人生そんなに甘くない
こんばんは、第33話投稿させていただきます。
楽しんでいただけたら幸いです。
今回から冒険者編に入ります。
さて、私が学校を去り早3週間が経った。
現在地は私が生まれた国イリアから国境を三個越えた所に有る国フルニカ王国の国境沿いにある街カルルカだ。
現在の恰好は黒のぶかぶかのフード付きロングコートに旅用の鞄(アイテムボックスが有るので見せかけだけの適当な物)、犬?のぬいぐるみ、あと護身用の短剣だ。
ちなみにこのコートのフード部分には闇魔法が掛けてあるのでフードを脱がないと顔が見えないようにしてある。
「さて、まずは何か仕事を探さないと…」
ズルズルとロングコートを引きずりながら街の中を歩く。
なぜ、仕事を探しているのかというと答えは簡単である。資金が尽きたのだ。なぜ資金が尽きたのかというと話は3週間前に遡る。
クロノスの背におぶさり学校を出て、約2時間が立ち一つ目の国境を越えたあたりで異変が起きた。これまで止まっていた世界が急に動き出し、クロノスの背でウトウトしていた私は顔面から地面に叩きつけられる。
「にょぺぴ」
ウトウトしていたせいで受け身を取れず思いっ切り打ち付けた顔面を抑えながら何が有ったのか確認するとクロノスの姿が見えない。
「クロノス?どこ?」
流石の私もこの暗い中何も知らない所に一人放り出されれば心細くもなる。
立ち上がり、さっきまで一緒に居たクロノスを探し、周りをキョロキョロと見回していると足下から声が聞こえてくる
「我が魔王、貴女の忠実な僕はここにおります」
声のした足下を見るとそこには犬?の形をした手のひらサイズの人形がぴょんぴょんと飛び跳ねて自分をアピールしている。
…くそ、不覚にも少し可愛いと思ってしまった。
「え…?貴方、クロノスなの?」
「さようでございます。我が魔王」
「なんでそんな姿に⁉」
「大変申し訳ないのですが、今、私の魔力がの残りが少なくなったのでスキルと姿が保てなくなってしまったのです。私のこのプリチーな姿は先代様より頂いた依り代にございます」
なんてこった…色々と頼みの綱だった悪魔がこんな事になってしまうなんて…
「事情は分かったけど、貴方は何時頃魔力が回復するの?」
「それが大変申し訳ないのですが私は燃費が悪い上に回復も遅いので魔力の回復まで約2ヵ月半ほど掛かると思われます」
はぁ…目的地の魔族領まで簡単に行けると思ったけど人生そんなに甘くないか…というか私の人生で甘かったことなんて無いか…
「はぁ~、とりあえず町まで行こう。」
そう言いながら私はクロノスを拾い上げイリアの次の国であるクラシア王国の最初の町に向かって暗い夜道を歩きだしたのだった。
その後、更に国境を2個越えたり、道行く人が私の事を髪や目を見て不気味そうにするのでそれらを隠す為にコートを買ったり、前の戦いで駄目になってしまった剣の代わりを買ったりしている内に持っていた資金はほとんど無くなってしまったというのが今の私達の状態だ…本当に人生甘くない…
「悪いが家では従業員は募集していない。他を当たってくれ。」
「…そうですか…お時間取らせてすみませんでした…」
ペコリと頭を下げるのと同時にお店のドアがバタンと閉められてしまう。
これで断られたのは10軒目か…そりゃあ私だって顔の見えない怪しい黒コートの子供が働かせてくれと言っても断るだろうけど…私の場合フードを外しても銀髪紫眼という怪しい風貌なのでどの道アウトだ…
ヤバイ…これ完全に詰んでない?
「…どうしよう…いよいよ不味い状況だ…」
ポツリと呟いた私に腰からぶら下げているクロノスが語り掛けて来る。
「我が魔王、金銭でお困りなら一気に解決する算段がございます」
「ちょ…クロノスちょっと待って‼」
クロノス声に小声で答え、慌てて路地裏に入る。
「此処なら大丈夫かな?それで金銭問題を解決出来る算段って何?」
周りに人の居ない事を確認し、クロノスの提案を聞く。
「こちらの金銭を使えば問題は一気に解決にございます。ヴォエ」
そう言って自分の口に手を入れ中からそれなりの金額の入っていそうな血に濡れた財布を取り出す。
「ちょっっっっ‼‼‼‼おまっっっっ‼‼‼色々アウトォォォォォォォォォォォォォ‼‼‼‼」
思わず路地裏で叫んでしまう。叫ばずにはいられないでしょ?
確かに金銭的な問題は解決するだろうけど人間として終わるわ‼
「何か不都合でもございますか?」
「不都合しかないわ‼こんな血みどろの財布なんて持っていたら私が終わるわ‼大体この財布どうしたの⁉」
「我が魔王をお迎えする前に絡んで来た冒険者達を返り討ちにした戦利品にございます。あ、殺してはいないのでご安心ください」
良かった…とりあえず最悪の結末は回避できたか…ただではすんでないだろうけど…
心の中で哀れな冒険者達に合掌しながら二つ目に質問に入る。
「分かった。とりあえずその財布についてはもう何も言わない。じゃあ、二つ目の質問、今どこから出した?」
「口から出したように見えたと思いますが私のアイテムポーチからでございます」
思いっ切りヴォエって言っていたけど…ん?待てよ。彼がアイテムポーチを持っているという事はひょっとすると先代魔王の遺体は彼が回収したんじゃないか?
「オーケー、それも分かった、もう突っ込まない。じゃあ、最後の質問、先代魔王の遺体を回収したのは貴方?」
「さようでございます。先代様の御遺体を愚かな者どもに触らせるようなことはしたくありませんでしたので、また、先代様より自分の遺体を材料として我が魔王の装備を作るように言伝を預かっております。先代様が仰るには防御力は保障するとの事です」
はぁ~、なんか色々腑に落ちた…装備に関しては些か気が引けるが先代のお言葉に甘えさせてもらおう…
というか、なんかもう疲れた…
「分かった。色々とありがとう。そのお金は本当に万が一の時に使わせてもらおう」
何にも気にしないで使ったらそれこそ人間として終わりだ…
そう言えばさっきのクロノスとの会話で冒険者って言葉が出て来たけどうまく行けばこの状況を打開できるかもしれない‼
「とりあえず、クロノス行くところが出来たからそこに行こう。うまく行けば問題が解決するかもしれない。」
「何処に行くのですか?」
「冒険者ギルド、そこで冒険者登録できれば仕事も受けることが出来るし国境を越える通行費も免除されるかもしれない」
「成程、善は急げ、でございますね」
そんな話をしながら私とクロノスはこの町で冒険者ギルドも兼ねている宿屋の場所を聞き、私達は目的のギルドに向かって歩き出すことにした。
次回冒険者ギルドに行きます。




