師匠からの餞別
こんばんは、予定していたより遅くなってしまいましたが第35話投稿させていただきます。
また、すみません‼前回少し戦闘させる予定と言いましたが今回戦闘は無しです。
楽しんでいただけたら幸いです。
私が星詠み亭で働き始めて早2週間が過ぎた。あの後、ニアさんの言った通りニアさんのお父さんであるアドベルさんとこの店で働く若いお兄さんのゲインさんもあっさりと私の髪や目を見ても受け入れてくれた。ここの人達って良い人ばかりだなぁ…
そして、そんな私の現在の恰好はギルドの制服に黒いポンチョのフードを被った珍妙な格好で働いている。
理由は簡単だいくら店の人達が受け入れてくれてもお客さんが簡単に受け入れてくれるとは考えられない。ちなみに着ていたコートは大きすぎな上に動きが阻害されて働くのには適さないと思ったのでポンチョにした。
お客さんの不快感を買いクビになったら泣くに泣けないのだ。
この格好も十分に可笑しいのだが今は普通に受け入れて貰えている。冒険者の順応能力、恐るべし…
「お~い、コユキちゃん、こっちにエール酒三つこぼさない程度に急いでもってきてくれぇい‼」
「は~い、すぐに持っていきま~す」
ジョッキにエール酒を注ぎ両手に三つのジョッキを持ってさっき注文をしてきたテーブルに向かって歩いていく途中のテーブルに座っている人が私の被っているフードに手を伸ばしてくる。それをかわして歩を進めると今度は別のテーブルからも手が伸びて来る。
それもかわすと今度は四方八方から私のフード目掛けて手を伸してくる。顔見知りでなかったら軽くホラーだ。
それらすべての手を避け注文を言ったテーブルまでお酒を運ぶ。
これがさっき私にお酒を注文したおじさん達がこぼさない用にと言っていた理由だ。
「おぉ~、相変わらず見事な避けっぷりだなぁ‼」
注文をしたテーブルに無事たどり着き、お酒を置くとすっかり顔馴染みになった冒険者のおじさん達が楽しそうに声を掛けて来る。
「笑い事じゃあありませんよ。アデルさん、フィードさん、カルデさん。こっちは毎回毎回前を通るたびに回避しながら注文された物を持って来ないといけないんですからこぼさない様に持って来るの大変なんですよ。まぁ、回避の練習にはなるんですけどね」
「そう言えば、最初の頃は回避に専念しすぎて料理も酒も酷い状態だったなぁ~」
フィードさんが笑いながらちょっと前の失敗を笑っている。
いやいや、普通はいきなり手を伸ばされたら飛退くでしょ?
「笑ってないでニアさんにあの依頼取り下げる様に言ってくださいよ」
笑っている三人に依頼の掲示板を指差しながら文句を言う。
そこにはこんな依頼が貼られている
☆
〘星詠み亭限定クエスト〙
コユキのフードを脱がせ‼
依頼主:ニア
成功報酬:エール酒三杯・料理一品無料
依頼失敗料:銅貨5枚
☆
まぁ、私の恰好が原因なんだけどねぇ…
ちなみに、依頼の失敗料は少し私の懐にも入ってくるので文句は言えないが。でも、冒険者に依頼するのはやり過ぎじゃないですかね?
「はっはっはっはっは、嬢ちゃんそりゃあ無理ってもんだぜぇ」
「…まぁ、それは分かっていますけど…」
「まずは、コユキがそのフードを取らないとニアもあの依頼を引っ込めないだろ?というか、星詠み亭に来た時もそうだったが、何でそんなフードを被っているんだ?」
「あ~、それ聞いちゃいます?」
「まぁ、気になるからね~」
「大した事じゃ無いんでしょうけど、この国に来る前に行った国で私の髪や目を見て散々不気味がられたんですよ。見る人見る人に人間じゃないみたいな反応されると流石に髪も目も隠したくなりますよ。ここの人達があの人達と同じだと思ってないですけど一応念の為って奴です」
「成程なぁ、まぁ、トラウマっていうならあまり無理強いは出来んわなぁ…参考までに聞きたいのだが一体どこの国でそんな目に合ったんだ?」
「えっと…確かクラシア王国ですね」
私が国の名前を言うと三人を含めた周りの冒険者達はあぁ~っと声をそろえて納得した様子を見せる。中には頭を抱えている人までいる。
「よりにもよってクラシア王国かぁ…そりゃあ、嫌にもなるなぁ…」
「だなぁ…よりにもよって人間至上主義国家のくせに…同じ人間でも少し他と違うだけで差別の対象になる国だもんなぁ…」
「キツイところ抜けて来たんだなぁ…なんか泣けて来たぜ…」
あー、やっぱりあの国が可笑しいのかぁ…それにしてもここの冒険者の人達、人が好過ぎない?私がこうなった経緯を聞いて皆心配そうな顔をしてくれているよ。
「まぁ、経緯は分かった…まだ小さいのにコユキちゃんも辛い思いしてるんだなぁ…あの依頼に関しては俺達は何も出来ないけどせめて再来週から開かれる祭りを存分に楽しんで少しでも心の傷を癒してくれ」
アデルさんが私に気を使ってくれたのか話題を変えてくれる。
その後は再来週から行われる『星詠み祭り』について聞いたりしながら私は勤務時間を皆と過ごすのだった。
「はぁ~、疲れたぁ~。でもやっぱりお風呂を使わせてもらえるのは良いなぁ~」
勤務時間を終え、住み込ませて貰っているお店の二階の屋根裏部屋で髪を乾かしながらクロノスに話しかける。
私の星詠み亭での勤務時間は、朝から夕方までだ。まだ子供という事で夜の部は働かせて貰えなかったのだ。何気にそこの所の雇用形態がしっかりしている。
「お疲れ様です。お帰りなさいませ、我が魔王」
蝋燭の下で本を読みながらクロノスが返事をしてきた。
ちなみにニアさん達は最初、空き部屋を貸してくれようとしていたのだが、クロノスと会話をするのに屋根裏の方が都合が良さそうだったのでお願いして屋根裏をお借りした。もっと言ってしまえば屋根裏って秘密基地みたいでワクワクするしね。
「ただいまクロノス。何を読んでいるの?」
「効率的な魔力の回復方法がないか探しております。エーテル薬が有れば話は簡単なのですが今は有りませんし、何時までもここに居るわけにもいきませんから」
「成程ね。私も何か読もうかな…」
そう言いながら椅子に座り久しぶりに私も本でも読もうと思いアイテムボックスから本を出そうとしたときにふと学校から出る前に師匠から渡された物を思い出す。そういえばあれは何だったのだろう?
そんな事を思い出し、私はアイテムボックスから件のカードケースの様な物を取り出し中を確認する。
カードケースの中には以前見せて貰った未完成の呪符と『後は貴女が完成させなさい。どっちが先に完成できるか競争です。この呪符が貴女の役に立つことを願っています』と書かれた手紙が入っていた。
「これ、あの時の札だ…師匠、私が居なくなるの、分かっていたのかな…」
この世界での故郷を思いだし、懐かしさや寂しさで泣きたくなって来る。
皆、元気かなぁ…すごく迷惑かけちゃったよなぁ…
あぁ…非常に勝手だけどなんか、無性に皆に会いたくなってきた…
そんな事を思いながらカードケースから呪符を一枚出し、片眼鏡を外して組み込まれている術式を見て思わず声に出して驚いてしまう。
「うわぁ、この一枚に一体どれだけの術式組み込んだんだろ…」
一枚の呪符に複雑に組み込まれている術式を一つ一つ読み解いてなぜ普通に魔法を発動させた時と違い威力が下がるのかその原因を探していく。
組み込まれている術式を見た結果どうやら魔石を使って魔力を変換する時に無駄が生じているみたいだった。
「ならここに無駄にならないように術式を追加すれば実質この札は完成するかな?」
カードケースと一緒に貰っていた小瓶をアイテムボックスから取り出し、筆にインクを付け呪符に一枚一枚に追加の術式を書き込んでいく。
夢中になって作業を続け全ての呪符に追加の術式を組み込み終えた時にはお店も閉まる
深夜過ぎになっていた…
…眠い
次回こそ戦闘させて頂きます。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




