星詠み亭
こんばんは、第34話投稿させていただきます。
楽しんでいただけたら幸いです。
「えっと…ここが星詠み亭かな?」
道行く人に聞いたギルド兼酒場のドアを開ける。
ガラン、ガランっと重い鐘の音を鳴らしながらドアを開けて中に入ると昼頃という事もあり店内にはかなりの人が居り楽しそうに談笑している。それに交じってドアの鐘の音に気づいた何人かが私の方を見て興味深そうな視線を向けて来る
その中をスタスタと歩きカウンターによじ登り、忙しそうにしているお姉さんに声を掛ける。
「あの…すみません」
「あ、はいは~い。ちょっと待っていてねー」
あっちこっちに走り回り、私以外の冒険者の書類を処理しながら私に返事をしてくれる。
「お待たせ、用件は何ですか?…あ、ごめんなさい。新規の方でしたね。ご用件を伺います」
一通りの書類の整理を終え、私の居るカウンターに来たお姉さんは、私の顔を見て砕けた感じの喋り方を改めて丁寧な言葉で対応してくれる。
てか、思いっ切り顔を隠しているのに全然不審そうにしないなんてある意味凄いな…
「あの、冒険者の登録をしたいのですけど」
「え?冒険者の登録ですか?」
私の言葉にお姉さんは驚いた様な顔をしてから言葉を続ける。
「失礼ですけど。ご年齢は幾つですか?」
「?今年で8歳になります」
聞かれた年齢に答えると今度は私とお姉さんの会話を聞いていた冒険者達がざわめきだした。
不思議に思っているとお姉さんは私にとって絶望的な言葉を紡ぎだす。
「えっと…大変申し上げ難いのですが冒険者の登録は満10歳からになっています。それ以外だと特殊条件の登録のみになります」
受付のお姉さんは少し気まずそうにギルドの規定を教えてくれた。
……なんてこった……私が適性年齢になっていないとは…ここは特殊条件による登録について聞いてみるしかないか…
「あの…特殊条件ってどんなのですか?」
「特殊条件はある一定のランクの魔物を狩ってギルドに報告された時のみ適性年齢でなくても冒険者の登録が出来るというシステムです。…えっと、申し訳ないのですけど少し長くなりますので口調を砕けたものにしても良いですか?」
「あ、すみません。大丈夫です。よろしくお願します。」
「それでは失礼して」
そう言うとお姉さんはコホンと一つ咳払いをすると業務用の口調から砕けた感じの口調へと言葉使いを変え、机の下からギルドの規定書を取り出し読み上げてくれる。
「ギルドの規定によると最低でもユニーククラスの魔物を倒した証拠をギルドに提出した人間のみ適性年齢に満たない人間でも冒険者の登録が出来るって書いてあるわね。ただし、支部で登録した場合は仮の物で正式に冒険者の登録をするためには各国首都に有る大きなギルドかギルド本部で試験を受ける必要が有るって書いてあるわ。つまり、仮に貴方が条件を満たしていたとしても此処では仮登録までしか出来なくて本登録をするためには首都であるフェルシアに有る大きなギルドに行く必要が有るみたいね」
うわぁ…魔物を討伐させた上に更に試験まであるとか、絶対に特殊枠使わせるつもりがない…
まぁ、下手に子供が冒険者になれないようにする為の規定だから仕方無いのだろうけどそれにしてもユニーククラスの魔物とは…えげつない
この世界の魔物の強さは弱い順で《ノーマル》《アブノーマル》《ユニーク》《バリエーション》《レジェンド》《ミソロジー》の6種類が有る。
《ノーマル》…村人や普通の冒険者でも倒せるレベル
《アブノーマル》…冒険者が複数で勝てるレベル
《ユニーク》…中堅冒険者が相手をして倒せるレベル
《バリエーション》…上級冒険者が複数人でパーティーを組み倒せるレベル
《レジェンド》…遭遇したら街が一つ軽く消し飛ぶレベル
《ミソロジー》…神話で語られている化け物。世界が終わるレベルだ。
ちなみに武器にも似たようなランクが5種類有る。
《ノーマル》…店等で売られているごく一般的な武器
《レア》…迷宮潜って入手したり、ランクの高い魔物等の素材から出来る。スキル持ちの武器
《ユニーク》…迷宮最深部に潜ったり、最高品質の素材を使う事によって稀に出来る。複数のスキルや特殊な性質を持つ
《レジェンド》…勇者や魔王の使っている武器。強力なスキルや性質を複数持つ
《ディバイン》…神話で語られている存在するかも分からない武器。詳細は不明。
っとこんな感じになっている。
まぁ、同じランクの物でもピンからキリが有り、一概にどれも強敵とか強力な武器というわけではないらしいが…
話を戻すとつまり、適性年齢外で冒険者になりたければ少なくとも中堅者ぐらいの力を示せという事だ。
ちなみに私が二年前に戦ったイビルベアは後に師匠からの聞いたのだが《アブノーマル》クラスらしい。
今の私なら《ユニーク》ぐらいなら倒せるとは思うけど、装備が貧弱な状態なので倒そうとするにはリスクが大きい。
この世界一応ステータスが有るけどそれが全てではないみたいだし危険は避けるべきだろう。
「えっと…大丈夫?」
そんな事を考えていると黙ってしまった私を心配してお姉さんが声を掛けてくれる。
「あ、すみません。大丈夫です。分かりました。お時間取らせてすみませんでした。ありがとうございました」
さて…どうしようかな…
カウンターから降り頭を下げ店の出口に向かおうとするとお姉さんはさらに声を掛けてきた。
「ねぇ、ひょっとして働き口を探しているの?」
「え?あ、はい…」
お姉さんの方に向き直り返事をするとお姉さんは少し考えこんだ様子を見せてから厨房の方に居るらしい人達に声を掛け何やら許可を取っている。
「父さん、ゲイン、ちょっと面接したいからこっち任せても良い?」
少しして今度はカウンターから出てきて私に近づいてくる。
「ちょと、こっちに来て」
「へ?」
お姉さんはニコッと笑いながら私の手を取り二階に上り部屋に入る。
訳も分からぬまま私とお姉さんは向かい合わせで椅子に座る。
「いきなり連れてきちゃってごめんね。話をするのに下じゃ、うるさいと思って来てもらったの」
「いえ…それで私は何で此処に連れてこられたんでしょうか?」
「あ、そうそう。貴方仕事を探しているんでしょ?良かったら家で働いてみない」
「え?何で働かないかなんて言ってくれるんですか?自分で言うのもなんですけど私凄く怪しいですよね?」
思いがけないお姉さんの言葉に思わず。理由を聞いてしまう。だって、今の私は100%怪しいもん。
「う~ん。確かに怪しいわねぇ。でも、冒険者の登録をしたいって言い方は丁寧だったし、私がギルドの規定を教えた時も暴れたりしなかったから悪い子じゃないと思ったの。その年で冒険者になろうって考えたならお金に困ってるのかなって、一応、関りを持った子だし変な所で仕事をして命を落とされたら目覚めも悪いって思ったの」
私の疑問にスラスラと答えてくれる。
「業務内容は主に店のお客である冒険者に料理を運んだり、新規のお客の案内なんかね。で?どうする?今なら給料プラスして住み込みに三食おやつ付き、お風呂も付いてくるわよ」
仕事の内容や雇用形態の説明をしながらお姉さんは楽しそうに話している。
うん、物凄くいい条件だと思う。ここはお言葉に甘えてお世話になろう。何より雇ってくれると言っているのにこちらが拒否する理由がない。
「あの‼ご迷惑かもしれませんがお言葉に甘えさせて頂いてもよろしいですか?」
「プッ、家で働かないかって聞いたのは私の方よ。迷惑だと思う相手に声なんて掛けないわ」
そう言いながら席から立ち上がりお姉さんは右手を差し自己紹介をしてくる。
「じゃあ、決まりね。私の名前はニア、この酒場兼ギルドの店主の娘でウェイター兼受付嬢をやっているわ。家の店お客の割に従業員が少ないから困ってたの」
そう言いながら楽しそうに笑っているお姉さん改めニアさんの手を握りながら私も自己紹介をする。
「お世話になります。私の名前はコ…」
…しまった‼これから魔王になろうとしている人間が簡単に本名晒す馬鹿が何処に居るの?そんなの普通に殺してくださいって言ってるようなものじゃん。
ヤバイなんか適当な名前考えないと…
自分の犯した重大なミスに気づき固まっているとニアさんが不思議そうにこちらを見ている。
「すみません。私の名前はコユキです。よろしくお願いします」
「うん、コユキよろしくね」
良かった…とりあえず適当に名乗った名前に疑問を持たれなかったようだ…
「さて、話はまとまった事だし、コユキ、そのフードを取って顔を見せてくれる?一応、顔を知らない子を働かせるわけにはいかないからね」
あ~、うん、やっぱりそうなりますよねぇ~、顔も分からない子をお客さんの前に出すわけにいかないもんねぇ…
ニアさん達なら大丈夫だと思いたいけど、髪色なんかで駄目だったら泣くに泣けないなぁ…
盗み見る形になるから嫌なんだけど一応片眼鏡も外してこの人がどう思ったかを見てみてそれに応じて考えた方が良いかもしれない…
「あの…私の髪や目の色って他の人と違って変なんでひょっとすると気分を害してしまうかもしれないです。もし、気味が悪かったらごめんなさい」
そう言いながら片眼鏡を外し、コートのフードを脱ぐと肩口まで切りそろえた銀色の髪がキラキラと揺れる。その姿を見てニアさんは特に気持ち悪がる様子も無く喋る。
「なんだぁ、気分を害するっていうからどんな見た目をしているのかと思ったら普通に可愛いじゃない。と言うか、コユキって名前から予想はしてたけどやっぱり女の子だったかぁ~。これは家のお客たちが盛り上がりそうね」
(気味が悪いっていうよりこの子むしろ美人の分類に入るんじゃないかしら?)
あれ…??なんか思っていた反応と違う…?
でも、この目で見えている心の声にも他の人達みたいに不気味に見られている様子も無い。
「でも、私の髪の色も目の色も他の人と全然違いますし、皆この髪や目を見たらとても不気味そうにしていましたよ」
「それは単純にその髪や目を見た人達がそう言う人達だっただけじゃないの?私は、奇麗でいいと思うわよ。多分、父さんやゲインも私と同じ事を思うんじゃないかしら?」
(髪の色や目の色なんて個性よ個性、ギルドの受付をやっていていろんな人を見て来たけどどんな状態でも自分を持って動けるなら見た目がちょっと違うぐらい個性よ個性)
はぁ…すごい考え方だ…とりあえずそんな風に考えてくれる人に雇って貰えて良かった。
そう思いながら右手に持った片眼鏡を掛けなおす。
「あれ?普段は片眼鏡を掛けているの?」
「あ、はい、右目の視力が少し弱いのでその補助として付けているんです」
「成程ね。それで?貴女の懸念はそれだけ?」
「あ、あともう一つ私の採用をニアさんが勝手に決めてしまって大丈夫なんですか?」
「あぁ~、それは大丈夫。従業員の採用は私に一任されているからね。」
「そうなんですか…納得しました」
「じゃあ、改めてよろしく‼期待しているわよぉ」
「はい‼よろしくお願いします」
こうして当初の目的とは違った物の私は無事に働き口を得ることが出来たのだった。
コハクが冒険者登録に必要な年齢を知らなかったのは最初の時に自分には必要の無い知識と思っていたからです。
今回はちょっと魔物の強さや武器のランクについて説明させて頂きました。
次回はまた少し戦闘させる予定です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




