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リコリスの花言葉

こんばんは、第32話投稿させていただきます。

今回☆の部分で視点変更が有ります

楽しんでいただけたら幸いです。


「あっはっはっは、なるほど、それで騎士科の生徒はあんなに落ち込んでいたわけですか、それはプライドだけは高い一部の人達は、立ち直れないレベルですねぇ」


 悪魔と出会った翌日、二週間振りに研究室から出て来た師匠(せんせい)に研究室に来るように言われ、昨日騎士科と行った模擬戦の事を話すと師匠(せんせい)は大爆笑しだした。


「そんなに笑わないでくださいよ…それでやっと研究室に入れて貰えたわけですけど、この二週間師匠(せんせい)は何をしていたんですか?」

「あぁ、そうでした。そうでした。この二週間貴女をほったらかしていたのはこれを作っていたんですよ」


 そう言いながら師匠(せんせい)は机の上から小さな木箱を取り、蓋を開け中身を取り出し見せてくれる。

 木箱の中にはシンプルなデザインのフレームにテンプルとブリッジの付いた片眼鏡(モノクル)が入っている。


片眼鏡(モノクル)ですか?これを作っていたって言っていましたけど何の為に?」

「本当に変な所で察しが悪いですねぇ、貴女の目の力を封印する為の魔道具ですよ。とりあえず人の心が見えるというのは分かりましたが、それ以外にも他に何か能力が有るかもしれませんので念の為これを掛けている間はその目に関係しているスキル自体の能力を封印する仕様にしてあります。封印効果が有る魔石と術式で一つのスキルを抑える形になっています。」


 私に片眼鏡(モノクル)を渡しながら効果等を説明してくれる。

 よく見るとシンプルなデザインのフレームにもびっしりと魔法文字が彫ってある。

 てか、ちゃんと話してないのに他にも力が有るかもしれないと思ってここまでしてくれるのは本当にありがたい事だ。


「あとは微調整も有りますので試しに掛けてみてください。ちゃんと効果が有るかも確認したいですしね」


 師匠(せんせい)に言われ、目隠しを外して試しに片眼鏡(モノクル)を掛けてみると見えていたステータスも心の声も一切確認できなくなった。

 おぉ~‼流石師匠(せんせい)‼悔しいけどやっぱり一流だ。この人


「どうですか?」

「はい、全然見えなくなりました。魔眼のスキルはしっかり封じられたみたいです」


 片眼鏡(モノクル)を顔に合わせて微調整しながら師匠(せんせい)が聞いて来たので心の声などが見えなくなった事を報告する。


「では、これで、完成で良さそうですね。何かあるとき以外はなるべく外さないようにしてください。レインとも話を合わせて治療は終わったけど視力が多少落ちた事にしておけば誰も不思議に思わないでしょう」 

「は~い」


 師匠(せんせい)の忠告に返事をし、片眼鏡(モノクル)の位置を調整する。


「では、次は貴方が悩んでいることに着いて聞きましょうか?」


 わぉ…何も言ってないのに昨日の事で悩んでいる事を指摘されちゃったよ…師匠(せんせい)…私と同じような眼持ってない?


「え?悩みですか?私悩んでいる様に見えますか?」

「まぁ、見えますね。ん~、何と言うんですかねぇ~、悩んでいる事はもう決めているけど本当にそれで良いのかと悩んでいると言った方が正しいですかねぇ~?」


 はぁ~、おっそろしいわぁ、この師匠(せんせい)…まぁ、もう覚悟は決めてしまっているわけだけど相談はしておいても良いかな…


師匠(せんせい)、例えばなんですけど、もし、世界の滅亡か此処に残りたいって自分の我儘かの二択を迫られたらどうします?」

「自分の我儘ですねぇ~」


 即答かい…少しは悩むとか無いんだぁ…


「この質問がどういう意図の物かはよく分かりませんが、私個人の意見を言うと世界が大丈夫でも自分が幸せでないのならそんな世界は滅べばいいと思っています。まぁ、貴女はもう答えを決めているみたいですから何も言いませんよ。ただ、やるのなら自分も幸せになるやり方をしなさい。貴女だけが不幸になるのは絶対に許しません」


 なるほど…自分も幸せになるやり方か…何となくだけど質問してみて良かった。

師匠(せんせい)、例え話ですよそんなに本気で答えないでください」

「ええ…そうでしたね。つい本気にとらえ過ぎました。少し疲れているんですかねぇ~。今日はもうこれぐらいにしましょうか?稽古はまた来週から再開しましょう」

「はい、ありがとうございました。この片眼鏡(モノクル)大切にさせて貰います」


 師匠(せんせい)にペコリと頭を下げ、ドアに向かう。もう一度師匠(せんせい)に頭を下げ、私は自分の部屋に戻るのだった。




「さて、まずは荷物の整理から始めようかな…アイテムボックスのスキルが有るからそこに入れて置けば良いけどまとめておいた方が入れやすいしね」


 部屋に戻りそんな独り言を言いながら私物を整理していると背後の扉が勢いよく開き慌てた様子のリルが入って来た。


「きゃ!リル⁉どうしたの⁉」


 大きな音に驚き、短い悲鳴を上げながらリルの方を向く。

 あれ…?なんか不機嫌そうだ…?


「どうしたの?じゃないよ‼コハクちゃん‼約束してたのになんで迎えに行くまで待ってくれなかったの⁉心配したんだよ‼」


 あぁ‼しまったぁ…師匠(せんせい)との話が終わった頃にリルが迎えに来てくれる予定だったんだ…


「あ~、ごめん…リル…目隠しが取れた喜びで忘れちゃってた」


 頬を掻きながらリルに謝るとプクッと頬膨らませて拗ねていたリルが私の顔を見て嬉しそうに声を上げる。


「あ‼本当だ‼目隠しが取れてる‼見えるようになったんだぁ、良かったね」


 リルは、そう言いながらすごい速さで近づいて来て私の顔をがっしりと両手でホールドしながらじっと見て色々と語りかけてくる。


「傷も無いみたいだね。流石レイン先生。あれ?でも、目の色が変わっちゃってるし、片眼鏡(モノクル)なんてしていたっけ?」

「リル!リル‼順番に説明して行くからとりあえず顔を離してくれると嬉しいのだけど」


 後ろを向いた態勢で顔をホールドされてしまったので地味に首がキツイ。


「あ、ごめん。で?何が有ったの?」


 そう言って私の顔から手を放してどの様な経緯があったのか聞いて来たので予め師匠(せんせい)と打ち合わせした通りの内容を伝える。


「なるほど…視力が少し落ちちゃったのは残念だったね…」

「まぁ、それもこの片眼鏡(モノクル)で補えるし、そんなに不便じゃないよ?」

「そうなんだ…」


 少し心配そうにしているリルに声を掛けようとするとリルが声色を変えてしゃべりだす


「さて…じゃあ、理由は分かったけど私を置いて部屋に戻っちゃった埋め合わせはどうしして貰おうかなぁ?」


 私の心配から一転して置いて行かれたことに関する怒りを含んだ笑顔でそんな事を言って来た。

 …ヤッバイ、マジ切れの笑顔だ。

 まぁ、心配させちゃったお詫びもしないといけないし、あの悪魔との約束の時までに悔いなく皆とも過ごしたいしね。


「あ~、じゃあ、リル…埋め合わせになるか分からないけど明日の休み一緒に町まで遊びに行かない?」

「え?町に?」


 私の言葉に怒りの笑顔から少し考えてリルが答える。


「うん、良いよ。今回はそれで許してあげる」


 この辺が落としどころと思ったのか今度は怒気を含まない笑顔で答えてくれた。


 そして次の日の休みは町まで行き私は必要になりそうな物等に目星をつけて置き、リルと一緒に一日楽しく過ごした。

 そこから先の二週間は、あっという間だった。テトと模擬戦をしたり師匠(せんせい)と稽古したり皆で出かけたり、旅立つのに必要そうな物を買ったりと楽しい思い出を沢山作った。

 そして、とうとう悪魔と約束した日が来た。


「じゃあ、今日は此処までにしましょうか」

「はい、ありがとうございました。」

「あ、コハクさん。渡す物が有るのでちょっと待ってください」


 師匠(せんせい)との最後の稽古を終え部屋を出ようとすると師匠(せんせい)から呼び止められる。


「?何ですか?」


 不思議に思い師匠(せんせい)方を向くと私の手元にカードホルダーみたいな物を投げ渡して来た。


「まぁ、時間が有る時にでも完成させてみて下さい。出来れば貴女の助けになってくれるかもしれません。あ、中はすぐに見ちゃだめですよ」

「え?あ?はい…?分かりました。ありがとうございます?」


 受け取った物がいまいち分からず何となく曖昧なお礼の言い方をしてしまった。

 あ、そうだ…師匠(せんせい)には一応私が居なくなっても大騒ぎしないでくれる様に言っておこう。


「あ、そうだ師匠(せんせい)、少しお話が有るんですけど」

「なんですか?」

「いえ、大した事じゃないんですけど…もし、私が急に居なくなっても驚かないで皆の事をフォローしてもらえませんか?」

「居なくなる?何か理由が有るんですか?」

「すみません。詳しくは言えないです」

「一つ聞かせてください。貴女はその選択をして後悔はしてないのですね?」

「はい、後悔していないというよりは、後悔しない為の選択だと思ってください」


 私のその言葉を聞き師匠(せんせい)は少し寂しそうに笑い私の頼みを了承してくれた。


「分かりました。もし、貴女が急に居なくなる時は任せなさい。」

「ありがとうございます」


 ペコリっと師匠(せんせい)に頭を下げ、私は師匠(せんせい)の部屋を後にした。


                                 ☆


 お風呂から上がり廊下を歩いて部屋に戻ると同室の子が椅子に座り窓から外を見ている。月の光を受けきらきらと輝く白銀の髪と彼女の見た目の良さも合わさりその光景は少し神秘的に見えてしまう。


「コハクちゃん、何見てるの?」


 彼女の横に行き声を掛けるとのんびりとした返事が返ってくる。


「ん~、特に何も見てないよ~。何となく。外を見ていただけ」

「そうなんだぁ、そういえば明日なんだけどちょっと時間有る?付き合って貰いたいことが有るんだけど…」


 明日、少し魔法を一緒に練習したくて声を掛けたのだがコハクちゃんは少し悲しそうな寂しそうな顔をして返事をしてくれる。


「ごめん。リル…約束は出来ない」

「あ、明日は何か予定が…」

「ねぇ?もしだけど私が急に此処から居なくなったらどうする?」


 私の言葉を途中で遮りコハクちゃんは寂しそうに笑いながら急にそんな事を聞いて来た。

 唐突にそんな事を聞かれ私は戸惑ったが、すぐに返事をする。


「何処に居ても絶対に探しに行くよ…」

「そっか…そっかぁ…なら、私が居なくなったら探して貰うのをお願いしようかな…」


 私がそう言うとコハクちゃんは嬉しそうな泣きそうな表情で机の上に置いてある小さな木箱を開き中に入っていた物を私に渡してくる。


「これ、あげる。大切にしてくれると嬉しいな」


 コハクちゃんから受け取った物は花のような形をした白色の髪飾りだった。


「これは?花なの?」

「うん、この花はリコリスって言うんだ…花言葉っていうのが色々あるんだけど、私は今この花言葉をまた会う日を楽しみにって意味で渡したいの」


 受け取った髪飾りの花の花言葉に不安を覚え、問い詰めようとすると空いている窓から突風吹き思わず目を瞑ってしまう。

 目を開けるとそこにはもうコハクちゃんの姿は何処にもなくなっており、机の上に名前が書かれた手紙と『申し訳ないけど皆にこの手紙を渡してください。リルとまた会える日を待っているね』っと書かれた手紙が置かれていた。


                                 ☆


 リルにリコリスの花言葉を教え、リルの言葉を聞こうとしていると前にも感じた事のある感覚で世界が止まる。

 後ろに気配を感じ振り返ると案の定、前にクロノスと名乗った悪魔が窓から入って来た。


「おや?ひょっとして我が魔王の友達との別れを邪魔してしまいましたか?」


 特に悪びれた様子も無く。そんな事を言い部屋の中を歩いてリルの顔を覗き込む。


「そうね…結構最悪なタイミングで来たわね。」


 少し嫌味を言いながら物陰に隠れ寝間着から私服に着替える。


「まぁ、時間の指定もしていなかったし、夜に来てくれた事には感謝するよ」

「フフフ…まぁ、それぐらいの配慮はさせて頂きますよ。我が魔王」


 着替えを済まし、机の上に置いてあるもう一つの木箱からリルに渡した物と色違いの赤色の髪飾りを取り出し着けながらクロノスに今後の事を相談する。


「それで、クロノスって言ったっけ?この後如何すればいいの?」


 何気なく聞いたその質問にクロノスは答えてはくれない。訝しみクロノスの方を見るとクロノスはこちらを試すかのような表情で思いもよらない事を言って来た。


「あぁ、そうでした。我が魔王、まだ契約についてお話をしていませんでしたね」

「契約?」

「えぇ…契約でございます。今はまだ先代様との契約で私は動いておりますが貴女様に仕えるとなると対価が必要になります」


 当然と言えば当然のその言葉に思わず渋い顔をしてしまう。大体悪魔との契約の対価って碌でもないものなんだよなぁ…


「契約の対価は?何を望むの?」

「そうですねぇ、生きの良い子供の心臓とか誰かの命と言っておきましょうか」


 そう言いながらリルの頬を撫で更に言葉を続ける。


「払える対価が無いのならこの少女の命何てどうですか?」


 そう言うクロノスの言葉を無視し、私はアイテムボックスから短剣を取り出し、後ろの髪を束ね。肩口で一気に切りクロノスの前に差し出す。


「この髪を対価にして私と契約しなさい。それ以外に支払う気は無いわ」


 その声を聴きクロノスの呆れたように言葉を発する。


「ちゃんと聞いていましたか?心臓か誰かの命と私は言ったのですよ。なぜ髪がそれらの代わりになるのですか?」

「うっせ‼髪は女の命って言われているのよ。つべこべ言わずにとっとと契約しなさい‼」


 私の言葉に怒るかと思ったクロノスはこれまた予想外に笑い出した。


「フ…フフフ…フフフフフ…はーっはっはっはっはっは、これは面白いまさか先代様以外にもこのような屁理屈で私に契約を申し出る方が居ようとは…」


 ひとしきり笑った後でクロノスは私の前に跪き、私の手から髪を受け取る。


「試してしまい申し訳ありませんでした。我が魔王。今より私、クロノスは貴女様の契約悪魔となり忠誠を誓いましょう」


 クロノスの宣誓と共に手に持っていた髪が消える。


「これで契約は完了でございます。我が魔王。して、先程のご質問ですがまず、我が魔王には、魔族領に向かって頂きます。まだ先は長いので出来ればもう出発したいのですが準備は宜しいですか?」


 え?私なんか試されてたの⁉まぁ、何とか為ったみたいで良かった…

 そんな動揺を隠しながらクロノスに返事をする。


「えぇ、準備は出来ているわ。私はアイテムボックスを持ってるから荷物は全部そこに入れているし、何時でも出られるわ」

「はい、先程短剣を出していたので存じております。では、移動しようと思いますので私の背にどうぞ」


 そう言ってしゃがむクロノスの背におぶさる前に書いておいた手紙を机に置き、リルへの書置きを書いて置いてからクロノスの背におぶさる。

 おぉ…なんか気恥ずかしい…


「では、しっかり摑まっていてください。我が魔王」


 そう言いながらクロノスは窓から跳躍し、飛び出した。

 こうして私は、一年間過ごした学園を誰にも知られる事なく去ることになった。


とりあえずこれで学校編は終わりになります。

次回から冒険者編に入ります。

ゆるりとお待ち頂けたら幸いです。


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