真龍の仔?
おはようございます。
第43話投稿させていただきます。
楽しんで頂けたら幸いです。
「ギャアアアアア」
「ギッギャ――――――‼」
洞窟の中に木霊するゴブリンの声を聴きながら私は無感情にカグツチを振るう。
現在はゴブリンを追って見つけた巣の中である。後ろからはクロノスを持ったゴルクさんが怖々と着いてくる。
あの後、クロノスの説得もあり私は結局ゴルクさんがお願いを受けることにした。
まぁ、要するに先代の命令で敵の多い人間の領地に来て情報などを集めてくれていた事への報酬だ。
その辺は前任のお願いでもしっかりと払って行こうというのが私のスタイルだ。ブラック企業駄目絶対というやつだ。
そんなこんなで洞窟に入ると今度は魔物のゴブリンがこんにちは、で今に至る。
入り口からうざいぐらいに出て来るゴブリン達を真っ正面から叩き切り前に進む。(ちなみに討伐の証である耳などは後ろから着いてくるゴルクさんに回収して貰っている)
襲い掛かって来るゴブリンを返り討ちにしながら進むと少し広いホールになっている場所に出る。
そこには氷で塞がれた通路をこじ開けようとしているゴブリンとそれを横で座りながら見ている他より三回りほど大きなゴブリンがいた。
あぁ、あれがゴブリンキングっていう奴か・・・部下だけに働かせてなんか如何にも下衆って感じだなぁ・・・
周りを守っているのはホブゴブリンが2体、革鎧を着た巨体のゴブリンウォーリアーが2体か…些か面倒だけど駆逐するのに問題はなさそうだね…
ホール前の岩影に隠れ中の様子を確認しながらカードホルダーに入れてある呪符をゴブリンの枚数だけ取り出し、ゴブリンキング達に向かって投げる。あの程度であれば剣を使うまでも無い。
「オクタ・ヘルフレイム」
投げた呪符が静かにゴブリン達に貼り付きその瞬間に青い炎を上げ一瞬にしてゴブリンキング達を包みゴブリンキングの王冠のみを残して燃やし尽くす。
悲鳴を上げることも無く塵になったゴブリンキング達は最早何が有ったのかも分からなかっただろう。
王冠が有れば討伐の証拠にもなるし、余り手間も掛けたくなかったしね。早く、問題の《氷河の龍》に会って帰ろう。
後ろで何やら「えげつないですねぇ・・・」「恐ろしいっす・・・」っと言っているクロノスとゴルクさんを無視し(なんだよ。なんか文句あるのかい?)、スタスタと氷で塞がれている通路まで歩き塞いでいる氷を確かめる。
ふ~む、これはただ氷で塞いだものじゃないね。ある種の結界になっている。
これは普通に掘っても壊れなし、起点になっている場所を何とかしないといけないね。魔法で破壊した方が簡単かな・・・
恐らくまだ知らなかった眼の力なのか氷の状態と結界の起点が分かる。
・・・どちらかと言うとスキルがバージョンアップしているって言った方が良さそうだね・・・
「魔王様~急いでこの通路を開けましょうっす」
そう言いながらクロノスと二人でつるはしを持って駆けて来るゴルクさん達に状態を説明し、私は通路を塞いでいる氷の結界の起点になっている五か所に炎系の魔法を放って起点になっている場所を破壊する。
ガシャーンという音と共に氷の結界は解け通路が通れるようになり、私はそのまま奥に進む。(二人はつるはしを持ったままなぜか哀愁漂う感じで着いてくる)
通路を歩いて行くと先程のホールから離れるにつれ周りの温度が低くなっていく。
「ぶえっくっしょんっす」
そんな声を上げゴルクさんがくしゃみを上げる。まぁ、他のゴブリンに混じって諜報活動をしていたみたいだから薄着(腰蓑みたいなボロボロの布一枚)だし、この寒さは辛いよね。
・・・どうでもいいけどくしゃみにまで『っす』って付くの?
「ゴルクさん良かったらこれ着てください」
アイテムボックスから以前来ていたコートの予備として買った物を渡す。腰布よりマシだろう。
「すみませんっす。ありがとうございますっす」
そう言いながらコートを着たゴルクさん達とさらに歩く事数十分辺りが明るくなり先程のホールより更に大きなホールに出る。天井に大きな穴が開いておりそこから太陽光が入っているみたいだ。
その中心に何かを守るようにしながら真っ白な鱗を持った一頭の龍が生気も無くぐったりとした様子で横たわっている。
「ネーヴェさん‼大丈夫っすか!?」
ゴルクさんは《氷河の龍》の様子を見て悲鳴に近い声で名前?を呼びながら駆け寄って行く。
今更だけどこの人と真龍である《氷河の龍》ってどういう関係?
そんな事を思いつつゴルクさんに続いてホールに入り《氷河の龍》のステータスを見る。
☆
HP 350/54879524
名称:氷河の龍
個体名:ネーヴェ
種族:真龍
ATK:SF5
DEF:SE1
MDF:SE1
SPD:SF4
スキル:ドラゴンスケイル、ブレス、氷結界、人化、etc
ランク:レジェンド
状態:猛毒(治療不可)、体力衰退、瀕死
特記事項:産後による体力低下及び毒による体力低下
☆
あぁ・・・これはもう駄目だ・・・
コートの下で顔をしかめながら私は彼女(ゴルクさんの感じからして恐らく女性)のステータスにある治療不可の文字と刻々と減って行く彼女のHPを見てそんな事を思い。近づこうとする足を止めてしまう。
「ネーヴェさん‼」
『おぉ・・・ゴルク・・・息災でしたか?私の結界が破壊されたのでゴブリン共の群れが来るものと思いましたが・・・外の魔物共はどうなりましたか?』
(生きていてくれましたか・・・一つ憂いがなくなりましたね・・・)
なんか思ったより穏やかな声音だ・・・すごく優しそうだし、正直少し意外だった・・・
「魔物のゴブリン達はキングも含めて全部この方が倒してくれったっす。」
そう言いながらゴルクさんは私の方を見ながら説明している。《氷河の龍》も気だるげに首を持ち上げ確認してくる。
あ、これフード取って挨拶しなきゃいけないパターンだ・・・
「お初にお目にかかります《氷河の龍》様。私は今代の黄昏の魔王を就任させて頂く事になったコハク・リステナと申します。よろしければ気軽にコハクとお呼びください」
そう言いながらフードを取った私の顔を《氷河の龍》はなぜか驚いた顔で凝視し、死にかけているとは思えないような声を上げる。
『アイシャ様⁉」
(生きておられた!?いや、あのお方がお亡くなりになる瞬間は確かに憤怒と共に見た。ましてやあれから200年程が過ぎている。他人の空似か・・・?)
え?どちら様で?私はコハクですけど?
『失礼しました。現黄昏の魔王、コハク・リステナ殿、外のゴブリンを討伐してくださりありがとうございました。私は、ネーヴェという。人間共からは主に《氷河の龍》と呼ばれていますがぜひ、ネーヴェと呼んで頂きたい』
《氷河の龍》改めネーヴェさんは驚きから落ち着いたのか私に自己紹介してくれる。
というか、人間共って言っているところを見ると人間のこと嫌いなんだろうなぁ・・・
『コハク殿一つお聞かせ願いたい。貴女が黄昏の魔王を継いだという事は先代の黄昏の魔王はどうなったのですか?』
そんな事を考ええていたらネーヴェさんがふと気になったという感じで先代が生きているのかと聞いてきた。
え~、これ素直に答えちゃって良いの?
「それは私がお答えいたします。ネーヴェ殿」
さっきまで無言だったクロノスがゴルクさんの肩から顔を出しネーヴェさんに声を掛ける。
「クロノスか・・・久しいですね。では、お願いします」
(その恰好は…魔力の欠乏ですか…)
クロノスの姿に多少困惑しながらもネーヴェさんは話を聞く。
「先代様はあの忌まわしい《インサニア》の発動により狂化され、ここにいらっしゃるコハク様の手により討たれ崩御されました」
「そうですか…彼の方もお亡くなりになったのですか・・・」
(え?マジ?あのおっさん死んだの!?やったぁぁぁぁぁぁ、賭けは私の勝ちだ‼)
・・・はぁ?え?ネーヴェさん⁉なんかキャラ変わってません⁉というかそんなことを思っているって地味に仲悪かったの⁉
口で言っている事と心でもやっぱり思っている事とのギャップに思わず驚いてしまう。
てか、なんか俗っぽい・・・私の中の神話的なイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。
「では、クロノス、こんな時に何なのだが貴方はあの時、私と彼との間で交わした約束を憶えていますか?」
「えぇ、憶えております。先代様かネーヴェ殿、先に亡くなられた方の全財産を生き残った方が全て手に入れるでしたね・・・」
クロノスが後ろにいる私をちらりと見た後でネーヴェさんに答える。
「えぇ、その通りです。ですが、その賭けの内容を変更させて貰いたいの・・・」
(というよりは、コハク殿に対するお願いになるわね・・・)
そう言いながら今度はネーヴェさんが私の方を見る。
「その内容は何でございましょう?」
「簡単な事よ。私の命ももうあまり長くない・・・だからこの子をコハク殿に託したいの・・・」
その言葉を受けゴルクさんは何とも言えない顔になり、クロノスは私の方を見て指示を仰いで来る。
はぁ、これはこの龍の母親としての最後の願いだ…これは断るわけにはいかないなぁ…
ただ、一つだけ聞いておかないといけないことがあるなぁ
「ネーヴェさん、そのお話受ける前に一つだけ聞かせてください。なんで今会ったばかりの私に自分の子を託してもいいと思ったんですか?」
ネーヴェさんは苦笑を浮かべ理由を教えてくれる
「一つは、貴女がゴルクを切らずにちゃんと話を聞いてくれたから、二つ目は見ず知らずのゴルクの頼みを聞いてここまで来てくれたから、三つ目は何も根拠はないけど私の大好きだった人によく似ていたから貴女だったらこの子をあの人みたいに育ててくれると思ったの・・・だからお願いできない?」
三つ目の理由を何か懐かしみながら口にしてから苦し気に息を吐く。
私の眼にはいよいよ、無くなりそうなHPが見える
「わかりました。その子は私が責任を持って育てさせていただきます」
理由を聞きネーヴェさんの最後の願いを聞き入れる。
「ありがとう。お礼と言っては難だけど貴女に私が死んだ後のこの体をあげるわ。好きに色々な物に加工して頂戴・・・」
私の言葉に安堵した様子でそう言いながらゆっくりと目を閉じる。
「それじゃあ、もう逝くわ。この子の事をお願いね。ゴルク、無事に故郷に戻れることを陰ながら祈っています。この子達を連れてきてくれてありがとう」
その言葉を最後にネーヴェと呼ばれていた《氷河の龍》は静かにこの世を去った。
「さて、この卵ってどうやって孵すんだろう?」
ネーヴェさんが亡くなった後にその遺体をアイテムボックスにしまった後に私は卵を見ながらそう呟く。
ぶっちゃけて言うとこの卵を温めて良いのかわからないのだ普通の龍の卵なら迷わず温めるのだが、相手は《氷河の龍》の卵なのだ温めて問題ないのかな?
「問題ないんじゃないです(っす)か?」
クロノスとゴルクさんが声を揃えてそういうのを聞きながらとりあえず卵もアイテムボックスに入れて置いて後で分かる人に聞いてからにしようと思いながら卵に触れたときに変化が起きた。
パキッっという音と共に卵にひびが入りそのひびがどんどん広がっていく。
「「「はっ?」」」
三人揃って間抜けな声を上げながら卵を凝視するとひびは全体に広がっていき上の部分は何かが押し上げ割れていく。つまり今孵っているのだ。
私達が息を吞み見守っていると卵が割れ中から背中に翼の生えた真っ白な毛玉の塊のような生物が出てきた。
「ミーミー」っと鳴きながら地面を歩くその仔を唖然とした顔のまま抱き上げて背中を撫でてやりながらクロノスとゴルクさんにぽつりと質問してしまう。
「真龍の子供って皆こんな感じなの?」
気持ち良さそうな顔をしている生まれたばかりの小さな毛玉を見ながら私達は只々唖然とするしかなかった。
次回は今いる国を出られるようにしたいと思います。
あともう少しで第一話の部分に戻れたらいいなぁ・・・




