕達に半分が1/4ずつ割り振られたのだとしたら彼女は本来引き上げられるレベルまで身体能力が上がっていないのでは?
「お~い!アラン聞いてるのか?」
そこまで考えてから再びテトから声が掛かったのを機に一時思考を中断しながら練習用の木剣を持ちテトの方に向かう。
リルも彼女が居なくなってからより魔法の研究や練習に力を入れているらしい。なんでも彼女と会うために出来る事は全部やると言っているらしい。
僕もどんな形にせよ再び彼女に合えた時に力に為れるように今はしっかり訓練しよう。今度は彼女一人を戦場に残さないように
☆
色々な衝撃の走った魔王会議後に私は親友とも言える男と話すために馬車の駐車場で待ち伏せている。恐らく黄昏の魔王と認められた少女かその従者である悪魔ともに来ているはずだ。
しばらく待っていると二つの人影が何かを話ながらこちらに近づいてくる。
「やはり、あの子に親しく呼んで貰うには養子になって貰うしかないと思うんだがどう思う?クロノス?」
「あ~、まぁ、確かにそれが一番手っ取り早いかもしれませんが、その場合ですと憤怒の魔王様は我が魔王に義父君またはお義父様と呼ばれることになりますし、そもそも我が魔王がその案を受け入れるとは限らないわけでございまして・・・」
「義父と呼ばれるのは・・・悪くないな」
「・・・マジでございますか・・・?」
そんな呑気な会話が聞こえて来て一瞬、自分の耳がいかれたのかと思った。
待て待て待て待て‼お前はそんなキャラだったか?むしろ怒り顔で周囲を委縮させてただろ?今でこそ、皆普通に接しているが最初は滅茶苦茶ビビっていたぞ?200年近く付き合ってきた俺や先代の黄昏の魔王ぐらいだぞ?お前のその顔に最初から普通に接していたのは・・・
今日の会議だって普段と様子の違うお前を見て皆(暁と白夜を除く)内心混乱していたぞ?
そんなお前があの子に義父と呼ばれたそうにしているとか正直言って嘘だろ?って思うぞ‼一体お前に何が有ったんだ⁉
金槌で頭を叩かれた様な衝撃を何とか抑え込み平静を装って前方から来る二人に声を掛ける。
「クリスト、少し二人で話せるか?」
声を掛けるとクリストは少し驚いた様な顔をする。話に集中していて俺に気が付かなかったのか、それにしても、少し見ない間に表情が変わるようになったことに正直驚く。
「おぉ、ルベリエ。大丈夫だぞ。クロノスすまないが先に馬車まで行っていてくれ」
「わかりました。では、魔王様方失礼いたします」
黄昏の子の従者は俺達に一礼すると馬車の方に向かって行った。
「それで?改めて話したいとはどうしたんだ?」
「クリスト、今日の会議で宣言したことは本気なのか?」
のんびりといった感じでどうしたのかと聞いてくるクリストに過激派から穏健派への移動についてもう一度確認を取る。
「本気でなかったらあの場であんなこと言わんだろう?改めて聞いて来るなんてどうしたんだ?お前らしくもない」
あくまでのんびりといった様子を崩すことなく答えるクリストに更に質問をぶつける。
それにしても、本当に何が有ったというのだ。今までそんな雰囲気を外で出したことなんてなかっただろう?
「あの子供が関係しているのか?」
「そうだ。あの子が穏健派に居るのに俺が過激派に居たら何かあった時に助けられもしなければ守ってやることも出来んだろう?」
俺の質問に今度何を言っているんだと言うような顔で答えて来る。
「なぜだ‼つい最近会っただけの子供だろう?アイシャに似ているからと言ってもあれはアイシャではない‼お前はただあの子にアイシャを重ねているだけだ‼」
クリストの態度につい声を荒げてしまう。脳裏には血の海に沈む彼女とソレを抱きしめているあの時のクリストの姿が浮かぶ
「だろうな。多分俺はあの子にアイシャを重ねているだけだ。だが、アイシャに似ているというだけで構っている訳ではないぞ。まぁ、結局、お前に怒られるだけかもしれないが、俺はあの子と共にいて楽しいのだ。ただ単純にな」
クリストは唯々静かに笑ってそう独白した。
そう言われてしまえば最早俺が何を言っても無駄だろう。アイシャに関することは200年経った今でもクリストと俺には傷が深い。余り抉らない方が良いだろう
それなら俺はクリストに何か有った時の為にコイツを守れるように準備しておくだけだ。たとえクリスト自体を敵に回しても絶対に守れるように・・・
「分かった。声を荒げてすまなかった。だが、憶えておけ何が有っても俺はお前の味方だ。それだけは忘れるなよ」
「あぁ、ありがとうな。親友」
お互いに握り拳を突き出しコツンと合わせる。
「じゃあ、俺は行くな。また次の魔王会議で会おう」
「あ、少し待ってくれルベリエ」
そう言って歩き出した俺をクリストが呼び止める。
?なんだ?
「一つお前の意見を聞きたいことが有るんだがいいか?」
「あぁ、構わないがどうした?」
足を止めた俺にクリストが神妙な声で聞いて来るので何か大変なことが有ったのかと勘繰ってしまう。
「魔王同士は養子縁組を組めると思うか?」
・・・何を言っているんだコイツは?
いや、言っている意味は分かる。だが、理解したくない。
本当にどうしてしまったんだ?
俺はため息をつきどのように答えれば良いのか考えながら唯一無二の親友の行く末を心配するのだった。
次回はやっとプロローグの時間軸に戻ります。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




