厄介ごとはやっぱり向こうからやって来る
こんばんは、第31話投稿させていただきます。
前回は諸事情により投稿できなくてすみませんでした。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
☆
拝啓
天国の師匠へ、お元気ですか?
貴方の研究室への入室を禁止され早二週間が経ちました。
その間、私は騎士科にお世話になっています。
毎日、騎士科の糞がk…向上心旺盛な先輩方と剣を交え、事情も何も知らないゴミ教s…生徒思いな先生方に稽古をつけて頂き非常に充実した毎日を送っています。
ちなみに先生方を含めた模擬戦で私は現在62戦62勝です。
後衛である魔法科の生徒にこれだけ負けるって騎士科って普段何しているんですかね?
目を隠している相手に本気で挑んでくるのは騎士道的にどうなんですかね?
一日でも早く師匠と稽古が出来るようになるのを楽しみに待っています。
最後になりましたがたった一人の弟子をほったらかし、研究室に籠りっぱなしで余り外に出ていないようですがお体を壊さないようにご自愛ください。
コハクより
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「さて、私はこの手紙を師匠の研究室のドアに入れてくるから、リルは先に皆と合流していてくれる?」
便箋を封筒に入れ、隣に座っているリルに声を掛けながら席を立つ。
「えっ⁉ちょっと待って、コハクちゃん一人で行くつもりなの⁉駄目だよ。今、目が見えてないでしょ?いつもみたいに私も着いて行くからちょっと待っていて、余り日常生活に支障が無いのは何時もの騎士科との稽古で分かっているけどやっぱり心配だし…」
そう言ってリルは手早く荷物をまとめだす。
ちなみに今の私は目の所に包帯ではなく黒い布で作った目隠しをしている。要するにまだ目が見えていない状態というわけだ。まぁ、実際は視界良好で見えまくっているわけだが…
ぶっちゃけると目隠しでもかなり目立つので早く外したいが、魔眼の力を抑える為にメガネなどでも試してみたけど全然効果が無かったのだから仕方がない。
「あ~、うん。じゃあ、いつも通りよろしくね」
リルの手を握り教室を出て師匠の研究室に向かう。ここ二週間のお馴染みの光景だ。
「というか、コハクちゃん…手紙の冒頭に天国の師匠へってゲネティスト先生まだ死んでないよね⁉あんなこと書いて大丈夫なの?」
「退院早々研究室への出入りを暫らく禁止された上に毎日必ず出すように言った手紙にも返事がない状態だったらこんな冗談も言いたくなるよ…多分、これ読んでもちょっと笑うぐらいじゃないかな」
二週間前に無事保健室を出ることを許された私は師匠に暫らく研究室の立ち入りを禁止された上に稽古もお休みと言われて待ったのだ。何かを作るために時間が欲しそうだ。
そんな話をしている内に研究室の前に着き手紙をドアの隙間に入れておく。
「さて、用事も終わったし、テト達と合流しようか?」
「そうだね。今ならちょうど食堂じゃないかな。少し急ぐ?今日も騎士科に行くんでしょ?」
「うん、今日もお世話になる予定だよ。だけど、ゆっくり行こうよ。あ、お腹が空いているなら話は別だけど」
「お腹はまだ大丈夫だよ。じゃあ、三人には悪いけどゆっくり行こうか」
二人でゆっくりと歩きながら食堂への道を歩く。
ちなみになぜ騎士科の方にお世話になっているのかというと退院初日に研究室への出禁をくらった私にテトやアラン君達からお誘いが有り、鈍った体を鍛える為にお言葉に甘えることにしたのだ。ちなみに手紙にも書いた騎士科の生徒達との稽古という名の教師を含めた模擬戦は、私の事が気に要らない人達からの挑戦を受けた結果である。まぁ、成り行きとはいえ魔王になっちゃった私に騎士科の生徒や学校の教師ごとき敵うはずも無いのはお察しの通りだ。
「あ、来た来た。今日は遅かったね。どうしたの?」
「うん、リルと二人でゆっくり歩いてた。待たせてごめんね」
いつもの様に食堂の席で待っていたアラン君の所に行く。
「いつもの様にテト達は先に列に並んでいるから二人も並んできなよ」
「あ、じゃあ、私が取ってきてあげるからコハクちゃんは先に座ってて」
そう言ってリルは私を椅子に座らせると列に並ぶに行く。目隠しをしているとはいえ目は見えているので毎回の事ながら申し訳ない気分だ。
「そういえば、今日も騎士科に来るんでしょ?」
席に着きそんな事を考えていると先程リルに聞かれた事と同じことを聞かれた。
う~ん、騎士科の人達はもう来てほしくないとかそんな感じかな?ボコしすぎちゃったかな?
「うん、一応今日もお世話になる予定だけどひょっとして迷惑?」
「いやいや、違う違う。先輩や他の先生方が今日こそ勝つって意気込んでいるからちょっと気になっただけだよ。まぁ、どうせ今日も皆負けるんだろうけどね」
おいおい、アラン君最後になんか酷いこと言ってない⁉
「あぁ、そう言う事かぁ…」
「それと僕達の師匠も楽しみにしているしね。今回は、どんな風に傲慢になっている教師と生徒の傲りを粉々にしてくれるんだろうって言っていたよ」
「フェイル教諭が?なんかすごく意外だね…」
ハイリア・フェイル教諭はアラン君達三人の師匠だ。いかにも武人といったような人で結構なお年にもかかわらず未だに剣士としては現役で剣鬼と言われているらしい。
ちなみに私の師匠はこの先生の弟子で私は孫弟子になるという事で結構可愛がって貰っている。
「まぁ、師匠もコハクの前だとただの好好爺だからねぇ~、コハクが最初に来た時驚いたよ」
「あれは誰でも驚くんじゃない?で?フェイル教諭があの人達のプライドを粉々にして良いって言ったの?」
「まぁねぇ~、うん、最近の貴族達や先生達の平民の子に対する言動とかが目に余るって言っていたし、ここ最近コハクに負けている事で真面目に稽古に励んで多少良い方向に向かっているって言っていたしね」
「あぁ、要するに皆で仲良く魔王退治って事?はっ、仲の宜しい事で、私を倒す前にまず自分の内面を磨けって感じだよね」
「あはははは…」
私の言葉にアラン君は気まずそうに笑う。
てか、魔王退治って…自分で言っておいて笑えないって…
「まぁ、貴族達や先生方が傲慢って言うのは否定できないよね。私が起きてすぐの時もあのドラゴンの死骸の事で酷い疑いを掛けられたもの」
「あぁ~、あの話は本当に酷かったよね。でも、あのドラゴンの死骸は本当に何処に行ったんだろう?」
「さあね」
目が覚めて少ししてから聞いた事だが、あの時、殺した先代黄昏の魔王の死体は師匠が駆け付けた時には綺麗になくなっていたらしい。
その所在がなぜ問題になったかというとドラゴンの素材はとても貴重なので阿保の貴族共がハイエナの様に聞きつけて来たのだ。挙句の果てに何もしていない癖にドラゴンの素材を卑しい平民の私が何処かに隠しただの騒ぎ立てたのだ。
結果として、珍しくガチギレした師匠の脅しで貴族は黙り去って行った。
てか、常識的に考えて瀕死の人間が何かしたとは普通は思わないんじゃないかな…?
「まぁ、ゲネティスト教諭が王様にも掛け合ってくれたみたいだしコハクはもう気にしなくて良いんじゃないかな。てか、気にしすぎてまた無茶しないでね」
「…気を付けるよ…」
怖い笑顔を浮かべるアラン君に返事をするとリル達がお昼を持って戻って来たので話を中断し、皆で食事を摂り、今日はリルと一緒に私は騎士科に稽古をつけて貰いに行くのだった。
うん、今日はもう面倒だから全員一辺に相手させて貰おう。今の私でどこまで戦えるのか気になるし、一対多の戦闘も経験しておきたいしね。
「お前、一対多で無傷で勝つとか本当に化け物かよ…」
「いや~、僕達も含めた65人で相手してボコボコだったね」
「もっと鍛錬をしよう…」
騎士科での模擬戦を終え皆で寮に戻る道すがらテト達三人が口々にそんな事を言う。
騎士科に着いてすぐに勝負と言われた私は、皆に向かって一辺に相手をする事を伝えそこにテト達三人を含めて勝負をした。結果は私の勝ちだった。まぁ、これで負けたりしたら魔王って数で押せば簡単に倒せるんだぁ、っとなってしまうのでおかしくはないのだろう。負けた貴族や先生のプライドは粉々になっただろうけど
「う~ん。まぁ、皆、結構強かった…よ?」
「お前…魔法全然使わないで勝っていただろ…地味に傷つくからやめ…」
私の言葉に返事をするテトの言葉が急に止まる。それどころか周りの皆や鳥すらもその動きを止めていた。
「おや?全ての時間を止めたはずなのですが、もしや、新しき我が魔王も時間停止無効持ちなのですか?」
さっきまで誰も居なかった私達の前方に急に一人の男が立ち声を掛けてきた。
「聞こえなかったのでしょうか?それとも意図的に無視されているのでしょうか?」
男は小首を傾げながら私の方を見て聞いてくる。
…この質問に答えた方が良いのかな?てか、相手人間じゃなさそうだし、私は案外驚いてないし、多分この人が先代黄昏の魔王の言っていたアイツだろうなぁ…
「すみません。無視したわけじゃないんです。今の状況と貴方がいきなり出て来たので驚いていました。それとさっき貴方が言ったスキルは確かに持っています」
流石に聞かれた事等に答えないのは悪いと思い返事をする。
相手の目的を知るために目を使ったほうが良いかな?
「あぁ、良かった。無視されていたわけじゃなかったのですね。では、自己紹介をさせて頂きましょう」
目の前の男は綺麗なお辞儀をし、自己紹介をしだす。
「私、黄昏の魔王の第一軍団長で黄昏の魔王の契約悪魔であるクロノスと申します。して、貴女の名前を教えて頂いても宜しいですか?新しき我が魔王」
「私の名前はコハク・リステナです。それで貴方は何をしにここへ来たんですか?」
クロノスと名乗った男に自分も名乗り、相手の目的を聞いてみる。
「先日、先代様が崩御され、貴女様が新しい魔王になられましたのでお迎えに参りました。世界を滅ぼす十の獣を倒すため私と共に来てくださいますね?」
は?十の獣?何それ?世界を滅ぼす?それって普通魔王がする事じゃないの?
「十の獣って何?魔王がそれと戦うの?」
「私も先代様より聞いた事しか知りませんが、十の獣とはこの世界が出来てから定期的に襲来してくる厄災の事でございます。十の魔王と十の勇者とで殺すか又は撃退して来たのでございます。そして、それらの獣が再び襲撃してくる時が近いのでございます。現状、人間との協力関係が難しくなっておりますのでせめて全ての魔王には揃って頂きこの厄災に立ち向かって頂きたいのです」
丁寧なお辞儀をしながら十の獣と魔王に着いて説明してくれる。
なるほど…魔王や勇者が十人ずつだったのはそういう理由か…
「事情は分かって頂けましたね。では、出発しましょうか?」
私の返事を聞かずに話を進め、今にも魔族領に連れて行きそうな悪魔に待ったをかける。
「ちょっと待って‼事情は分かったけどすぐには行けないわ」
「なぜですか?」
「あのねぇ、人間の世界で人がいきなり消えたら大騒ぎになるわよ。大体まだ私の覚悟も決まってないし、色々用意することも有るから最低でも二週間は待って‼」
「畏まりました。我が魔王、では、二週間後にまたお迎えに上がります。それまでに色々な別れなどを済ませて頂けますよう宜しくお願いします。もしも、貴女様が拒否をされた場合は全てが滅ぶという事をゆめゆめお忘れなきように、では、失礼します」
そう言うと悪魔は私の前から消えその途端に周りの時間が動き出した。
「ろよな。騎士科全員ガックリしてたぞ…うん?どうしたんだコハク?」
悪魔と会ったばかりで少し顔が強張っていたのだろう。
私の顔を見てテトが不思議そうに聞いてくる。周りの皆も不思議そうに私を見ている。
「ううん、何でもないよ」
心の中とは裏腹に笑顔で答え私は寮に帰る道を皆と歩いた。
私が師匠の研究室に再び入れるようになったのは、その翌日の事だった。
次の話で学校編は終わる予定です。
楽しみにして頂けたら幸いです。




