魔王の帰還・3
おはようございます。
第320話投稿させて頂きます。
今回はコハク視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「魔王様・・・お帰りをお待ちしておりました・・・ご無事で何よりです」
私が気まずくなりながらただいまと言うと出迎えてくれた皆を代表してメルビスが頭を下げて口を開く。
他の皆も言いたい事は有るのだろうがメルビスと同じように頭を下げて迎え入れてくれる。
「メルビス。皆。苦労を掛けたね・・・ありがとう」
「いえ、もったいないお言葉です。勇者の皆さんもご無事で何よりです。コハク様。そちらの方は?それにカンナギ殿とサカヅキ殿はどこに?」
顔を上げたメルビスが私の後でネージュから降りてきた和登君達と初顔合わせになるクロに声を掛け、ここには居ない神薙さん達について首を傾げる。
メルビス以外の皆も目だけでクロと神薙さん達の事を問い掛けて来るので私は苦笑をしながら説明を始める。
「神薙さん達はまだ強欲の国がまだ攻めてくる可能性が有るから嫉妬の国に残って貰っているよ。そして、彼女は宮城 黒羽。私と縁が深い子で私の命の恩人で欠番だった薄明の勇者だよ」
『はい?』
私の言葉に私を出迎えてくれたメンバーがクロを説明した時に大体、皆同じ反応をする何を言っているのか分からないと言った様子の声を漏らす。
そんな様子に再び苦笑いを浮かべながら私は口を開く。
「とりあえず。このまま此処で話していてもしょうがないし、現状も知りたいから場所を移動しよう。メリッサ。クロの部屋を誰かに用意して貰っても良いかな?」
場所の移動とクロの部屋を用意する様に頼むとメイド長が立ち上がり深々とお辞儀をして口を開く。
どうでも良いけど、皆の反応が想像していた物より優しくてちょっと怖い・・・
「かしこまりました。誰かに指示してミヤシロ様の部屋を用意させていただきます。それと魔王様、帰還までの長旅でお疲れでしょう?会議に入る前に勇者の皆様も含めて入浴された方が宜しいかと思われます」
「うん・・・そだね・・・そうします」
口調は丁寧だが有無を言わさぬ様子のメイド長に若干怯えながら私は素直に提案を受け入れる。
後ろの方でクロが誰かに「え?あの女の人が一番偉いの?」っと聞いていて和登君達が苦笑している様子が伝わってくる。
そんな一幕が有り、私達は男女で別れて城のお風呂場へと移動する。
服を脱いでいると此処に来て大人しかったメイド軍団に取り囲まれる。
「確保‼」
やっぱり来たかと思いつつ大人しく捕まり背中や腕などの怪我のチェックを受ける。
「コハク様の傷痕が・・・無くなっている」
傷痕の有った場所を見てメイドの誰かが驚きの声を漏らすのを聞きながら私は説明をする。
「黒羽の力のお陰でね。彼女が居なかったら私は今頃死んでいたよ」
「ミヤシロ様‼」
「はい⁉」
その一言を受けてメイド長がスッと立ち上り、服を脱いで浴場に行こうとする途中で私達を見て何をやっているんだろうと言う顔をしていたクロがツカツカと近づいて来るメイド長に思わず背筋を伸ばして返事をする。
何を言われるのかビクビクとしていたクロにメイド長が深々と頭を下げる。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくし、この城でメイド長をさせて頂いているメリッサと申します。コハク様を助けて頂いた上に傷痕も消して頂きありがとうございました。また、お礼と自己紹介がこのようなタイミングになってしまい重ね重ねお詫び申し上げます」
メイド長の言葉に合わせて他の子達もクロに対して深々と頭を下げる。
そんな皆の様子に慣れていないクロは助けを求める様に私の事を見るが私は何かを言えば良いとアイコンタクトで教える。
「えっと・・・おね・・・コハクさんと出会ったのは私にとっても嬉しい出来事でしたし・・・頭を上げてください・・・」
正確にはクロに助けられる前に傷は無くなっていたので歯切れが悪くメイド長達にそう言い小さな声で「それにお姉の傷は私の力で直したものじゃないし・・・」と心苦しそうにそう呟くクロに私は内心で否定しながら浴場へと向かう。
はぁ、色々有ってクロ達に教えられないのがきつい・・・事実無根ではないけど説明できないからクロには悪い事をしたなぁ・・・
そんな一幕が有り、私達は入浴と着替えを済ませて改めて会議室へと集まった。
先に私達のやった事と外の現状を話、続いて黄昏の国の現状を聞く。
平たく言ってしまうと話は簡単だった要は内通者としてかなり昔から潜入して貰っていた子との合言葉がちょっとしたミスで相手側にもバレてしまい内通者が誰か分からずに相手を処分できなくなってしまったとの事らしい。
フェルから聞いていた状況より遥かに良い状況な事に溜息を吐きながら私は口を開く。
「現状は分かった。直ぐにでも牢に行って内通者の子を助けよう。他の皆は疲れているだろうし、自由に行動をしてて。ネージュ、夢菜さん達と一緒に居てくれるかな?夢菜さん。良ければ光さんと一緒にクロにこの辺を案内してあげてくれないかな?」
「いいよ~」
それだけ言い、私はメルビスを連れ立って地下牢へと降りる。
地下へと降りるとギャアギャアと喧しい怒鳴り声が聞こえて来る。
「ええい‼いい加減儂を出さんか‼儂は魔王様の命令で協力していたんだぞ‼」
「何を言うか‼俺こそ魔王様の協力者だ‼」
「なるほど、随分楽しそうな事をしているじゃないか?君達はとことん恥を上塗りするのが好きらしい」
明らかに違うと分かる嘘をがなり立てる連中に冷たく言いながら姿を現すと喚いていた連中が一斉に口を閉ざす。中には私の事を幽霊でも見る様な目で見る者もいる。
「それで?誰が誰の協力者だって?」
冷ややかな目で喚き立てていた老害共を睨みつけると言い返す度胸も無いのか気まずそうに私から視線を逸らす。
牢の中を見渡して協力者の子が無事な事を確認して内心でホッと息を吐く。
最悪、合言葉が漏れてしまった時点でこの連中に殺されているかもしれないと思ったから無事な事に心底安堵しながら言葉を続ける。
「さて、いい加減。本当の協力者を馬鹿共と同じ場所に閉じ込めるのは気が引ける。連中の声も煩いしさっさと出ようか?ヴェルドミール・フォン・クレスプクルム」
その名前を聞いた途端に騒いでいた連中もメルビスも目を見開く。
まぁ、そうだろう。だって彼、ヴェルドミール・フォン・クレスプクルムは連中からしたら新たに擁立する予定だった傀儡の王でメルビスからしたらあの厄介なサポート機関の長の孫なのだ驚くのも当然だろう。
そんな事を考えていると一人個別の牢に入れられたヴェルドミールが口を開く。
「ヴぇぇぇぇぇぇん。まおうざまぁぁぁぁぁ‼やっど迎えに来てくれだんでずねぇぇぇぇぇ‼‼‼‼」
涙と鼻水でグチャグチャになった顔で泣く彼を見て私は無理をさせて申し訳なかったなと思いながら連中に止めを刺す為に次の行動に移った。
此処までの読了ありがとうございました。
すみません。次回は用事が有るのでお休みさせていただきます。
再開は8/24の予定です。ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




