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カグツチ

こんばんは、第36話投稿させて頂きました。

今回、結構長めになってしまいました。

楽しんでいただけたら幸いです。

 私が月詠み亭で働き始めて更に2週間が経ち明後日はいよいよ『星詠み祭り』という事で元々活気のある街が更に賑わっている。私も初めて見るので楽しみだ。


「そういえば、星詠み亭は何か出店みたいなのやるんですか?」


 下げたお皿を厨房に持って行った際に明後日の事をゲインさんに聞いてみる。


「うん?出店か?確かに毎年、串焼きやエール酒や果実酒の販売をやっているけど今年はやらないんだよなぁ~」


 ゲインさんは朝食の跡片付けをしながら少し笑ってそう言った。


「?今年はやらない?何でですか?そこの所詳しく教えてください」

「あぁ、ニアが今年の祭りの歌姫に選ばれたんだよ。それで手が足りないから今年は出店しないんだ。毎年頼まれていて今年とうとう断れなくなったってオチなんだけどね。アイツ顔は良いのに愛想は無いからなぁ。まぁ、そこが良いんだが…」


 最後の部分は小声で聞こえないように言いながら事の経緯を教えてくれる。

 え?最後の部分を言及しないのかって?しませんよ。私は空気の読めるお子様だからね。


「なるほどぉ、ニアさんはその歌姫としての練習のために毎朝出かけていたわけですね。だからいつも朝は、アドベルさんが受付のカウンターに立っているわけですね」

「あぁ、ニアの代わりに冒険者の奴らの依頼の発注をやってくれているんだよ。最初の頃は、皆驚いていたぜ。皆、ニアの居ると思っている所にゴツイおやっさんが立っていたんだから当然と言えば当然だよな」

「あれ?でも、人手が足りないから出店をやらないって言っていましたけど一応私が入って手は足りるんじゃないですか?」

「ん?あぁ、その事なら俺もニアとおやっさんに言ったんだけど、コユキがこの祭りは初めてなんだから楽しめなくちゃ可哀想だろってさ。だから当日はお祭りを思いっ切り楽しみな。色々な店が有るぞ」


 そう言いながら私の頭撫でる。流石の私もお客さんがいない時にはフードを被っていない。


「さて、明後日を楽しみにしながら今日と明日を乗り切ろうぜ」


 ゲインさんのその言葉と同時に私はフードを被り今日の仕事の準備を始めた。

 さてさて、時間はまたもや無慈悲に過ぎ去りゲインさんと話してから二日経ち今日はいよいよお祭り当日。

 お祭りは夜からが本番だと聞いていたが、昼間でも十分賑わっている。

 今日はお店もお休みという事で私もお休みになった。これからの事を少し考えようと思っていたのだがニアさんによって私はお店の外に放り出されていた。

 まさに猫の様に首根っこを持たれぬいぐるみ状態のクロノスと一緒にポイっという感じで外に出されてしまったのだ。

 まぁ、もともとお祭りを楽しむつもりだったし、満喫させて貰おう。そうこう言っている内に美味しそうなテルル肉の串焼きを発見‼


「すみません。一本下さい」

「あいよ、コユキちゃん今日は休みかい?」

「はい、ニアさんは歌姫ですし、冒険者の皆さんも今日は仕事しないって言っていました。そして私はさっきニアさんに店の外に放り出されました」


 はっはっはっと笑いながらおじさんは串焼きを焼いてくれる。ちなみに私の恰好を見ても不振がったりしないのは私が働くことが決定した時にアドベルさんがここら辺一体の人達に説明してくれたからだ。有難い事だ。

 そういう経緯や御使い中の私の態度を見てくれていたらしく今ではすっかり商店の皆とは顔馴染みになれた。


「じゃあ、今日は思いっきり楽しまないとだねぇ」

「はい‼今から色々見て回ってきます」


 おじさんから串焼きを受け取り代金を払って別れる。ニアさんが日払いにしてくれたおかげで懐事情も多少改善されたのだ。


「あむ‼」


 受け取った串焼きにパクっとかじりつきながら町の中を見ながら歩く。いつも活気に満ちている街だけど今日は本当に賑やかだ。


「さて、そろそろ後ろの子達を何とかしたほうが良いかな?」


 串焼きを食べ終えゴミをゴミ箱へ入れながら、今度は後ろから着いてくる子供達に注意を向ける。星詠み亭を放り出されてからずっと着いて来ている。やれやれ、面倒なことにならなければ良いけど…

 そんな事を考えながら少し行った先の路地裏に走って駆け込むと後ろから


「あ‼走って行っちゃったよ‼」

「早く追いかけよう」

「走れ‼走れ‼」


 っとこんな会話が聞こえて来た。

 路地裏で待っていると私と同い年ぐらいの男の子3人と女の子2人の計5人の子供達が駆け込んで来る。


「こんにちは、私に何か用事?」


 走って来た子供達の方を振り返りフードで見えないがニッコリ笑って問いかける。


「ちょ…足…はえぇ…そうだよ…お前に…用事が…有るんだよ」


 先頭に立っている赤毛の男の子がゼイゼイと息を切らしながら話しかけて来る。

 はっはっはっはっは、さすがは子供体力が無いのぉ…まぁ、私が異常なんだけど…

 自分で思った事にガックリしながら男の子の次の言葉を待っていると男の子は息を整えて私を指差しながら言葉を続ける。


「一ヶ月ぐらい前からこの辺でフードを被った怪しい奴が歩いているって噂を聞いたから調査をしていたんだ‼その怪しい奴って言うのはお前だろ?」

「うん?まぁ、一ヶ月ぐらい前ならその怪しい人っていうのは多分私だね」


 男の子の言葉に答えながら内心納得してしまう。確かに自分の住んでいる所に顔を見せない怪しい奴がいたら確かめたくもなるよね…


「やっぱり、お前だったか‼その怪しいフードを脱いで素顔を見せろ‼ぐえっ‼」


 少し高圧的に私にフードを脱ぐように言った男の子を後ろに居た活発そうな女の子が蹴飛ばす。


「いってぇな‼リーン何しやがる‼」


 蹴飛ばされた男の子が蹴飛ばした女の子に文句を言うとリーンと呼ばれた女の子は怒った様に男の子をしかりつける。


「何するんだじゃないわよ。このボケアンク、初対面の子にそんな高圧的に接してどうするの‼普通はもっと丁寧に接するものでしょ‼」


 アンクと呼ばれた男の子を一通り叱りつけた後女の子は私の方を向き謝罪と自己紹介を始めた。


「えっと、この馬鹿がいきなり失礼な言い方してごめんね。私はリーンって言うの。よろしくね」

「あ、うん。よろしく」


 彼女の自己紹介を皮切りに残りの子達も自己紹介を始める。


「俺はテッド、着け回すような事して悪かったな」


 5人の中で一番背の高い男の子が謝罪を含めて名乗ってくれる。。


「僕はファルクです。よろしくお願いします」


 それに続いて眼鏡を掛けた男の子が丁寧に名乗る。


「私はミアっていうの。よろしくお願いするの」


 人形を抱えた一番背の低いおとなしそうな女の子が挨拶してくれる。


「俺はアンクだ。言っとくけど俺はまだお前の事を怪しい奴って見てるからな」


 最後に赤毛の男の子が少しむくれたように自己紹介をしてくれた。

 各々が特徴的に自己紹介を終えたあたりで最初に路地に入って来た時と同じ質問を繰り返す。


「え~と、それで結局貴方達は何の用事で私を着けて来たの?」

「さっきテッドも言っていたけどその件に関してはごめんなさい。私達は貴女と話してみたくて追いかけていたの」


 私の質問にリーンが些か気まずそうに答える。


「私と話を?何で?」

「私達と同じぐらいの年の子で旅をしてきてそれでいて冒険者が沢山居るところで働いているから興味が有って、良かったら名前とか教えて貰えないかな?」


 なるほど、このぐらいの子達だったら確かに興味のある話題だよね。

 まぁ、この子達が名乗ってくれて私が名乗らないのもおかしな話な気がしなくも無い…

 問題はフードを取るかだなぁ…取ったほうが良いだろうなぁ…


「そうだね。皆の名前も教えて貰ったし、私が名前も顔も隠しているのはいけないね。私の名前はコユキ、この国よりちょっと遠い所からある目的が有って旅をしてるの。最初に忠告しておくけど今からフードを外すけど私の髪や目を見て不気味に思ったりするかもしれない事を覚悟して置いてね」


 前もって忠告をしておいてから私は被っていたフードを一気に脱ぐ。

 肩口まで切った銀色の髪がフードを脱いだ時の反動でサラサラと揺れる。その様子を見てリーン達が息を呑む。やっぱり、不気味だったかな…?不味った…

 そんな事を思っているとミアが口を開く。


「綺麗な髪の色と目の色なの。全然不気味じゃないの」

「本当だぁ、髪も目も綺麗な色」

「なんだ、もっと化け物みたいな顔を想像してたぜ」

「やっぱ怪しいって言うのはアンクの早とちりだったか」

「というかアンク、女の子に化け物みたいな顔って失礼ですよ」


 ミアの言葉を皮切りに皆がそれぞれ私に対する感想などを言って来る。

 あれ~?やっぱり皆こんな感じの反応なの?

 その後は、言えない部分を抜いて私の事を話し(流石に魔王関連の事は言えないので私の目や髪は呪いを受けそれらを治す為に旅をしていることにした)彼らとはすっかり打ち解ける事が出来た。


「そういえばコユキはこの後予定ある?良かったら私達と一緒にお祭りを回らない?」


 皆で話しているとリーンがそんな提案をしてきた。

 このお祭りに詳しい地元の子達と一緒に居ればもっと楽しめるかな?お言葉に甘えよう。


「良いの?じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「うん‼じゃあ、行こう‼」


 私は再びフードを被りリーン達と一緒にお祭りを楽しむことにした。


 さて、夜になりいよいよお祭りも本番になってきた。

 そしてこのお祭りのメインである歌姫よる歌が歌われようとした時にそれは起こった。


「魔物だー‼魔物の大群が押し寄せて来るぞ‼早く避難しろ‼」


 街全体に警鐘が鳴り響き衛兵たちが大きな声で皆に避難を促す声が聞こえてくる。

 さっきまでお祭りを楽しんでいた場は一気に混乱に包まれた。


「皆落ち着いて‼パニックになるのは簡単よ‼でも、子供も居るんだからまず落ち着いて避難して‼冒険者の皆はすぐに衛兵さん達の応援に行って‼これは緊急クエストよ‼報酬はたんまり出すわ‼」

「オッシャ――――――――‼‼‼‼‼‼‼全員急いで武器を持って来い‼狩りの時間だぁ‼」


 本来、歌を歌うためのマイク型の魔道具に向かってニアさんは大きな声でパニック状態になっている皆に指示を出す。

 いつも星詠み亭に来ているおじさん達が報酬の話を聞き急いで宿に戻る。

 皆が避難を始めている中を逆走し、ニアさんに近づいていく。


「ニアさん‼」

「コユキ。良かった。貴女は一人で避難場所に行けるわね?良い?間違っても魔物の群れと戦おうと思うんじゃないわよ」


 そう言いながらニアさんはドレスの裾を翻して冒険者達の方に走って行った。

 その姿を見送り、私は、後ろから着いて来たリーン達と一緒に避難を始めた。


 避難場所に向かって少しすると門の方から歓声が聞こえてくる。大物でも狩ったのだろうか?


「戦いが終わったのかな?」


 走りながらリーンがそんな疑問を口にする。


「いえ、戦闘からあまり時間が経っていません。多分、厄介そうな大物でも狩ったんじゃないですかね?」


 リーンの疑問にファルクが答えた時に私の気配察知にふと何かが引っ掛かった。

 足下に何かが居る…?

 そう思った瞬間不意に足下が揺れる。

 周りの皆も立っていられなくなりその場にしゃがみ込む。


「なんだ⁉なんだ⁉」

「地面が揺れているの…?」


 後ろを走っていたミアとテッドが驚きの声を上げるのと同時に二人の後ろから巨大な蛇が石畳を突き破り姿を現した。


「《オクタ・エアリアルシールド》」


 蛇を見た瞬間、テッドとミアの間に最近調整したばかりの呪符を投げ蛇と二人の間に防御壁を展開させる。

 調整したとはいえ結局魔力の無駄を無くしただけではまだまだ威力的に不十分だったのだ。今もオクタで魔法を発動させたが威力的にはヘプタぐらいの強さだ

 そんなことを考えている瞬間に蛇の尻尾が二人に振り下ろされ、バシンっという音と共に弾かれた。


「逃げろーーーー‼」


 私の言葉にテッドとミアが走り出すがミアが出遅れる。


「《オクタ・ライトニングオーラ》、リーン、アンク、ファルク受け止めて‼受け止めたらそのまま走って逃げて‼」


 急いで自分に強化魔法を掛け、三人に指示を出し、走り出す。

 テッドの脇を抜け、ミアの元まで一気に駆け抜け、ミアの手を取りリーン達の方に放り投げる。


「きゃあああああああああ‼‼‼‼‼」


 いきなり放り投げられ、ミアが悲鳴を上げながら三人に受け止められる。

 多少乱暴だったが緊急事態なので勘弁して貰おう。

 ミアを投げたすぐ後に私の立つその場所を蛇が尻尾で薙ぎ払う。

 放り投げた体制のまま回避できずにもろに薙ぎ払いを喰らい吹き飛ばされる。


「グッ…」


 壁に思いっ切り叩き付けられ、息が詰まる。

 毎回毎回思うけど強化魔法が無かったら一体何回死んでいるのだろうか?

 それにしても、魔王化の影響か衝撃はすごかったけど大したダメージは入っていない。

 はぁ…本当にただの人間じゃ無くなっちゃたんだなぁ…


「コユキ‼」

「大丈夫だから早く逃げて‼」


 私に近づいて来ようとするリーンの前に呪符を投げ魔法を発動させる。


「《ヘキサ・アクアウォール》」


 私とリーン達の間に呪符で水の壁を作りこちらに来られないようにする。

 流石にこの子達を守りながら戦うのは不可能だ。


「ここは大丈夫だから早く逃げて‼」

「でも!」

「リーン行くぞ‼」

「早く誰か呼んできた方が得策だ。行こう」

「おい!コユキ‼死ぬなよ‼」


 《アクアウォール》に阻まれて尚その場から動こうとしないリーンをアンクとテッドが手を引いて連れて行く。以外にもアンクが協力的だ。

 5人の姿が見えなくなり、私はフードを脱ぎ、片眼鏡(モノクル)を外してアイテムボックスにしまう。

 そのついでに剣を引っ張り出し、蛇と真っ正面から向き合う。

 改めてみると蛇は所々に斧などでつけられた傷や他の魔物と戦ったのか爪による傷跡まで見られる。

 蛇の攻撃を避けながら敵の強さを見るためにステータスを確認する。


                 ☆


 HP 332558/354225

 名称:スライ・サーペント


 ATK:A6

 DEF:A5

 MDF:A9

 SPD:S1


 特性:毒の牙、毒液、毒鱗、死んだふり、脱皮、魔法耐性、鋼の鱗、熱源感知

 ランク:ユニーク

 特記事項:特殊個体、禍の先駆け


                 ☆


 ステータスを見てここに来るまでに戦った魔物のステータスには無かった項目が有ることに気づく。特記事項?それについてはこいつを倒した後にゆっくり考えるとしよう。取りあえずステータス的には油断をしなければ倒せるか?

 スライ・サーペントの攻撃を避け着地した地点から剣を構えスライ・サーペントに切りかかる。

 蛇のガラ空きの腹に剣を振り下ろすとパキンという音と共に私の手に握られている剣の刀身が宙を舞う。

 剣を振り抜いた姿勢のまま私は再び尻尾に吹き飛ばされ再び壁に体を打ち付ける。


「クソ‼鋼の鱗っていうやつか…」


 毒付きながら立ち上がると不意に視界が揺れる。

 腕を見ると蛇の鱗で傷がついたのか細かい傷が無数についている。そういえばコイツ毒持っていたっけ?でもって私は魔王のくせに毒に対する耐性は持ってなかったなぁ…

 要するにこいつの毒が回って来たって事か…

 さて…剣も効かないしどうやって殺すか…


「おや~?我が魔王~こんな所で何をされているのですか~?」


 この蛇をどうやって殺すかを考えている最中に聞き覚えのある声が間の抜けた質問をしてくる。

 周囲を見渡すといつの間にか居なくなっていたクロノスがぬいぐるみ姿のままジョッキを持って私の足元に居た。


「クロノス⁉急に居なくなったと思ったら貴方今まで何してたの⁉」


 まぁ、居なくなったなら居なくなったままで良かったんですけどねぇ~、私も好き好んで魔王なんかになりたくないし…


「この街の住人と一緒に飲んでおりました。気持ちよく飲んでいた所警鐘が鳴り響いたので急いで戻ってまいりました~」


 ヒックっとしゃっくりを上げ答える悪魔を見て殺意が湧く…コイツ…殺したい…

 というか、この状態のクロノスを普通に受け入れるなんてやっぱり可笑しいのはこの町の住民じゃないかな?やっぱりフードの有無はもうちょっと考えよう…

 なんて呑気な事を戦闘中に考えていると蛇が毒液を飛ばし攻撃してくる。

 クロノスを引っ掴み毒液を躱してからクロノスに問い詰める。


「クロノス、アイツの鱗が切れるぐらいの武器が欲しいのだけど何かない?」

「武器ですか?お言葉ですが我が魔王、あの程度の相手なら我が魔王の魔法で十分に殺せると思うですが、なぜ、さっきから威力的にまだ未完成のその呪符に頼っておられるのですか?」


 私の問いにクロノスはさも不思議そうに問いを返して来る。

 ええい‼今はそれどころじゃないんだよ‼察しろよ‼


「直で魔法を使わないのは私が使える魔法の属性を隠したいからと攻撃系の魔法は町に被害が出る。だからなるべく剣で倒したいの、分かった?分かったら早く私の質問に答えて‼」


 再度飛ばしてきた毒液を再び避けクロノスに早口で捲し立てる。実際問題、コイツの毒を喰らっていて結構いっぱい、いっぱいなのだ。


「ありますよ、とっておきの一本が」


 毒液を避け着地をした時にクロノスがさらりとそんな事を言った。


「じゃあ、その剣貸して‼」


 剣を貸すようにクロノスに言うとあっさりと了承の声が返ってくる。


「了解いたしました。我が魔王、まぁ、貸すも何も元々先代様の剣を私が預かっていただけなので後継者である貴女様の物なんですがね」


 そう言うとクロノスは以前の財布の様に口に手を突っ込むと鞘に入った一本の長剣を取り出した。

 取り出し方のシュールさに関しては緊急事態なので今はスルーする。


「先代黄昏の魔王様の愛剣の一本、名を《カグツチ》と言います」


 クロノスから長剣を受け取り、鞘から抜くと鮮やかな朱色の刀身が目に入る。光り輝いている様にも見えるその剣の美しさに思わず息を呑んでしまう。

 しかし、今の私には少し重い。


「先代様によれば金より軽く、その硬さはダイヤモンドより上との事です」


 剣についての説明を聞いている最中、スライ・サーペントは再び尻尾による薙ぎ払いをしてくる。

 剣を構え迫りくる尻尾に向かい振り下ろす。

 相当な衝撃を覚悟しながら振るった剣は先程の店売りの剣と違い今度はバターでも切る様にするりと蛇の尻尾を切って見せる。


「キシャャャャ‼」


 っと蛇が怒りか驚きか分からない唸りを上げ今度は直接私を喰い殺すつもりなのかそのアギトで襲い掛かって来る。

 蛇の怒ったようなその態度につい私もここまでの怒りや理不尽さをぶつけてしまう。


「直接私を殺そうっていうの?上等だよ‼お前ら毎回毎回人が楽しい時や幸せな時に出てきやがって‼いい加減空気読みなさいよ‼あんたに怒られる筋合いはこっちには無いんだよ‼とっとと死ね‼」


 毒と怒りでぼやける頭で口汚く叫びながら私は呪符を一枚出し、蛇の口に向かって投げ入れる。


「《オクタ・ブラストバーン》」


 蛇の口に入った呪符が爆発し、頭がその衝撃で仰け反る。

 その瞬間に一気に距離を詰め、カグツチを振るいその首を切り落とす。

 切り落とされた首から大量の血を噴き出が雨の様に降り注ぎ、スライ・サーペントはそのまま絶命する。

 蛇の血を頭から被りながら毒の所為でぼんやりする頭で結局また命を捨てるような戦い方をしちゃったなぁっと呑気に考えていると足音が近づいてくるのが聞こえる。

 町中での騒ぎに気付いた誰かが駆け付けてくれたのだろ。

 あぁ、こんな姿を見られたのならきっと私はもうここにはいられなくなるなぁ、毒の治療をして貰ったら早急にこの町から出よう…クロノスの魔力もそろそろ回復するころだろうしなぁ…

 そんな思考を最後に私はとうとう意識を手放すのだった。


主人公、戦闘後に毎回気を失っています。

魔王になってもまだ彼女の体が子供という事でご勘弁ください。

次回はまた場面が変わります。

もうちょっとで魔族領まで行き第一話のプロローグに戻ることが出来そうです。

まだまだ長い道のりかもしれませんがお付き合い頂けたら幸いです。

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