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帰って来ても良い場所

こんにちは、第38話に続いて第39話投稿させていただきます。

楽しんでいただけたら幸いです。

 さて、お祭りから4日が経った。ある日、いつもの様に営業をしている星詠み亭に小包と書類の入った封筒が届けられた。送り主はギルド本部だ


「ニアさん、なにか届きました」


 小包と書類を見てニアさんは驚いた様な顔をしている。


「うそ…もう来たの?正直、来るまでにまだ時間が掛かると思っていたわ」


 そう言いながら私から小包と書類を受け取り中身を確認する。はぁ、っと溜息を一つ吐き今度は接客中の私を手招きして呼ぶ。


「おめでとう。コユキ、正式に貴女の仮登録が決まったわ…」


 そう言いながらニアさんは翡翠の嵌ったドッグタグを私の手に乗せてくれながらさらに私が思いもしない事を言って来た。


「コユキ、今日の仕事はもういいから今すぐ荷物をまとめて明日の朝一番にフェルシアに向かえる様に準備しなさい」

「そんな…明日なんて急すぎです‼何でですか?」


 ニアさんの言葉に自分が元々望んでいた事だという事も忘れ思わず聞き返してしまういくらなんでも明日発つというのは急すぎる。


「そうだぜ、ニア、何でそんなに急なんだよ。まるで追い出すみたいじゃねぇか」


 そうだ、そうだと周りに居る皆がニアさんに声を掛ける。

 ニアさんはため息を吐いた後、書類に書かれていたことの一部を説明してくれた。

 ニアさん曰く、今回のスライ・サーペントは変異したことによって《ユニーク》クラスの魔物になっていることが認められたらしい。しかし、ギルド本部の人間の中には元々が《アブノーマル》クラスの魔物を狩ったぐらいで仮登録をするのは危険ではないかという者と変異種だからこそそれを倒した人間をギルドに登録しておきたいという者に別れたらしい。

 その結果、期間限定で仮登録証を有効にし、その期限以内に試験を受け、正規に登録すれば問題ないという話で纏まったらしい。

 そしてその期限というのがこの仮登録証がこちらの手元に届いてから5日、カルルカからフェルシアに向かうには結構ギリギリの日数なのである。


「荷物をまとめる必要も有るから今日は無理として明日、朝一で出てもギリギリなの。だから今日はもう上がってすぐに荷物をまとめなさい。後の事は気にしなくていいから、全く何でギルド本部の人達は事前に知らせてくれないのよ‼本当に頭にくる‼」


 ニアさんの言葉に甘え、私は荷物をまとめるついでにこの事をクロノスに伝えるために屋根裏に戻る。

 何時かは出て行かなければならない事は分かってはいたが今回もあまりにも唐突過ぎる。

 私は手の中の仮登録証のタグを見て思わずため息を吐いてしまう。なぜ、毎回毎回、楽しい時や幸せな時にこの手の物が来て私をその場所から遠ざけるのだろうか?

 手に入れたいと思っていた仮登録証を恨みがましく睨みながら私物をまとめてアイテムボックスに入れて行く。

 二回も親しくなった人達と別れると思うと私の胸中は何とも言えない寂しさで満たされていったのだった。


             ☆


 夜、明日コユキが旅立つと知った冒険者達は用事が有ると言ってそそくさと帰って行った。

 明日は早朝にコユキを見送らないといけないという事で皆早々に睡眠を取る事になった。

 思えば冒険者に為りたいと言っていたあの子を雇ってから一ヶ月近くなる。

 最初はこんな子供を冒険者にするわけにはいかないと思い。提案したことだったけど今では家にくるお客ともすっかり打ち解け、頼もしい戦力になっていた。

 そんなあの子と別れるのに寂しさを感じないと言えば嘘になる。しかし、元々はあの子が望んでいた事なのだ。明日は笑顔で送り出してあげなければ…

 あの子がどんな目的で何処を目指しているのかを私は知らない。でも、恐らくあの子の進む道は楽なものでは無いだろう…あの子の未来に辛い事だけで無く幸せな事が沢山ある事を願わずにはいられない…

 そんな事を考えているとコンコンっと控えめにドアがノックされる。


「どうぞ」


 あまり遅い時間ではないが小声で返事をするといつもの片眼鏡と髪飾りを外したコユキが入ってくる。


「コユキ?どうしたの?」

「ニアさん、遅くにすみません。少し眠れなくて…あの…もしですけど…良かったら一緒に寝ても良いですか?」


 コユキの言葉に少しばかり驚いてしまう。この子は普段、家で働いている時も皆でいる時も私達に甘えてくる事は無かったのだ。そのコユキが初めて甘えて来たのだ。驚くのも無理は無いだろう…


「おいで」


 そう言いながら私はベッドの端により子供が一人は入れる分のスペースを作る。

 コユキは「失礼します」と言いながら布団に潜り込んでくる。

 私たち二人はその後何となく眠れなくて色々な話をした。ここに来るまでにコユキの経験した旅の話、ここでの事がどんなに楽しかったか、そんな事を話している内にいよいよ眠らなくては不味いという時間になってしまった頃にコユキがポツリと何かを言う。


「ニアさんと一緒に居ると落ち着きます。私は兄さんも姉さん居ませんでしたが、きっと居たらこんな感じだったんですかね」


 コユキの言葉に私は思わず引き留めるようなことを言ってしまう。


「コユキ、貴女さえよければ冒険者に為るのも旅もやめて此処に残らない?私も貴女の事は妹みたいに思っているし、父さんやゲインだって反対しないと思うの」

「…ありがとうございます。ニアさん。でも、私は…だから…結局、今の道以外は選べないんです」


 一部何を言っているか聞き取れなかった彼女の声はいつもみたいに元気な声では無く今にも泣きそうな声だった。

 あぁ…戦うときの強さも今の旅も決してこの子の望んだものでは無いのだろう…

 私はただただコユキの頭を撫でながら、言葉を紡ぐ


「ごめんね。私が軽率だった…貴女には貴女の理由が有るよね。でもね、これだけは覚えておいて、コユキは何時でもここに帰って来て良いんだよ?辛い時も悲しい時もあるだろうし、頑張り過ぎてもう駄目だってなる時もあると思う。でも、そんな時に帰れる場所が有るって覚えておいて、貴女が何であっても私達は貴女を拒絶なんて絶対にしないから」


 撫でている頭がコクリと頷くのを確認し、私達はそのままゆっくりと心地良い眠気に身を委ねていった。


             ☆


 ……やってしまった……

 寂しさのあまり人の布団に潜り込むなど何をやっているのだ。私は……

 眠りについてから二時間ぐらいが経過して私はニアさんの布団の中で恥ずかしさのあまり身悶える。隣ではニアさんがまだ眠っているので起こさない様に最小限に

 精神年齢的には前世+今世で私の方が上のはずなのに全くもって不覚である。穴があったら入りたい。もっと言うとこんな事をあの女神が見ていると思うと死にたくなって来る。

 …というかあの女神を殴って記憶は消去しよう。それはもう何十回も殴って…

 レスナを殴ると決めたことにより多少、頭に冷静さが戻って来た。

 ニアさんを起こさない様にベッドから抜け出し部屋に戻って私服に着替える。

 片眼鏡(モノクル)と髪飾りと旅装は出る直前で良いだろう。

 そんな事を考えながらまだ誰もいない下のお店まで降りて掃除を始める。

 散々お世話になったのだ。これぐらいしても罰は当たらないだろう。


「お前…こんな日にこんな時間から明かりもつけずに何やってるんだ…」


 ある程度掃除を終えた時に背後から呆れたようなゲインさんの声が聞こえて来た。


「あ…ゲインさんおはようございます。掃除です」

「いや…掃除は分かるけどせめて明かりは着けようぜ…」


 ゲインさんの後にアドベルさんも起きて来て同じ様な質問と注意をしてくる。ゲインさんは後ろでそうですよねぇっと言っている。

 まぁ、私の目は暗い所でも良く見えるので別に大丈夫なんだけどね…

 アドベルさんとゲインさんはそのまま厨房に入って行き朝食の準備を始める。私はなんとなくそんな二人を見る為に厨房に入って行った。普段は危ないからと追い出されるのだが、今日はそんな様子も無く。私は二人が調理をしている所を最後まで見る事が出来た。

 程なくしてニアさんも起きていて昨日のお礼を言い(自分的にはかなり不覚で恥ずかしかった)

 四人で朝食を取ってから出ようと思っている時間も近づいてきたので私は旅装に着替え、備品を付けていく。

 旅装はここに来た時に使っていたぶかぶかの黒のロングコートだ。

 ここの人達は私の目や髪の色を受け入れてくれたが、なにぶんクロノスまで受け入れてくれている人達だ。他の町でも一緒とは思わないほうが良いだろう。

 その恰好を見てニアさん達が懐かしそうに苦笑を漏らすの見てから私達4人は門まで歩いて行く。

 門に近づくと何だか人だかりが出来ている。何か有ったのかな?

 集まっている顔ぶれを確認すると星詠み亭の常連さんにリーン達まで居た。


「お!来た来た」


 私達の姿を確認し、カルデさんが声を掛けて来る。


「四人共、おはようさん」


 カルデさんのその声で周りの皆も口々におはようと言って来る


「おはようございます。皆さん」


 何で此処にという野暮な事は聞かない。恐らく見送りに来てくれたのだろう。

 皆と少しずつ話してから門に向かっていると「ちょっと待った」っという声が聞こえて来る。

 振り向くとアデルさんが後ろの方から駆けて来る。


「コユキちゃん、これ、良かったら使ってみて」


 そう言ったアデルさんは子供用のサイズの黒いフード付きのロングコートとそれと全く同じ色合いのズボンを持っていた。


「これは何ですか?」


 パッと見は普通のロングコートとズボンに疑問符を浮かべているとアデルさんが説明してくれる。


「昔、少しだけ魔族領に行った事が有るんだ。まぁ、人間に友好的な暁の国だったんだけどね。その時におかしな喋り方をする猫の獣人を助けたことが有ってその人からお礼と言われて貰ったんだけど、見てわかる通りサイズがね…なんでも名のある竜から素材を貰ったみたいでこれ一つあれば防具も要らないらしいんだ。俺は着れないし、もし、良かったらこの先の旅に役立ててよ。俺からの餞別」


 そう言って一式を私に手渡してくれる。

 えぇ…これって物凄く高価な物じゃないの?


「なんか、すみません…有りがたく頂戴します…」

「うん、試験頑張ってね」


 そう言いながらアデルさんはフード越しに私の頭を撫で皆の所に戻って行く。

 私は、一度ぶかぶかのロングコートを脱ぎ今さっき渡されたコートに袖を通す。ズボンは後でいいだろう。

 袖を通すと思った以上にぴったりのサイズだったようで非常に動きやすい。とても有り難い事だ…

 そして、いよいよこの町ともお別れしなければいけない時間が迫って来た。

 私は皆の方を振り向いて一言だけ喋る。


「それじゃあ、行ってきます‼」


 そう言って私は門をくぐり皆に見送られながら約一ヶ月過ごした町を後にした。


やっと過去の話が終わる目処が立っていました。

まだまだ掛かると思いますがお付き合い頂けたら幸いです。

女神殴りカウンタ―:20

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