魔王の帰還・2
おはようございます。
第319話投稿させて頂きます。
今回は第三者視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「この書類は財務にこっちの書類は騎士団に回してくれ」
チェックしていた書類を秘書官に渡し、次の書類に取り掛かりながら未だに解決していない案件を別の者に訊ねる
「それで、やはり味方が誰かはまだ分からないのか?」
「はい、未だにどの者が魔王様の内通者なのか分かっておりません」
その言葉を聞いてメルビスは思わずため息を吐く。
クーデターを起こした者達は内通者の協力も有り無事に取り押さえて鎮圧する事が出来たが内通者とこちらが側で取り決めていた暗号が相手側にもばれてしまい内通者が誰なのかが分からなくなってしまった。
「誰か分からないと捕らえた連中を処分できんな・・・」
内通者の顔を知っているのは、今は行方不明のコハクのみでメルビス達は頭を悩ませている。
コハクが居なくなり一ヶ月が経つがコハクも未だにどこに居るのかが分からない。クロノスの話によると生きてはいるらしい事ぐらいしか分からない。
「せめてコハク様が戻ってくれたら・・・ご無事なら良いのだが・・・」
生きてはいる事が分かっても怪我の重症度やきちんと手当が出来ているのかそんな事ばかりがメルビスは気になってしまう。
娘が父親である先代の元でメイドとしての修行をし出した時期に来た娘より小さな女の子。
呪いにより狂った父を討ち、次代の魔王を継承した少女は娘よりも小さな身一つで魔属領まで来た。
少女の保護者として見て来て8年、コハクに魔王のイロハを教え込み、面倒を見てきた。
実の両親には申し訳ないと思いながらもコハクもネージュも自分の娘の様に思っている。
不可能だと思ってはいるがコハクもネージュも無傷で戻って来て欲しいと思っている。
そんな事を考えながら溜息を吐き、次の仕事へと取り掛かろうとしていると執務室の外がにわかに騒がしくなってくる。
何かと思い、顔を顰めているとバンっという音と共に普段は注意する立場にあるこの城一番の古株であるメイド長が血相を変えて飛び込んでくる。
「メルビス宰相‼急いで外に来て頂戴‼」
「?どうかしたのですか?」
普段は、仕事中は年下であるメルビスに丁寧な言葉で話しかけて来るメイド長はよっぽど慌てているのか敬語も無くどこか怒っているようにも聞こえる口調に小さい頃からの癖で若干、怯みながら訪ねるとメイド長が言葉を続ける。
「魔王様が・・・コハク様が帰って来たわ‼」
「本当ですか⁉」
その言葉と共にガタっと音を立てて椅子から立ち上がり、周囲の部下を驚かせる。
周囲が驚いている間に普段見せている姿からは想像もできない速さでメイド長と共に廊下を走って行く。
「えぇ‼外を監視していた者達がネージュとその背に乗っている複数人の人影を確認したわ‼」
走りながらもメルビスの質問に答えるメイド長と共に全速力で廊下を走る。
「廊下は走らないでください‼・・・ってメイド長とメルビス宰相様⁉」
道中で事情を知らないメイドが全速力で走る二人に注意を促すが走っている人物が誰だかわかると驚いた声を上げている。
道中の何人かに驚かれていると別の道からクロノスやバラン達も走って来る。
「メイド長殿、メルビス殿、バラン殿やはり来ましたか」
「お三方も魔王様の事をお聞きに?」
走りながらこちらに訊ねて来る二人にメイド長と共に頷き答えていると前方の曲がり角から数人のメイド達が走って来る。
「リューン‼こんなに大人数で走って後でメイド長に怒らないかね?」
「大丈夫です。ヴァネッサ。多分メイド長もお父さんも走っています。私達を叱る権利は無いでしょう。それよりも人にぶつからない様に注意してください」
リューンが先頭に立って走り、その後をコハクが連れてきたメイド達が一緒に走っていく。
「リューン‼」
走りながらメイド長が声を掛けるとメイドの集団がヤバイという顔をして振り向く。
リューンだけは振り向くとスピードを少しだけ落としてメイド長と並走する。
「メイド長。お疲れ様です。怒りますか?」
並走しながら少しズレた質問をする娘にメルビスは一瞬、こけそうになるが何とか耐えて走り続ける。
「いいえ、怒りません。私も怒れる立場にありませんもの」
メイド長がそう言うとリューン以外の全てのメイドがホッとした様に息を吐く。
そんなやり取りをしている間に城の中庭へと出ると丁度ネージュが中庭の中央に降りて来る。
走っていた全員で整列し、何とか出迎えの体勢を整えるとネージュからあの日と同じ格好をした長い銀の髪をした少女が身軽に降りて来てメルビス達の方を向く。
元気そうなその姿にメルビスは密かに安堵の息を吐きホッとしているとメイド長を含めたその場にいた全員から同じような空気を感じる
そんな気配を感じていると少女が困ったような気まずいような不思議な表情をしながら口を開く。
「えっと・・・皆、ただいま・・・心配かけさせてごめんなさい」
その言葉を聞き、幻ではない事を確認してメルビスは安堵から倒れそうになるのを何とか耐え、最上級の礼をしてコハクの事を迎え入れた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




