想像していた剣の刺さり方と違った今日この頃
こんばんは、第37話投稿させていただきます。
今回はニアの視点から始まります。
二つ目の☆の後は主人公の視点に戻ります。
楽しんでいただけたら幸いです。
☆
冒険者達に指示を出していると避難所に向かう方角からパアンという音が聞こえて来る。
「門の魔物達はある程度討伐が終わったぞ、大物のスライ・サーペントも何とか倒せた‼」
外からの音に一抹の不安を持った時に父さんとゲインが店に駆け込んで来る。
武器を携えている二人は元々冒険者なだけ有って様になっている。
「二人共お疲れ様。被害はどんな感じなの?」
「被害は最小限、怪我人は多少出たが死人は、なしだ。魔物は結構な数が居たがスライ・サーペント以外は大したことは無かったし、もう大丈夫だろう」
私の質問にゲインが答えてくれる。良かった…死人は出なかったんだ。
でも、何かが気にかかる…先程の何かを弾いた様な音の所為だろうか…
「ねぇ?父さん、ゲイン、さっき町中から何かを弾くような音が聞こえなかった?」
私の言葉に父さんとゲインも顔を曇らせる。やっぱり、二人もさっきの音を聞いていたのだ。
ひょっとすると町に魔物が入り込んでいるかもしれない。
「父さん、ゲイン、私と一緒に音のする所まで行ってくれる?」
私の言葉に二人はコクリと頷いてくれる。
さっきの音を聞いてから町に魔物が入って来た事よりもあの子が戦っているのではないかという一抹の不安が私の胸を占めている。
そんな不安を抱きつつ私は二人と共に音のした方角に向かって走り出した。
店を出てからも聞こえる戦闘音を頼りに走り続け、やっとの事で音の大元に辿り着いた。
建物の角を曲がり、その光景を見た瞬間、私達三人は声も無く立ち尽くしてしまう。
あたり一面は血の海になっており首の無い魔物から絶えず噴き出し続ける血がまるで雨の様に降り注ぐ。
その中に良く見知った顔が立っている。
血に濡れていてもなお、その髪自体が光を発しているような銀の髪と紫の瞳を持つ少女が朱く、光り輝いている様に見える長剣を片手に立っている。
普段は、少しませた所が有るが年相応な少女という印象を与える彼女が、今はまるでお伽噺に出て来る魔王の様に恐ろしく見える。
そんな事を思っていると不意に少女の手から長剣が落ち、彼女の体がぐらりと揺れ地面に倒れる。
「コユキ‼」
彼女が倒れた瞬間、先程まで感じていた恐ろしさも忘れ血の雨の中をコユキの元まで駆ける。
抱き上げるとその体は冷たく異常なほど汗をかいており、毒に侵されていることが分かる。
この症状は毒?でも、噛まれた後も無いし、何で?
疑問に思いコユキの体を調べると腕に鱗によって着いたのであろう無数の傷が目に入る。
まさか鱗に毒が?でも、普通のスライ・サーペントの鱗には毒なんてないはず…
そんな事より、今はコユキの治療が先だ‼
浮かんだ思考を頭の片隅に追いやりコユキの治療を始める。
「父さん‼ゲイン‼解毒ポーションを持ってきて‼あと、さっきの戦いでこのスライ・サーペントと戦った人達の中に鱗で怪我をした人達がいたらその人達にも解毒ポーションを渡して‼鱗に毒が有るかも‼」
私の言葉に二人は頷いてその場を離れる。
少ししてゲインが持ってきてくれた解毒ポーションをコユキに飲ませ容体が落ち着いたのを確認してから店へと戻る。
コユキをベッドに寝かせ、私は今回の後処理やコユキの倒したスライ・サーペントを調べる為に父さん達の居る中央広場まで出かけるのだった。
やれやれ、今夜は長い夜になりそうだ…
☆
右手から伝わる暖かさで自分がまだ生きていると実感する。
その手の温かさには覚えが有った。昔、まだ白だった頃の記憶で熱を出して寝込んでいる時にお母さんが握っていてくれた手の温もりと同じものだ。
今はもう会えなくなってしまった前世の家族を思い出し非常に懐かしくなる。皆、元気でいるだろうか?
誰の手か分からないがその手を強く握りゆっくりと目を開けると太陽の光が目を射す。
その眩しさに顔をしかめながら横を向き手の主を確認すると私の手を握りながらニアさんがベッドに突っ伏す様に眠っていた。
恐らく倒れる前に聞いた足音はニアさん達の物だったのだろう。
町での後始末を終えた後、私の看病をしていてくれたみたいだ。どこまでも優しい人たちだ…
握っている手にもう片方の手を重ねるとそれが刺激になったのかニアさんが目を覚ます。
「う…うん。もう朝?そうだ‼コユキ?」
「おはようございます。ニアさん。御心配をお掛けしました」
目を覚まして開口一番に私の仮の名前を呼ぶニアさんに横たわって手を握ったままゆっくりと返事をするのだった。
ニアさんに健康チェックをされた後、お湯を張ってあるあるからお風呂に入ってきなさいと言われ自分が未だに血塗れであることに気づく。
言われた通りにすぐさまお風呂に入り血を洗い流す。さっぱりした後はボロボロになった服を着替えて、いつもの片眼鏡と髪飾りを装着してから遅い朝食を取りに一階のキッチンに向かう。
やっぱり防具に関しては何か対策しないと駄目だなぁ…
朝食を取りながらアドベルさんゲインさんを含めて昨日の事について話をした。
「まず、最初に聞きたいのは一緒に居た子達の事だと思うから先に言っておくわね。多少の擦り傷やなんかは有ったけどあの子達は皆無事よ。あの子達の話から本当はスライ・サーペントの情報が早く入っていなければいけなかったのだけど、現場が混乱していた所為で情報の伝達が遅れたみたい。後であの子達に会いに行ってあげなさい」
ニアさんがリーン達の事を教えてくれる。良かった。皆無事だったんだ。
「それで、コユキは昨日の事はどこまで覚えている?」
「えっと…すみません。ニアさんに言われて避難所まで行く途中で戦うなと言われていたのに魔物と戦いました…」
あ~、これは怒られるなぁっと思いながらニアさんの言葉を待っていると意外なことに怒っている様子はなかった。
「まぁ、それに関しては言いたい事は有るには有るけど、状況が状況なだけに何も言わないわ。コユキが居なかったら一緒に逃げていた子達の命も危なかっただろうし、あの特殊なスライ・サーペントを逃がした冒険者達にも責任が有るもの」
ニアさんはそう言いながらチラッとアドベルさんとゲインさんを見ると二人とも居心地が悪そうにしている。何かあったのかな?
「えっと、さっきあのスライ・サーペントが特殊って言っていましたけどどういう事ですか?」
この件に関して私は‘眼‘の力のお陰で分かっているのだが前もっての情報と照らし合わせたいのと私があの蛇が特殊な個体だと知っているのは本来あり得ない事なのであえて聞くことにした。
「コユキは知っているか分からないけどスライ・サーペントは本来、鱗に毒なんて無いの。それにギルドに登録されているランクも《アブノーマル》なの。でも、死体を調べた結果あの個体は変異種で鱗に毒を持っていた上にランクも《ユニーク》になっていたわ。今、この事をギルド本部に連絡を入れたけどどんな結果が返ってくるか見当もつかないわ」
心底疲れたように言いながらニアさんはコップのお茶を一口飲み言葉を続ける。
「ちなみに町は多少被害が出たけど死人も無く。比較的被害は少なかったわ。魔物も全部討伐できたし、もう大丈夫だと思う。」
死人が出なかったのなら良かった。
…てか、私が最初で最後の死人になりかねなかった?…魔王なのに…
人知れずショックを受けているとニアさんは意外な事を言って来た。
「さて、最後になったけどコユキの冒険者の仮登録は少し待ってくれる?昨日の今日でまだ混乱しているし、あのスライ・サーペントが特殊個体で《ユニーク》クラスだっていう事実をギルドが認定しないといけないから時間がかかるの」
その言葉に私は何を目的にここに訪れたのか忘れていた。
あ~、そういえば冒険者の登録をしようと思ったんだった…
「あ、はい…何時でも大丈夫です」
ここで働くのが楽しくてつい目的を忘れていたので、歯切れが悪く答えながら私はコップのお茶に口を着けるのだった。
お茶を一口飲んでから私は皆が聞いてこない事をあえて聞くことにした
「それで、皆さんは私が‘何なのか‘を聞かないんですか?」
そりゃあ、聞かれないなら聞かれないに越したことはないけど昨日、変異種の魔物と大立ち回りを演じた上に今まで持っていなかった剣まで持っていたのだ。この状況で私只の子供です。てへ♡なんて言って誰が信じるのか…誰も信じるわけが無い。
以上の事を踏まえて話せる事はこの人達には話しておこうと思って聞いたのだが意外な返事が返ってきた。
「別に聞かないわよ?だって冒険者相手にしていればいろんな人間がいるし、皆それぞれ事情はあるだろうし、何が有ってもコユキはコユキでしょ?」
ニアさんの言葉にアドニスさんとゲインさんも頷いている。
はぁ~、なんか最近私が考え過ぎな様な気がしてきた…
この話はそのまま終わってしまい、皆で片付けをしていると玄関のドアベルが鳴り誰かが入って来た。
しまった‼今日は臨時休業だと聞いていたのでいつものフード付きの服じゃない…
そんな事を思っていると入って来たのは今やすっかり顔馴染みになった冒険者のアデルさん、フィードさん、カルデさんの三人がお店に入って来た。
「ニア、おやっさん、とりあえず町の片付けは大体終わったぜ、ただ一つ問題が有ってちょっと来てもらいたいんだが…」
どうやら冒険者の人達も総出で町の清掃や修繕をしてくれているらしい。
ドアを潜りながら町の状態を知らせてくれていたカルデさんの声が私を見た瞬間に止まる。
「おい!カルデ、後が閊えている変なこと所で止まるなよ」
カルデさんを奥に押しながらアデルさんとフィードさんが続けて中に入って来てやはり私の顔を見て止まる。
それに釣られて私も左手に台布巾を持ったまま三人を凝視して止まってしまった。
「「「誰?」」」
三人綺麗にハモリながら奥から出て来たニアさんに聞いている。
「あんたら女の子にその反応はないでしょ…だからモテないのよ…コユキよ。コ・ユ・キ」
ニアさんの言葉に唖然としながら私の顔をじっと見続ける。私は蛇に睨まれたカエル状態だ…くそ…油断した…
「「「うっそ…美少女じゃん…」」」
これまたきれいなハモリでその一言だけ言い三人はただただ唖然としていた。
「それで?どうしたんだ?」
三分間たっぷりとお互いに硬直しているとアドニスさんが呆れたように話を振って来る。
ちなみにニアさんはニコニコしながら私達4人を見ていた。
「あぁ…そうだった…実はスライ・サーペントが死んでいた場所の清掃はあらかた終わったんだが一つ問題が有って、なんかが石畳に刺さっていて誰も引き抜けないんだ。おやっさんは力も有るからおやっさんなら引き抜けるかと思って相談に来たんだ」
「あ、それ抜けそうな人間に心当たりが有るわ。父さん、コユキを連れて今からそこに行ってくるね。」
カルデさんの話にニアさんは相変わらず面白い物を見ている様にニコニコしながらアドニスさんに声を掛ける。
「うん。ならゲインも連れてけ、明日の仕込みなんかは俺一人でやっておく」
アドニスさんの許可を得て、カルデさん達三人と私、ニアさん、ゲインさんは件の現場に向かう。
私はなぜか、ニアさんとゲインさんと両手を繋いで歩くこととなった。
てか、多分突き刺さている物って《カグツチ》だよね?某伝説の聖剣風にでもなっているのかな?ちょっとかっこいいかも…
二人と手を繋いで歩いていると昼間からお酒を飲んでいる人達が目に入る。恐らく色々な作業が終わって一杯と言ったところだろうか。
そんな中に見覚えのある犬のぬいぐるみがおじさん達と一緒にジョッキを持って騒いでいる。駄犬…見覚えのある布の塊も私に気づきお互いにアイコンタクトをする。
―――――お前、こんな所で何してるんだよ。帰ったらその体、解体して布と綿にしてやるからな。
―――――お考え直し下さい。我が魔王、これは魔力回復に必要な事なのでございます。ですから解体だけはご勘弁を…
「おーい、ニアにゲイン、仲良くお出かけかぁ~、どこに行くんだ~。デートかぁ?」
布とアイコンタクトをしていると酔っ払いの一人がこちらに気づき声を掛けて来る。
「スライ・サーペントの死んでいた所に刺さっている物を回収に行く最中よ‼デートじゃないわ。大体、子供連れでデートなわけないでしょう‼」
そう言いながらニアさんは私と繋いでいる手をおじさん達に見せる。
「がっはっはっは、そういえば、そうだなぁ、それで?その子は誰だ?」
おじさん達は笑いながら私が誰かを聞いてくる。
「コユキよ、コ・ユ・キ、私達と一緒に居るんだからそれぐらい予想しなさいよね‼」
ニアさんの言葉におじさん達は先程の三人と同じように固まる。一気に酔いも醒めた様子だ。いくら私の髪の色やなんかが異常でもさっきから失礼じゃないですかね?
そんな呆然としている人達をの前を通り過ぎ、しばらくして件の場所にたどり着き驚く、そこには刺さっている物を抜こうと冒険者の人達が長蛇の列を作っていた。
「皆、これがスライ・サーペントを倒したものだと思って抜いて手に入れようと必死なんだ。で、公平を期すためにこうやって並んで順番待ちしてるんだ」
アデルさんが私達に現状の説明をしてくれる。
…これ素直に並ぶの?てか、抜けたらネコババして良いの?
素直に列に並ぶ事早1時間やっと私の番が回って来た。抜けなかった人達は周りに残って誰が抜くかをニヤニヤしながら見ている始末だ。何人かはお店でもよく見る顔だ。
何見てるんだよ、見せもんじゃないよ。散れ!散れ!あ~、もう、面倒くさい‼さっさとカグツチを回収してリーン達に会い行こう。
そんな事を考えながら刺さっているであろうカグツチを見て私は愕然としてしまった。
そこには刀身がすっぽりと石畳に突き刺さり鍔と柄しか出ていないカグツチ?が埋まっていた。
…私が想像していた。刺さっているというイメージと全然違う…
ブックマークや評価ありがとうございます。
励みにして面白く出来るように頑張ります。
次回はまた少しお話が進むようにしたいなぁっと考えています。
お付き合い頂けたら幸いです。




