ハードモードの試験の理由と初めての依頼
おはようございます。
第41話投稿させていただきます。
楽しんでいただけたら幸いです。
「ちょ…クルア…いきなり飛び蹴りは酷くないかい…」
吹き飛んで行った試験官が先程の不機嫌そうな雰囲気と打って変わった口調で受付のお姉さんに文句を言う。
すごいなぁ…あれだけ派手に吹っ飛んでいたのにとっさに受け身を取ってたし、蹴りも自分から飛んでダメージを軽減していた…私に足りないのはやっぱりこの辺の技量だな…
「酷いも何もありません。支部長‼毎回毎回、討伐の試験を受けに来た子達に無理難題な試験をしてその子達の心をバキバキに折ったり、危うく死にかけちゃったことも有るじゃないですか‼今回の受験者の子にもどうせブラックナイトかホワイトナイトをぶつけたんじゃないですか?もっと言い方や合格させてゆっくり育てるってことを覚えてください‼職員全員討伐試験を受けた子達が不憫でならないんですよ‼」
飄々とした態度に変わった支部長さん?に受付のお姉さんは捲し立てる様に文句を言う。ちなみにお姉さん、どちらかじゃなくて両方でした。
「ところでクルア、君は何で此処に来たの?仕事は?」
「よっこいしょ」と言いながら転んでいた場所から立ち上がり、お姉さんの言葉を無視しながら質問をしている。
「仕事は別の人に代わって貰いました。ここに来た理由はいつもの様にやり過ぎた支部長の後始末をしに来たんで…す…よ…」
言葉の途中で私の方を見て更に足下に転がっている二体の騎士に目を向ける。
「支部長――――――ゥ‼なんで二体も召喚してるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ‼この子を殺す気ですか!?てか、二体とも綺麗に真っ二つじゃないですかぁーーーー!?」
うん、彼女は混乱しているようだ…まぁ、ユニーククラスの召喚体が二体も出ていてそれが床に転がっていたら誰でも驚くよね…
そんな受付のお姉さんのクルアさんを見ながら私はひっそりと片眼鏡を付けなおした。
「いや~、初対面でいきなり不愉快な思いをさせて悪かったね~。あ、座って、座って。クルアお茶持って来てあげて」
すっかり険の取れた感じの試験官改め冒険者ギルドフェルシア支部の支部長さんが椅子に座るように促してくる。
受付のお姉さんが落ちいついた後、私達は支部長さんの執務室に移動することになった。
「こちらこそ試験を受けるためとは言え、失礼な物言いをしてしまい申し訳ありませんでした」
促された椅子に座り、先程支部長さんに言った事を謝罪する。
うん、我ながら本当に失礼だったと思う。
「いやいやいや、先に失礼な態度を取ったのは俺だからね~。ああいう風に言われちゃうのも仕方がないよ」
すみません。泣かせちゃるとかも思っていました・・・
「あの~、差し支えなければ教えて貰っても良いですか?何で討伐試験はあんな風に無理無茶無謀な試験になっているんですか?」
「う~ん。正確に言えば普段はブラックナイトかホワイトナイトどちらかだけだから君が受けた試験よりもう少し簡単なんだよ。まぁ、それでも鬼だとは俺も思っているんだけどね。実を言うと特別枠以外にも満十歳になったばかりの子とか貴族の嫡子以外の子が冒険者を目指すときには試験を受けて貰っているんだ。まぁ、最初の頃は試験も割かし簡単な物だったんだけど討伐試験を受けた子が試験の結果で何か勘違いしちゃったみたいでね、調子に乗って無茶な事をしたりして死ぬ子が増えてしまったんだ。これはいけないという事で討伐試験を受ける子は増長しないように受からないような難易度にしてあるんだ。ちなみに登録料を払ってもらうことになるけどやる気があるなら別の試験を何回も受けることも可能だよ。まぁ、君みたいに特別枠の子は別の試験を一度だけだけどね」
支部長さんは、頭を掻きながら何となくバツが悪そうな顔で説明をしてくれる。
成程…支部長さんなりの優しさだったわけね…
てか、クルアさんも言っていたけど普段は一体何かい!
「あの…じゃあ何で今回の試験はやたらとハードモードだったんですか?」
「あ~、非常に言いにくいのだけど。前もって君が特別枠だって聞いていたし、《ユニーク》クラスを殺している事によって討伐試験ぐらい簡単だと思っている可能性が有ると思ったので徹底的その鼻っ柱を折っておこうかと思った所存でして…本当にすみません」
そう言いながら頭を下げる支部長さんにお茶を持って来てくれたクルアさんが追い打ちをかけて文句を言う。
…すみません。簡単とは思っていませんでしたが、手っ取り早いとは思っていました
「全く支部長は加減を知らなすぎます。あの怒っているような演技だって度を超え過ぎていて全然演技じゃ、無くなっていたじゃないですか。この子に何回も口汚い呼び方して」
私にお茶を渡しながら支部長さんを叱るクルアさん。
あぁ、そう言えばクソガキとかも言われましたね…まぁ、全然気にしてなかったんですけど
「その件も含め重ね、重ね。本当にすみません。」
「そうです。もっとちゃんと誠意をもってコユキちゃんに謝ってください。今年8歳になる女の子にあの試験は酷すぎです‼」
「え゛⁉女の子⁉男の子じゃなくて⁉」
クルアさんの言葉に支部長さんが目を白黒させて驚いている。まぁ、今の私はこの格好の所為で性別不詳だし、第二成長期もまだ来ていない。分からないのもしょうがないよね。
クルアさんだって私が書いた用紙を見ていたから分かったんだろうし…
てか、自己紹介もまだしてないや…
「えっと…そう言えば自己紹介を忘れていました…あの…自己紹介するのにフードを取らないのは失礼かと思うんですけど私の髪と目は人と違うので見たら不愉快になるかもしれないんですけどやっぱり取った方が良いですか?」
「あ~、うん、そうだね~。冒険者としてギルドに登録されるわけだし、顔が分からないと困ることも有るかもしれないしね~」
「そうですよねぇ~」
「それにどんなに異形な姿形をしていてもギルドの支部長として決して見た目で人を判断しないと誓いますから安心してください」
「そうです。そうです。髪の色とか目の色が違うなんて個性ですよ個性。世の中には見た目が全然違う人なんて沢山居るんですから‼」
支部長さんの言葉に続いてニアさんが思っていた事と同じ事を言うクルアさんの言葉に思わず、笑いながらフードを外して改めて自己紹介始める。
「改めまして、コユキです。家名も何もないただのコユキです」
一年ほど前にアラン君にしたのと同じような自己紹介をしていると支部長さんとクルアさんがやっぱりカルルカでも見たような感じで私の顔を凝視している。
…毎回毎回私の姿を見て異形だと思うのは分かるけど本当に何なのさ…
3分ほど唖然としていた支部長さんとクルアさんは次にヒソヒソと二人で何かを相談しだした。
「いや~・・・いたね~・・・まさか美・・・だったとは・・・
「ですね・・・冒・・・としても・・・としても・・・望ですね。支部長・・・私彼女の・・・に為りたいです」
「良いよ。許可するよ~」
所々聞こえて来る会話に聞き耳を立てながら淹れてくれたお茶に口を付ける。結局、私の髪や目を見ても特に何も言わないで受け入れてくれたのはニアさん達だけだったか…
そんな事を考えていると会話が終わったのか支部長さんがこちらに向き直る。
「え~、すみません。つい、話しこんでしまいました。改めて私は冒険者ギルドフェルシア支部の支部長をやらせて頂いてる。フィルクス・アルバンです。今後、良い関係を築いていきたいと思うのでよろしくお願いします」
「私は受付嬢をやらせて貰っていますクルアです。何か分からないことが有ったらいつでも聞いてくださいね」
そう言いながら身を乗り出し私の手を両手で握ってブンブンと振っている。
「さて、じゃあ、自己紹介もしたし、今後について話をしようか?」
クルアさんが落ち着いてからフィルクス支部長がそう柔和な笑みを浮かべながらそう切り出した。
「事前の質問には冒険者に為りたかった理由は旅をするためって書いてあるけど差し障りが無ければどこまで行くのか教えて貰っても良いかな?」
フィルクス支部長はさっき書いた用紙に目を通しながら私の目的地を聞いてくる。
魔族領に行くと言ったら驚くだろうなぁ…まぁ、事前に作り話を用意しているから何とかなるだろう。
内容的には以前リーン達に話した呪いの解呪の方向で押し通そう。呪いの解呪目的だと皆止めにくいしね。まぁ、ニアさん達は深く聞いてこなかったのでそこまで話していないのだが…
「私は現在ちょっとした呪いに掛かっているんです。その呪いの解呪の為にもまずは海王国メルルクに向かい、そこから船に乗って魔族領まで行くのが今の目的地です」
私の行き先を聞いて二人は微妙そうな顔をする。
あ、もう分かったので答えは言わなくて良いですよ?どうせ今回もスムーズに事が運ぶなんて思ってないですから
「えっと、コユキさん魔族領が最終目的地と言っていたけど、残念ながら魔族領には最低でもオパールクラスになる必要が有る。それ以下だと船には乗せて貰えません。」
ですよね~、そうじゃないかと思っていましたとも、大体この旅を初めて思い通りになった事なんて一回も無いもん。えぇ、分かっていましたとも…ちくせう…
「ちょっと狡く思われるかもしれないし、通常は絶対に使わない手なんだけど君の問題を解決する方法が一つだけ有るんだけど聞く?」
「ぜひ、お聞きしたいです」
「実は特別枠の子のギルドランクは試験を受けたギルドの支部長に一部決定権が有って最高でオパールから始めることを許可できるんだ。一つ依頼を受けてくれるのなら今回の試験のお詫びにこの権限を使いたいと思うんだけどどうかな?」
ひっそりといじけているとフィルクス支部長から思いもよらない提案を持ちかけられた。
「その依頼とは何でしょう。それを聞かない事にはすぐに返事を返せません」
「実は、最近この辺りにゴブリンが群れ作っているらしいんだ…その調査を君に依頼したい。まぁ、決して簡単とは言えないけど君なら大丈夫だと思うよ」
ふむ、ゴブリンの巣の調査か…少し確認したいことも有るし丁度いいかな…
「あの、一つ質問なんですけどそのゴブリンの群れは場合によっては殺してしまっても良いんですか?」
「別に討伐しても大丈夫ですが、慢心や無理をしないで危険と思ったらすぐに逃げてください。実はこの依頼女の子に任せるのは本当は気が進まないんです。ほら…ゴブリンって女性に色々やっちゃうし…」
言葉を濁しながら支部長は頭を掻く。クルアさんはそんな支部長を見て何か言いたげだ。
「わかりました。その依頼受けさせて頂きます」
「え?本当に⁉」
私の返事に支部長は少し驚く。女の子に色々厭らしい事をすると聞いて引くと思ったのだろう。
「えぇ、本当です」
「…それじゃあ、よろしくお願いします。ただし、絶対に無理はしない事。これは約束してください」
「わかりました」
「じゃあ、クルア、この依頼処理して置いてくれる」
「…わかりました。支部長」
何か言いたげなクルアさんは支部長から依頼書を受け取り依頼の処理をしに受付の方に向かって行った。
さて、そろそろ私のお願いを支部長に言おうかな
「あ、そうだフィルクス支部長、依頼の場所に向かう前に私からも一つお願いが有るんですけど良いですか?」
「?僕に出来る事なら何でも協力させてもらうよ?何かな?」
おぉ…内容も聞かずに協力してくれるとは、なんて気前が良いのか
「支部長の魔法について詳しく教えてください。理論とか構成式とか隅から隅までじっくりと」
そう笑顔で言う私の顔を支部長は何とも言えない顔で見つめ返していた。
そして私は、夜が明けるまで支部長から召喚魔法についてじっくりと話を聞いたのだった。
無駄に試験をハードモードにされたんだもんこれぐらいは許されるよね?
ちなみに支部長は過去にも魔法について根掘り葉掘り質問されています。
誰にされたかいずれ書こうと思います。




